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「変身」 カフカ 新潮文庫

大学時代に読んでお蔵入りしていたものを引っ張り出して読んでみた。

はっきりいってこの作品は一般向けとは言いがたい。メッセージがあまりに哲学的で陰鬱なのだ。まあ異邦人(ユダヤ人)の家庭に生まれ育ったことからくる疎外感や不信感といったものも相当影響していると思うが。

この「変身」は実に奇妙な設定になっている。 

主人公ザムザはある日起きると奇怪な虫に変身してしまい、周囲の信頼も愛情もすべて失っていき、挙句の果てには父親に投げられたリンゴが原因で死に至るという物語。

この「変身」が何を意味するかは人によって全く違うだろうが俺は「人間の執着心」という比喩で捉えてみた。

描写の中でザムザが愛した机やテーブル、絵といったものが次々に捨てられ、家族の肉親に対する絆さえ捨て去られていく過程がリアルに描かれていたが、人間の「執着」の実像が実は虚栄であったり、実は土台のしっかりしたものではない可能性があることを一瞬垣間見た感じがする。

必ずあるはずの家、家具、愛用品、最終的には家族が目の前から一瞬にして消え去ったと仮定した世界・・・。もちろんそこに絶望という文字をあてがうのはたやすいことだが、まったく違う新しい世界があることもたしかだろう。

人間には恐ろしいほど「執着心」が存在する。この事実に気がつくのは、「喪失」した瞬間でしかないかもしれない。もちろん「喪失」は避けたい!しかし「執着」が人間を偏狭なところに追いやってるのも事実なのではないだろうか?そんな問いかけを俺は感じた。

カフカの意図と違っているかもしれないが、この短い小説で感じさせられた観点だった。

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