沢木耕太郎さんからのクリスマスプレゼントと、新たな旅立ち
昨年、2023年のクリスマスイブのことだった。
……と書くと、素敵な恋物語でも始まりそうな気がするけれど、とくにロマンティックではない、だけどちょっと嬉しい出来事があったのだ。
というのは、僕のささやかな旅の話を、憧れの人に伝えることができたからだ。
それは、あの沢木耕太郎さんだった。
沢木耕太郎さんは、毎年クリスマスイブに、J-WAVEで放送されるラジオ番組で、一夜限りのナビゲーターを務めている。
聖夜の3時間、沢木さんがリスナーに向けて、その1年の旅のエピソードや著書の秘話などを語るのだ。
番組の中では、ときにリスナーから届いたメールも読まれる。
毎年メールを送るのが恒例になっている僕は、今回も何か書いて、沢木さんに送ってみることにした。
さて、何を書こう?
南アフリカやウズベキスタン、イギリスの旅の話、日々の仕事の話、日常の小さな発見の話、最近読んだ沢木さんの本の話……。
いろいろ迷った末に、その年の最初に行った、ハワイの旅の話を書いてみることにした。
沢木さんが「1番好き」と語るハワイへ旅に出たこと、アラワイ運河の近くに泊まったこと、そして沢木さんのように、ハワイ大学の図書館で本を広げたこと……。
深夜0時に番組が始まると、美しい音楽を合間に入れながら、沢木さんはいつもの温かな声で、著書の『天路の旅人』の話やマカオへの旅の話などを語った。
この番組の良さは、あの『深夜特急』のように、沢木さんの語りによって、リスナーを心地良いどこかへと連れて行ってくれるところだ。
その夜の沢木さんの語りも、楽しくなったりしんみりしたり、聴いているだけで心安らぐものだった。
やがて2時を過ぎた頃、沢木さんがふっと、僕のラジオネームを読み上げた。
そして、僕の送ったメールを、なぜだか面白そうに、でも丁寧に読んでくれたのだ。
嬉しかったのは、それだけではなかった。
沢木さんはメールを読むと、僕がハワイ大学の図書館で、「もしかしたら沢木さんも、この席に座って本を読んでいたのではないだろうか……」と思ったことについて、こう言ってくれたのだ。
「きっと、その席だと思う」
どうやら、あのハワイ大学の図書館で座ったのは、沢木さんと同じ席だったらしい……。
その一言に、ちょっとドキドキしながら、思わず心が温まった。
さらに沢木さんは、ハワイの話を引き継ぐように、かつて建築家の磯崎新さんとハワイを訪れたときのエピソードを語った。
いまでも沢木さんにとって、ハワイは忘れられない、大切な旅先らしい。
その話を聴きながら、僕は思っていた。
1年の最初に行った、ハワイの旅のエピソードを、1年の最後のクリスマスに、憧れの沢木さんへ伝えることができた……。
きっとこれが、この1年、旅をして、旅を書いて、その最後に受け取ることができた、思いがけないクリスマスプレゼントだったんだな、と。
今年、2024年の旅は、ハワイ……ではなく、ベトナムのハノイから始める予定だ。
そして今年も、旅をするだけでなく、その旅を書いていきたい、と思っている。
もちろん、旅を書いたところで、誰にも届かないこともあるかもしれない。
でも、ときに、それを誰かが受け取ってくれたときは、やっぱり嬉しい。
あのクリスマスイブ、沢木耕太郎さんに届いたように、今年もどこかで、誰かの心に届くような、旅の文章を書いていきたい。
今年の抱負……なんてものがあるとしたら、たぶん、それしかないのだ。
旅の素晴らしさを、これからも伝えていきたいと思っています。記事のシェアや、フォローもお待ちしております。スキを頂けるだけでも嬉しいです!