見出し画像

小田亮「利他学」新潮新書

おもしろいアプローチだ。著者は人間社会がなぜ「利他性」を尊重するのかについて、遺伝学・生物学・人類学的な視点から論を展開している。「利他性」は進化論的な視点から見ると「適者生存」と深い関係にある。適者生存においてDNAに記録されるファクターとなる物理的条件(=ニッチ)として血縁集団、それを超えた社会集団を形成するには「互恵的利他行動」「利他主義のニッチ」が必要だった。この「互恵的利他行動」「利他主義のニッチ」は動物の世界にも存在するが、人間世界において顕著である。その要因として「友情」「同情」「嫉妬」「罪悪感」「記憶」といった人間特有の感情、社会を形づける道徳律の存在を示している。この「利他性」は親子だけでなく教育といった職業に必要な属性である。面白いのはこの「利他的行動」をほとんどの人間が「快」と感じ、脳の働きにも肯定的な作用をもたらすということだ。この「利他性」はビジネスシーンでも応用できる。例えば、ぺナルティなどの「恐怖」で操作するよりも、「利他性」「互恵性」によってモチベーションを高めれば生産性はあがるというわけだ。これは同感だ。


<メモ>
・利他行動の定義;自分が損をして相手を助ける、つまり自分の適応度を下げて相手の適応度を上げる行動。
・「間接的互恵性」の故にこの利他行動は成立している。
・微笑みは相手の利他性の本質を知る重要なファクターだが、地域によって違いがある。日本は目で笑いを察知するが、アメリカは口で察知する。(だから顔文字にも差が出る)
・一日に消費するカロリーの20%は脳で消火される。
・「ニッチ」とはもともと壁龕(へきがん)という意味で、西洋建築にある彫像などを置く窪みのこと。生態学では「生態的地位」つまり種を生じさせている位置のことを意味する。
・人間がお互いを認識できる限度は150人が限界である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?