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おりたらあかんの読書ログ

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年間100冊を15年間続けてきました。でも、本当に知らないことばかり!というかアウトプットがまだ少ないなあと感じています。過去に読んだ本は「読書ログ」としてまとめてきたので、それ…
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2022年3月の記事一覧

「変身」 カフカ 新潮文庫

「変身」 カフカ 新潮文庫

大学時代に読んでお蔵入りしていたものを引っ張り出して読んでみた。

はっきりいってこの作品は一般向けとは言いがたい。メッセージがあまりに哲学的で陰鬱なのだ。まあ異邦人(ユダヤ人)の家庭に生まれ育ったことからくる疎外感や不信感といったものも相当影響していると思うが。

この「変身」は実に奇妙な設定になっている。 

主人公ザムザはある日起きると奇怪な虫に変身してしまい、周囲の信頼も愛情もすべて失って

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土田宏「アメリカ1968 混乱・変革・分裂」中央公論社

土田宏「アメリカ1968 混乱・変革・分裂」中央公論社

第二次大戦後、南北に分裂した内紛にフランスにかわってアメリカは介入した。ジュネーブ条約によって1956年に統一選挙をするはずだったのに、アメリカは南ベトナムにこれを放棄させた。アメリカが積極関与した理由で大きいものは「ドミノ理論」。共産圏の拡大を防いで世界の覇権をアメリカが保たなければならないというものだ。アイゼンハワー・ケネディは「軍事顧問団」という名目の軍力をベトナムに送り関与を深める。南ベト

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バオ・ニン「戦争の悲しみ」めるくまーる

バオ・ニン「戦争の悲しみ」めるくまーる

ベトナム戦争に関連した文学作品としては「トゥイーの日記」以来の本だった。この本は小田実の「われ=われの旅」という本で紹介されていて手に取った。ベトナムでは戦後この戦争について「栄光の戦争」という政治的な立場から、自由な発言や出版は許容されない状況だったが、ドイモイによって自信をつけ、その社会的な空気の中で、ベトナム戦士だったバオ・ニンが、当時の闇を抉るような作品を書き下ろしたわけだ。この作品はベト

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ジョージ・マクドナルド「リリス」ちくま文庫

ジョージ・マクドナルド「リリス」ちくま文庫

あのルイス・キャロルをして「物語を語る天才の中で最大のもの」と言わしめたG・マクドナルドの普及の名作。1895年に書かれたファンタジーの古典。ファンタジーなんて絶対手にしない俺だが、姉貴から薦められたらやっぱ気になって・・結局読み切った。
これはただのファンタジーじゃないなって思った。何せ聖書の記述がかなり濃厚に絡み合ってくるし、このリリスってのが「ララバイ(子守唄)」に関係があるのには、少々戦慄

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平井敏晴著 岡本敏子監修「岡本太郎が愛した韓国」アドニス書房

平井敏晴著 岡本敏子監修「岡本太郎が愛した韓国」アドニス書房

1964年11月、俺が生まれた年に岡本太郎は韓国に初めて訪れている。
当時の韓国といえば一般家庭に電気の供給が行き届かないほど困窮し北朝鮮よりも貧しかったころだ。当時のイメージとしては、今の北朝鮮をみつめるような視線だった。しかし、岡本太郎の人間的な肉眼は韓国文化の真髄を見事に見抜いていた。
「ここは人間の本来的生き方のふるさとなのだ」
「貧困、そして苦しい闘いは必ずしも暗さではない。そんな生活の

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「ヘッセの読書術」 V・ミヒュルス編 岡田朝雄訳 草思社

「ヘッセの読書術」 V・ミヒュルス編 岡田朝雄訳 草思社

この本はまず装丁に惹かれた。なおかつ懐かしい気持ちもあいまって手にとってしまった感じだ。(以下抜粋・まとめ)

流行を追うあさはかな読書からは得るものが少ない。一人のあるいは一時代の作品を突き詰めてしかも何回も何回も読み返す様な読書が本物の教養を生み出す。これは一流の作家が書いたものに限られる。

一冊の本に何らかの点で魅了され、その本の著者を知り、理解し始め、その著者とつながりを持った者はその時

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堀田善衛「戦後エッセイ選 堀田善衛集」影書房

堀田善衛「戦後エッセイ選 堀田善衛集」影書房

「ゴヤ」「路上の人」「時間」等、独歩的な視点で他を圧倒する小説家、堀田善衛のエッセイ。彼のメッセージは深く重い。本著を通して彼に影響を及ぼした人についても知ることができた。彼をして「スペインの怪物」と言わしめたゴヤは有名だが、魯迅が出てきたことは新鮮な発見だった。上海郊外にある墓地にある魯迅のお墓のタイルに魯迅の写真の眼が残っていたのを見て彼は打ちのめされる。
・魯迅の眼
「心の底まで滲み入るよう

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伊藤千尋「凛としたアジア」新日本出版社

伊藤千尋「凛としたアジア」新日本出版社

「凛とした」と聞くと、すぐに茨木のり子が浮かぶのだが、ここで取り上げられた国は韓国、ベトナム、フィリピン、スリランカの4カ国。韓国とベトナムはかかわりが深いのですぐにピンときたが、フィリピンとスリランカは意外だった。それだけ俺がまだアジアを知らないということの証左だ。
ドイツ政治週刊誌「シュピーゲル」の元東京支局長であるヴィーラント・ワーグナー氏はこう言っている「昔の日本は前向きだった、今はあらゆ

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堀田善衛「路上の人」徳間書店

堀田善衛「路上の人」徳間書店

富山県伏木出身、「ゴヤ」という名作をもつ堀田氏による異色の作品。舞台は13世紀のヨーロッパ、イベリア半島とピレネー山脈あたり。主人公の浮浪人「路上のヨナ」は学はないが、多言語に通じ、必要な教養は耳学問で修めている。彼が観察する世界は堀田氏の視点であり、現代の私たちにも通じるものがある。ヨナが仕えたフランシスコ派の学僧セギリウスの真摯な姿勢に俺はいろいろと重ねるものがあった。ヨナは威張るだけで教養の

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小田亮「利他学」新潮新書

小田亮「利他学」新潮新書

おもしろいアプローチだ。著者は人間社会がなぜ「利他性」を尊重するのかについて、遺伝学・生物学・人類学的な視点から論を展開している。「利他性」は進化論的な視点から見ると「適者生存」と深い関係にある。適者生存においてDNAに記録されるファクターとなる物理的条件(=ニッチ)として血縁集団、それを超えた社会集団を形成するには「互恵的利他行動」「利他主義のニッチ」が必要だった。この「互恵的利他行動」「利他主

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外尾悦郎「ガウディの伝言」光文社文庫

外尾悦郎「ガウディの伝言」光文社文庫

ガウディに関してはサグラダ・ファミリア大聖堂の設計をしたこと以外、ほとんど知るところがなかった。「創造」「アート」をテーマに本を物色していてたまたま見つけた一冊。いやこんなところにも凄い日本人がいた。
なんとこの大聖堂の中でも重要な生誕の門を外尾氏が作成し、世界遺産認定をうけている。。設計図のない造形物を、周辺の資料から考えに考え抜いてイメージし、ガウディの想いを石の中から浮かびあがらせるというと

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高崎宗司「朝鮮の土となった日本人」草風館

高崎宗司「朝鮮の土となった日本人」草風館

県民カレッジの講座で日韓交流に貢献した人物を紹介する内容があって調べてたら、新しい発見があった。日本が朝鮮を植民地支配していた当時、朝鮮の陶磁器の美に感銘し、朝鮮民族博物館を設立した柳宗悦については知っていたが、その柳宗悦をして開眼にいたらせた人物がいたのだ。浅川巧。名前は知っていた。だが「朝鮮の膳」を書いた人物である程度で、漠然としたことしかわからなかった。彼は朝鮮総督府の林業試験所の職員でしか

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법정스님「산에는 꽃이 피네」 동쪽나라法頂「山には花が咲いている」東方の国(出版)

법정스님「산에는 꽃이 피네」 동쪽나라法頂「山には花が咲いている」東方の国(出版)

私が敬愛する法頂!この方は高僧であるが、山の奥で電気もガスもない生活をしながらこのエッセイを書いた。
「物を所有することによって、その物に所有される」という法頂節がここでも随所に見られるのだが、最後のところでパピヨンの話が出ていたのが興味深かった。そう俺が大好きな映画「パピヨン」希望を失わず最後まで脱出に命をかける男の話。失望、挫折に屈しない生き方、これは俺の人生観に直結する。この本ではあまりに多

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草野妙子「アリランの歌」白水社

草野妙子「アリランの歌」白水社

アリランは峠の名前ではない。アリランとは韓国人の心の中にある峠である。著者は民俗音楽学者として世界中の伝統音楽に精通しており、中央アジア音楽との関連も指摘してあり興味深かった。特に市場を中心としたエネルギーの共有が音楽に及ぼした影響について言及があった点は共鳴できる。
半島という地理的運命はエネルギッシュな民族性を育み、韓国独特の「カラ(ク)」=創造的な音階と旋法を産み出した。その最たるものがパン

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