【ショートショート】海のメロディ
「さあねえ、分からないよ。ここらへんにはもう若い子はいなくなっちまったからねぇ」
申し訳なさそうに告げる老婆に頭を下げてその場を辞する。おなかすいた、とごねる息子をなだめすかしながら海沿いの道を歩く。亡き夫の故郷を訪ねたのは彼のいない世界に限界を感じてのことだった。
「子供の頃に一度だけ、故郷の浜辺で幻のように美しい音を聞いたことがあるんだ。それが忘れられなくて今でも音楽を作っている」
彼は生前そう言っていた。私も彼の後を追う前に一度でいいからその音を聞きたかった。あたりは段