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ジョージ・マクドナルド「リリス」ちくま文庫

あのルイス・キャロルをして「物語を語る天才の中で最大のもの」と言わしめたG・マクドナルドの普及の名作。1895年に書かれたファンタジーの古典。ファンタジーなんて絶対手にしない俺だが、姉貴から薦められたらやっぱ気になって・・結局読み切った。
これはただのファンタジーじゃないなって思った。何せ聖書の記述がかなり濃厚に絡み合ってくるし、このリリスってのが「ララバイ(子守唄)」に関係があるのには、少々戦慄を覚えた。リリスは聖書でいうアダムとイブが一緒になる前にアダムと一緒になるはずだった天使だというのだ。この天使は悪事を働き、パラダイスを追い出され、以来アダムとイブの子孫をことごとく妬み、生まれてくる子供たちに呪いをかけてきた。だからユダヤ社会では子供たちに「ララバイ!」といって寝かしつけていた。この意味はヘブライ語で「リリスよ、去れ!」の意味なのだそうだ。この物語では主人公が古来
伝わる屋敷の図書館で読書にふけっていたある日、不思議な老人をみかけ、その老人との出会いから「別の世界」を知ることになり、その世界で君臨する魔女「リリス」に出会い、そのリリスの長年の恨みと憎悪を懺悔の道へと導くために姿を変えて登場するアダム・イブ・マクダラのマリアなどの力をもって戦い抜いていく物語なのだが、実にリアルで圧倒される。
俺が感じたメッセージは「私」は、実は「私」について何も知らない!ということだ。つまりこの世で理解している自分や世界は実はほんの一部でしかないということ。人間の観念なんて実に狭くて真理ではない、ってこと。確かにそうかもしれない。もし、あの世ってやつが紙一重のようにすぐ後ろにあるとしたら、この世の常識なんてのはとるに足りないものなのだ。こういう考えをしてみるのも面白い。どちらにせよ。この500ページにわたる作品はことばの一つ一つが宝石のように輝いている。すばらしい古典に出会った。

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