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#2000字のドラマ

あなたの物語をマンガに。「若者の日常」をテーマにした投稿コンテストを開催します!

人気の記事一覧

「庭で」

私のお母さんの歳の離れた妹、絵麻ちゃんは絵を描く人だった。 独学だけれど油絵が上手だった。市の美術展に作品を出して賞を貰ったり、絵に買い手が付いたりしたこともあったみたい。写真みたいな風景の中に、必ず女性が一人か二人描かれている、それが絵麻ちゃんの絵だった。女性は必ず後ろ姿で、顔は見えないけれど遠くを見遣っている雰囲気は伝わる。私はその背中と風景を何度も見比べて懸命に想像した。絵麻ちゃんはどんな思いでこれを描いたのかな? って。 絵麻ちゃんは私のおばちゃん。でも年齢はお姉

俺は天の川を渡れなかった。~「誰にも知られない夏物語」~/始動/

こんなに月がきれいな夜に、なんてラインだよ。 苦笑しながら、最後くらいカッコつけようと思い、既読もつけず考えていたが、何も思いつかない。 全くなんて残酷な返事だよ。あと1回会う日残ってるっていうのに。・・・なんていい子だったんだよ。 たった1か月の「誰にも知られない夏物語」だが、今でも鮮明にあの日々を思い出せる。 いつだって天の川越しに手に届く距離に君はいた。 それでも、俺はアルタイルになれなかった。 光り輝くアルタイルは流星のごとく現れ、ベガの心を奪っていった。 気づ

ショートショート「アート」

油絵具をパレットにのせる。  キャンバスに筆を走らせる。描いているのは虎の右足だ。肌をおおう毛の、一本一本。ごわついた毛を、黄色や茶色をおりまぜて表現する。  伸びやかなタッチで、かつ、繊細に。  筆をおくと、画家の小田原朔太は、F四〇号のキャンバス全体を見渡した。一体の獣が、まっすぐ前を見つめ、牙をむいている絵だ。  その獣は虎の足をもつ。鋭い爪のついた逞しい足が大地を踏んでいる。しかし、その腹まわりは狸の柔らかい茶毛が生えていて、尻尾は蛇の皮で覆われる。首から上は猿だ。賢

甘くてしょっぱい、ただそれだけの

肉じゃがを作る時は「出汁で煮なくてもいい」と僕の母は言った。「肉からうまみが出るからね、動物性のうまみが、それで充分」と。そして「お父さんは出汁を使えって昔言ってたけれどね、必要ないない、有名な料理家も『必要ない』って言っているよ」と笑ったことも覚えている。 僕が小六の夏休みのことだ。入院していた母が自宅に戻ってきた。母は僕が小四の時に病気が見つかって、手術をしたり、髪の毛が全部抜けるほど強い薬を使ったり、大変な思いをして治した。そのはずだった。でも僕が小六になるちょっと前

ルサールカ

ここは本当に嫌になるような田舎でございましょう?(とその老婦人は言った) わたくしもここが嫌で嫌で。嫁いできたものの、ここで生きてゆける気がしなくて。とうとうある日、わたくしと、その時お腹にいた子とで街へと降り、二人で生きていこうと心を決めました。大変な覚悟でございました。 それなのに、ほどなくして出てきてしまったのです。その子、わたくしのお腹の中に来たばかりの子は。 お産は大変痛うございました。片手に載るような大きさの子であっても、産むときは痛うございます。そしてその子は

ショートショート「夏の終わりの日」

八月三十一日  A小学校 四年B組 か沼ゆう介  きっかけ  朝七時、ラジオ体そうのために近くの公園に行くと、同じクラスの村田りんかさんに会いました。  みんながぞろぞろ帰る中、僕を呼びとめた村田さんは「時を止める方法を教えて!」と言います。一体何ごとかと思ったら、「夏休み最後の日が終わっちゃわないように、今日をできるだけ長くする方法を知りたい」と言うのです。ちなみにその理由は「漢字ドリルと、算数ドリルと、読書感想文が終わってなくて、明日ぜったい荒川先生におこられるから」と

【小説】雨の日がスキだった

子供の頃から雨の日が好きだった。 振ってくるとそこら中に土の匂いがして、土が濡れたがっているのを感じ取る。 土と一緒に私も雨を喜んだ。 元気に動き回る同年代に付いて行けないから。 誰もが家で大人しくする雨の日が好きだと思っていた。 スキって言葉が雨に相応しいのかは解らないが、他人を羨む私にはぴったりだった。 ポツリ、ポツリ、ポツリ。 手を翳すと、雨の感覚がする、土の匂いも変わって、本降りの雨が来るのかも知れない。 傘は持っていない。 私が傘を持つと、彼と相合

外気温38℃

繰り返し故郷の夢を見る。 唾を吐いて捨ててきたあの町を。夢の中で私は念じる、故郷が本当に無くなるように。事故が、あるいは災害があの町を完全に破壊してしまう様子を思い描く。破壊された故郷がそのまま上昇する海面に沈み、地図からも人の記憶からも永久に消えるその瞬間を、念じて念じて私は目をさます。 「おはよう」 私は同居者に朝の挨拶をする。私たちが住むこの部屋には完璧な防音室があり、私はそこを彼の部屋にしている。声をかけると彼は元気に返事をするのだが、その声がとても大きいから。

即興的ワルツ

「えへ、なんとウチ、ピアノコンクールで特別賞をもらったんだ、入賞者演奏会ってのがあるから観に来てよ」 と、サチが差し出すチケットを、えーすごい、と私は受け取った。「絶対来てねぇ」とニヤニヤするサチに私はきいた。 「このコンクール、すごいの? プロになれちゃうみたいな?」 「それほどじゃない。でも賞を獲ったひとはめちゃうまだよ」 もちろんウチもねー、と鼻を膨らますサチに、私は「りょ」と答えた。 サチは高校のクラスメートだ。 実は中学も同じ。でも元々は同じ高校に行く感じじ

短編ポテトチップス小説1:うすしお

 はじめてのキスの味がどうだとか、幼い頃にテレビで話している人がいて、それがバラエティ番組だったのか、ドラマだったのか、コマーシャルのなかでだったのか、はたまたアニメだったのか、なんにも覚えていないのだけど、いちごの味とかレモンの味とか、そんな答えだったと記憶していて、今にして思えばそれは、夏祭りでかき氷を食べたあとにキスをしたからなのではないかと思う。ブルーハワイの味と答えた人はいなかったけど。  あたしの場合は大学一年生の頃のことで、関西では年生のことを回生と言ったりする

ショートショート「彼の帰宅を待ちわびて」

あつあつに熱したフライパンに、バターをひとかけら置いて、私はほっと息をつく。  ジュウウ。 静かな台所にバターが溶ける音が響き、柔らかい香りが立ち昇る。  洋食を作る時は、サラダ油ではなくバターを使うとレストランの味になる、とどこかで聞いてから、我が家の冷蔵庫にはいつも個包装のバターがストックされている。 やがてフライパンの底で、黄金の液がぶくぶくと泡立ち始めたら、具材を入れる合図だ。 玉ねぎのみじん切りを入れて、飴色になるのを待ちつつ、ふと慎一のことを思い出す。 彼はこの香

#23 上着の出番はいつですか?【200字散文】

雨が去って、急激に気温下がる大阪。 冬到来?上着出せば、まだ暑い。 天井の北風と太陽は、「働き方改革はどこだ」唸っている。 30年には、ミニ氷河期が突入予測。 このまま無駄な業務、ミニ逼迫突入。 卒業アルバムに半袖少年達は絶滅危惧種か。 今夏、血迷ったか蚊取り線香。 焚いた、強力。 換気の悪さ、凶悪。翌日、消臭地獄。 「更衣室、臭いんだけど」職場は、蚊取り線香地獄。 今日も私はアホタレだけど、 笑って楽しくやっとこう。

短編ポテトチップス小説2:のりしお

 仕方ないが半分、なんでやねんが半分。本当はなんでやねんがほとんどだけど、これまでにも似たようなことが何度もあった。いちいち怒っていたら疲れるだけだからあきらめることにしている。若い頃はもっと食ってかかった気もするけど演出の田宮さんとも、もう長い付き合いだから言わんとしていることはわかるし、いくらあたしが何を主張してもこの人が変わることはないことも知っている。はあ。聞こえるようにため息をつくくらい許してほしい。 「気に入らないなら言いなさいよ、言わないなら気分が悪いからそうい

2000字小説「契約書にサインを」

 「これにサインして欲しいんだ」  真っ昼間のファミレスで、恋人の直哉は生真面目な顔で書類を差し出した。パソコンで手作りしたのであろう『婚約事前承諾書兼契約書』というものだ。  「なんだこりゃ」  急ぎの用で会いたいと言うから、会社をランチ時間に抜け出し、受付嬢の制服から着替える手間も惜しんで駆け付けたというのに、要件とはこれだったのか。直哉のいつもの変な癖が始まってしまった。  交際して以来、色んなタイミングで「デートプラン提案書」やら「プレゼント交換企画書」とやら

マリッジリング・ストーリー 【ショートショート】

深夜1時、隆史は隣で寝ている香織に気づかれないよう彼女の中指から慎重に指輪を外した。 ゴンゴンと音を立てるドラム式洗濯機の前に座り込み、盗んできた指輪を見た。普段からジュエリーを身につけない香織が1週間前から突然身につけ出した指輪だ。装飾がなく究極にシンプルながらもエレガンスで吸い込まれそうな魅力がある。 指輪の内側を覗くと、見たことのないブランド名と刻印を見つけた。 ONE MORE LIGHT (July 20, 2017) 「ワン・モア・ライト。。。なんの日付だ

二人の大学生の日々の愛情【微エロ】

龍介と那月、 二人の大学生は、 生活と愛を共有 するために小さな アパートで同棲を 始めた。 彼らの関係は、 日々、深く、熱く 成長していった。 そして、彼らの愛は 周囲が何を思うかに 関係なく、自由に 表現されるものだった。 朝、龍介は那月の 隣で目を覚ます。 彼女の寝顔は平和で、 見ているだけで 彼の心は満たされる。 彼はゆっくりと 起き上がり、那月に キスをすることで 彼女は目を覚ます。 そして、朝の挨拶と 共にベッドの上で 手を繋ぐ。 お互い手の温度を 感じる

「頑張れない」という地獄

人生25年 一度も頑張ってこなかった もちろん頑張るっていうのは相対的なもので、 「可処分時間の何割以上をある一定の不可を伴う行為に費やす」という定義はできるだろうが それが何割かは人によって、環境によって、社会によって異なるだろう わたしはいずれは、「頑張る」「努力」「成長」「成功」という考えを捨てたい という前提のもと話を戻せば、私の考える「頑張る」というのは、「世間や周りの人が先ほどの定義でどれくらいの割合を頑張ると考えるか」を勝手に想像したその基準から導いたもの

2000字小説「チャンスの髪様」

僕には、他の人には見えないものが見える。 初めて見たのは、小学5年生のころ。 ホームルームの時間。クラスメイトのじゃれ合いで騒がしい教室で、僕はひとり黒板をぼんやりと眺めていたが、ふと、真横に白いかげがすっと立ったのを感じた。 ギリシャ神の衣をまとった、はげつるでのっぽの男が、金色の前髪だけを腰ぐらいまで長く垂らして、その隙間から僕をぎょろりと見下ろしていたのだ。 (幽霊…! いや、金髪の貞子!?) 思わず身構えた僕に向かって、そいつはおもむろに自身の頭髪を掴み、こちらへ差し

【百合】薄暗い夏の花【微エロ】

 私の初めての中イキは彼女の薬指だった。  高校最後の夏休みだった。  暑い夏の日の、冷房の効いた、狭い屋根裏部屋のパイプベッドの上。  デスクに置かれた奥行きのある真四角のパソコンがチラチラ光りながらジジジと音を鳴らし、私たちを覗いているようだった。  小刻みだった呼吸がふっと止まったあと訪れたその瞬間、切なさを抱えていた気持ちが溢れるみたいに、私は泣いてしまった。  生理現象の涙のようで、だけどほんとうに悲しくて、こもった鼓動が頭に響くくらい鳴っている気がして、いろんな感

『喫茶店でのふたつのおはなし』  | シロクマ文芸部

約2000字 秋が好きだと一時間くらい前に話してくれた修司君が置いた、テーブルのうえの千円札をつまみあげ、ひらひらと、それを眺めた。わたしはそれをバッグのなかの文庫本にはさんで閉じた。 さっき、喫茶店のドアを開けて、そして修司君が出ていった。 わたしの卓の灰皿を店の主人が替えた。 「ありがとう」 わたしはそう言って、ポーチからマイルドセブンをひとつ出して火を点けた。 この喫茶店の大きな窓が好きだ。坂のうえに、いつもたいして客もいないのに、ずっと昔からこの町にある。

大学ぼっちだった私に関わり続ける変なやつの話③

彼が学校に来なくなった。 と言っても、サボりである。 基本的に私からラインすることはなく、彼からの連絡を待つ日々。 1度勇気をだしてラインをした。 「学校きてないの?」 自分から連絡するなんてうざくないかな。 でも普段遠慮なくライン送ってくるのは向こうだよね。大丈夫大丈夫。 そんな意味の無いことをつらつら考えてたら数分後返信があった。 「家で寝てた」 なんかほっとした。 そう思ったのもつかの間、「昨日夜遊んでてさ〜 なんだ。遊んでんじゃん。 やっぱ遊び人

かっこいい職場の先輩の話

私が仕事で大きなミスをした。 詳細は伏せるが、食品関係の仕事で1番してはならないミスである。 お客様にはもちろん、会社の信用問題に関わる大きなミス。 そこまで大事なことなのだから、もちろん責任は自分だけじゃなく、数人が見逃して起きたことではある。 しかし最終チェックにいた自分が1番問題であるのには違いない。 結果的にはお客様もお怒りにならず、大事にはならずにすんだ。 しかし上に怒られる覚悟で謝りに行った。 上に謝りに行ったら、「確認が行き届かなかったこっちも悪か

#2000字小説『リスケ』/月めくり【#シロクマ文芸部】

◆小牧幸助(シロクマ文芸部・部長)さんの 「月めくり」から始まる小説・詩歌を書く企画に参加します。 ※詳細は本文後に記載 #2000字小説、5分半程度で読了可能な超短編小説ですので、 ぜひご一読ください。 -------------------------------------------------------------------- 『リスケ』 「月めくりカレンダーを愛用してるの」 「日めくりカレンダーはよく聞くけど、月めくりってわざわざ言う?」 「いけない

noteの投稿作品を原案としたショートムービーが、Amazon Prime Videoに登場!『コインランドリーズ』が3月3日から配信開始

熊田健大朗さんがnoteに投稿した作品を原案としたショートムービー『コインランドリーズ』が、ビデオオンデマンドサービスのAmazon Prime Videoで3月3日(金)から配信されます。 原案となった熊田健大朗さんの作品は、note、ソニー・ミュージックエンタテインメント、TikTokの3社で発足したクリエイターの才能発掘プロジェクト「カクカタチ」主催の投稿コンテストで入賞。その後、ソニー・ミュージックエンタテインメントの製作で、映像化されました。 東京の片隅にあるコ

サイゼリヤ試験

時折、というか半年に一度、いや、もはや3ヶ月に1回くらいTwitterで話題になる議論がある。 「初デートでサイゼリヤはアリかナシか」 という争いである。 個人的な結論を言うと、「アリアリ大アリ、好きな人と食べるメシはなんでも10割増しでウメェ」である。 なんなら「いつも食べてるサイゼなのに、好きな人と食べるだけでこんなに楽しくて美味いなんて幸せすぎる~~」くらいのハッピー苺畑なことを思うかもしれない。多分そこらへんに生えてる雑草を「ルッコラだよ」と言って提供されても気

心を何にたとえよう、からのストーリー。

↑このときの出来事からできたInstagram動画が、 こちらです。 👇 お話のもととなる体験記はこちら🧚

【2000字小説】 魚のキヨシ

 夏の暑い海。潮の流れに乗って魚のキヨシは国境を越えた。  人間はさまざまな手続きをしないといけないようだが、僕たちには国境線などない。自由な海、魚の一生。でも常に危険と隣り合わせ。生き抜くのは人間よりも厳しいかもしれない。  弱肉強食のこの世界。人間は何をしてるのかな。僕には難しいことはわからないけど、大変そうだなと思う。流されてきただけだ、僕は。仲間は特にいないけど、常に助けられて生きてきた。  魚は死んでも誰かの命になる。食べられたら生き延びる糧になる。短い一生それも本

愛おしい傘

帰路の電車の窓から差す光が眩しい、冬の始まりの薄ら寒くなってくる時間。 空は空気が澄んでいて青々と広がり、京王線の窓から見える河川敷では子供たちがサッカーをしているような良いお天気である。 次の駅で、スーツを着たサラリーマンが乗ってきた。 その右手には傘を持っている。 電車内を見渡すと、ほとんどの人は傘を持っていない。 そう、今日は朝の7時ころまで激しい雨の予定で、午後からはカンカン照り照りの晴れの予定だったのだ。 河川敷の子供たちも、足元は湿った泥でヌチャヌチャして

【2000字小説】 魂の手紙

 居酒屋メシが美味い。長い間酒も飲めなかった僕は、海を見に行った帰りに初めて入る居酒屋で独り酒をした。ここもかなり変わった。再開発と後継者不足で通ってた店も少なくなった。風も匂いも変わってしまった気がする。それは僕が歳を重ねたからだろうか。  砂浜は何も変わっていなかった。ご時世だろうか、水着を着た人が少ない。懐かしい光景はもうやってこないのか。輝かしい夏の思い出。若かったな。僕も。  光を浴びた波打ち際は、囁くように僕におかえりを言ってくれた。ここがホームなんだと思った。海

ChatGPTに小説の書き方を聞いてみた

先日、ChatGPTでショートショートを書いてみる、という試みをご紹介したところ、かなり多くの反響をいただきました。 私自身も、かなり関心を寄せており、さまざまな分野のChatGPTの記事を読んでいました。人工知能に小説を書かせる、というのは、なんだか秘密のゴーストライターを雇ったような気分で、あんまりいい気持ちではないので、直接小説を書いてもらう以外の、人工知能の活用方法を探ってみました。 まずは、小説を書き始める前に、アドバイスをもらいましょう。 私も、まだまだショー

エンドロール

「最高だ~~~~~~~~」 映画館で最高の映画を観た上映の終わり、エンドロールを眺めながら頭の中でそう叫んでいる。人がいなければ叫んでいるかもしれない。 ポーズで言えば、眉間を押さえて天を仰ぐポーズをしていると思う。 「エンドロール見ない派」の人たちがポツポツと席を外す中、わたしは大体目だけで流れゆく文字を追い、頭の中では「最高だ~~~~~~」と思っている。 「こんなにもたくさんの人がこの素晴らしい映画のピースとなって制作したんだ、誰一人欠けてもできなかったんだ、ありがと

夏休みの教室、放置された虫かごのカナヘビ

つまりカラッカラということである。 (この記事は、泣きすぎてカラカラになった映画を紹介する記事です) 小学校低学年の頃の9/1の新学期、教室のロッカーの上に捕まえたカナヘビが誰にもお世話されずカピカピになっており、先生の怒号と共に男子たちが校庭の隅に埋める姿を毎年のように目撃した。 その約20年後、様々な映画を観るようになり、不謹慎ながらわたしはあの時のカナヘビの姿を思い出した。 氷が入ったドリンクはトイレが近くなるから、映画館での映画の鑑賞中はあまり摂らないようにして

「ひるさがり」2000字小説

 昼さがり、スープを一さじ、すっと吸って男は「ふう」と小さな息をはいた。  それはコンソメの風味が鼻一杯に広がる、澄んだスープだった。一さじ、一さじと口に運んでいると、なんだかもの淋しい気持ちになって、もっと欲しくなる。そんな味だった。  男は毎日、陽が斜めにさしこむ時間に、この窓辺の席に座り、食事をとるのが日課だった。皿に手を添え、スプーンをゆっくりと動かす。大事な料理を口元まで運ぶ途中で落としてしまわぬよう、背中を丸める。そして口に入れる前にいちど匂いをかごうと、鼻で

短編小説:すっぴん風パウダー

河野理恵(18)は、春から女子大生。 新歓期は、目に映るものすべてが目新しくキラキラしていて眩しかった。 統一されてないおしゃれな洋服、ブランドの鞄、慣れない化粧、恋、何か始まる予感がした🌸 「何のサークル入ろー?」と大量に配られた新歓ビラを眺めていた。 理恵の姉、美由紀は3歳上の大学4年生。就活がようやく落ち着き、髪を金髪に染めていた。 「最初は色々入っといて一つに絞ればー? 新歓のご飯はただだから沢山行くといいよ、友達とね」とアドバイスした。 理恵は一晩中、黙々と考えた

【シナリオ】自分のお守りについて話す話。

短編シナリオ 眠れない夜のお供や、お芝居の練習のためのエチュードとしてお使いください。 柴崎香織瑠...中学3年生。多趣味で人脈も広い。 凛川晴子...中学3年生。人の表情をよく見る。いつも笑顔。 2人は学校は違うが、同じミュージカルスタジオに通っている。 ーーー オシャレなカフェ。 スタジオ帰りの香織瑠と晴子は、レッスン着などの入った大きなカバンを自分の隣に置き、テーブル席で2人クリームソーダを飲みながら談笑をしている。 香織瑠「言葉は、私にとっての、お守りなんだ。

週末スイッチ【僕らのあざとい朝ごはん応募作】

――ようやく一週間が終わった。 一人暮らしの狭い部屋に辿り着くや、仕事の疲れがじっとりと沁みついた服を脱ぎすて、冷蔵庫からキンと冷えた缶ビールを取り出す。 「うっま……」 閉店間近のスーパーで半額になった弁当をかき込み、とりあえず腹が膨れてついうとうとしかけた雅斗は、慌てて目を開けた。 金曜日のビールに溺れてしまわないうちに、やっておくことがある。 雅斗は冷蔵庫を開けると、卵と牛乳を取り出した。 皿に卵を割り入れて、牛乳をそそぐ。分量なんて知ったこっちゃない。砂糖はな

『お婆ちゃんの味噌汁』愛夢ラノベP|2000字のドラマ(第2弾)あざとごはん

ゆる企画:今年のイチオシ記事2022に参加します!

秋谷りんこさんのゆる企画『今年のイチオシ記事2022』に参加致します! ……と高らかに宣言したのはいいですが、はて。 今年、自分が書いた記事の中でのイチオシ、ですか。他人様の記事じゃないところが面白いですね。 しばし悩んだ末に、ではこちらを。 これは note の『カクカタチ #2000字のドラマ 僕らのあざとい朝ごはん』コンテストに応募した作品です。 結果は例によって惨敗だったのですが、非常に多くの方に読んで頂けたこと、また私には珍しい青春ものだったことから、とても

超短編小説『隠れた桜の名所』/#monogataryお題:【宮本笑里コラボコンテスト】あなたにとって特別な場所・残したい風景/#2000字小説

#monogatary 2023年3月20日のお題「【宮本笑里コラボコンテスト】あなたにとって特別な場所・残したい風景」で創作した超短編小説(#2000字小説)を紹介します。 ※monogatary.com の説明は作品の後にあります。  5分程度で読了可能だと思いますので、ぜひご一読ください。 -------------------------------------------------------------------- 『隠れた桜の名所』 「そろそろあそこ

世界が終わるとき【#あざとごはん】

 暮れなずむ街の一角で、お葬式を見かけた。  白いマスクをつけ喪服を着た人たちが、大きな提灯の間を出入りしていた。室内に黒と白の縞模様がちらりと見えた。  旅先で通りすがりの私は、提灯が灯る入口側の歩道から、車道を挟んだ向かいの歩道へ足早に渡ると、そこでしばらくの間、式場を行き交う人々を眺めた。写真を撮ろうか、と思ったけど、不謹慎な気がしてやめた。  故人はお年寄りらしく、お客は年配の人が多い。泣いている人の姿はみられない。人々は淡々としていて静かな表情で、入口付近で談笑

ある晴れた土曜日に【#あざとごはん】

「目玉焼きにウスターソースかけた奴って、時々無性に食べたくならねえ?」  俺は、カリッと焦げた香ばしい白身部分に、ソースをかけながらそう言った。土曜日の晴れた朝。美味い朝飯をのんびり味わえる幸せを、卵と一緒に噛み締める。 「そうねえ、俺は醤油派だなー」  テーブルの向かいに座る大地は、黄身に醤油を少量垂らし、ベーコンとマッシュポテトをフォークで器用に絡めて口に運んだ。思わず俺はツッコんだ。 「ベーコンエッグに醤油って」 「旨さは国を越えるんだよ。ポテチだって海外発祥だけど、バ

約束の秋桜【2000字ドラマ#あざとごはん】

「ぎゃああああ!」「うそおー絶対うそっ」  観光案内所で手に入れたロケマップを握りしめ、わめき散らした金曜日の秋桜畑。 “韓流アイドルグループ『少年時代』イ・ヨヌ 結婚を発表”  土曜日の朝、私は重い頭を抱えてゲストルームのベッドからのっそり這い出した。枕元のペットボトルを飲み干す。平日のオフシーズンで、ゲストルームはガラガラだ。ゆうべ帰ったとき、何人か客を見かけた気がするけど、今朝は人影がなく、宿の人の姿も見えない。  私はスマホと財布が入ったボディバッグをひっかけて

小説 「 七夕の夢、さめる頃に 」

…ああ、今日も騒がしい平安の一日が始まる。 秋雨がしとしと降っている。祭壇のような御殿には四位の小将の嘆く声がただ響くばかりである。 「あなたは、なぜそこまで孤独に、誰とも関わらず死なれることをお望みなのですか!?私には、私には理解できかねます!…なぜ!?そこまで!」 小将はそう言い平伏した。小町は黙って顔を伏したまま、少し開かれたような明るいほほえみをたたえ沈黙を楽しむように何も言わなかった。 「…あなたを、これほどに恋求めた者は、私以外に他にいましょうか⁉ 」 小町は答

祖父が残した言霊

本題に入る前に初投稿のnoteが思った以上に反応を頂けて本当にありがとうございます。私はあまり日本語の使い方が上手じゃないから、そこは暖かい目で見守って頂けたら幸いです。では本題に入ります こんなツイートをした この物語をもう少しだけみんなに届けます これは私と祖父の本当にちょっとした たわいの無い つまらない話 小学生の頃はあまり家に帰りたくなかった 理由は色々あって詳しくは言わないけど とにかく帰りたくなかった だから祖父の家によく寄り道していた じい

【短編】サニーサイドアップとオーバーイージー

 姫野一と森永雪見はいつの間にか同棲していた。 「玉子を焼くならオーバーイージーに限るよね。  見た目はサニーサイドアップが綺麗だけど、朝の貴重な時間に、蓋をしないと上手く焼けないサニーサイドアップは非効率だよ。 太陽が見たいなら、窓から差し込む光を見るさ」  ハジメがそう言うと、雪見が返す。 「確かに非効率さはあっても、料理はビジュアルがとっても大切な要素よ。  私はまるで太陽のようなサニーサイドアップが良いわ。ほら、黄身がもし赤なら日の丸のようでしょ」  元来、楽天

今を生きる

「また緊急事態宣言、、、」光は、ためいき混じりに呟いた。 2年前、京都の御所の近くにある私立大学に合格し、富山からこの京都にやってきた光の生活は、今、大変化を遂げていた。 光だけではない。新型ウイルスが、世界中の人々の生活を一気に、全く違うものに変えてしまった。 光は、希望に満ち溢れてこの京都にやって来た。 桜の花びらが舞う中、入学の式典に参列した。 入学式の後、校内にも、校門の外にも沢山の先輩たちが、ビラを手に持ち、満面の笑顔で新入生たちを待ち構え、自分たちの所属するサー

『ショートショート』塩鮭の皮。「#2000字のドラマ」「#あざとごはん」参加作品。

いつもと変わらない週末の朝。 いつもと変わらない日の出の時間。 セミダブルのベットは2人では狭くて1人では少し広い。 「そろそろダブルにベット変えない?」 その時言われた時感じた、少しの摩擦と少しすれ違い。 気づいていたら少しだけ改善できたかな? 終わった事を考えても仕方がないと思いながらベットから出る。 昨日は少し泣きすぎた。 洗面所の鏡を見ながらそう感じる。 コップに挿してあるブルーの歯ブラシとピンクの歯ブラシ。そっぽ向く様に北と南。 捨てようかと思いブルーの

〈短編小説〉十三夜 2000字

 18階のフロアには武のデスクのパソコンのライトだけが辺りを照らし、静まり返ったフロアは日中の騒がしさも嘘のようだ。 「酒井さん先に上がりますねー残業頑張って下さい」と、鷲尾さんの声が聞こえた。 「ええ、お疲れ様です」と武が言うとバタンと扉が閉まる音が聞こえた。 プレゼン資料が一段落した武はエレベーター前の喫煙室へ煙草を吸いに行くと、ガラス張りの喫煙室からは東京の夜景を望むことが出来た。武が自ら吐いたぷかぷか浮かぶ煙の行方をぼんやりと眺めている先に、高層ビルと東京タワーの上に

【小説】僕とあのコの優雅な朝食(#あざとごはん応募)

 よし。  たまには朝ごはん作ってみるか。  いつもは何も食べないか、焼くのも面倒で食パンをそのままかじるだけだけど。仕事も休みで時間もあるし、久しぶりにスッキリ目覚めたし。  そ、れ、に。  寝室にいる彼女の姿を思い浮かべる。  喜んでくれたらいいな。 「サプラ〜イズ♪」  歌うように言い、僕はキッチンへ向かう。  冷蔵庫を開けてみる。  んー、やっぱり何もない。  って、当たり前か。僕がろくに買い物に行かないんだから。行っても、缶ビールやカップ麺を買うだけだし。お菓子は

その姿はまるで今まで見てきたものとは別物のようで #髪を染めた日

#髪を染めた日 人はなぜ、ある日突然髪を染め、あるがままの黒髪を脱ぎ去ってゆくのだろう。その意味を私は見いだせなくて、また無駄に質のいい自分の髪を加工して弱めてしまうことに抵抗があり、今まで一度も髪を染めたことがない。 別れを語るには少し遅い気がする、そんな4月。 久しぶりに高校時代の同級生に連絡をしてみた。 彼女は、高校の部活動で3年間共に切磋琢磨した仲である。それ以上でもそれ以下でもないのだが、LINEなどの連絡先が徐々に途絶えていく中で唯一彼女だけが当時からずっと