辻浦圭

マスクしてる死に損ないです。

辻浦圭

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最近の記事

【日記】からあげと神々と老い

 諸君。突然だが、紳士淑女である諸君らは老いというものを感じたことはあるだろうか。朝起きた時、唾液の量が少なく、息をしたくなくなるほど口が臭ったり、少し動いただけで息が上がってしまったり、筋肉痛が数日経ってからやってきたりと、老いのサインは至る所に出てくるはずである。それを喜ぶのか悲しむのかは本人の性格によるところだが、大抵の人間は老いのサインを見つけると悲しみ、昔を懐古し、哀愁を漂わせるのである。  今、私の目の前にからあげがある。数はおよそ20個ほど。そして白米。茶碗3杯

    • 長編書いてると途中で「何だこれ」と思い始めて何が何だかわからなくなる。

      • 【短編小説】毒と薬

        「マジで嫌なんだよなー」  隣にいる友達が眠そうに目をこすりながら、ため息交じりに言った。周りにいる皆もそれに同調して「なんで母親なんだよ」「見られたくないんだけどな」と口々に愚痴を垂れている。  今日は三者面談だ。この学校は新年度になった春と、進路を決める冬に二回ほど三者面談を行う。三者面談では自分の成績や内申点、志望校に合格する見込みがあるのかなどの情報を教師から聞ける貴重な機会だ。しかし、男子生徒たちにとっては親と一緒に先生と話すという恥ずかしい日でもある。特に三者面

        • 【短編小説】幸せな夢

           夢を見ていた。見知らぬ場所で長く付き合っている彼女と手を繋いで歩いている。空を見れば、澄んだ青空に形の良い雲が流れていた。風は暖かく近くの飲食店の良い匂いを運んでくれる。すれ違う人達は笑顔で、それを見ていると胸が温かくなり、二人は自然と笑顔になってしまいそうだった。  しばらく歩いていると、見覚えのある顔があった。彼は確か、高校の同級生だ。穏やかで物静かな彼は唯一の友達と言える存在だった。そんな彼がこっちを向いて手を振っている。思わず彼に近寄り、話しかけようとした。しかし、

        【日記】からあげと神々と老い

          【ショートショート】ケーキと紅茶

           日本には実に様々な怪談話が存在している。代表的なのがトイレの花子さんや動く人体模型、夜になると鳴るピアノなどだろうか。そのような怪談話は今では都市伝説という名前を変え、ネットを通して子供から大人まで幅広い層を楽しませている。  誰がいつ作り、どうやって広めたのかは一切分からない。ほとんどの話しがいつの間にか広まっていて、出所を探そうにも広大な情報の海と化したネットには真偽のわからない噂が多数存在している。これは完全な作り話だ書いてあるものもあれば、この場所のこの時間に死んだ

          【ショートショート】ケーキと紅茶

          【短編小説】夜の公園

           目が痛い。  ゆっくりと瞼を閉じて、ベッドにうつ伏せになってみる。しかし痛みは変わらず、意識だけが研ぎ澄まされていく。外を流れる風に揺れる木々の葉擦れやキッチンにある冷蔵庫のモーター音、自分の口から出る呼吸がやけにうるさく感じた。  目を閉じたまま、手探りでスマホを探し、薄目で時間を確認する。時刻は十二時半を過ぎた頃だった。ベッドから起き、テレビを点けると、下品な笑い声のする内容が無さそうなバラエティがやっていた。瀬戸はすぐにテレビを消して、ダウンジャケットとバッグを持って

          【短編小説】夜の公園

          【ショートショート】ここにいる

           会社を出てると、冬の鋭い陽射しが雪に反射し目を眩ませた。近頃降った雪はまだ溶けず残り、所々を白く染め、なんでもない道を足元の不安定な場所へと変えている。陽が出ている時間帯に溶けた雪は夜になると固まり、氷のように固くなる。そうして固くなった雪は溶けるのに時間がかかるからまだしばらくはこうした不安定な足元は続きそうだった。  白井透は雪を避けながら会社の近くの蕎麦屋へ向かった。その蕎麦屋は最近開店したらしく、提供スピードの速さ、良心的な値段、そして味も良いというしがない会社員に

          【ショートショート】ここにいる

          【短編小説】ねじれの位置

           ビールが運ばれてくる。その提供スピードの速さに田中たちはいちいち歓声をあげ、拍手をした。店員は完璧な愛想笑いをして足早に去って行った。 「いやー俺たちも大人だなー。やっとお酒が飲めるようになったよ」  男が大きな声で言った。店内は騒がしく、大きな声でなければ会話が成り立たない。だから皆が必然と大きな声になる。左前に座っている女は普段は大きな声を出すことが無いらしく、頑張って大きな声を出して会話に参加していた。  誰だっけこいつら。  お酒でゆるゆると靄のかかった記憶

          【短編小説】ねじれの位置

          【ショートショート】その名は山吹

           ここに一枚の写真がある。真ん中に映る女は笑顔でその周りには光の玉や人の顔やら、わかりやすい幽霊が多数映っている。見るもの皆が震えあがるほどの心霊写真である。  しかし、恐ろしいのは心霊写真ではない。この女の方だ。  一週間ほど前の事である。私は研究室に向かう途中、食堂に寄った。最近かつ丼やハンバーガーなど栄養バランスが偏った食事しか食べていないのが気になっていたため、栄養素を満遍なく摂れそうなAランチというものを券売機で購入した。私はそれを恰幅の良いおばさんに渡して席に座

          【ショートショート】その名は山吹

          【短編小説】女ならでは夜は明けぬ

           休み明けの教室内は幼稚園児のような煩わしい声で満ちていた。韓国がやたらと好きな女の子は雑誌か何かを見て声をあげ、何も考えてなさそうな男の子たちはよくわからない会話をして笑っている。篠崎はそんな光景を後ろから眺め、ほくそ笑んだ。 「よぉ。おはよう。今日もストーカーみたいだな。何見て笑ってんだよ」  後ろからそんな声がした。振り返ると、日焼けした黒い指が頬に突き刺さる。小池は筋肉質な体を揺らして笑っていた。 「おはよう。別に何でもないよ」 「いや、結構やばかったぞ。あんま

          【短編小説】女ならでは夜は明けぬ

          今年1年を振り返って

          皆さんこんばんは。 今年もあと数時間ですが、いかがお過ごしでしょうか。僕は実家に帰ってきております。僕の顔を見る度に「結婚は?」とロボットのように口にする母。枯れ木のようなしわっしわの体をしている父。腹立つくらい顔の似ている兄。そんな家族に囲まれながら楽しく年の瀬を感じております。  振り返ってみれば、今年は色々なことがありました。三月頃に、仕事で立て続けにミスをして、偉い人に直接怒られたり、僕がミスをしたため、「あいつには何を言ってもいいだろう」と思ってしまったのか、先

          今年1年を振り返って

          【短編小説】レンタル

           午後八時。竹内は誰もいない会議室にいた。普段は全く気にならない空調の音がやけにうるさく感じる。少し動いた時のスーツの擦れる音や鼻息までも気になってしまうくらい静寂だ。 「失礼します」  後藤がドアをノックして入ってきた。表情には全く覇気がなく、目は翳り、頬はくぼんでいるように見えた。まだ二十一歳と若く、活力のある年頃だというのに、こんな表情をされたら余計に苛立ちを覚えてしまう。竹内は軽く舌打ちをして、椅子の横に無言で突っ立っている後藤に「座ってください」と平静を装って声

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          うまく書けなくても投稿していくスタイル

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          【短編小説】始まりの日に

           寒い。まだ十月の中旬だというのに、もうすっかり冬の匂いがする。通り過ぎる人達は厚手のコートに身を包み、早足でこの寒さから逃げるように歩いている。テレビでは今日はぽかぽか陽気だとか言っていたのに、駅を出た頃には天気が急変して空を雲が覆い、冷たい風が強く吹いてきた。真新しいリクルートスーツを着ているだけの高羽陽は、身を震わせながら自宅へと歩いていた。  テレビなんかを信じて羽織る物を何も準備しなかった自分に腹が立ってくる。ほとんど何も入っていない形だけのビジネスバッグの重さも、

          【短編小説】始まりの日に

          【短編小説】現実と戦う者たち

           起きてすぐ、顔を洗い、朝食を食べる前に歯を磨く。この朝のルーティンワークはもう何年も崩していない。これをしないと何だか気持ちが悪くてやめられない。もし、仮に朝食を先に食べてしまったりしたら、一日の調子は悪くなるだろう。周りは何も変わらないのだろうけど、気持ちが沈むから。  右足から玄関を出て、鍵を回す。無くさないようにリュックの内ポケットに入れる。これもいつもの習慣だ。理由は同じ。なんとなくやらないと気持ちが悪いから。  敷地内を出ると、会い向かいの公園で二十代と思われる若

          【短編小説】現実と戦う者たち

          【短編】Halloween bumps

           自分の長所は何事にも全力で取り組み、必ず結果を出せる所です。  面接でそう宣言してから八年が経った。白髪がちらほらと見えるようになり、若者に人気の芸人やアーティストなどの良さがわからなくなった三十歳。同期や後輩がどんどん出世していく中で、僕だけがいまだに平社員のままだ。いつしか、皆が僕の足元を見て、悪口を言ったり雑用を押し付けてくるようになった。しかし、そんな事もどうでもいい。お金さえもらえればなんだっていいんだ。面倒な責任など負いたくない。  上司はこんな僕を見て「採用し

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