きさらぎみやび

物語を書きます。気に入っていただけると嬉しいです。公式ピックアップ「Fly me to the moon」「ホットなカフェオレひとつください。」「虚無の声」/最後のたまごまる杯:金賞 お仕事依頼はX(旧Twitter)のDMまでお願いいたします。

きさらぎみやび

物語を書きます。気に入っていただけると嬉しいです。公式ピックアップ「Fly me to the moon」「ホットなカフェオレひとつください。」「虚無の声」/最後のたまごまる杯:金賞 お仕事依頼はX(旧Twitter)のDMまでお願いいたします。

マガジン

最近の記事

  • 固定された記事

あやかし旅館の若女将 ~清水優菜の妖な日常~第一話 「あやかし旅館の竜泉閣」

第一話 あやかし旅館の竜泉閣   ここは創業100年以上の歴史を誇る老舗温泉旅館「竜泉閣」。設備は多少時代がかっているのだけれど、都心から新幹線と在来線を乗り継いで2時間程度というアクセスの良さのおかげでなんとかここまで続いている、こじんまりとした旅館だ。  私は清水優菜。去年の春にこの宿の跡取り息子である清水継春と結婚し、この旅館で若女将として働いている。もともとはしがないイラストレーターとして引きこもり気味で孤独に働いていた私に、接客業なんて果たして務まるのだろうかと不安

    • 【読書記録】「さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問から始める会計学」山田真哉

      タイトル通り身近な例をもとに会計学について分かりやすく教えてくれる本。ベストセラーになったのも頷ける。  タイトルにもあるさおだけ屋はなぜ潰れないのかという疑問から利益をいかに出すかというポイントが語られる。「ベッドタウンにある高級フランス料理店」からは連結経営(副業と捉えてもよいかも)の考え方、「在庫だらけの自然食品店」からは在庫と資金繰りの話などなど。実店舗は飾りのようなもので実はネット通販が本業という形で言えばゴーストレストランもそれに近い業態かもしれない。「完売したの

      • 【ショートストーリー】沈む寺

        最初に気がついたのはお寺の小僧さんだった。 いつものように境内の掃き掃除をしていると、なんだかお寺の屋根の位置が妙に低く感じる。不思議に思ってしばらく眺めていると、確かに屋根がだんだんと低くなってきている。いや、寺ごと沈んでいるのだ。 慌てて小僧は寺の中にいる和尚に知らせに走る。話を聞いた和尚も最初は半信半疑だったものの、外から眺めてようやく寺が丸ごと沈んでいるのを理解した。 「和尚さま、とにかく逃げましょう」 促す小僧に和尚はしばし沈黙した後、ゆっくりと首を横に振った。 「

        • 【読書記録】「学芸員 西紋寺唱真の呪術蒐集録」峰守ひろかず

           学芸員×呪術ということで個人的にツボのテーマ。加えて呪術についてもロジカルな解釈がされているのでとても好きなタイプの物語。「呪い」をテーマにしながら「呪いなんてものはない」とバッサリ切り捨てているのもスタンスがはっきりしていて好みである。  美形だが本物の呪いにかかってみたいと主張する変人の学芸員と、本来は美術館志望だがひょんなことからそこに配置されてしまった実習生、しかも幼い頃から不幸体質という組み合わせがポイントだと感じた。やはり物語をドライブするのはキャラクターの配置

        • 固定された記事

        あやかし旅館の若女将 ~清水優菜の妖な日常~第一話 「あやかし旅館の竜泉閣」

        マガジン

        • bibliobibuli
          32本
        • Random Walk
          309本
        • at random
          39本
        • Strike a chord
          14本
        • One Minute(s)
          133本
        • Part of Art
          5本

        記事

          【ショートショート】この中にお殿様はいらっしゃいますか

           江戸幕府が無くならなかった世界。そこでは現代に至るまで参勤交代が続いていた。とはいえさすがに籠に乗ってえっちらおっちら移動するということはなく、殿様専用の飛行機やら新幹線やらが設定されることになった。大阪くらいまでの殿様は新幹線で日帰りしていたりしてもはや参勤交代とは、といった議論もあったがなんとなくダラダラと制度は続いていた。    そんなとある殿様専用便、その車内。震えている新人乗務員と喉元にナイフを突きつけられたベテラン乗務員が車両のデッキにいる。ナイフを持っているの

          【ショートショート】この中にお殿様はいらっしゃいますか

          【読書記録】「GOTH 僕の章」乙一

          前作「夜の章」に引き続いて「僕」の章。単行本時は一冊だったものを文庫化にあたり分冊化したものの後編。 「リストカット事件」 篠原の独白、心理描写がこの作品の全てと言っても良いのではないだろうか。過去の話だからというのもあるだろうが、ここでは主人公も森野も背景と化しているような気がしてならない。この一作で乙一がJOJO第4部のノベライズを手がけた理由が良く分かった。 「土」 ユウスケくんのくだりに自分でも思った以上のダメージを受けてしまった。昔はおそらくもっと平気だったのだと

          【読書記録】「GOTH 僕の章」乙一

          【ショートストーリー】それでも地球は曲がってる

           最初に地球が曲がっていることを唱えだしたのは古代ギリシャの哲学者ピュタゴラス(紀元前582-493?)とその学派の人々だと言われている。大地球体説と言われるこの説だが、はたして本当に最初に唱えたのはピュタゴラスだったのだろうか? 「なあ」 「あん?」 「思うんだけどさ、この世界って曲がってるんじゃないか」 「はあ? なんでそんなこと思うんだよ」 「いや、だって周りを見てみるとさ、遠くの方はなんとなくこう曲がって見えるだろ?」 彼はサバンナの周りに広がる地平線を指さした。

          【ショートストーリー】それでも地球は曲がってる

          【ショートストーリー】奪衣

           生まれたのは肥溜めのような場所だった。  だから母親の股座から出てきた時も糞をひりだすのと勘違いされて出てきたのかもしれなかった。人も獣も一緒くたに這いずり回っているようなそんな場所が、まさかこの国の都とは思いもしなかった。  そのままくたばってしまってもおかしくなかったが、何の因果か生き延びてしまった。物心ついてからは痩せこけた母親に連れられて、死んでいるのか生きているのかも分からないような行き倒れから剥いだ衣を近くの川で洗濯するのが仕事になった。行き倒れは都の入り口とい

          【ショートストーリー】奪衣

          【読書記録】「GOTH 夜の章」乙一

           ゴス少女の森野夜と主人公の「僕」の話。 「暗黒系」での二人の会話は教室の隅で話し込んでいるオタクといった印象で、90年代にオタクだった人であればその雰囲気が掴めるかもしれない。分かりやすく仲が良いわけでもなく、聞く人によっては喧嘩しているようにも取れる会話のノリは、側から見れば痛々しくもあるが当人たちは至って真面目なのだ。一方で彼らが遭遇する殺人事件は凄惨極まるものばかりであり、彼らの淡々とした態度や独白と死体の残酷さはひどく対照的だ。あまりにも彼らが淡々としているので、

          【読書記録】「GOTH 夜の章」乙一

          【ショートストーリー】夜からの手紙

           どうしようもなく、何もかも投げ出してしまいたくなるような時、というものはある。身も心も疲れ果ててしまったある日、最終列車を乗り過ごしてしまった私は、終点の駅で放り出されて途方に暮れていた。歩きづらいなと思ってよく見ればパンプスのかかとが取れかけている。ひょこひょことかばうように歩いていると、出遅れてしまったからか駅前にタクシーは1台もいなかった。  駅前のベンチにとりあえず座ってから、大きくため息をつく。  なんかもうどうでもよくなっていた。  もう一度ため息をついた時、足

          【ショートストーリー】夜からの手紙

          【ショートショート】バンドを組む残像

          「なあ、バンドやろうぜ」 教室の隅っこでいつもつまんなそうに突っ伏して寝ている奴に声をかけたのはふとした気まぐれからだった。 まあそんな気まぐれからでも意外と上手くいくときは上手くいくもので、高校のクラスメイトで組んだそのバンドはトントン拍子に音楽シーンを駆け上がって、気がつけば世代を代表するような人気バンドになっていた。 俺はギターで奴はボーカル。なんでかといえば奴が一番ビジュアルが良かったからという身も蓋もない理由だったからなのだが、世間的にも受けが良かったのは確かだった

          【ショートショート】バンドを組む残像

          【ショートショート】残り物には懺悔がある

          「ごめんね」 中学からの腐れ縁の女の子に社会人になって告白したとき、まず最初に言われたのはその言葉だった。彼女とは当時からの仲良しグループというやつで、男子3人、女子3人でいつも一緒につるんでいた。冗談で大人になっても独り身だったら結婚してやるよ、なんて言葉をお互いに掛け合っていたものだ。まあ、今では俺と彼女しか残っていないから、この2人が付き合うのは当然だろう。そう思っていたのだが……。 「ううん、付き合うのはOKなの。むしろ嬉しくてしかたないのよ。そうじゃなくて、あのグル

          【ショートショート】残り物には懺悔がある

          【読書記録】「できる人の書斎術」西山昭彦

          各界の著名人と一般人の書斎紹介。 少し古い本なのでパソコンなどの電子機器の有無など今の環境とは異なる部分もありますが、書斎、良いですよね……。 今のところそれなりに自由な空間を確保できてはいるので現状に不満があるわけではありませんが、しかし憧れるものはあります。 実家の一部が改装されて壁3面が作り付けの本棚になっているんですが、やっぱりいいですよね。本棚はいくらあっても良い。 作家の書斎とかもう最高ですよね。以前に北九州市の松本清張記念館に行ったことがあるんですが、再現され

          【読書記録】「できる人の書斎術」西山昭彦

          【ショートショート】誘惑銀杏

          かさり、と黄色い絨毯をかき分けて歩くスニーカーのアップ。 カメラは少し揺れていて、被写体の女の子とともにカメラマンが歩いているのが画面から分かる。あえてそうしているのだろう。揺れがあることで臨場感が伝わってくる。 『二人で出歩くもの久しぶりだね』 カメラの視線は少し持ち上がるが、まだ女の子の顔は写さない。焦らすように手元に留まる。女の子は指先で銀杏の葉をくるくると回して弄んでいる。「ねえ、この、ぎん……。ぎん……なんて読むのこれ?」 素に戻ってカメラに向けて問いかける女の子。

          【ショートショート】誘惑銀杏