マガジン一覧

異国の旅エッセイ

海外旅エッセイの集積。

マカオのカジノで、5万円分の「夢」を見た話

マカオのコロアネ島に、ハクサビーチという黒砂の浜がある。その夕暮れ、僕はビーチ沿いにあるポルトガル料理のレストランで、ひとり夕食をとっていた。 頭から味わえるイワシの塩焼き、ホクホクとした食感の干しダラのコロッケ、酸味と甘味が溶け合うフレーバードワインのサングリア……。 それは僕にとって、かなり豪華な夕食だったが、もちろん理由があった。 この日、有名なホテル・リスボアのカジノで遊んだら、少しだけ勝つことができたのだ。あの『深夜特急』でもおなじみの、サイコロを使った大小。

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香港の茶餐庁は、ドラえもんの四次元ポケットみたいだ

今回の香港の旅は、5年前と同じく、香港エクスプレス航空の深夜便で行った。 夜明け前の香港国際空港に着き、入国すると、A21の路線バスに乗って、九龍の尖沙咀へ向かう。 重慶大厦の前で降りる頃には、空もだいぶ明るくなっている。そうして僕がまず入ることになるのは、街中にある茶餐庁だ。 茶餐庁とは、喫茶店でもあり、大衆食堂でもあるような、香港のどこの街にでもある店のことだ。 とくに、お目当ての茶餐庁があるわけではない。早朝でも開いていて、地元の人たちで賑わっている茶餐庁なら、

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あの頃の香港は、これからもずっと心の中で生き続ける

いまも忘れられない、香港の光景がある。 たとえば夜、九龍の街中を走るネイザンロードに、鮮やかな色彩で煌めいていたいくつものネオン看板。2階建てバスの天井にぶつかりそうなくらいの高さで、けばけばしい色合いの看板がギラギラと輝きを放っていた。 いかがわしい外観の重慶大厦へ入れば、何者かもわからないインド系の人々や安宿のしつこい客引きにいつも誘われた。繁華街にあるのに、一気に香港の奥部へ迷い込んでしまったかのような、怪しげな雰囲気で満ちていた。 そして、廟街のナイトマーケット

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初の旅エッセイ集『旅の空から降ってきた』、販売を開始しました!

本日12月24日、僕にとって初めての旅エッセイ集『旅の空から降ってきた』の予約販売を開始しました! このnoteでもお伝えしてきたとおり、「紙が好き」という思いがきっかけとなり、迷いを経ながらも自らの手で作り上げた、いくつもの旅のエッセンスを散りばめた1冊です。 タイトルは、『旅の空から降ってきた』。旅で出会うことになった、思いがけない偶然や不思議な幸運を描いているので、こんなタイトルを付けてみました。 そんな本の目次はこちら! 前半はこのnoteで好評だった作品を改

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僕のこと

「僕」についてのあれこれ。

初の旅エッセイ集『旅の空から降ってきた』、販売を開始しました!

本日12月24日、僕にとって初めての旅エッセイ集『旅の空から降ってきた』の予約販売を開始しました! このnoteでもお伝えしてきたとおり、「紙が好き」という思いがきっかけとなり、迷いを経ながらも自らの手で作り上げた、いくつもの旅のエッセンスを散りばめた1冊です。 タイトルは、『旅の空から降ってきた』。旅で出会うことになった、思いがけない偶然や不思議な幸運を描いているので、こんなタイトルを付けてみました。 そんな本の目次はこちら! 前半はこのnoteで好評だった作品を改

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旅エッセイ集を作る過程で生まれた、3つの大事な選択

この秋は、人生で初めて、旅のエッセイ集を作る日々だった。 それは、10月のnoteでもお伝えしたとおり、紙が好き……という思いから作ることになった、僕にとって最初の「紙の本」になる。 そして、ようやく先日、すべての原稿が完成した。 水を濾過していくように、何度も推敲を重ねた文章は、自分で言うのもおかしいけれど、なかなか良いものに仕上がっている自信がある。 なにより、一冊の本を作り上げる作業は、ときに孤独で、ときに大変で、だけど、それ以上に心楽しいものだった。 仕事で

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紙が好きだから、旅のエッセイ集を作ることにした

この秋の日、郵便受けを覗いたら、フランスから一通の封書が届いていた。 なんだろう、と思って封を開けると、入っていたのは、この夏に現地へ観戦に行ったパリオリンピックのチケットだった。 どうしてオリンピックは終わったのに、いまチケットが届いたのかというと、それには理由がある。 実は、近年のデジタル化の波を受けて、パリの競技会場で使ったのは、スマホに届くモバイルチケットだった。 その代わりとして、パリオリンピックが用意したのが、記念としての「紙チケット」だったのだ。チケット

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沢木耕太郎さんからのクリスマスプレゼントと、新たな旅立ち

昨年、2023年のクリスマスイブのことだった。 ……と書くと、素敵な恋物語でも始まりそうな気がするけれど、とくにロマンティックではない、だけどちょっと嬉しい出来事があったのだ。 というのは、僕のささやかな旅の話を、憧れの人に伝えることができたからだ。 それは、あの沢木耕太郎さんだった。 沢木耕太郎さんは、毎年クリスマスイブに、J-WAVEで放送されるラジオ番組で、一夜限りのナビゲーターを務めている。 聖夜の3時間、沢木さんがリスナーに向けて、その1年の旅のエピソード

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日本の旅エッセイ

国内旅エッセイの集積。

初の旅エッセイ集『旅の空から降ってきた』、販売を開始しました!

本日12月24日、僕にとって初めての旅エッセイ集『旅の空から降ってきた』の予約販売を開始しました! このnoteでもお伝えしてきたとおり、「紙が好き」という思いがきっかけとなり、迷いを経ながらも自らの手で作り上げた、いくつもの旅のエッセンスを散りばめた1冊です。 タイトルは、『旅の空から降ってきた』。旅で出会うことになった、思いがけない偶然や不思議な幸運を描いているので、こんなタイトルを付けてみました。 そんな本の目次はこちら! 前半はこのnoteで好評だった作品を改

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ほんの近くの街で、新しくまっさらな旅を

たとえば、異国へ旅に出て、どこか見知らぬ街を歩いているとき、ふと思う。 いま、人生で初めて、この国の、この街の、この道を歩いているんだな、と。 海外の旅が好きなのは、いつだって、新しくまっさらな瞬間に溢れているからだ。 初めて出会う人、初めて見る風景、初めて食べる料理、初めて感じる風……。 日本にいるだけでは味わえない、五感を次々に刺激する、新しい何かを求めて、海外へ旅に出るのだ。 しかし……と思ったのは、この新年の数日間、思いがけず、印象的な体験を2度も続けてした

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たったひとつの、特別な街。祖母の面影に会う神戸の旅

神奈川県の海に近い街に生まれ、そこで育ち、いまも暮らす僕にとって、自分と縁のある街というのが、地元の他にとくにない。 日本地図を広げても、旅したことのある街はたくさんあっても、暮らした経験のある街はひとつもない。 だから、ささやかな旅の記憶が、日本各地に散らばってあるくらいの感じなのだ。 でも、そんな僕にも、たったひとつだけ、特別な思い入れを感じずにはいられない街がある。 それが、兵庫県の神戸だ。 もちろん、僕は神戸に住んだこともなければ、そこに通ったこともない。

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旅先の一歩も、幸せな気持ちになれる方へ

旅もまた、あらゆる「選択」の連続だと思う。 どこへ旅に出よう……? という選択から始まって、いつ行こう……? 交通手段はどうしよう……? ホテルはどこに泊まろう……? と計画の段階から、いろんな選択をすることになる。 さらに実際に旅へ出れば、今日はどこを見て回ろう……? と考え、街を歩きながら、どっちの道を歩こう……? と迷い、道がわからないときは、どの人に道を訊ねよう……? などと無意識のうちに小さな選択を繰り返していく。 そうした旅の選択は、思いがけず幸運な出会いに

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読んでくれたら嬉しいnote

大切なnoteをまとめました。読んでくれたら嬉しいです。

パリの人の温かさに触れられた、小さなホテルの話

パリに着いた最初の日、ホテルにチェックインした後、夜の凱旋門を見に行った。 ところが、シャルル・ド・ゴール広場に立ち、ライトアップされた凱旋門を写真に撮っていると、不意に雨が降ってきた。 夜の空には、雷鳴とともに紫の稲光が煌めき、雨脚はどんどん強まっていく。 折り畳み傘を部屋に置いてきてしまった僕は、仕方なく街歩きは諦め、近くの駅からメトロに乗って、ホテルへ帰ることにした。 メトロ6号線をパッシー駅で降りると、地上にあるホームは水浸しで、まるで日本のゲリラ豪雨のように

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グリーンランド経由パリ行きで感じた、「窓側の席」の至福

どんなに長距離のフライトでも、飛行機に乗るときは、窓側の席に座るのが好きだ。 とはいえ、通路側の席の快適さに気づいた最近は、席を選択するとき、少し迷うことも増えてきた。 いつでもトイレへ行ける安心感はもちろん、窓側の席の窮屈さや閉塞感もなく、通路側の席は開放的な気がするからだ。 この夏、エールフランスでパリへ飛んだときも、席の選択にはちょっと迷った。 直行便なうえ、今はシベリア上空を飛べないため、かなりの大回りとなり、フライトは14時間を超えるという。 さすがに今回

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ドイツのケルンでは、アルトビールを注文してはいけない

異国を旅していると、たまに、思いがけないピンチに遭遇する。 飛行機の欠航に見舞われることもあれば、悪い人に騙されそうになったり、ちょっと危険なエリアに迷い込んでしまったりすることもある。 でも、いろんな国を旅してきても、こんなにも奇妙なピンチに遭ったことはなかった気がする。 ある昼下がり、ドイツのケルンにある小さなレストランで、あと一歩踏み込んでいたら大変なことになっていたかもしれない……というピンチに、遭ってしまったのだ。 その「ピンチ」に遭う前日、ドイツのデュッセ

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オランダの旅でミッフィーが気づかせてくれた、「ぬい撮り」の面白さ

何年前かの春、山梨へ桜を見に行ったときのことだ。 美しく咲き誇る桜にカメラを向けていると、少し離れたところで、可愛いクマのぬいぐるみを手にして、桜をバックに写真を撮っている若い女性がいた。 彼女はいわゆる、「ぬい撮り」をしていたのだ。 すると、その光景を不思議そうに見ていた中年の女性が、小馬鹿にしたような口調で言った。 「いい大人がぬいぐるみで写真撮ってるなんてねぇ……」 それを横で聞いていた僕は、その若い女性に聞こえてしまうような声で言う無神経さに腹を立てたが、内

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#手紙小説

フトした事からはじまる もう出会うことのない貴方へ 手紙のような小説 珠玉の一編をお届けします #手紙小説・メンバーで運営中

3 本

東京スカパラダイスオーケストラ35周年。ドラマー・青木達之との1982年を思い出す。

本記事は5/23 WEB婦人公論に掲載されたものを許可を得て転記してます。 東京スカパラダイスオーケストラ35周年。ドラマー・青木達之との1982年を思い出す―友よ静かに眠れ。あの蒼い空でまた会おう スカパラ35周年と青木が亡くなって25年2024年4月、NHK『朝イチ』からは、東京スカパラダイスオーケストラが35周年を迎えたことが流れていました。朝の時間帯には似つかない華やかな演奏の後、メンバーのエピソードが語られている。もう35年ということは、君が亡くなってから25年

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14年前、真夜中の香港で助けてくれた、あなたへ

お元気にしていますか? ……と書いても、あなたは僕のことを、もう覚えていないかもしれません。 旅人が出会いを忘れられなくても、その人にとっては、旅人のことなんてすぐに忘れてしまうはずですから。 でも、僕にとって、あなたは今でも忘れることのできない存在で、あの日ちゃんと言えなかったお礼の言葉を、この手紙という形で、どうしてもお伝えしたいのです。 あれは14年前、香港の夜でした。 その冬の夜、僕は香港の中心部にある、重慶大厦のゲストハウスに泊まっていました。 あの頃の

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1990年の桜坂 #手紙小説

転職や副業がフツーになった現代では想像できないかもしれないけれど、当時は入社が同期というだけで不思議な連帯感がありました。困った時に助け合い、嬉しいときに喜びあう関係。振り返れば、内定者のうちのあの十数名は特別な人間関係だった気がします。一芸で入社したあの仲間たちは、人間味に溢れていて、勘も鋭くて、会えば話題に事欠かなかった。その中でも忘れられないあなたへ手紙をおくります。 #手紙小説 ・・・フトしたきっかけで思い出したあなたへ届くといい手紙のような小説。 お元気ですか?

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