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#短編小説
SS【転生先生】♯毎週ショートショートnote
お題「優先席の微世界先生」
【転生先生】(410文字)
先生は極小人である。
この腐った世界を救うため、平和な微世界から転生されたのである。
私は現世で先生をサポートする役割を担っている。
先生は微世界人なので、その姿はかなり小さい。それ故、先生のために私は腕時計の中に執務室を作り、ふかふかの優先席まで設けた。
ソファに優先席と名付けたのは、先生がこの世界で一番気に入ったシステムの名称だから
クリスマスの落とし物
十二月二十五日、僕は、言葉を拾った。
クリスマスのその日は、午後から雪が降り始めた。テレビでは、ホワイトクリスマスになってロマンチックだ、とかなんとか言っていたけれど、僕には関係のないことだった。
恋人はいない、友達はデートの約束で忙しい、おまけに冷蔵庫が空っぽのクリスマス。
僕は食料を買うためだけに外出した。コートのポケットに両手を突っ込んで、近所のスーパーへと俯いて歩いた。白い雪が
【短編小説】始まりの日に
寒い。まだ十月の中旬だというのに、もうすっかり冬の匂いがする。通り過ぎる人達は厚手のコートに身を包み、早足でこの寒さから逃げるように歩いている。テレビでは今日はぽかぽか陽気だとか言っていたのに、駅を出た頃には天気が急変して空を雲が覆い、冷たい風が強く吹いてきた。真新しいリクルートスーツを着ているだけの高羽陽は、身を震わせながら自宅へと歩いていた。
テレビなんかを信じて羽織る物を何も準備しなかっ
【SS】沈んで、浮かぶ(3981文字)
宮古島の食材をふんだんに使用したフルコースを前に、新婚旅行の最初の晩、琴音は静かな絶望を味わっていた。この先、目の前で黙々と咀嚼を続けるこの夫と、気の遠くなるような年月を添い遂げなければならないのか。
「……海ブドウってこんなにプチプチしてるのね。美味しい」
「うん。海ブドウは美味しい」
夫の優人は一世代前のロボットのように同じ言葉を繰り返した。琴音は一瞬、呼吸を止める。溢れ出そうなため息を閉
【掌編小説】星降る夜に
「わたしね、1年の中で今が一番好きかも」
ふとした拍子に彼女はそうつぶやいた。なんで? という疑問の言葉を僕が発する前にひゅう、と冷たい風が吹きぬける。僕は悪寒と共に言葉を飲み込み、ぶるりと震えて首元のマフラーを巻き直す。
「寒い?」
僕の隣を歩く女友達の芹沢悠香がこちらに目をやって気遣わしげに聞いてきた。いや大丈夫、と言おうとしてくしゅん、とくしゃみをしてしまう。強がる気持ちとは裏腹に