見出し画像

アリジゴク

俺は巷ではアリジゴクと呼ばれているらしい。地獄などおぞましい言葉を名前につけられて、甚だ遺憾である。それにアリクイというそれはそれは大きな怪物もいるらしいではないか。俺だってアリを食べる。どうしてこちらの方が地獄だなんて言われなければならないのだ。なんだったら何百倍も大きいアリクイの方がアリにとったら地獄なのではないのか。そもそもなぜアリ主体なのだ。いつからこの世界はアリのものになったのだ。

そんなことを思いながら今日も大人しく俺はアリを待っていた。

すると一匹のアリがおそるおそる近づいてきた。

「おい!アリジゴク!もう俺たちアリを食べるのをやめろー!」

「そんなこと言われてもな。俺たちも生きるためなのだ。アリを食べなければ俺は死ぬ。俺が死ぬか、アリが死ぬか。どちらかでしかない。それにお前らも弱り果てたミミズや、イモムシを食べてるではないか。やってることは俺と同じだ。なんならお前たちの方がむごいやり方だ」

俺はそう言って砂をかけた。アリはすぐに砂の中に溺れた。我ながら、俺は地獄そのものなのかもしれないと思った。

しばらくすると体が動かなくなった。さなぎになるみたいだ。アリを殺し続けた人生、俺はどんな地獄の化身になってしまうのだろう。こんな人生おしまいにしたい。

数週間後、俺はさなぎから出た。なんだか体が軽い。ん!?なんだこれは!?
羽!? 羽だ!! 
羽が生えている!飛べる!俺は空を飛べる!地獄から、脱出できるのだ!もうアリなど殺さなくていいのだ!

俺は自由に空を舞った。空は大きくて広くて青くて気持ちいい。これだけ高く舞えたら、あの怪物アリクイですら俺にとっては小さく見える。あの大きくて丸いものはなんだ。とても綺麗だ。いつかあそこに行ってみたい。はははっ、何がアリジゴクだ!何が地獄だ!俺はもう自由だ!


数時間後、カゲロウへと姿を変えたアリジゴクはそのまま天国へと旅立っていった。それはそれは儚い命だった。



この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?