昧爽どき
今はもう走っていない、寝台列車にひとり乗ったことがあります。暮らしを営む明かりが少なくなると、狭いベッドに横たわり、ガタンゴトンという音に耳を傾けます。つまり、よく眠れませんでした。人気がない深夜の駅のホームは、メーテルと鉄郎が現れるのではと思いたくなる異空間でした。うとうとしていると、いくつかの県境を越えました。
そうこうしていると、車内での生活の営みが始まります。顔を洗う水の音、旅人同士の会話。空は夜を纏っていても、朝という旅の終わりが近づいていることがわかります。
寝台列車での旅を終え、各駅列車を乗り継ぎ帰路につきました。同じ車両には、これから1日が始まるサラリーマンや学生が乗っています。列車は人生の時が交差する空間を作り出すから不思議なものです。
旅の最後の列車に乗り込むとき、見上げたのは昧爽どきの空でした。
夜から朝へ。非日常から日常へ。ゆっくりと時が切り替わってゆきました。
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