昧爽

彼女の膝

 彼女の膝は震えてゐる

 さんざめく娘たちの午後が移ろふ
 遠く白い鮫たちの群れが通り過ぎる
 通り雨だった

 夜気が彼女を包む頃
 彼女の十二人の友たちは
 静かな夜宴を囲んでゐる

 ちろちろと燃える火に照らされた
 青味を帯びた金属の夜
 寝殿には悲しみの詰まった空気が幾層にもなり
 彼女は虹色の液体になり
 薔薇の氷塊のやうに
 こなごなにされ
 いつくしみから遠く離れた原郷を
 さす

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ありがとうございます
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昧爽をもたらすメッセージ

 どこかに行きたいと思っていた。だけど未成年のわたしはどこにも行けなくて、夜になるとパソコンをつける。

 デスクライトとパソコンの灯りがぼうっと部屋を照らす。ピアノの鍵盤を叩くように、キーボードを夜中打ち続けた。

 物語でなら、わたしはどこにだって行ける。笑って、泣いて、大好きな人といつまでも一緒にいられることだってできた。……それでも、少し思っている。大人に近づくたび、向こう側へ行くチケット

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スキをお返しします。ありがとうございます!
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カンチェンジュンガの雲間から

 一面を覆う闇の中から、雲がぼんやりと浮かび上がってきた。

 この雨季に陽が昇ることは稀であり、雲があっては山を見ることができないと皆がわかっていながらも、ホテルの裏庭には寝ぼけた顔をした観光客が集う。この眺める先に世界第三の山があるのだと信じて。

 待てど待てども山は姿を見せないまま一週間が経った。

 帰りの支度を済ませた僕は再び裏庭に出る。最後の一瞬までひとかけらの希望を胸に持ち続けて。

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ある夜明け前、彼女の横顔

「夜明けのこと、昧爽っていうんだって」
ご来光を待つ山頂で、隣の彼女がぽつりとこぼした。

夜明け前。真夏だというのに、ダウンを着ても指がかじかむ。地上では連日猛暑日が続いているというのに、三千メートルを超えた山の上ではそれこそが幻みたいだ。
だからかもしれない。その言葉を聞いて、なぜかぞくりとしたのは。

「……まいそう」

小さな声で繰り返して、浮かんだ漢字は埋葬だった。
さすがにそれは違うだ

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目が覚めたあの日

転勤の辞令が出たのは二十四歳の時。家族は猛反対し、友達は泣いてくれた。反対に私は初めての一人暮らしに浮かれ、現実味がないふわふわした気分のまま仕事の引き継ぎと引越しの準備をこなしていた。
真っ暗な二月初旬の朝六時。父は既に家を出ていた。リビングの机に一枚のノートの切れ端がポツンと置いてあった。父らしい手紙に母と笑い、それを鞄のポケットにしまい込んで真っ暗な外に出た。
そして飛び込んできたのは、出発

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昧爽

目が覚めた。
昨夜は暗くて見えなかった梁がぼんやりと見える。
外へ出てみると、ちょうど空が白み始めたころだった。
ひんやりとした空気を胸いっぱいに吸い込む。

そういえば、こんな早くに目覚めたのはいつぶりだろう。
小学生のころは毎日が楽しみで、勝手に目が覚めたものだった。

同じような毎日から抜け出したくて
数年ぶりに祖父の住む田舎を訪れた。
蛙の鳴き声や清々しい風、そして景色は
懐かしさと同時に

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夜明けの採用

「続きまして。ラジオネーム・エセだんごむし…。」
完全に夢の中にいたのに、その一言で飛び起きていた。
そこからの記憶は曖昧である。
何を読まれたかもよく覚えていない。
ただ、豪快な爆笑の声と、
「こいつバカだなー!」
が焼き付いている。
結局、今の僕があるのは、あの瞬間が忘れられないだけ。
また同じように笑って欲しい。
「バカだなー!」
ってまた言われたい…。
「監督、休憩時間終わりです!」
「じ

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宜しければ今後も是非…。
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邂逅

トラックの窓から後ろを振り返る。
ただ茫然と、首をうなだれ立ち尽くしていた父。
私たちと荷物を載せたトラックが遠ざかる、
その光景を見たくなかったのだ。

時を経て再会の日、父から渡されたものがある。
ずっと内緒で持っていたという古い写真。
父のかわいい娘だった私達幼い姉妹。
毎日がただただ楽しかったあの頃の
父と母と、私達。
時に眺め、思い出に浸った夜もあったのだろうか。
そう、私たちは紛れもな

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謝謝☆息子の作った天津飯。召し上がれ^^
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