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邪道作家第八巻 人類未来を虐殺しろ!! 狂気を超える世界 分割版その5

新規用一巻横書き記事

テーマ 非人間讃歌

ジャンル 近未来社会風刺ミステリ(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)

縦書きファイル(グーグルプレイブックス対応・栞機能付き)全巻及びまとめ記事(推奨)

   7

 人間性など捨ててしまえ。
 何の役にも立たないぞ。私が言うんだ間違いない。人間性がなければ、どんな遠大な目的であれ追いかけることが出来る。そして、この世に存在さえしない嘘くさい詭弁よりも、実利を手にして適当に「自己満足」でき、それで満足できる。
 人生に意味など無い。
 人生に価値など無い。
 どちらも必要ない。要は、如何にリッチで快適な生活を送れるかどうか、だ。人と人との絆は尊いとお前等は言うが、そんなもの、飽きが来ればいらなくなるものだ。
 家族も。
 恋人も。
 友人も。
 全て、飽きるまでの暇つぶし。
 使い捨ての小道具よりも、その小道具を買い占める方が幾らか「現実的」だ。そうじゃないか? まぁ、同意は必要ないし求めてもいない。ただこの世界はそうだという「事実」を、頼まれてもいないのに突きつけているだけだ。
 目的意識、で思い出したが、私の作家としての最終目的は「聖書」を越えることだ。越える対象でしかない。世界一読まれていて、人間の方向性を大きく変えた書物、となると、そういった類の本、物語こそが出てくるだろう。
 無論対抗意識からではない。
 全人類の意識を変える、という尋常ならざる部分は認めざるを得ないが、正直言って面白くはないからな。宗教本としては最高位かもしれないが「物語」としては、正直これを越える存在は幾らでも有るだろう。
 それが「事実」だ。読まれていれば何でも凄い訳でもないしな。あくまで分かりやすい指標にすぎない。目的などそんなモノだ。
 とはいえ「目的」が低ければ、低いところですら越えるのに苦労するだろう。何事も世界一を圧倒するレベルまで、遙か彼方を見据えねばな。
 そうでなくては面白くない。
 その方が、面白い。
 そうでなくては、やりがいがあるまい。
 私にとってかの聖人は聖人ではなく、あくまでも「作家」なのかもしれない。面白くはないが、それだけ広めた手法は参考にするとしよう。
 無論。私は自分よりも売れている作家は嫌いなので、仲良く出来そうにはないが。きっと現実にそんな聖人が目の前にいたとしても、当人の胃を痛めるような嫌がらせをし、スーパーで買い物をする時に商品を根こそぎかすめ取り、家賃を払う気がないと大家に言いつけ、エアコンを破壊し、冷蔵庫を勝手に開けっぱなしにして肉を痛め、そしてそいつらの目の前ですき焼きを食べる事だろう。なんて、そんな実際にいたのかもわからない相手に、こんな事を考え得るのは無駄だがな。
 実際にいたかどうかも分からない人間の事を、大多数の人類が信じているのは、どうも奇妙な噺だ。実際、その聖人は遺体が確認されていない筈だしな。まぁ、当人からすれば死んだ後までこき使われるのは迷惑だろうが。
 何であれ、例えそれが世界最大の聖人であれ、所詮個人でしかない。だが、そうやって持ち上げる人間が多くいれば、虚実も本物になるのか。
 高尚な人間を崇めることで己も高尚になろう、なんて、私からすれば有名スポーツ選手を応援することで、自分がそのチームのスポンサー気取りに成るようなものだが。高尚な存在があったとして、それはそれだ。崇める人間が高尚になるわけではあるまい。
 個人は個人。
 人は人に影響しない。
 世の中そんなものだ。
 所詮この世は自己満足。誰一人として理解され無かろうが、誰一人として必要としなかろうが、誰一人として分かりあえなかろうが、どうでもいいのだ。要は、「己で己の道に満足する」ことが「生きる上での充足」なのだから。
 自己満足が出来れば、満足することを肯定してくれる他者など、必要ない。私は既に、そう出来上がっている。
 出来上がる、というのも違うのか。私は人として必要な部分を全て削ぎ落とすことで、生まれてしまった化け物だ。だからこそ、私は現状に非常に満足している。無論、貯金残高は別だが、それ以外は最高だ。
 人間性の無い世界。
 素晴らしい。清々しくも爽快だ。
 そんなモノを求めなくて良かった。私はつまらないモノに、人生を束縛されるのは御免だ。思うに人間というのは「人間性みたいなモノ」を維持することに躍起になって、結果己を殺して我慢して生きているように見える。
 家族とか恋人とか友人とか、全て言い訳だ。ただもっともらしい価値観が欲しいだけ。皆がそれを素晴らしいと崇めるから真似しているだけだ。 私と何ら変わらない。
 価値観など己で決めればいいのだ。己で決めてそれに満足できればいい。ただのそれだけだ。他に必要な何かなど、どこにも存在さえしない。
 価値観か。マリーとか言うこのレジスタンスの女は、どういう価値観を持っているのだろう?  私たちは今、二次元式収納タイプの、簡易宿泊施設を起動し、ぺらぺらの入り口から中に広がる簡単な宿泊施設内部で、休んでいる。
 便利なものだ。
 ふと思い立って女の部屋にノックをしてみたが返事はない。どうやら寝てしまったようだ。私の思惑も知らず、恐らくは部屋の中で暢気に寝こけているこの女、実験に使われた奴等を解放していたらしいが、まさか「正義の味方」のつもりなのだろうか?
 正義とは「権力」と「政治力」そしてそれらを動かす「軍事力」があって初めて、名乗れる存在だ。無論金もかかる。大量虐殺の口実は安いが、それを動かすとなると「命の重い」自国の兵士を動員しなければならない。金と手間と労力と、そういったあれこれがあって初めて「正義」だ。
 だから連中が博士の率いるミュータントを皆殺しにするか科学の力で支配し、標的の博士を社会的な生け贄にして、全ての責任を負わせ、その上で自国の実利、つまりはミュータント共を他国へ切り売りし、非合法な実験の場所としてこの惑星を提供し、金と軍事力を押さえれば、正義だ。
 善悪などどうでもいいがな。
 所詮各々の都合だ。どうでもいい。どうでも良くないのはこの女、見殺しにしてもいいのだが、売れば金になるであろう、という点だ。
 死体であってもそこそこの金になる。
 それは、ミュータント共からすれば、私自身にそのまま適応できるのだろうが。サムライは珍しいからな。狙われている自覚はある。
「その女、助けないのか?」
 コーヒーを入れて一服し、部屋に置いてあった椅子に座り込んだタイミングで、ジャックはそう聞いてきた。
「金になればな」 
 部屋の方向を見ながら私は言う。ぞっとするような冷徹な声で。冷淡に、冷静に、助けを求めてきたヒロインを、容赦なく。
 助けを求められたからって、助ける覚えもないだろう。そんな義理も義務もない。どうしてもと言うなら金次第だ。
「もしこれが物語なら、先生の立ち位置は間違いなく、その女を助け、囚人を解放し、未来に希望有る形で結末を迎えること、だろうぜ」
「知るか」
「つれないねぇ」
「当たり前だ。何故そんなありきたりの役割を、他でもない私がやらなければならない? そんな面倒な役割は、誰かに押しつければいい。私は最終的に実利を得られる立ち位置、否、役割を作り上げるまでさ」
 元々役割の無かった人間が、その「狂気」のみでここまで来た。が「足りない」のだ。黒幕的な立ち位置では、永遠に目的にたどり着けない。黒幕とは陰で暗躍し、策を巡らせ最後の最後、主人公に打破される存在だ。
 かといって・・・・・・ここでこの少女を助けることが私の利益になるかと言えば、否だ。そういう試みは既に終えている。因果応報、善行を積めば物語の流れを支配できるのではないか、という試みは、既に何度も失敗した。
 どうしたものか・・・・・・とりあえずミュータント共を生け捕りにし、「博士」の研究データを奪った上で、この少女を売りさばく。
 これがベストだ。
 売りさばく、というよりも、貴重な実験体として、おおよそアテのある幾つかの国に研究を持ちかけ、資金を出し合いながらその研究結果を分配することになるだろうが。
「それでいいのかい?」
「何が悪いんだ?」
「いや、まぁ先生に道徳なんてないか」
「無いな」
 噺が終わってしまった。何が言いたいのだ、こいつは。確かに私は既に結構な金を持っている。だがそれが手段を選ばず金を求めては行けない理由には、ならない。
「哀れな少女を助けようとか思わないのか?」
「思わないな。哀れだと? 下らん。哀れだからといって助ける理由など、本来どこにもない。ただ単に自分達の「善性」とでも言えばいいのか、「こういう状況でこういう善行を行えば良い人間であれる」という、行動原理でしかない。本来ならば、弱った奴は食い物にされ、踏みにじられ、殺される。そして、こちらからすれば「手間をかけずに殺せる獲物」は「幸運」としか言えまい」「理屈の上ではそうだがよ。それでも手と手を取り合うのが人間だろう?」
「馬鹿馬鹿しい」
 人間が手を取り合ったことなど一度もない。
 政治や経済、実利や資源、そういう背景から嫌々手を握ったフリをしてきただけだ。
「人間が手を取り合っていれば、とうの昔に、あらゆる願いは叶えられていただろうな。誰かが損をすれば誰かが笑顔になる。宇宙の基本概念だ。それを無視した奴は生き残らなかったし、信じた奴は現に上に立っている。人と人とが手を取り合う未来、など、「政治的にも経済的にも共通の的であり、滅ぼすことで利益を得られる他種族」でも出ない限りは無駄な話だ」
「宇宙人はいるんだろう?」
「いるらしいな、私はテレビを見ないので、最近まで知らなかったが。テクノロジー的にはそいつらに追いつき、滅ぼし奪うか、あるいは自分達よりも下の種族を作り上げ、それを支配することでしか、手を取り合うなど不可能だろう」
 人間とはそういうものだ。
 何かを見下し何かから奪い、何かより上に立っていなければ、劣等感で歩けない。
 人間でなくて、本当に良かった。
 なんて面倒臭い生き物なんだ。
 よくそれで生きられるな。
 恥という概念に限れば、人間にそれはないしな・・・・・・大抵の「人間」は、劣等感の克服で、人生そのものを終えてしまう。
 よく分からない奴等だ。
 少なくとも連中は、ミュータントを殺すことさえ「可哀想だ」などと、何の責任もなく改善案も自身が何をするつもりもなく、言うのだろうな。 ミュータントか人間かなど、敵味方の識別が簡単で殺しやすいのがミュータントで、識別しにくいのが人間だ。いや、そもそも武装している軍隊ならば、見た目で分かりそうなものだが、それすらも人間は偽装するからな。
 そして、死体を集めれば集めるほど、つまり殺せば殺すほど儲かるのがミュータントだ。俄然やる気が出てくるとしか、思うつもりもない。
「生きているだけで人間が人間を傷つけるならばせめて、金になる形にと思うのは当然だろう」
「それで、何の罪悪感もなく、それを実行できるのは、何故なんだ?」
 純粋な疑問のようだった。珍しい。人工知能のこいつに、そんな感覚があったとはな。
「何故も何も、私の生活に、こいつらの生き死にが関係有るか?」
「他者を全く労らない、というのも有る意味才能だな。人間には善意のセーフティネットがある。先生みたいな事を思いついても、実行できないようにな。それが」
「外れている、というよりも「最初から付いていない」というのが正解だろう。そのお陰でいらない苦労もしたが、だからこそ何の躊躇もなく、こんないたいけな少女であれ、踏みつぶして肥やしにすることに、罪悪感などない」
 それで罪悪感を感じるような奴が、作家などという非人類の代表みたいな事を、始めるわけがあるまい。
「先生は人間じゃ」
「無いのさ。変える必要も、無い。金が有ればそんな些細な問題は、着せ失せる」
 金が有れば生き方に関係なく、生活が出来る。 だから、人間性など無くても構わない。
 それが「事実」だ。
「自分の為だけに生きる人生が空しい、などというのは根本から間違っている。己の為だけだ。他でもないこの「私」の為に、他の全てを生け贄にして地獄にたたき落とすことが、爽快で楽しく無い訳がないだろう」
 世界は最高に面白い。
 私はそう言った。
「無論その為に善良なる市民が犠牲になったりするが、この「私」の充足感に比べれば、何人いるのか数えるのも面倒なその他大勢が、どうなるかなど些細なことだ。自分の為、自分の為、そして自分の為だ。おかげで金さえ付属すれば、だが・・・・・・面白くて面白くて仕方がない」
「神代の怪物も真っ青だな」
「構わんさ、たかが腕っ節が立つだけの怪物などいようがいまいが同じ事だ。そんな小物におびえられたところで、箔にもならんしな」
 強いだけ、怪物性があるだけ、あるいは人間でないだけでは、恐ろしいとはその他大勢のカス共が思うかも知れないが、きっと「悪」にはなり得ないのだ。
 その程度、人間にすら劣る。
 狂気だけが面白い。何もかも排し何もかも犠牲にし何もかも裏切られたところで・・・・・・狂ったように笑える災厄のような存在。
 だから面白いのだ。
 そうでなくては、つまるまい。
「嘘八百をあたかもあるかのうように書き、それを読者に売りつけ、税金のように読者共から搾取する。それが作家だ。騙すも奪うも当然だ」
 当たり前のことでしかない。
 作家とは、そういう生き物なのだから。
「酷いこと言うなあ、夢と希望を物語に見ているちびっ子が泣くぜ」
「夢も希望も、所詮紙上の嘘でしかない。そんなモノに価値はない、価値があると、そう思いこんでいるだけだ」
「思いこみ、信じることには意味があるだろう」「かもしれん、だが金にはならん」
 だから私は金を求めるのだ。この世にある全ての希望と全ての夢は、虚構と脚色で出来ている。 ならばそれを買うことの出来る「金」こそが、この世の真実ではないのか、なんてな。
 実利が有ればそれで良い。
 金こそが正義だ。
 少なくとも、私にとっては。
 そう思いこむだけの利用価値がある。
 山間部を抜け、我々は博士のいるであろう可能性の高い、都心中央部へと向かっていた。円のように周囲を森林と居住スペースが挟んでおり、我々はまだ居住スペースと森林の中間地点、丁度両者がいい具合に混ざっている部分で、休んでいるわけだ。
 女が休んでいる間にも、当然私はこの惑星の塵状況や、周囲の建物が使われているかどうか、二次元式簡易宿泊施設をこっそり抜け出して、調べ続けていた。先ほどようやくそれが終わり、こうして夜遅くにジャックとの情報共有をしているわけだ。
「どうも、おかしい。施設の作りもそうだが、まるでつい最近まで誰かが住んでいたようだ。ミュータント共が「徐々にさらわれて作られた」ならこんな状況にはならない」
「ウィルスを誰かがバラまいたとか?」
「かもしれん。だが、どうにも奇妙だ。そうだとしたら、やはりあの連中が野放しになっているのは「無自覚な研究対象」としての意味合いが強そうだな。大体が、都合良く自給可能なスペースを取られる、なんて考えづらい」
「当人たちの努力の結果だろう」
「努力の結果というのは、報われないものだ。それがレジスタンス、なんて気取っている連中なら尚更な。加えてあの連中にそこまでのカリスマ性のあるリーダーはいなかった。あの少女に関して言えば、ただ有能だから持ち上げられているだけだろう」
「確かにな。けれどさ、だとしたらここは、一体何の施設なんだ?」
「ミュータントを使って、何かしらの軍事データを取っていることだけは間違いない。後はおおっぴらに生き残らせた連中と戦争が出来て、それをデータとして取得できる。これだけでも結構なものだ。戦争をするのには金だけでなく口実も必要だ。ここではそれがない。法の外側にこういう施設を一度作ることが出来れば、人間を殺しても人間を解剖しても人間を作り上げても人間を量産しても人間を研究しても、誰も文句は言わない」
「見つかれば言う国は多いだろう」
「まぁな。だが、見つからないし、見つかれば誰か現場の人間の暴走だとでも言って、指摘される前に焼け野原にすればいい。私なら「核兵器の誤作動」とか言って、惑星ごと証拠を消すね」
「人間ってのは、どうもおっかねぇな」
 全くだ。とはいえ、実利を求めるとはそういう事なのだろう。役に立たない倫理観より、現実に何かを成し遂げる。それには犠牲が必要だ。それには当人の犠牲か誰かの犠牲か。それなら他人で有れば何も不都合はないと。そう押し進める人間が多いのは当然だろう。
 当たり前のことだ。
 人類史至上、珍しくもない。
 狂っている人間にとって、世界は普通に見えているものだ。ただ考え方と捉え方が違うだけで、他は一般人と何ら変わりはしない。
 人間を見て人間だなと思い、死体を見て死体だなと思い。ついでに言えばその死体や人間が、まぁどちらも似たようなものだが、それが金になるのかを見るのが、私だ。
 ミュータントと人間のハイブリット、だったか・・・・・・思想自体は分からなくもない。ちょっと数百人程度の人材を犠牲にするだけで、人類の新しい可能性、主に独占できる技術。欲しがって当然だろう。
 それを使って何をするのか?
 何が出来るだろう。とりあえずミュータントを培養し、人間を人工的に交配させ、後はそれを量産すれば、いや、ミュータントは突然変異に近い生き物だ。培養は難しい、とそうか。
 人間を交配させ、古い人間をミュータントにすればいいのではないか?
 恐らく、あのレジスタンス共以外の人間は、繁殖用として飼われているのだろう。それを増やしミュータントに変え、それと人間をさらに交配させ、新人類を量産する。
 素晴らしい。
 なんと合理的で革命的な考えだ。
 若干感動した。二秒でその感動は忘れたが。
「人工的に新人類を作ろうとしているとなると、中々見所のある人物のようだな」
「いや、どう考えても頭おかしい狂人だろ」
「馬鹿を言うな、何もおかしくないさ。人間だって豚とか牛とか鶏を、幾らでも人工的に増やしてばらばらに引き裂いて肉塊にし、それを美味しく食べているじゃないか。それに比べれば殺してはあまりないのだから「道徳的」さ」
「人間と家畜を一緒にするなよ」
「同じさ。「自分ではない」と言う点において、何ら変わらない。人間が残酷になれるのは、己の保身や己と関係ない存在だからだ。だから家畜は殺せるし、笑顔で食べられる。似たようなモノだ・・・・・・少なくとも「やっている事は結果同じ」だからな」
「人間も家畜もか?」
「ああ、何ら変わらない。同じ生き物じゃないか・・・・・・差別するなよ」
「差別というより、いや、しかしだな」
「変わらないさ。牛も豚も人間も鶏も、呼び方の違う生き物であり、そして生き物であるという点は同じだ。名前や生態が違うだけで生き物だ。それはただの「事実」だよ。人間だけを尊くしようなどと、自己満足の下らない偽善でしかない。豚や牛を殺すのも人間を殺すのも、等しく同じだ。「生物」を「殺す」と言う点では、否定する部分が見つけられまい」
「確かに、そうだけどさ」
 人間には意志があるじゃないか、と人工知能らしくもない弁明をジャックはするのだった。
「鶏にも牛にも豚にもあるさ。それを見ない振りしているだけだ。どうでもいいがな・・・・・・人間を養殖するのも同じだよ。魚を増やせるのに人間を増やすのは人道的に問題が、なんて、人間以外の命を軽くみているだけで、優しい訳でもない。それに法律的なことを言えば、ここにいる奴等はどこにも所属していない。何人死のうが何人殺そうが何人解体しようが、牛や豚や鶏と、同じ扱いをしても何の問題も無い」
「本気で言ってるのか?」
「事実だと言っているだけだ」
 それが事実だ。人間も牛も鶏も豚も変わるものか。心臓が三つも四つも有るわけではあるまい。蛸ならともかく、いや、それも数が違うだけで、生物であることには変わるまい。
 道徳だとか人道だとか叫んでいるだけで、別に人間が人間を増やしてはいけない、などというのは世間全体がそう言っているだけで、それに合わせているだけであって、そもそもが個々人の内から生まれた価値観ですらない。
 世間が良しと叫んでいれば、そいつらも諸手をあげて賛成したことだろう。詳しくは独裁政治について書かれている本を読むといい。
 世の中そんなものだ。
 何かを誰かに託すことが、生命のあるべき形だなどと、言い訳だ。一体人類が何を受け継ぎ、託し続けてきたかと言えば、治りそうもない社会問題だけではないか。
 何も後へ続かなくていい。
 それは作品がやってくれる。
 仮に作品が誰にも託されず、受け継がれなかったとしても知ったことか。「私」には関係がないからな。
 何かを生命のバトンで託す存在こそが「人間」だとすれば、私は人間でなくて良い。非人間でなければ己を優先できないならば、尚更な。
「古いモノは誰だって捨てるだろう? それのスケールが少しばかり大きいだけだ。人類も古くなってきているのだから、新しい何かに変えるのは有る意味、当然だろう」
「今まで培った文化や思想が有るじゃないか」
「文化や思想はデジタルで保存が可能だ。それを再現すればいいだけ、だ。心が伴わないだの何だのと、そんな存在しないモノであれこれ騒ぐよりは、全ての文化、思想、科学をパッケージ化してそれを保存し、「新人類」を改良し続け、新しい新人類が引き継げばいい」
「人間の発想じゃねぇよ、それ。つぅか、その場合旧人類はどうなる?」
「だから捨てればいい」
「そこに自分が入っていたら?」
「精々安楽死させてくれと頼むさ。まぁ、現実問題新人類がいようがいまいが、よくよく考えればその社会の中でも「必要とされる存在」である必要がある。人類がどれだけ進歩しようが、変わりの効かない存在になればいい」
「先生はそうなれる、と?」
「いいや、今と変わらないって噺だ。現段階で私の替えが効く人間は存在しないが、しかしそれが金にならなければ同じ事だ。だから人類がどれだけ進歩しようが、新人類が牛耳ろうが、やることは変わらないな。本を書き、それを売る。問題なのは現時点でも売れていないという点だが」
「つまり、先生には「人類の発展」は関係ない、というか蚊帳の外の噺なんだな」
「そうかもな。そして、蚊帳の外なら幾らでも適当な事を言えるということだ」
 実際、どうでもいいしな。
 他の人類が取って代わったところで、私には何の関係もない。どうでも良さ過ぎる。問題なのは他でもない私個人が、望む生活を送れるか? その一点に尽きるからだ。
 自分以外はどうでもいい。
 有る意味、当たり前のことだ。
 哀れな少女も社会全体の危機も、それを解決したところで私の寿命が延びるわけでも、私の懐が暖かくなるわけでもない。依頼は「博士」の殺害指令だ。そしてそれを「始末」する以外の事に、私が何かしてやる理由も動機も義務もない。
 何より金になるまい。
 誰だって、金も貰わないのに人の為に何かをすることなどありえまい。金は払わないが頼むことをやってくれ、なんて、俗っぽい物語のヒロインにはよく見られる傾向だが、馬鹿か。銃を突きつけて無理矢理言う事を聞かせるのと、道徳を振り回し助けるべきだと「脅迫」するのは「過程」も「結果」もまるで同じだ。
 脅迫材料が違うだけだ。
 有る意味、善人ぶった奴の方が、質は悪い。
 現実にはそういうことだ。
 とはいえ、それも問題が無い訳ではない。なまじ「上手くやってきた」人間などには良く見られる傾向だが、世の中の本質、否、事実を見ずともやってこられた人間に、人としての強さは皆無なのだ。皆無、そして絶無だ。
 何一つ己で考えず、決断せず、けれど「そこそこ有能」で、生きてこられただけの、人間。
 そこそこ有能というのは実に厄介だ。それなりに有能であるが故に挫折を知らず、それでいて己のことを小綺麗な人間だと思いこみ、そして何より「無知」だ。
 己の食生活すら管理できない。必要な栄養が何かも分からず、原価が硬貨の製造費より安い、インスタント食品を食べ、体を壊したと嘆く。
 一瞬だ。
 所詮、彼らは「幸運」にたまたま支えられてきただけの人間だ。だから「一瞬」幸運に見放されず生涯を終える奴も多くいるが、終える前に幸運に見放されれば、一瞬で終わる。
 彼らには何もないからだ。
 私のように「成し遂げた作品」も無く、「やり遂げたという実感」も無い。何もしてはいないからだ。当然だ。無論それでも金を持っていたりはするのだが、金の扱い方をまるで知らない。
 あんな奴等でもそれなりに幸運に支えられて楽しているというのは、いかにも不条理って感じはするのだが、しかしそんな彼らだからこそ、金を上手く使いこなせず、結局よく分からないモノに金をつぎ込むというのだから、良くできているのか何なのか・・・・・・あの女の手の平の上、ということなのか?
 だとしても、綺麗事は御免だ。
 作品が金にならなくて良い理由にも、なるまい・・・・・・是が非でも売らねば、何のために書いているのか分からない。思想や信条は確かにある。だがだからといって伝えて満足するほど、私は余裕のある「持つ側」にいないのでな。
 それも所詮、心の持ちようだとか言うのだろうが、しかし実際問題心の持ちようで金が増えることはないし、心なんて有るのかさえ責任は取れないし取るつもりもない。
 責任なんて「取っている用に見えれば」いいものだしな・・・・・・どうでもいいことだが。
 少なくとも私には、札束にまみれ女を侍らせ、それでいて余裕たっぷりの態度で「いやあ頭を使っただけですよ」なんて言われて納得できるほど人間をやっていない。
 どう考えても、不条理だ。
 そんなカス共がおいしい思いをしているのかと思うと、不満でならない。そしてそういう人間に限って大した信念も信条もなく、どころか狂気すらないままに、あっさりと金を手にする。
 忌々しい限りだ。それが芸術家だというのなら分かる。芸術なんて売れればそんなモノだ。物語とて、そういうモノだ。それなりのモノを作っていなければ生き残れない、というのは何かしら創造的、と言えば聞こえは良いが、要は何かしらの物語や、絵や音楽などの分野のみだ。
 幾らでも誤魔化しの効く「IT産業」などと違い、物語などまさにそうだが、「誤魔化し」が長くは続かないのだ。無論、突発的に売る人間は多いのだが、それだって何年も何十年も何百年も売り続けられるか? と考えれば、否だろう。
 私は何臆年先であろうが通じるよう書いている・・・・・・それは私の思想がそこにあるからだ。私の作品はどう考えたって「代わりが効かない」そりゃそうだろう。書いているのは私が何もないところから作り上げた、世界で唯一の物語だ。替えの効かせようが無い。
 金の力で効かせてやりたい所だが、流石に不可能だろう。ゴーストライターに同じ作風の作品を書けるとは、思えないしな。この「私」の思想が反映されていない時点で、噺に成らん。
 私のやる気は金で買えるがな。
 なに、一日たったの金塊五トンでいいぞ。
 安売りするつもりもない。
 逆に、替えが効くであろう産業ほど短期的に栄えて没落するよう出来ている。不思議だ、何か法則でもあるのだろうか・・・・・・作家としてはそういう「法則」こそを解き明かしたいモノだ。
 とにかく、替えが効く以上、人材の入れ替わりも激しいのだが、そんな事二秒考えを巡らせれば分かりそうな噺だが、不思議とそこで労働に身を窶す連中は、先述した人間性を持っているので、「真面目にやっていれば大丈夫」と、意味不明な根拠を持っていたりもする。
 真面目にやろうが不真面目にやろうが、替えの効く人間である以上、いらなくなったら捨てられるのは当然の筈だが、彼らは世の中の裏、というか「綺麗事以外」を知らないのだ。考えてみれば当たり前だ。綺麗事しか知らないのだから、知らない事には対応できまい。
 ここの連中も同じだろう。
 綺麗事しか知らない。
 だから、利用されていることに、気づかない。 少し考えれば自分達が実験に利用されていることくらい分かりそうなものだが、きっと彼らはこうして真面目にレジスタンス活動をしているのだから、いつか当然のようにそれが報われてしかるべきで、自分達の正当なる行いが認められ、それを周りが応援するのも当然、と思っている。
 一見すると同じに見えるが、根本が違う。
 私は己のやり遂げた事に対し、科学的な根拠が無くとも己を信じる。成し遂げた事は事実なのだから当然だが、作品の出来は世界一だ、金は払われて当然。これは何かを作った奴なら当然だ。
 彼らは、訴えが通ると思っており、そして今まで訴えるだけで意見が通ってきたりする人間だ。だから具体的な「行動」よりも以前、つまり試行の段階でやるべき事を、しないのだ。
 それで結果が出る方がどうかしている。結果がすべてというなら、まぁそういう人間の方が結果はでている気もするので、あながちまるで意味を持たないわけでもないのだろうが。
 だが、そんな事が生涯賭けて続く方が、稀だ。 今まで続いてきたことが奇跡なのだ。
 それを、考えずに生きている。
 少なくともこういう連中に、私が同類みたいに言われるのは、実に腹立たしい噺だ。ご大層な綺麗事や大義名分を貴様等が抱えている間、私はひたすら書き続けてきたのだ。文句があるなら私以上に、何かを作り上げて見せろ。
 そんな連中には無理だろうが。
 そういう意味では実にちぐはぐだ。成し得たところでそれが実利、金になるかどうかで悩んでいる私のような人間の横で「宝くじが当たった」と言われているようなものだ。これで何かに納得しろなどと、あの女も随分な無理を言うものだ。
 成功するかどうか、勝算があった訳ではない。作家業に明白な勝算などあり得ない。だが、それでも己の在り方を定義し、少しずつ成長し、前へ進み、作品を書き上げ、また作品を読み、そして書き、売るために頭を動かし、長い長い遠回りの結果崖に落ち、それでも這い上がり、それでも失敗を続けてきた。
 忌々しい限りだ。
 それで作品に説得力が出たところで、嬉しくもない・・・・・・説得力を持たせたいなら、それらしい情報をでっち上げてプレゼンすればいい。そうじゃない。金、金、金だ。所詮この世は自己満足かもしれないが、こうまで人生を賭けて手を尽くし策を尽くしそれでも売れない。
 頑張れば結果が出る事などありはしない。努力と結果は別物だ。信念は幸運に勝らない。だからこそ、私は、信念だとか努力だとか友情だとかそういう嘘臭いモノでなく、それらを越える力で、理不尽に打ち勝たなければならないのだ。
 それが可能なのは狂気だけだ。
 だからこそ、私は邪道の作家なのだ。
 そうでなくては、面白くあるまい。
 その方が、面白い。
「しかし、今回の実験・・・・・・個人的には止めて欲しくないな。「人類の進化を人工的に」起こす、という試みそのものは、大きい利益を生む」
「けれど、その影響で大勢死ぬぜ」
「だが、その大勢は私には関係がない」
「確かに、そうだが、な。先生には関係がない」「そういうことだ」
 可能で有れば実験そのものは続けさせ、それでいて対象の標的を「始末」する、いや、それでは意味がないのか。あの女の目的が標的そのものではなく、標的が行うであろう「世界のバランスを崩す行為」を止めようとしているなら、尚更だ。 その場合、もう一度依頼を受けて、二度金を貰えることになるので、個人的には望ましいが。
 別にサムライは本業でも何でもないしな。
 あくまで「作家」として儲ける事が、目的だ。 そうでなくては意味がないし、価値も無い。まぁ現状金になっていないので、十分すぎるほどに意味も価値も介在していないのだが。
「実際、人類を均一化出来れば、つまり優秀な人間のみを残し、進化させ、それでいて「結束」させることが出来れば、事実上人類の抱える全ての問題を解決できるだろう」
「大げさじゃないか? 団結したくらいで」
「団結しただけで、人類は何でも出来るだろう。元々。争っていなければこれだけ優秀な生き物も珍しい。そして、人類が進化し、全てが全て有能になり、団結して目的へ向かえば不可能など殆ど無くなるだろう。一人の人間でも電気のメカニズムを解明し、宇宙船の理論を組み立てられる。それが百億、一千億の人間が同じ方向に進めば、宇宙の終演までかかっても一人では出来ないことが一日で出来るだろうさ」
「珍しいな、先生がそんな噺を持ち出すなんて」「未来永劫あり得ないだろうがな。だから、人類全体を「商品として」作れるようにし、有能な人間とミュータント、あるいは宇宙人か、それともアンドロイドか。それらを配合し続け、有能な品種を作り上げることは、既に人間は作物で実験済みだ。それを人間にするだけだ」
「人間の発想じゃねぇよ」
「人間の発想だ。作物で試すモノを、自分達に試すだけだ。火星の真空空間でも生存可能な遺伝子配合麦が作られてから、もう何十万年も経つ。それが人間に応用されたところで、不思議でも何でもない。大昔から、「人道的」という意味不明な心のブレーキを無視することで、人間の科学は進み、生活は豊かになってきた。それを、また繰り返すだけだ」
「繰り返さない方がいい「過ち」って奴だろう」「いいや、そうは思えない。否、私個人の意志など関係なく「結果」が出ているではないか。結局の所、我々が豊かでそれなりの生活をしている、とは未だ言い難いが、少なくともテクノロジーの恩恵を受けているのは「戦争」が有ったお陰だ。大昔の連中が頭の悪い理由で殺し合い奪い合い、死体を荼毘に伏せたからこそ、今の発展がある」「酷い例えだ。当事者が聞いたら怒るぜ」
「事実だ。戦争など、争いなど、その時点で実利とはほど遠い。戦争とは自国とは関係のない、どこかどうでもいい国、発展途上国で行い、国民はそれを深く考えず、それでいて自国の軍需産業を発展させ、発言力を増やし、経済を活発化し、関係ないどこか遠くの生物を殺すことで、自分達だけは恩恵を受ける為の方法だ。胴元みたいな存在としてやるべき「手段」だ。自国を巻き込む時点で無能を晒しているではないか。そんなのは外注して現地の死んでも困らない奴等に、やらせればいい」
「死んでも困らない人間ね。そんな人間がいるのかい?」
「沢山いるさ。発展途上国はインフラすら通っていないことも珍しくないし、「通したところで、使い方が分からない」場合も多い。いや、そもそもがインフラを使えるような人種なら、今頃になってインフラを提供して貰わねば生きていけない国づくりなど、しているはずがないのだ。自業自得だよ。そんな成長もせず、学も無く、極々一部の例外でもなければ、社会に認知すらされず、それでいて育てられもしないのに子供を作り、家族の肉を食べ、駄目なら売って臓器に変える人間など、大国からすれば生きていても死んでいても、どうでもいいだろうな」
「先生はどうなんだ?」
「どうでもいいな。人間賛歌すら無い、恵んで貰った食料を取り合って殺し合う人間のことなど、どうでも良さ過ぎる」
「けれど、環境が問題って事もあるだろう? 環境が悪かったからこそ、そう成ったのかもしれないじゃないか」
 こいつは何故人間を庇いたてるのだろうか。不思議だ。人工知能のジャックからすれば、自分にない感情や独創性を持つ存在には「尊く」あって欲しいという、勝手な期待なのだろうが。
 だが、事実だ。
 人間は醜い。
「環境か。だが、私は環境に関係なく、何かを目指すことをした。己自身で、自分はこのままでは足りない、と。何か上の方にある、今自分には無いモノを、求めたからだ。それが悪か善か、それはどうでもいい。私は環境は悪かった。才能など欠片も無かった。人間性すらも持ち得ず、理解者などいるはずもない。だが、それでも物語を幾つか完成させる事位はできた。なら、少なくとも何かを成し遂げるのに、己の意志以外は特に必要ないと、まぁそういう事だろうさ」
 などと、気取った事を言ったが、儲かるかどうかは別の話だ。人間の意志など関係なく、儲かるか儲からないか、それは運不運で決まる。
 極論、雷が落ちれば終わりだ。
 それは物理的なモノであり、社会的なモノであり、障害的な「何か」でもあり得る。いずれにせよ予期せぬトラブルはつきものだ。
 だが、それでもやるしかない。
 最悪の未来を見据えつつ、それでも上手く行くように仕込み、実行し、そして機会を待つ。金を蓄えつつ体力を温存し、体を休めておく。
 出来ることはそれくらいだ。
 いつだって。
 そうだった。
 私が言うんだ間違いない。
 出来ることなど、そんなものだ。
「まぁ本質は変えられないだろうから、やはり机上の空論でしかないがな。そういう意味でも、本質的な部分を変質させて人間以上に、物理的にも精神的にも成れれば」
「それこそもう人間じゃないぜ、そうでなければ神様か」
「ふん、ならこの方法論は使えんな」
「どうして?」
「人間と神と悪魔ほど、戦争ばかりしている生き物も、いないからさ」
 
 
 

   7

 恐らくは人類至上最高傑作、能力値のみで言えば人類至上最高の天才を、泣かせた。
 マリーのことなのだが、しかし、有能なだけの豚というのは、こうにも脆いモノなのか。知らなかった。こんな奴に負けるのが難しい。
 簡単に言えば、こんな事があった。
「能力値が高いだけで、お前って大したことないんだよな」
 今までの流れからして、何の活躍も見せていない役立たずに対する正当なる評価だったのだが、しかし、それがプライドに障ったらしい。
「勝負をしましょう」
「おいおい、お前みたいな奴に、どうやって負ければいいんだよ。百年はかかるぞ。私は金を使うのに忙しいんだ。雑魚の中の雑魚、キングオブ雑魚のお前に、付き合っている時間など無い」
「・・・・・・私の百分の一も演算能力のない男が、随分とほざいたものね」
「おいおい、自分の役割はわきまえているようじゃないか。そんな雑魚の台詞を吐くなんて、なんだ、お前、構って欲しいだけなのか?」
「・・・・・・負けた方が、勝った方に従う。これでいいわね?」
「構わないよ。とはいえ、暴力は頂けないな。こちらでルールを決めるから、それで勝負しよう」「そんなの」
「何だ、自身がないか。まぁお前みたいな奴は、自分が勝てる勝負事でしか、勝てないだろうしな・・・・・・ヒス女には殴り合いしかできないか」
「ッ、上等よ」
「では、始めようか。この簡易宿泊装置には、ビリヤード部屋が一つ有る。それで勝負しよう」
「内容は?」
「そうだな、先攻後攻を決めて、得点の多い方にしよう。ビリヤードの玉に書かれている数字が、得点だ。それをポケット、というのかな、己の攻撃ターンにどれだけいれられるか、というのは」「後で後悔しない事ね」
 そう言って、まずは彼女が先行を行うことになった。成れた手つきで準備をする。私はビリヤードなんてやったこともないが、彼女の手つきは手慣れていた。
「言っておくが、攻撃ターンはこれのみだぞ。お前の攻撃が終わり次第、残りは私の攻撃ターンのみだ。つまり」
「このターンに取れた点数分、貴方が取れればでしょう? 簡単よ」
 得点差分言うことを聞いて貰おうかしら、などと言って、彼女はボールを弾いた。
 当然のように、全てのボールを弾き飛ばし、彼女は見事全てのボールを、一発でポケットに落とすのだった。
「どう?」
「ボールをつつくのが得意とは、随分と暗い趣味だな」
「・・・・・・わかってんの、貴方、ルールも良く知らないようだけど、これに負けたら足の裏でも舐めて貰おうかしら」
「そうか、自分が勝てた妄想をするのは自由だしな」 
 言って、マジックペンを取りだし、私は堂々とボールの数字の後ろに「億」と書いて、そのままポケットへ突っ込んだ。
「ちょ、ちょっと!」
「何だ、ルールは説明しただろう。「ポケットの中にボールを入れれば得点」「攻撃は一回きりで終了次第相手側へ」だと」
「け、けどビリヤードで勝負って」
「ビリヤード台がある。そこで勝負をする。ポケットにボールをいれ、得点の多い方が勝利。一度もビリヤードで正々堂々勝負などと、言ってはいないが」
「こ、こんなの無効よ! あり得ない、信じられないわ。貴方、恥ずかしくないの」
「おいおい、自分が負けたからって勝負を無効にしろ、などと・・・・・・お前こそ恥ずかしくないのかよ。76億点も差を付けてやったからって、負け犬が偉そうにするなよな」
「・・・・・・」
 少女は今にも泣き出しそうだった。
 有能で有れば確かに「強く」はある。だが、言ってしまえばそれだけだ。「強いこと」と「勝利できること」は別物なのだ。

 ズルに弱い・・・・・・のだ。
 
 これも強さと強かさの違いか。所詮有能なだけの新人類。他でもないこの私が相手では、百年賭けても負ける事の方が難しい。
 それで容赦する私でもないが。
「まったく、これだからヒステリー女は。猿みたいに大声で喚き立てて、勝負を無かったことにしてみるか? ほれ、言って見ろよ。きぃー、きぃー、きぃいいーってな。半分猿みたいな顔してるんだし、お似合いだぜ」
「・・・・・・っう。ぐ」
 泣き出してしまった。
 まぁどうでもいいがな。人の苦痛の表情ほど、見ていて癒されるモノも少ない。
 最高に面白い。
 これだから人生はやめられない。
「ん、確か「点数差分言う事を聞かせる」とか、言ってたよな。そしてそれを自分が負けたときだけ覆すような、卑怯者のゴミ屑でなければ、約束ぐらいは守れそうなものだが、無理だろうな。すまなかったな、お前みたいな役に立たないカスに過度な期待をしてしまった。牛の糞よりも役に立たない、文字通りクソ以下、肥料になる分、牛の糞の方が役に立つと言えるくらい、使えない女であるお前に、「約束事を守れ」なんて無理なお願いだった」
 すまなかった、と何の感情も込めずに、つまりは適当な言葉遊びのついでで、私は言った。
「ぃあ・・・・・・くぃ・・・・・・」
 涙と鼻水が紛れて、よく分からない。
 汚い女だな。まったく、何で泣いているのだ。 面倒くさい。物理的に臭くて精神的にも他者を臭くするなんて、廃棄物みたいな奴だ。
「そうだな、まずは私の実利の為に、自分から、私の指定する研究期間で実験材料にでも成って貰うとするかな。勿論、お前に給料は出ないが。お前みたいな汚い女に靴の裏を舐められたところで汚いしな。ばい菌に洗い物を任せるつもりはない・・・・・・死んだ方がマシな実験内容だろうが、まずはそれから初めて貰おうか」
 そこまで言うと、彼女は走って逃げ、それから部屋に閉じこもってしばらく出てこなかった。その後にこうして連れ出して、博士の研究施設に向かっているのだが、口も効かないようだ。
 なので何度もしつこく「実験材料として、私の指定する国家に貢献するのか」を聞いて、三十回目くらいか、「それでいいわよ!」と言質を取ることに成功した。
 これで、後は博士を始末し、後はこの少女を研究機関に高値で売り渡して、実験データに関する利益を独占しつつ、バカンスにでもまた、行くとするかな。
「鬼か、先生は」
 そう言うのはジャックだった。先ほどから結構なスピードで(マリーの足が速いのだ)移動しているので、聞き漏らしていたようだ。
「何がだ、私は何一つ嘘すらもついていない。嘘を一度も言ってすらいないんだぞ。今前を走っている女の頭が、あまりにも軽く、マシュマロの方がマシ、みたいな出来であるのが悪いだろう」
 聞こえていたのか、さらにスピードを上げるマリーだった。足の速さなら、というか逃げ足の早さなら、私の右にでる相手はいない。なので何一つ苦にはならなかったが。
 まぁこれも「サムライ」としての特権だろう。標的を前に体力が尽きるのはまずいと、あの女が判断したのかは知らないが、サムライには体力の概念など、無い。
 無限の持久力だ。もっとも、私はマラソン選手ではないので、披露することは非常に稀だ。役に立たない能力だったが、まさかこんなところで役に立つとは。
 ああいう人種は、正々堂々と戦えると、この世界を認識しているのだ。そんな小狡い方法で戦う相手を、そもそも想定していない。そうでなくても、腕っ節が立ち、能力が高く、頭が回って強いだけの存在など、私からすれば敵ではなく、ただの的だ。
「やれやれ、参った。これだからお子様は。だから負ける事は百年かかっても無理だと、丁寧に教えてやったのに。泣けば勝負が無くなってもすむと、そう思っているんだよ」
 ぴた、と走るのを止めて、彼女は「・・・・・・貴方の言うとおりにしますよ」と低い声で言って、そしてまた走り出すのだった。
 性別云々と言うより、優秀な人間を見ると、その優秀さをべりべりとはぎ取って、こき下ろしたくなるのだ。こき下ろされた無様さは、見ていて非常に笑えるからな。
 有能な存在ほど、私に勝てない相手もいまい。「そりゃ良かった。私としては金にもならないのに、お前みたいなドラム缶女と、つまり体格が上から下まで寸胴の少女と、戯れている程金に困っている訳でもないのでな。案内するならさっさとしてくれ」
 それからは無言で走り続ける、というただの移動中の幕間にしては、非常に重い空気の(私にはそれも感じ取れないが)行進となるのだった。  そして目的地に着いた。
 中央にあるターミナル、研究施設の中枢部分、つまりは今、博士がいるであろう可能性の、もっとも高い場所だった。
 
 

   8

 この中で人間が家畜のように扱われ、人権を無視された人間が涙でも流しているのか、と、その巨大な建築物、筒上の棟の形でそびえ立つ研究所を見て、私は楽しそうだなぁと、素直に思うのだった。
 人間の苦痛、苦悩、苦悶というのは、眺めている分には最高だ。実際やるとなればたまったものではないが。
 私が言うのだから、これも間違いない。
 実際そんなものだ。
 もっとも、こと物語に関しては最近はそれが原因で劣化気味だ。苦悩や苦痛、限られた環境で何かを成し遂げること。そういったあれこれから切り離された最近の物語、アニメーション、漫画、小説、全てが安っぽくなっている。
 嘆かわしい限りだ。
 地獄など、己自身で保持して当然。それが作家や脚本家、あるいは漫画家だと思っていたが、豊かさも過ぎれば、少なくともこと物語に関して言えば、だが、出来は大抵最低だ。
 人間とは、誰もが特別ではない。特別ではないその「己」を、特別だと思える何かに昇華する。 それが「かつては」生きる、ということだったのだが、「持つ側」になり豊かさをこじらせすぎると、ああなるということか。
 無論、そうではない人間、まぁ私みたいな奴は少数派だろうが、そうでなくても「苦悩」が無いまま衰えた人間に、多いようだ。
 苦悩も無く豊かなまま来た人間。
 何の思想も無い上、人として何一つ成長せずともその「幸運」だけで来た人間は、つまらないものだ。そういう意味では最短ルートを私は通っているのだろうか?
 先に苦しみ、それを糧にして生きる。
 分を弁えて、平穏に。
 それでも、苦しさや苦痛が、無かった事になる訳ではないがな。痛いのも苦しいのも御免だ。
 
 人生はプラスマイナスゼロだ。

 何せ、喜びも悲しみも、死ねば消えるからな。どうせいつかは死ぬ。そして、その喜びもその悲しみも、何を変える訳でもない。
 だが、それでも「持たざる者」として、何かを貫き通すなら、それは「狂気」のみだと思う。
 狂気こそが唯一の武器だ。
 意志次第で誰でも持てる、それでいて可能性、そう可能性だけは、無限大だ。
 それを現実に「力」にするには考えるのが馬鹿馬鹿しくなるほどの労力がいる。何より、決して報われることはない。
 私が言うんだ間違いない。
 それでも、己の生き方を変えられない、つまり賢く生きられない意固地な人間が、輝きを放つこともあるということか。少なくとも物語を書く、という点に置いては。
 私の場合意固地と言うよりも、ただの消去法だが、ただの消去法でも、そこまでやれる人間は、きっと稀なのだろう。
 嬉しくもないが。
 今更止められる地点になど、いない。
 いるはずがない。
 狂気を武器にする、とはそういうことだ。
 引き返せる時点で、半端なのさ。
 それも、全く結果を出せていないところを見ると、やはり無駄だったとしか言えない。負け犬の遠吠えも良いところだが、それでも、私は己の進んできた道、己の狂気を疑ったりはしない。
 それを認められない凡俗が無能なだけだ。
 狂人は、理解を求めないし必要ない。己を信じるというただ一点において、根拠のない自信を無尽蔵に保有する。
 それが「私」だ。
 そうでなくては、つまるまい。
 とはいえ、「過程」と「結果」は別物だ。重要性から考えているだけで、過程そのものを否定するつもりは、あまり無い。
 だからといって結果がないがしろにされていい理由には成らない。「それはそれ、これはこれ」だ。だからこそ、金を掴まねばなるまい。
 面白いだけでなく実利を掴まねば、などと欲張りな気もするが、そうでなくては噺にならないというのも、また「事実」なのだ。
 両立させる。過程も結果も、それは実に簡単な事なのだ。売ればいい。何かしら「作り上げた」己の作品を、金に換える。
 言葉にすれば簡単だが、それがこうも上手く行かない、というのはいつもの噺だ。何とかするしかないのだろう。今のところ、その方法論はあまり見つかっていない。金にするだけなら例の少女を研究機関に預けるだけで結構な金にはなるだろうが、私が欲しいのは結構な金でなく、恒久的に入りかつ、莫大な金なのだ。
 それが物語の存在意義だ。
 読者とは違う。私は作者なのだ。作ったモノで満足するだけでは金にならん。それなら自前で作品を作りよりもその辺の噺を読む方が早い。
 それでは金にならない。
 金にならなければな。
「先生はさ、言わば天災なんだよ」
 さぁこれから入ろうと言うときに、奇妙なこと場遊びでジャックは私の足を止めた。
「失礼な奴だな、こんな平々凡々足る小市民に向かって、そんな人を人でなしみたいに表するだなんて、恥ずかしくないのか?」
「先生こそ、そんな心にも、おっと失礼。どこにも思っていない戯れ言抜かすなんて、恥ずかしくないのかよ。まぁいいけどさ、何にしろ俺は、先生みたいな非人間がもう一人いる、だなんて、そんなおっかない状況、御免被る感じだぜ」
「否が応でも付いてきて貰うぞ。私はハイテクが苦手なんでな」
「そんな必要ないだろう?先生なら第六感と勢いだけで、目的地に着くだろうぜ」
「何事にも例外はある。確実に今回の依頼をこなしつつも、私に被害が及ばないようにする為にはお前が必要だからな」
「俺は使い捨ての盾かよ」
「それが嫌なら、役に立つことだな。役に立つので有れば、お前の好きな電脳アイドルのコンサートチケット、があるのかは知らないが、金を幾分か出してやろう」
「そりゃあ有り難い」
 嬉しいのか嬉しくないのか、平常通りのテンションで彼は答えるのだった。私も相当だが、この男も相当、得体の知れない奴だ。私はただの狂人でしかないが、こいつは何を思って生きているのだろう?
 テーマにしてみるのも良いかもしれない。
 協力者として、少なくとも私はまどろっこしいクラッキングなど面倒だから御免被るので、こいつの力を借りるという手っ取り早い方法を取ろうとする以上、協力姿勢を抱いて貰わねば困る。
 無論私の都合であって、だからこそ、得体の知れないこいつは扱いにくい。私は金で動くが、こういう奴は何で動くか分かりづらいからだ。まぁこいつも、私にそれを言われたくはないのだろうが。
「先生みたいな人間は、物語に登場しちゃならねぇ存在だ。そんな非人間が二人も揃うとなると、ロクな結末にはならねぇだろうな」
「酷い事を言う。あの少女が少しばかり実験対になって、それでいて博士は始末しても研究そのものは存続し、その研究データを私が横流しして儲ける、位のものだろう」
「尋常じゃねぇよ」
 そうだろうか? 別に、これくらいその辺の国家でもやってそうなものだが。案外、この男はモラルの高い奴なのかもしれない。
 それに、今まで散々そういう人間、人間なのかどうか分からない奴等を相手にしてきたが、それは違うと私は思った。
 だから言った。
 人工知能相手にそれを言っても、あまり意味はないだろうが、噺は誰かに伝えなければ始まるまい。
 大規模な研究施設を前に、人工知能相手に邪道の作家はこう語りかけた。
「いや、そうじゃないぞ、ジャック・・・・・・尋常じゃないのは、むしろ「一般人」の方さ」
「へえ、どうしてだい?」
「こういう事があること、は「誰にでも調べれば分かること」でしかない。インターネットで少し調べれば、この世界に如何に暗闇、人間の尊厳が存在しない部分があるか、否、調べなくても本来分かって当然だ」
「おいおい、一般人は平和で平穏で何一つ争いのない世界に住んでいるんだから、そんな世界があるなんて想像が付かないのは、当然だろう?」
「違うな。「見たくないから考えない」だけだ。この世界に如何に悲劇と流血と裏切りが、本当は存在しているのか? それを考えない。考えたくもないし、そうであるのはどこか、それこそ国家元首とかの考えることであって、自分達には関係がない」
「先生と同じじゃないか。自分達には関係ないのだから、考えないのは当然だろう」
「そうでもない。所詮、人間社会であるという点を考えれば、「結果」は「同じ」だ。集団の中で誰かを迫害し、誰かが奪い、搾取し、誰かを傷つけなければ生きる事なんて不可能だ、と平穏な社会であるからこそ、わかりやすくそれらは浮き彫りに成るものだ」
 例えばそれは学校におけるいじめであり、会社におけるパワハラであり、集団における差別であり、そういった全てでもあるのだ。
 それを、見ない。
 世界は善意であふれていると、悪意を見ようともせずに「信じ込もう」とする。
 それの名前を「邪悪」と呼ぶのかもしれない。生きているだけで何かしら「悪」で有ることは必須条件だ。それを見ようとせず、自分達は真摯で善良で素晴らしい人間で、何ら罰せられる部分などない、と思いこむ行為。
 善意で他者を犠牲にし「ありがとうは?」と聞く行為だ。それは私と全く同じ「最悪」の行為だろう。それを自覚するか自覚しないかだ。
 人類は皆邪悪で最悪だ。それをどう自認するかで、「善」か「悪」だと決めつけているだけだ。 ただのそれだけ。
 何一つ「尊く」などない。
「個人的には、だが・・・・・・「自信が善良であると認められたいが故に、誰かを犠牲にする口実を正当化して、己は悪くない被害者だ」と叫ぶ人間の行動が非常に多いな。私からすれば人間は生きているだけで誰か、何かを傷つけなければならない・・・・・・そうでなければ生き残れないだろう。それこそ「聖人」ですらも、その素晴らしすぎる存在を巡って口論になり、戦いがあり、戦争の口実にまでなったりする。「何一つ傷つけない」などというのは綺麗事ですらない」
 ただの、絵空事だ。
 ありもしない、妄想だ。
 作家の私が言う言葉でもないが。
「だから、こういう施設を許せ、と?」
「違うな、全然違うぞ。いいか、「こんな施設があるのは当たり前」なんだよ。今まで散々戦争を繰り返して殺し合ってきた生き物が、平和になったからって人類皆平等、少ないパンを分け合って暮らす、なんてあり得ない。私もそうだが、誰だって良い暮らしがしたい。当然のことだ、当然の権利だ、だが・・・・・・世界は天国じゃないんだ。そんなモノあるのか知らないが、あったとして、それは死後に到達するのであって、今生きている人間たちは、極楽浄土のように何一つ争わず戦わず踏みつぶさず生きる事など、出来はしない」
 それもまた、生きる上での障害だ。
 何の落ち度も無くても争うことはある。こういう施設だって、必要に応じて出てくるだろう。
 だが、そこでいつも「絵空事」を掲げて、こうであるべきだああであるべきだ、と倫理観に捕らわれた綺麗事だけで、現実に何か変わるのか?
「綺麗事でない何か、こういう施設もそうだが・・・・・・何かを変えようとして、行動しているからなのだ。綺麗事を並べる人間は、あれは悪いこれは道徳的でないと口は動かすが、それだけだ。それに変わる改善案を出さない。だから必要悪という陳腐な名前で、こういう非人道的な施設は必要不可欠として登場する」
「綺麗事も、並べるだけでは駄目かい」
「当然だ。並べるだけなら赤子でも出来る。問題はそれを実現可能かどうかだ。平和も理想も掲げるだけなら簡単だ。それを実現するのは困難だ。困難を避け続けて、それでいて「口だけ」を動かしている存在が、その訴えを聞いて貰って当然、こちらが正しいのだかららそれを通せ、などと・・・・・・甘えるな」
 この世界はお前達の揺りかごではないのだ。人間の意志が通じないときも、ままある。だが、それでも何も己で成し遂げていない人間が、数を揃えたくらいで何かをくれるほど、この世界は優しくできてはいない。
 何だか説教臭くなってしまった。私はまだまだ若いのだが。若い人間がこんな説教臭い言葉を吐くべきではないな。説教とは基本的にも応用的にも「筋は通っているが、言葉に説得力のない」ものだからな。
 私が言うなら尚更だ。
「ふん、つまりだ。あれこれ道徳を振りかざす奴の方が、性質は悪いということだ。そういう人間が何も出来ないことを見据えて、こんなばかげた施設を作り上げているのだから、むしろ、一個性としては見込みのある方さ」
「先生の基準は、やっぱりわかんねぇな」
「別に良いさ。理解されたいとも、特に思わないしな」
「けどよ、先生」
「何だ」
 まだ何かあるのか?
 そろそろ入りたいんだが。
「あちらさんがどう思うかは、分からないみたいだぜ」
 見ると、そこには武装したミュータントが我々を待ちかまえていた。指示など出さない。死んだら死んだで少女の遺体はこちらで回収すればいいし、守られなければならないほど、脆くもないだろうしな。
「行くぞ、役立たず共」
 適当な合図と共に、我々三人は戦闘態勢に入り殺し合いを開始した。
 くしくも、誰よりも人間らしいその行為を、人間ではない三者が行うという形で。





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