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小説

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創作小説をまとめていきます
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記事一覧

さようなら

どれだけ別れの繰り返しで心を消耗しても、
自分だけは自分を離れないから、
自分を愛し抜けるようにさえなれば、
心を強く保てるのではないかと期待なんかしちゃうけど、
自分を愛せるようになったりできるのは、
大切な誰かのおかげだったりすることが多くて、その人を失いたくないと思っては、
また心を消耗する。

またねの裏に、二度と会わない未来がちらついたりして、無性に寂しくなるけど、
こころの中から、消え

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シソハムチーズトースト

シソハムチーズトースト

食パンにマヨネーズを塗る。その上にハムを乗っけて、シソの葉を1枚そっと乗せる。仕上げにとろけるスライスチーズを乗せてトーストする。
これで完成、シソハムチーズトースト。ポイントはシソの葉だ。コッテリとしたマヨネーズとチーズの間にシソの爽やかな香りがこんにちはする。
これが僕のお気に入りの朝ごはん。

このレシピは彼女の夏野れいが生み出したものだった。

はじめてれいの家に泊まった朝、れいはシソハム

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小3で書いた少年時代の処女作を自分で考察してみた

小3で書いた少年時代の処女作を自分で考察してみた

平成17年度第3学年創作物語集「ゆめの中の話」の中に火花少年の創作物語のデビュー作が記されている。タイトルは「おかしをぬすみに」だ。

僕はこの作品から文章を書くことの楽しさを学んだと思う。そのことは以前この記事にも書いている。

まずはその作品を改めて文字に起こした。

考察タイトルの「おかしをぬすみに」と登場人物の名前が焼肉の部位からして、火花少年は食いしん坊だと思われる。お宝ではなくておかし

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五月病で中二病

五月病で中二病

「先生、最近このままでいいのかと不安で夜も眠れません。自分が成長できていない気がして、焦りと不安でいっぱいです」

「おそらく五月病ですね、ストレスを溜め込まないようにしましょう。といっても火花さんには難しいかな。一応お薬用意しておきますね」

先生はそう言ってQueenのCDを渡した。

「五月病!?先生、五月病は治るのですか?」

「火花さんの場合、おそらく5月が終われば治るでしょう。五月限定

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こどもの日

こどもの日

「今日でGW終わりだな」

「ごめん俺明日も休み」

「うざ。終われよ。てか今日って何の日か知ってる?」

「5月5日だろ?そしたら郷ひろみの日か」

「なんだよ郷ひろみの日って。聞いたことねえよ。何すんだよ郷ひろみの日」

「そりゃ各ご家庭で二億四千万の瞳を歌うんじゃん?」

「じゃあ一人暮らしの俺たちはどうすんだよ」

「リモート帰省して歌うんだよ。今の時代は」

「あー嫌な時代に生まれちゃっ

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片道切符

「ねえ、俺たちはこの片道切符握りしめてどこへ向かってると思う?」

「地獄」

真っ赤なルージュのカレンは嬉しそうに答える。

そして、僕たちは闇夜に優しく佇む三日月に向かって乾杯した。

アリジゴク

アリジゴク

俺は巷ではアリジゴクと呼ばれているらしい。地獄などおぞましい言葉を名前につけられて、甚だ遺憾である。それにアリクイというそれはそれは大きな怪物もいるらしいではないか。俺だってアリを食べる。どうしてこちらの方が地獄だなんて言われなければならないのだ。なんだったら何百倍も大きいアリクイの方がアリにとったら地獄なのではないのか。そもそもなぜアリ主体なのだ。いつからこの世界はアリのものになったのだ。

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きんつば

きんつば

ホワイトデーのお返しが手作りのきんつばだなんて、花柳くんはやっぱり変わってる。しかも私は老舗和菓子屋の娘。和菓子にはうるさい。

「はい!みっちゃんホワイトデー!きんつばつくってみた!」

屈託のない笑顔で花柳くんはそう言って、私に不恰好にラッピングされたきんつばを渡した。

「すごいやん!自分でつくったん?でもなんできんつばなん?」

「なんでって、そりゃみっちゃん和菓子職人だからさ、みっち

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アーモンド

アーモンド

僕はアーモンド。

桜の花に似ているのに、みんなが綺麗だというのは桜ばかり。

桜より早く咲くのに、桜まだ開花しないねってみんなの頭の中は桜のことばかり。

学校近くの公園に咲くアーモンドをブランコに揺られながら見つめる。桜によく似ていて綺麗なのに、僕らはどうして桜ばかり追いかけるのだろう。

「俺はアーモンド好きだな。だってさ、アーモンドチョコレートうまいもん」

靴を飛ばしながらそう言

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新宿駅、雑踏の中ただ君だけを待つ。

新宿駅、雑踏の中ただ君だけを待つ。

新宿駅、雑踏の中ただ君だけを待つ。

数分後、広い世界が君と僕だけの空間になる。

そのたったひとつの尊い世界に生きれるのなら、僕の過去も君の過去もどうだっていい。

今から現れる君が世界だ。

憂鬱な夜

憂鬱な夜

群青色の空に星が瞬く

毎日空を見上げているのに一向に分からない星座

一番高い星を見つけてゆっくり空を足下までなぞる

いつもの帰り路を逸れる汚れた白スニーカー

見知らぬ公園の腐りかけのブランコに腰を下ろす

世界と社会と人とさよならして名もなきメロディを歌う

奏でた音は僕だけを優しく肯定する

【短編集】beautiful mess

【短編集】beautiful mess

beautiful mess

金木犀と線香花火

人間は運命や奇跡という言葉が好きだ。現実に起きた自分にとって都合のいい出来事を、全て運命と奇跡にするのだ。そして僕もまたそういう人間だった。

八月が終わり、空が少し高くなった気がする九月の初旬。もう夏も終わってしまったのかと言わんばかりのこの世界の雰囲気。アブラゼミが最期の力を振り絞り命の音を鳴らしている。

「翔、もう夏も終わりだな。」

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たねまき

たねまき

ある日、たぬきはきつねに出会った。

「きつねさん、何の種をまいてるの?」

「それが何の種か分からないんだよね」

しばらく月日が経ったある日、たぬきはきつねを訪ねた。

「きつねさん、このあいだの種は芽が出たかい?」

「それがね、芽が出てこないんだ」

きつねは悲しそうに水やりを続けた。そして別の種をまいた。

「こっちの種はなんだい?」

「これかい?それが何の種か分からないんだ」

しば

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黒猫のヨル

黒猫のヨル

ある春の日、黒猫のヨルは本当に美しいものを探しに旅に出た。

最初に出会ったのは桜だった。

初めて見る満開の桜は圧巻だった。

桜の花びらが散るのを見てヨルは綺麗だと思ったが、どこか寂しくなった。

次に出会ったのは虹だった。

その七色に光る橋を見てヨルは心を躍らせた。

しばらくして虹は消えた。ヨルは寂しかった。綺麗なものがまたなくなった。

次に出会ったのは花火だった。

花火の迫力と美し

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