昧爽
真っ暗だった空が、白み始めたころ、私は東京行きの飛行機に乗り込んだ。
仕事と育児に追われ、代わり映えのしない生活に飽き飽きしていた。
今までにやったことがない、でも大好きなことがしたい。
だから、決めたのだ。飛行機に乗ってみようと。
行くあてなんかなかった。ただ、非日常に自分を置いてみたかった。
飛行機は離陸し、どんどん高度を上げる。それに合わせるように空も明るくなる。
「ただいま、富士山上空を飛んでおります」
機内アナウンスの声につられ、窓の外をみた。
地上から突き出す、圧倒的な存在感。
富士山は、オレンジ色に染まっていた。
生まれたての太陽から生み出されたオレンジ色は、ふんわりしていて、優しくて、それなのに力強かった。
前方に見ていた富士山がだんだん迫ってきて、真横になり、遠ざかった。
「ああ、私、もう少し頑張れる」
まだ温かさが残るコンソメスープを一口すすって、オレンジ色のためいきをひとつついた。
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