手塚 大貴

旅行ライター。旅の“素敵”を伝えたい。ここではないどこかへ、ときどき旅立ちます。旅エッ…

手塚 大貴

旅行ライター。旅の“素敵”を伝えたい。ここではないどこかへ、ときどき旅立ちます。旅エッセイやコラムが得意。お仕事のご依頼は hirotaka.journey@gmail.com まで。

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    フトした事からはじまる もう出会うことのない貴方へ 手紙のような小説 珠玉の一編をお届けします #手紙小説・メンバーで運営中

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グリーンランド経由パリ行きで感じた、「窓側の席」の至福

どんなに長距離のフライトでも、飛行機に乗るときは、窓側の席に座るのが好きだ。 とはいえ、通路側の席の快適さに気づいた最近は、席を選択するとき、少し迷うことも増えてきた。 いつでもトイレへ行ける安心感はもちろん、窓側の席の窮屈さや閉塞感もなく、通路側の席は開放的な気がするからだ。 この夏、エールフランスでパリへ飛んだときも、席の選択にはちょっと迷った。 直行便なうえ、今はシベリア上空を飛べないため、かなりの大回りとなり、フライトは14時間を超えるという。 さすがに今回

    • ドイツのケルンでは、アルトビールを注文してはいけない

      異国を旅していると、たまに、思いがけないピンチに遭遇する。 飛行機の欠航に見舞われることもあれば、悪い人に騙されそうになったり、ちょっと危険なエリアに迷い込んでしまったりすることもある。 でも、いろんな国を旅してきても、こんなにも奇妙なピンチに遭ったことはなかった気がする。 ある昼下がり、ドイツのケルンにある小さなレストランで、あと一歩踏み込んでいたら大変なことになっていたかもしれない……というピンチに、遭ってしまったのだ。 その「ピンチ」に遭う前日、ドイツのデュッセ

      • オランダの旅でミッフィーが気づかせてくれた、「ぬい撮り」の面白さ

        何年前かの春、山梨へ桜を見に行ったときのことだ。 美しく咲き誇る桜にカメラを向けていると、少し離れたところで、可愛いクマのぬいぐるみを手にして、桜をバックに写真を撮っている若い女性がいた。 彼女はいわゆる、「ぬい撮り」をしていたのだ。 すると、その光景を不思議そうに見ていた中年の女性が、小馬鹿にしたような口調で言った。 「いい大人がぬいぐるみで写真撮ってるなんてねぇ……」 それを横で聞いていた僕は、その若い女性に聞こえてしまうような声で言う無神経さに腹を立てたが、内

        • 果てしない想像から旅は始まる 〜鈴木亮平『行った気になる世界遺産』

          つい先日、ふとした縁から、鈴木亮平さんの『行った気になる世界遺産』という旅行記の本を読んだ。 目次を開くと、カナイマ国立公園、古代都市チチェン・イッツァ、オルチャ渓谷、サマルカンド文化交差路など、世界遺産好きな鈴木さんらしい旅先がずらりと並ぶ。 ところが、次のページを繰ると、そこには思いがけない一文が書かれている。 実はこの本、実際に行って書くのではなく、頭の中の想像力で書いた、世にも不思議なフィクションの旅行記なのだ。 正直、この本を読み始める前の僕は、行かずして旅

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          次の旅では、カメラを片手に。沢木耕太郎『心の窓』を読んで

          この春、カザフスタンのアルマトイで、路線バスに乗っていたときだった。 混雑した車内で、僕が後ろのドアに面した通路に立っていると、途中の停留所から、4人の少年少女たちが乗ってきた。 僕のすぐ近くに立つことになった彼らは、小学生らしい男の子3人と、中学生らしい女の子1人、という姉弟だった。 男の子たちは遊びたい盛りらしく、揺れるバスの中でも、お互いにちょっかいを出し合ったり何かふざけた言葉を言い合ったりしている。 女の子は興味がなさそうに彼らのことを放っていたが、他の乗客

          次の旅では、カメラを片手に。沢木耕太郎『心の窓』を読んで

          ひとり旅って、自分の素の気持ちが見えてくる瞬間がある

          ひとり旅って、普段はあまり気づけないような、自分の素の気持ちがふっと見えてくる瞬間がある。 カザフスタンの旅で、タラズという街からシムケントという街まで、鉄道に乗ったときだった。 チケットに記されてある4人寝台の部屋へ行くと、僕の他に誰も乗っていない。 シムケントまで大きな駅には停まらないらしいから、3時間あまりの間、僕はこの部屋でひとりで過ごすことになりそうだった。 列車での人との交流を楽しみにしていた旅人なら、ちょっとがっかりするものなのかもしれない。 でも、僕

          ひとり旅って、自分の素の気持ちが見えてくる瞬間がある

          14年前、真夜中の香港で助けてくれた、あなたへ

          お元気にしていますか? ……と書いても、あなたは僕のことを、もう覚えていないかもしれません。 旅人が出会いを忘れられなくても、その人にとっては、旅人のことなんてすぐに忘れてしまうはずですから。 でも、僕にとって、あなたは今でも忘れることのできない存在で、あの日ちゃんと言えなかったお礼の言葉を、この手紙という形で、どうしてもお伝えしたいのです。 あれは14年前、香港の夜でした。 その冬の夜、僕は香港の中心部にある、重慶大厦のゲストハウスに泊まっていました。 あの頃の

          14年前、真夜中の香港で助けてくれた、あなたへ

          赤ちゃんが泣く機内で、さりげない優しさを見た話

          国内でも海外でも、飛行機に乗っていると、機内で赤ちゃんが泣き始めてしまう光景に出会うことがたまにある。 僕自身は、そんな光景に遭遇しても、それを不快に思うことはあまりないタイプだ。 もちろん、静かな機内に赤ちゃんの大きな泣き声が響けば、少し気になるくらいのときはある。 でも、赤ちゃんが泣いてしまうのは自然なことだし、そのくらいのことは静かに受け入れられる大人でありたいと思っている。 だから、近くの席で赤ちゃんが泣き始めても、別に泣いてもいいんだよ……と心の中で思いなが

          赤ちゃんが泣く機内で、さりげない優しさを見た話

          トウモロコシと、ポモドーロと、バクラヴァと

          その夕方、カザフスタンのシムケントという都市にいた。 ウズベキスタンの国境に近く、やたらと車のクラクションが鳴り響く街は、アジアらしい猥雑さで溢れている。 ホテルに荷物を置いた僕は、日が暮れる前に、中央バザールへ行ってみることにした。 初めての都市を訪れて、まずどこへ行くか迷ったときは、つい市場へ行きたくなる。 その土地の人々の暮らしを垣間見ることができる、という理由もある。 でも、それだけでなく、市場という場所は、孤独な異国の旅人にとって、一種のパワースポットだと

          トウモロコシと、ポモドーロと、バクラヴァと

          カザフスタンの世界遺産は、何もない大草原だった

          その朝、ホテルで簡素な朝食を食べながら、そこへ本当に行くべきかどうか、迷っていた。 春のカザフスタンの旅の途中、タラズという小さな町で迎えた朝だった。 何もなさそうな町で1泊してみるのもいいかもしれない……と立ち寄った町だったけれど、そのタラズは想像以上に、何もない町だった。 前の日の夕方、カザフスタン鉄道をタラズの駅で降りても、どうやら観光客は僕一人しかいないようだった。 駅を出て、夕暮れの町を歩き始めても、心を動かされる風景は何もない。 陰鬱な曇り空の下、彩りを

          カザフスタンの世界遺産は、何もない大草原だった

          春のカザフスタンで手に入れた、たったひとつの旅のお土産

          この春、中央アジアのカザフスタンを旅してきた。 旅に出る前、「どうしてまたカザフスタンへ?」と不思議そうに訊かれることもあった。 それこそ村上春樹さんのラオスのように、「カザフスタンにいったい何があるというんですか?」というニュアンスを込めて。 正直に言えば、カザフスタンで何を見たいとか何をしたいというわけではなかった。 去年の秋、ウズベキスタンを旅したら、なんとなく隣のカザフスタンへも行ってみたくなった。 たぶん、それ以上の理由はなかったように思う。 そんな単純

          春のカザフスタンで手に入れた、たったひとつの旅のお土産

          ただ「今」だけを生きるために、旅に出る

          海外へ旅に出るとき、いつも思うことがある。 いや、正確に言えば、国際線の飛行機に乗り込んで、機体がふわっと離陸する瞬間、思うことがある。 たとえば、それが1週間の東南アジアへの旅だとしたら、僕はこんなふうに思うのだ。 これからの1週間は、ほとんどすべてのことを忘れて、ただ旅という日々を夢中で生きるだけでいいんだな、と。 心地良い解放感とともに湧いてくるその思いにこそ、僕が旅に惹かれてしまう理由がある気がする。 旅に出れば、「今」という瞬間を、夢中で生きることができる

          ただ「今」だけを生きるために、旅に出る

          もしタイムマシーンがあったなら、『深夜特急』の頃の香港へ行きたい

          村上春樹さんの紀行文に、「もしタイムマシーンがあったなら」という短編がある。 そんな書き出しで始まる紀行文の中で、村上さんは、1954年のニューヨークに飛んで、当時のジャズクラブに行きたい、と語っている。 さて、その紀行文を読み終えた僕は、もちろん思い巡らすことになった。 はたして僕だったら、一度きりのタイムマシーンで、どこへ行きたいと思うのだろう、と。 正直、今の世界を旅できるだけで十分、と満足している僕は、過去の世界へ行きたいとはあまり思わない。 フランス革命の

          もしタイムマシーンがあったなら、『深夜特急』の頃の香港へ行きたい

          夢のある日常を生きるために、航空券を買っている

          たぶん、一般的に見れば、物欲のない方だと思う。 お洒落な服を買いたいなんて思わないし、車にも時計にも最新の家電にもほとんど興味がない。 そんな僕が、年に何度か、どうしても買わずにはいられない物がある。 海外へ旅に出るための、国際線の航空券だ。 他の何は買わなくとも、国際線の航空券だけは、気がつけば欲しくなり、気がつけば買っている自分がいる。 もちろん、その航空券は、海外へ行くために買っている。 でも、それだけが理由ではないことに気づいたのは、わりと最近になってから

          夢のある日常を生きるために、航空券を買っている

          どうしてかわからないけれど、心に残る「旅の記憶」がある

          ふと、10年前にブラジルへ行った旅を思い出して、不思議なことに気がついた。 それは僕にとって、人生で最も日本から遠い国へ行った旅だった。 サッカーワールドカップの観戦をメインに、リオデジャネイロやサンパウロ、さらにアルゼンチンへも入国し、イグアスの滝へ足を延ばした。 地球の裏側でしか出会うことのできない、いくつもの大きな感動を味わえた旅になった。 伝説のマラカナン・スタジアムで観戦したワールドカップの試合も心震えたし、コパカバーナやイパネマのビーチ、そしてキリスト像が

          どうしてかわからないけれど、心に残る「旅の記憶」がある

          海外旅行帰りに食べる、吉野家の牛丼の美味しさについて

          海外の旅から帰ると、真っ先に食べたくなる、日本の味がある。 飛行機が成田空港に着陸し、しばしの時を経て機内を出ると、多くの乗客たちとともに、ターミナルビルの中を動く歩道に乗って進んでいく。 やがて入国審査を受け、ターンテーブルのフロアを過ぎ(僕の場合、荷物を預けないので通り過ぎるだけ)、さらに税関も抜ければ、無事に到着ロビーに出る。 そこが幸運にも第2ターミナルなら、すぐ見上げた2階に、オレンジ色の看板が輝いている。 それを目にした僕は、エスカレーターで2階へ上がり、

          海外旅行帰りに食べる、吉野家の牛丼の美味しさについて