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夏の明け方

中二の夏休み、友達(女)と午前3時に待ち合わせするのが日課だった。
なにがきっかけだったのかも、待ち合わせてなにをしていたのかも記憶にない。
待ち合わせ場所にしていた橋に自転車で駆けつけ、その子と会えた瞬間だけしか覚えていない。
明け方になるまでどうでもいい話をしていたんだろう、たぶん。

とはいえ、寝ても寝ても寝たりない10代の子どものことだ。
ある晩、家を抜け出すためにセットしていた目覚ましが鳴ってもまったく気づかず、鳴り続ける音を聞きつけてきた母親に怒られ(うすうす気づいていたらしい)、密会(?)はやめることになった。

わたしが寝坊して行けなかった日、友達は変な男に追いかけられ、自転車で全速力で逃げて事なきを得たらしい。
一人じゃなかったら逃げ切れなかったかもと言っていたので、足手まといにならなくてよかったっす。

高校や大学に上がると、わたしはやはり夏休みに夜中から明け方の街を自転車で走るようになった。今度はひとりだ。

昼間に比べたらいくぶん涼しい風と、やけに響く自動販売機のブーンという音、虚しいくらいだれもなにも照らさない外灯に、遠くに聞こえる新聞配達のバイクの音。
昼間とはまったく違う空気をまとった街を自転車であてどもなく走りながら、夜明けとともに家に帰った。

先だって、明け方に猛烈にのどが渇いたことがあった。なぜか、普段飲まない清涼飲料水が無性に飲みたくて、マンションの斜め前にある自動販売機に行こうと、外に出た。

そうそう、この風とこの自販機の音とこの外灯が懐かしい。
なんとも言いようのない、夏の夜明けの空気。
もうすっかりオバサンだけど、友と過ごした夏の夜明けも、ひとりで過ごした夏の夜明けも、わたしはあのときと同じようにそれを感じている。

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