昧爽

カーテンの隙間から光が差しこむこともない、薄暗い町にそうっと飛び出す。

靴の紐を左足から順番に、きゅっと結び直す。毎日のことだけれど、かじかんだ手にハアッと白い息をかける。

寒さで縮こまった身体をほぐすように、その場で何度かジャンプした後、小さな歩幅で走り出す。
あの曲がり角までは、慎重に。
曲がり角を過ぎたら、溜めていた力を調節しながら加速する。

頭の中が暗く冷たい空気でいっぱいになるころには、自然と身体が動き出していく。
リズミカルな呼吸を止めてしまわないように。

犬の散歩をしているおばあちゃんとすれ違う。
ふっふっ、と息を弾ませて見慣れた町を抜ける。

町の隙間から光が溢れ出して、どこかで日の出を告げる鳥の声。

坂道を登り切ったところで、大きく一回息を吐く。

少しずつ朝の気配を匂わせ始める町に背を向けて、呼吸を整えた僕は、また走り出す。

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