彼女が見てしまったもの

モミジは大男と暮らしています。

 大男の名前はトチノキ。
 六年前、山の入口にすてられていた、まだ赤んぼうだったモミジをひろい、育てたのがトチノキです。

「トチノキ。あたし、もう今年で六歳よ。ねえ、もう一人で遊びに行ってもいいわよね」

 毎年、誕生日である秋になると、モミジは必ずこう言うのです。
 トチノキは早く一人前になりたいから、モミジがこういうのだということはわかっていましたが、山はた

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ありがたいです…!
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看板の向こう側

チカチカと、携帯電話がピンクに光った。君からメールが来たのだ。君から届いた時だけは、ピンク色に光るように設定した。なんだか恥ずかしいような嬉しいような、こそばゆい気持ちだ。

メールを開いた。件名欄には「Re:」がいくつも続いている。君とのやり取りが何度も繰り返されている証であるそれを見て、思わず口元が緩んだ。
すると、お揃いのストラップがちゃらりと揺れた。君と初めて手を繋いだ日に買った、思い出の

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ろおるけえき

「助けて下さい。お願いします」
 漁師の茂吉の前で、子ダヌキが震えていました。
「これ、差し上げますから」
 子ダヌキが差し出したものは、黄色味がかった甘い香りがするものでした。
 今朝、茂吉はいつものように森に仕掛けた罠を見に行きました。するとこの子ダヌキが掛かって泣いていたのでした。
「これは『ろおるけえき』というものです。町に住む外国のお方からいただきました」
 この『ろおるけえき』はとって

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まつげ金魚

たけおはまるで上の空でした。担任の先生が怖い顔をして見ていることにも、まったく気が付きません。
「たけおくん」
 隣の席のようこちゃんが、心配して何度も声をかけてもむだでした。ついに先生が言いました。
「たけお!廊下で立ってなさい」
 やっと気が付いたたけおは、恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうに廊下に出ました。
「あれはいったいなんだったのかな」
 たけおの頭の中はそのことでいっぱいでした。
 

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「スキ」をありがとうございます!
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珍しいジュース

テーブルの上に、ペットボトルが一本置いてありました。これは、まみこが今日コンビニで買ってきたジュースです。なぜか中身は大部分残っています。

 「お姉ちゃん、おいしそうだから買ってきたよ」
 まみこが差し出したペットボトルを、ゆみこは変なものでも見るような目で見つめました。
「あんた、また買ってきたの?珍しいものを見付けるとすぐに買ってくるのは、あんたの悪いくせよ」
「だって、とりあえず何でも試し

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「スキ」をありがとうございます!
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聖霊の笑い声|セレスチャル・エクスタシー

ああ、滑稽だと
  精霊たちは
  森の一番高い樹の上で
  手を叩きながら
  笑い転げる。

  愚かさのコメディーと
  予測不能なシナリオと
  自分の裾を踏んで
  転んでしまうような
  面白さに

  精霊たちは
  笑い転げる。

  延々と繰り返されていく
  そんな人間界の
  ドラマに飽きた聖霊たちは

  樹木のてっぺんを
  次々に飛び越え
  遠くに消えてしまった。

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