見出し画像

伊藤千尋「凛としたアジア」新日本出版社


「凛とした」と聞くと、すぐに茨木のり子が浮かぶのだが、ここで取り上げられた国は韓国、ベトナム、フィリピン、スリランカの4カ国。韓国とベトナムはかかわりが深いのですぐにピンときたが、フィリピンとスリランカは意外だった。それだけ俺がまだアジアを知らないということの証左だ。
ドイツ政治週刊誌「シュピーゲル」の元東京支局長であるヴィーラント・ワーグナー氏はこう言っている「昔の日本は前向きだった、今はあらゆる面で後退してしまった。今アジアと和解のための努力をしていない」そう、和解どころか「日本アゲ」にこだわり、「アジアから学ぶ」という視点は抜け落ちている。視野がどんどん狭くなっている。そんな日本人に是非読んでほしい一冊だ。各国別に整理しておきたい。

韓国について
韓国は言うまでもなく「民衆の力」がみなぎる国・・。それは13年間住んでいたから肌感覚としてわかる。李承晩然り、朴槿恵然り、民衆デモの大きなうねりで打ち倒している。日本からは異様な視線で見つめている人も多いが、それは日本が「アメリカが作った民主主義」という水槽の中に今もいるからだと僕は思う。60年代安保で動いたかに思えた民主主義の獲得はその後、きれいに立ち消えた。日本でデモはネガテイブなものになってしまった。韓国ではデモは「大衆の堂々たる権威であり、民主主義は勝ち取るもの!」という意識が強い。韓国の現代史の中で1980年の光州事件、そして1987年民主化闘争、そして2016年の朴槿恵大統領弾劾は注目すべき事柄であるが、俺はそれ以上に注目していることがある。それは「ハンギョレ新聞」の存在だ。この本で詳細に書かれていたが、この新聞社の株主は国民だ。大企業がスポンサーになっていない。民主化運動でクビになった記者達が自分の財産と、国民からあつめた寄付で立ち上げた「民衆主体のメデイア」なのだ。しかも全国紙の一角をしめるに至っている。日本にそんな全国紙はない。この新聞が意味するところは「タブーを破るメデイア」「政府や株主の顔色を窺わないメデイア」が存在するということだ。この新聞社についてはまた別途紹介したい。
韓国というとすぐ「反日」と言って嫌悪を抱く日本人は多いと思う。まあ、メデイアやジャンク本、SNSの影響は大だろうけど・・。でも俺が感じたのは「知らなすぎる」ということ。イメージが先行して思考が停止していしまっているのだ。本著で紹介されている済州島の事に少し触れておきたい。済州島は歴史的にみると日本でいう沖縄に近い。いわゆる「捨て石」になった地域だ。普段は新婚旅行やバカンスのメッカだったりするのだが、その歴史は重い。
第2次大戦時はこの島全体が日本軍7500人によって要塞化され、32㎞の地下壕を作るために「日を2年間見られない生活」を島民に強いた。また、戦後も今度は李承晩政権と米軍によって「赤狩り」の舞台としてジェノサイドを受けた地でもある。しかもそういった史実が日本でも、韓国でも明るみになることなく、現代にいたっている。韓国では金大中大統領以降にやっとこういう史実が明白にされたが、まだ十分ではないし、日本でその史実を知る人など皆無に等しい。しかし、島民は「済州島世界平和島記念館」を築いた。「日本人を恨まず、一緒に平和な世の中を作りたい」がスローガンだ。この島民の意思を前に「お前ら反日だな」なんていえるだろうか。本当に恥ずかしいことだと思う。詳しくは本著にゆだねたい

ベトナムについて
30歳以下の人口比率60%!まさに「これから発展する国」の一つ。俺もすでに10回以上行っているし関わったベトナム人は300人超。いろいろと感じることがある。
本著では日本人を含む3名の人物を紹介している。
1人目 グエンティ・ビン
いわずと知れた「べトコンの女王」。ベトナム戦争後のパリ講和会議の席にアオザイを着て颯爽と、まさに凛とした姿を見せたのがこの人。今は枯葉剤被害者の会の名誉会長だ。今も「休まず努力」「平坦であったことは一度もない」という人生を全うし続けている。ベトナム戦争当時、アメリカのB52戦闘機を地上から撃ち落し、大柄な米軍兵士を小柄なべトナム女性が銃をもって連行している姿は有名だが、その戦士は今もベトナム戦争の負の遺産と正面から戦っている。頭が下がる。
2人目 ザップ将軍
ホーチミンの右腕としてベトナムを勝利に導いた伝説の人物。「森が軍事学校だ」というポリシーをもって独学で戦略を作り、B52を撃ち落とす砲撃術も作り出した。かつて完全優位だった中国の軍事顧問に対して一歩も引かずNOをたたきつけたことでも有名。
本著で日本との対比で印象的だったことばを引用したい。
「ベトナムは米軍に勝ち、日本は負けた。ベトナムは人民を守り、日本は国体を守った」
3人目 横井久美子さん
正直知らなかった。なんと有名はホーチミンの戦争戦跡博物館にこの人のコーナーがあるらしい。3回も行っているのに気づかなかった^^!日本のジョンエバンズとも呼ばれるらしく昨年亡くなっているが、ベトナム戦争中、相模原補給廠からベトナムへの戦車輸送を止めた日本の労働者の闘いの歌を歌い、ベトナム政府から感謝状をもらっている人だった。
「さがみはらの歌」といえばその世代の人々を知っているとのこと・・。日本は当時、米軍側で北爆に全面協力しているが、民間ではベトナムに尽くした人も多い。忘れてはいけないと思う。
ベトナムがドイモイ政策で経済発展し、その後最も投資したのは教育である。小学校から高校まで95%進学し、その費用はすべて国費!若者の力が国を支えている。
自立と活力で国を発展させていく姿に学ぶ点はたくさんある。

フィリピンについて
フィリピンも以前日本軍の統治下で悲劇の歴史を抱えている国だ。フィリピンのイメージは最近英語の留学先とか犯罪とかだったりするのだが、本著ではその市民力について紹介されている。なんと日本が未だに日米地位協定を1ミリも動かせないのに対し、フィリピンは国会で比米安保条約の見直しを決議し、米軍基地を国土から撤去させている。これは驚きだった。この撤去に伴って基地労働者の雇用などが大きな課題だったが、NGO「プラダ基金」を中心になんと基地移転前の1.5倍の雇用を生み出したとのこと。これは沖縄の基地問題のテキストになるような話だと思った。
また原発についてもいち早く三菱などの協力で地熱発電にスイッチし、なんと世界第2位の地熱発電国家になっていた。日本は利権が絡みすぎて身動きがとれないまま、化石化してしまっているだけに、何ともうらやましい印象だ。
この国の特徴は「市民力が国を動かしている」ということ。女性の為のNPO「KIRUS」など、主体的な取り組みが秀でている。

スリランカ
この国は戦後、サンフランシスコ講和会議で多くの国が日本への厳しい態度を貫く中、
「憎しみは憎しみでなく、愛によって消える」と日本を擁護し、その態度を軟化させたことでも有名だが、教育先進国でもあった。
あの「モンテッソリ教育」の発祥地なのだ!イタリア人のモンテッソリがスリランカで普及させたそうな・・。その影響でか教育と医療は無料!健康生存率は世界一!
どおりてみんな生き生きとしているわけだ(4年前に訪問)。

本著の最後に名言が示されていた。

「足元を掘れ!そこに泉がある」

学ぶべきはアジア・・・俺もそう思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?