なにも変わらない朝
「クワッ、クワッ」という大合唱が、水面の彼方から聞こえてくる。
冬の夜明け前、マガンが飛び立つ風景を見たくて、宮城県の伊豆沼にいた。
あの震災で、震度7の揺れに襲われた、栗原市にある沼だ。
東の空が淡いオレンジに染まる頃、マガンは群れとなって、一斉に飛び立っていく。
大空を覆い尽くすほどの大群が飛んでいくと、そのあとを追うように、もう一群……。
彼らは毎朝、餌場となる田んぼへ向かって、飛び立っていくのだ。
一日の始まりを祝福するかのように、賑やかな鳴き声をあげながら。
やがて、マガンが消えた静かな水面を、太陽の光がきらきらと輝かせていく。
なにも変わらない、伊豆沼の美しい朝だった。
失われていくものもあるけれど、失われないものだって、ちゃんとあるのだ。
黄金色に輝く風景のなかに、小さな希望の光を見た気がした。
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