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バオ・ニン「戦争の悲しみ」めるくまーる

ベトナム戦争に関連した文学作品としては「トゥイーの日記」以来の本だった。この本は小田実の「われ=われの旅」という本で紹介されていて手に取った。ベトナムでは戦後この戦争について「栄光の戦争」という政治的な立場から、自由な発言や出版は許容されない状況だったが、ドイモイによって自信をつけ、その社会的な空気の中で、ベトナム戦士だったバオ・ニンが、当時の闇を抉るような作品を書き下ろしたわけだ。この作品はベトナム文学として最も広く翻訳された文学作品らしい。アメリカ人兵士の視線から書いたものとは全く違っていた。悲しみという幽玄な通奏低温が響いてくる。これ以上ないほどの修羅場を越え、修羅場という言葉が、まだ生易しいほどに残酷な現実を目の前に展開された主人公キエンと幼馴染で恋人のフォンの人生。思い出したくない戦時の狂乱、ズタズタに引き裂かれた二人を、まるで琴で奏でるように言の葉を紡いでいた。作者はフォンのセリフの中に強烈な皮肉と女性としての叫びを込めている。その一言一言がズドン!と来るのを感じた。この本は最初、図書館でかりたのだが、「トゥイーの日記」同様、購入した。手元に置くべき名作!また一つベトナムに対する思いが深くなっていくのを感じる。この本をきっかけに今また「ベトナム戦争」関連本を貪るように読んでいる。まだまだ知らないことが多い。

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