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大丈夫、明日は晴れる

会いにいくのはいつもわたしからだったように思う。

学生のときからずっと付き合っている人がいた。

しかし、これほど長く付き合っておいて何だけど、とにかく彼とは気があわなかった。

どう合わないのか分からないけど、とにかく合わないことだけははっきり分かるという不快さが常にあった。

身近な人でもほとんど気づかないが、わたしはけっこう飽きっぽい。

だから、その不快さの原因というか、もとを探りたくて、付き合い続けていたようなものだった。

飽きっぽいくせに、我ながら被虐性がすごい。

でも、それも今日で終わりだ。

わたしが、終わらせるんだ。

目の前の彼に、この清々しさと嬉しさはわからないだろう。

わたしが淀みなく話せる理由も、ずっと笑顔で話している理由すらも、彼は理解できないようだ。

そうですか、分かってるなら、話が早いです。

でも分かってるとしても話しますね。

ああ、またその話。

浮気だとかなんとかこのあいだからずっとうるさいですね。

何を話そうが、あなたはあなたの思うところしか信じないんでしょう。

何も無いものは無いんだから、話しようもないですし。

…え?いまさら何を言っているんですか?

そうですね、そこはわたしの伝え方がへたくそでした。

でも、わたしは最初からずっとそんなこと望んでなかったですよ。

あ、その手段は効き目ないです。

だって身体がなんの反応もしないので。

…はい。そうです。お別れです。

外へ出た。

着いた時点で薄暗かったが、わたしの首尾が悪かったせいですっかり夜も深くなっている。

お互いみじめになるだけなのに、彼はわざわざわたしを見送るようだ。

話したいことばが、もう一言も出てこない。

微妙に遠い街明かりのおかげで、空が、白、薄墨、濃紺、黒のグラデーションになっている。

そこに大きなかたまりになった雲がいくつか流れている。

蒸し暑くて、少し雨が降ってきた。

そこら中の蛙がよろこんでいる。

ああ夏だなあ、と思った。

会いにいくために、電車に乗った。

バスに乗った。

あなたが飛行機で来たこともあった。

よく歩いた。

そしてわたしはこれから車でひとり、家路に着く。

1時間のドライブ。

その約四分の一の時間、わたしはよくわからないまま泣いて、そのあとは空腹と眠気にあらがいながら走るのだ。

道も半ばを過ぎると、小雨はやむ。

そして、水滴のついたガラス越しに、まだギリギリ暗い、雲が去った西の空が見えるのだ。

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