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『タイタニック』のキャルドンが好きな話

先日、タイタニックが地上波で放映されていました。数年ぶりに見ましたが、やはり見事な名作です。ローズの美貌もさることながら、ジャックの美貌も際立っていました。美貌という言葉は女性に使うことが多いですが、ディカプリオはまさに美貌の持ち主と言っていいでしょう。

そしてハリウッドの財政が傾くんじゃないかというほどの大迫力の沈没シーン。かなり史実に忠実に作っているらしく、タイタニックの断末魔が聞こえてくるかのようで圧倒されました。

さて今回はそんなタイタニックの話なのですが、私がしたいのはタイタニックの悲劇でも、ディカプリオでも、ローズの美貌でもなく、キャルドンについてです。

キャルドンとは誰?と思われたかもしれませんが、彼はローズの婚約者であり、ジャックの恋敵です。そうあのいやーなやつです。生理的不快感すら覚えてしまうアイツです。

しかしながら私は思うのです。彼の存在があるからこそ、タイタニックは名作になっているのです。もし彼が品行方正、女性には優しく、身分の低い者にも慈しみを感じ、かつ寛大な心を持っていたとしたら、ローズはジャックに惹かれることなく話はそこで終了です。彼の性格が救いようのないクズであるからこそ、ローズの一方的な婚約破棄も許されるのです。

しかもキャメロン監督はキャルドンに故郷を滅ぼされたかの如く、彼を徹底的に悪者にしています。キャルドンは、憎らしい奴であってもタイタニックと運命を共にするのであれば、まだ少しは同情の余地はあります。しかし彼は生き延びます。ましてや泣いている子どもを利用して救命ボートに乗り込むのです。ローズとジャックが荒波に呑まれている中で、彼は船上でした。そしてその後の彼は他の女性と結婚するものの、世界恐慌の影響で大損害を出し、最後は拳銃で自殺するという最後を遂げます。タイタニックで死ぬこともなく、かといって天寿を全うすることもなく、あまりに悲惨な最期と言えるでしょう。本当にキャメロン監督はキャルドンに村を焼き討ちにされたのではないかと疑うほどです。

しかししみじみと思うことは、2人の相性の悪さです。ローズは好意的に救助しようとしてくれた船員さんを殴り飛ばしたり、一旦救命ボートに乗り込むもののそこからロープを使って脱出したりと、かなりのアクロバティック少女です。その特性を正しく理解しないままに縁談を進めてしまった彼女のお母様はいささか思慮が足りなかったと言わざるをえません。まあお金があれば誰でもいいという考えだったのでしょうが、金持ちであっても冒険精神とフロンティア精神をもっている方はいくらでもいたでしょう。ローズとキャルドンの婚約は政略結婚に近いものだったので、お母様は相性を考えず杜撰な選び方をしてしまったのでしょう。悲劇の一端は娘とのコミュニケーションを怠ったお母様にもあったと言えます。

またジャックとローズも少々キャルドンを挑発しすぎていたのかもしれません。自分の婚約者が人目もはばからずイチャイチャしている姿を見せつけられれば、いくら寛容性があっても穏やかにはいられないでしょう。ましてや相手は寛容性のかけらもないキャルドンです。彼が激高してしまうのも仕方がありません。忍びやかな逢瀬を楽しむためには、ローズとジャックに平安貴族のような慎ましやかさが必要であったとも言えます。

思えば悪役というものは、作品を鮮やかにする力を持っています。例えばアンパンマンにおけるバイキンマン、水戸黄門における悪代官、ウルトラマンにおける怪獣。彼らがいなければ主人公は輝けないのです。福岡には悪役をビジネスにした『株式会社悪の秘密結社』なる企業が実在していると聞きます。正義の味方には必ず悪役が必要であるという不文律を活かした商売は、非常に興味深く私は密かに応援しています。

話が少しズレてしまったのですが、『タイタニック』は悪役キャルドンに着目して観ても面白い映画なのです。

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