姉妹の昧爽
障子を開けると、窓の外に広がる海辺の町は薄い青に染まっていた。
濃紺の夜をたっぷりの水で薄めたみたい。
「外、明るくなってきたね」
私が言うと、畳に寝ころんでいた妹が顔だけこっちに向ける。
「ほんとだ」
旅館の浴衣がすっかり着崩れ、顔はむくんでいる。一晩中飲んでいたせいだ。
「朝日、見に行かない?」
「えー、めんどくさい」
うだうだする妹を説き伏せ、桟橋に来た。
早朝の空気はひんやりと冷たい。妹が酒くさい大きなあくびをすると、息が白かった。
少しずつ明るくなり、水面が輝きはじめたかと思うと朝日が顔を出す。
「きれい……!」
水平線を眺めたまま、妹がつぶやく。
「私めんどくさがりだからさ、お姉ちゃんが誘ってくれなかったら今も部屋でごろごろしてたよ。朝日なんて見に来なかった」
「来て良かったでしょ?」
「うん。お姉ちゃん、ありがと」
私はもうすぐ、妹と違う苗字を名乗る。
だけどたまには、このめんどくさがりの妹と旅をしたい。
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