趣味どら

思いつくまま気の向くまま。好きな本の感想を書いたり、つまらぬ雑記を綴ったり。ゆるーい1…

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思いつくまま気の向くまま。好きな本の感想を書いたり、つまらぬ雑記を綴ったり。ゆるーい1日をゆるーい文章にしていきまする。

最近の記事

【短編小説】恋人以上、芸人未満

「僕の将来の夢はお笑い芸人になることです。世界中のみんなを笑顔にします」  私の幼馴染であり彼氏でもある優星は、小学生の時にそう高らかと宣言した。授業の中で、「将来の夢」をみんなの前で発表しないといけなかった。  私も何か言ったはずだが、「花屋」だったか「パン屋」だったか、それとも当時流行り始めていた「YouTuber」だったか、覚えていない。だが、優星の夢だけはしっかりと残っている。その声色、トーン、表情、そして本気で「世界中のみんなを笑顔にする」という気概。すべて、すべて

    • 【短編小説】魔法の鏡は、関西弁。

      「鏡よ、鏡。世界で一番美しいのは誰?」 「んなもん、『貴女様です』って答えてもらいたいだけやろ。期待した答えなんて、貰えると思いなさんな」 「……ほんと、ムカつく鏡ね…」  白雪姫の話を知っている人は多いだろう。魔女は、魔法の鏡に向かって、美しい人を尋ねる。鏡は最初、「それは貴女様です」と言っていたが、ある日、「それは白雪姫」と言う。嫉妬した魔女は白雪姫に毒リンゴを食べさせ……、とまあこんな感じ。  あの話に出てくる鏡が、なぜか実在していてしかもなぜか私の家にある。確かアニメ

      • 【掌編小説】車窓部

        「バトミントンサークルです。体験会やってます〜」 「柔道部、インスタだけでもフォローしてください」 「天文観察部、興味ある人は13時から第二教室で説明会やりまーす」  色々な部活・サークルが、それぞれ新しい部員を確保しようと声を張り上げている。ありとあらゆる部活動・サークルに、私は興味を持ちつつも、結局まだ何も決めていなかった。高校時代にやっていたバスケ部はもう引退すると決めていた。運動系のサークルもいいが、今までとは打って変わって文化系のサークルもいいなと感じていた。だが、

        • 【ショートストーリー】居酒屋書店

           酒が、進む。それに呼応するように、ページをめくるのも速くなる。 「すいません、注文いいですか〜。『庭園雑話』1つ」  近くのテーブルの注文が聞こえてきた。店員さんは愛想よくオーダーを取り、店の奥へと引っ込んだ。しばらくするとテーブルに文庫本が運ばれてくる。客は満足そうに本を手に取り、読みはじめた。  ここは居酒屋書店。酒のつまみに、本を提供してくれる。 「すいません、生ビールお願いします」 「はーい」  私も、空になったジョッキを持ち上げて、もう一杯注文した。今日はいつもよ

        【短編小説】恋人以上、芸人未満

          【ショートショート】入浴剤温泉

          「はい、今日は草津温泉に来ていま〜す」  テレビからレポーターの元気な声が聞こえてくる。続いて芸人さんが横から出てきて小ボケをかまして、相方がツッコミを入れていた。温泉地の名所を巡り、グルメを楽しみ、温泉に入って、豪華な宿に泊まる。人の幸福をギュッと短縮したかのようなロケ番組を流し見しながら、私は大きくため息をついた。 「いいなぁ」  漏れ出た独り言は、実に弱々しい。テレビに嫉妬していてはもはや終わりだ。  このところ、ずっと疲れている。仕事は忙しく、帰ってくる頃には気力体力

          【ショートショート】入浴剤温泉

          【ショートショート】AI書店と小さな反乱

          「いらっしゃいませ」  店の自動ドアが開いた瞬間に、店員さんの挨拶を模倣した機械音声が流れてくる。今話題の声優さんの声を元データとしているらしい。昔はもう少し機械音声というのは、いかにも「機械」っぽかったが、だんだんと人間と遜色なくなってきた。今ではどの店に行っても、聞こえてくるのは機械音声である。  しかしそれにしても大型店舗ならばともかく、町の小さな書店でも「機械化」「デジタル化」「AI化」が進んでいるのには驚かされる。  所狭しと並んでいる本棚。私はこの店に子供のとき

          【ショートショート】AI書店と小さな反乱

          ランジャタイという沼

           皆さんはランジャタイというお笑い芸人をご存知でしょうか。ご存知ないようでしたら、知らないままでいた方がいいかもしれません。わざわざ検索する必要はありません。もし間違ってYouTubeで動画など見てしまった時には、貴方の貴重な時間が木っ端微塵に砕け散ることになるでしょう。時間を無駄にしたくなければ、ランジャタイとは距離を置くことをお勧めいたします。  さてランジャタイとは何か。  彼らは実に不条理な動きをするお笑いコンビです。東にお笑い番組があれば、「ウッチャンナンチャン、ウ

          ランジャタイという沼

          久しぶりに。

          非常に久しぶりにnoteに帰ってきました。と言って、何か皆さんに有益な話ができるわけではありません。こんな駄文にに時間をかける位であれば、池の鯉を眺めていた方が、よほど有意義な時間を過ごせます。 池の鯉って自由ですよね。ああいう風に自由に泳いていたら、悩みなどないだろうとちょっと羨んでしまいます。ですが、鯉は鯉とて外敵との戦いに悩んでいるのかもしれません。 さて私は今何を書こうか迷っています。なぜなら、書くようなことが何もないからです。久しぶりにnoteを書くのだから、よほど

          久しぶりに。

          【隙間時間のお供】『5分後に意外な結末 ベストセレクション』桃戸ハル 編著

           なんとまあ、自信にあふれたタイトルでしょうか。読者に「いやこれ別に、意外じゃなくね?」と思われてしまったら、一発でアウトではありませんか。絶対に意外と思わせてやる!という作者の熱い思いが伝わってきます。  さて、内容は5分で読めるショートショートの集大成。なるほど確かに『意外な結末』と銘打っていることに偽りはなく、最後のどんでん返しが心地いい作品ばかりです。まあ正直ちょっと『あ、これこうなるな』と予想できちゃう話もありますが、そこも含めて楽しめる作品です。ちなみに私はこの

          【隙間時間のお供】『5分後に意外な結末 ベストセレクション』桃戸ハル 編著

          『タイタニック』のキャルドンが好きな話

          先日、タイタニックが地上波で放映されていました。数年ぶりに見ましたが、やはり見事な名作です。ローズの美貌もさることながら、ジャックの美貌も際立っていました。美貌という言葉は女性に使うことが多いですが、ディカプリオはまさに美貌の持ち主と言っていいでしょう。 そしてハリウッドの財政が傾くんじゃないかというほどの大迫力の沈没シーン。かなり史実に忠実に作っているらしく、タイタニックの断末魔が聞こえてくるかのようで圧倒されました。 さて今回はそんなタイタニックの話なのですが、私がし

          『タイタニック』のキャルドンが好きな話

          「敬語」の歩き方

           敬語には、堅苦しいという印象がありますが、私は意外と好きです。バイト中は、後輩にも敬語を使っていました。これは「親しみを感じない」、と後輩たちには不評でした。でも、なんというか物腰の柔らかさを楽しむには、敬語が一番いいのです。「私って丁寧な人間」と、自己陶酔しているだけなのかもしれませんが、ともかくも敬語って素敵だな、と思うのです。  よく外国には敬語がないと言われます。実際に全くないわけではないのかもしれません。この辺りは、私は語学に詳しくありませんのであまり立ち入らな

          「敬語」の歩き方

          探すのをやめた時、見つかることもよくある話で

          先日、どうしようもないくらいの難題にぶつかってしまいました。放り出すわけにはいかず、さりとて解決しようにも方法がわからない。完全なる迷宮入りでお腹がキリキリと痛んでいたとき、不意に井上陽水さんの「夢の中へ」が聞こえてきました。 休む事も許されず 笑う事は止められて はいつくばってはいつくばって いったい何を探しているのか そして本記事のタイトルにした歌詞へとつながります。 探すのをやめた時 見つかる事もよくある話で このフレーズを聞いた時、不思議と肩の荷が下りていきま

          探すのをやめた時、見つかることもよくある話で

          名作の条件

          また、偉そうな題名をつけてしまいました。私の悪い癖です。 名作に条件など、本当はないのです。どんな作品でも、誰かにとっては名作なのです。でもそんな一般論を述べているだけではオリジナリティがないので、今日は私の思う名作の条件について述べさせていただきます。ちなみに今回述べる名作とは主に本のことです。 私の思う名作の条件は「何度読んでも面白い」、これに尽きます。何とありきたりなことだろう、と思われるかもしれません。しかし、こんな本に巡り合うのは中々難しいことだと思います。世の

          名作の条件

          【酔って候、殿様で候】 『酔って候』司馬遼太郎 文春文庫

          幕末には坂本竜馬や西郷隆盛など英雄がたくさん出た時代ですが、英雄的なお殿様も多く出た時代です。この小説には4編の短編、4人のお殿様が出てきます。 〇『酔って候』山内豊信 土佐(高知県)に自らを鯨海酔候と称する豪快なお殿様がいました。鯨海とは、そのまま鯨のいる海。土佐の海を示しています。酔候とは俗っぽく訳せば、酔っぱらい。つまり鯨海酔候とは、土佐の酔っぱらいお殿様といった感じの意味です。 表題作『酔って候』は山内豊信というお殿様の話です。幕末に活躍した土佐藩主です。豪快な人柄

          【酔って候、殿様で候】 『酔って候』司馬遼太郎 文春文庫

          【独眼竜の哀愁】『馬上少年過ぐ』司馬遼太郎 新潮文庫

          タイトルの「馬上少年過ぐ」は伊達政宗の詩の一編。 タイトルからして何とも言えない哀愁が漂ってきます。東北地方で一大勢力を成したものの、時はすでに戦国時代後半。本能寺の変も過去のもの。中央では秀吉の権勢が頂点に達しようとしていました。天下に野望を抱きつつも、結局は天下人に屈して一大名として生き残った独眼竜の何とも言えない寂しさ。それが司馬さんの筆致で見事に描かれています。よく伊達政宗が10年早く生まれていれば天下を取っていた、と言いますが実際はどうだったのでしょう。そういうこ

          【独眼竜の哀愁】『馬上少年過ぐ』司馬遼太郎 新潮文庫

          【農業女子、奮闘!】 『農ガール、農ライフ』 垣谷美雨

          農業というとどことなく牧歌的な雰囲気をイメージします。あたり一面田んぼが広がり、自然豊かな山々に囲まれ、ご近所さんとも仲がいい。晴耕雨読、悠々自適な生活。しかしそんなお気楽なイメージを持つのは、私が農業というものをよく知っていないからです。農業の苦労というものは、並大抵のものではない。その事を教えてくれたのが、この小説『農ガール、農ライフ』です。 主人公は1人の女性。職を失ったその日に同居中の彼氏に振られ、家も出て行かなくてはならない状態に。いきなり職、家、彼氏をいっぺんに

          【農業女子、奮闘!】 『農ガール、農ライフ』 垣谷美雨