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【独眼竜の哀愁】『馬上少年過ぐ』司馬遼太郎 新潮文庫

タイトルの「馬上少年過ぐ」は伊達政宗の詩の一編。

タイトルからして何とも言えない哀愁が漂ってきます。東北地方で一大勢力を成したものの、時はすでに戦国時代後半。本能寺の変も過去のもの。中央では秀吉の権勢が頂点に達しようとしていました。天下に野望を抱きつつも、結局は天下人に屈して一大名として生き残った独眼竜の何とも言えない寂しさ。それが司馬さんの筆致で見事に描かれています。よく伊達政宗が10年早く生まれていれば天下を取っていた、と言いますが実際はどうだったのでしょう。そういうことを想像しながら読んでも面白そうです。

他にも『慶応長崎事件』『喧嘩草雲』『重庵の転々』などの短編が。個人的なおすすめは『城の怪』です。大阪城に夜な夜な出るという化け物を退治して勇名をはせようとする一人の武士。しかしそこから壮絶な勘違い劇が始まり、物語は一変。悲劇へと突き進んでいきます。実在の人物ではない架空の人物(たぶん)が主人公ですが、こういうのを書かせると司馬さんの筆は実に生き生きとしています。


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