きさらぎみやび

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物語を書きます。気に入っていただけると嬉しいです。公式ピックアップ「Fly me to the moon」「ホットなカフェオレひとつください。」「虚無の声」/最後のたまごまる杯:金賞 お仕事依頼はX(旧Twitter)のDMまでお願いいたします。

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あやかし旅館の若女将 ~清水優菜の妖な日常~第一話 「あやかし旅館の竜泉閣」

第一話 あやかし旅館の竜泉閣 ここは創業100年以上の歴史を誇る老舗温泉旅館「竜泉閣」。設備は多少時代がかっているのだけれど、都心から新幹線と在来線を乗り継いで2時間程度というアクセスの良さのおかげでなんとかここまで続いている、こじんまりとした旅館だ。  私は清水優菜。去年の春にこの宿の跡取り息子である清水継春と結婚し、この旅館で若女将として働いている。もともとはしがないイラストレーターとして引きこもり気味で孤独に働いていた私に、接客業なんて果たして務まるのだろうかと不安

    • 【ショートショート】オバケレインコート

      「オバケレインコートを発明したぞい」 嬉しそうにそう告げてきた博士に向けて助手ちゃんが不審そうな目を向ける。 「また珍妙なものを……ちなみにどんなものなんです?」 「このレインコートを羽織ればオバケのように透けるし空も飛べるのじゃ。具体的にはランダムヘキサゴンタイプのメタマテリアルで波長光の回折と反重力場の形成を同時に行っておる」 「何言ってるか分かりませんが凄いのは確かですね……」 複雑な表情を浮かべる助手ちゃん。 「早速売りまくるのじゃ! すでにネットに広告も出しとるしの

      • 【ショートショート】深煎り入学式

        「今年の入学式は深煎りにしたいね」 「はあ。……は?」 今年の入学式に向けての書類の準備中、ふとした様子で校長がつぶやいた。何を言っているのか咄嗟に理解のできなかった私は間抜けな返事をしてしまう。キョトンとしている私に向けて呆れたように校長が話し始める。 「なんだ君は、深煎りも知らんのかね」 「はあ」 「深煎りというのはだね、コーヒー豆の焙煎度合いのなかで最も深い煎り方のことだよ。 苦味が強くなり、酸味はほとんど感じられなくなる。 いわゆる「フルシティーロースト」だな。そのく

        • 【ショートショート】蜘蛛の命乞い

          なんの気なしに足元を見たら、蜘蛛がいた。 慌てて丸めた新聞紙で潰そうとすると、なんとそいつが命乞いしてきた。 「許してください。私はただの哀れな蜘蛛なのです」 「でも蜘蛛でしょ。気持ち悪いしなぁ」 「そんなこと言わないでください。ほら、昔話にもあるでしょう。蜘蛛を助けると良いことがありますよ。それに私は害虫も食べる良い蜘蛛なんですよ」 「ほう、そうなんだ」 僕が手を止めると、そいつはチャンスと思ったのかここぞとばかりにまくしたてる。 「ええ、ええ、私が言うのもなんですが、この

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          【ショートショート】桜回線

          「ねえ、知ってる? ソメイヨシノって全部同じ木から生まれてるんだって」 僕のとなりで彼女がつぶやいた。 「へえ、そうなんだ」 どこか上の空で僕は答える。 僕らは桜の花びらが舞い散る中を並んで歩いていた。 「うん。だからね、いまここで見ている桜と、キミがこれから行く先で咲いている桜は同じものなの。だから……きっと寂しくないと思う」 そんなことを彼女が言ってきたのは、僕が故郷を離れる日だっただろうか。僕の実家から最寄りの駅まで向かう途中、川沿いの桜並木の中で彼女は立ち止まる。 春

          【ショートショート】桜回線

          【ショートショート】三日月ファストパス

          「ファストパス取った〜」 満面の笑みを浮かべて彼女が駆け戻ってくる。手には二枚のチケットが誇らしげにヒラヒラと揺れている。 「けっこう高かったでしょ。そんなに無理しなくてもよかったのに」 彼女からチケットを受け取りながら僕は尋ねた。 彼女がブンブンと勢いよく首を降る。 「何言ってるの、せっかく久しぶりの二人っきりのお出かけなんだからさ、するでしょこれくらい」 スキップしそうな勢いの彼女が飛び出さないように手を繋ぎながら、僕はパスに書かれた時間までどこで過ごそうかとあたりを見回

          【ショートショート】三日月ファストパス

          来週は少し長めの旅に出ます。まあ、仕事なんですけど。

          来週は少し長めの旅に出ます。まあ、仕事なんですけど。

          週末は半日だけ京都にいました。

          週末は半日だけ京都にいました。

          【読書記録】はじめての大拙 鈴木 大拙 (著), 大熊 玄 (編集)

           大文字で言葉が並んでいるタイプの自己啓発系の本かなと思って、実際そんなレイアウトではあったのですが、選者の方も禅学/哲学を研究されている方であるからか押し付けがましさもなく思いがけず良い言葉に出会うことができました。一文一文が前後の文脈から切り離されていてもなお強さを持ち続けており、選者の言葉にもあるように力のある言葉たちは詩的な表現も相まってとても印象的。いずれ原著にも当たってみたいと思います。

          【読書記録】はじめての大拙 鈴木 大拙 (著), 大熊 玄 (編集)

          【ショートショート】ダンジョンの奥深く

          勇者の僕が率いる冒険者パーティーは凶悪なモンスターが暴れまわる洞窟の奥深くまで冒険を進めていた。 ここまで地下深くなってくると、出て来るモンスターも強力なものになり、いままでの武器が通用しなくなってくることも出てきた。ミミックが出て来る宝箱を上手く避けながら、新しい武器を手に入れなければならない。それにトラップにも注意が必要だ。あの手この手で仕掛けてくる。 突然、洞窟の天井が崩れ落ちてきた。 僕たちは砂に埋まってしまう。 しまった! いよいよここまでか……。 そう思った時、

          【ショートショート】ダンジョンの奥深く

          【ショートショート】私の彼は

          「ええっと、砂糖に、カカオバター、ミルクパウダー、カカオリキュール、レシチン、バニラと。バランスはどうしようかな。砂糖の値を増やしすぎないように気を付けないと」  教室の隅でデバイスをいじりながらアカリがなにやら呟いている。 「なにさっきからブツブツ呪文みたいに唱えてるの」 「んー? なにってバレンタインのチョコを作ってるの」 「作ってる? レシピを検索しているんじゃなくて?」  アカリがしているのはさっきからデバイスをいじっているだけで、チョコを刻む包丁も湯煎する鍋もここに

          【ショートショート】私の彼は

          【短編小説】LOVE POTION NO.9(後編)

          先を行くお兄さんに気づかれないように、私は美春にこっそりと尋ねる。 「そもそもあの人なんなの?」 「お店の人なんだけど、なんて言えばいいのかな、古道具屋さん?」 ……古道具屋さん? 古道具屋さんがいったいなんでチョコレートなんて取り扱っているのだろうか。 先を行くお兄さんはまるでウィンドウショッピングを愉しむかのように飄々と町を歩いて行く。どれだけ歩いただろうか、いつの間にか私達は駅前の裏路地を歩いていた。いつも通学で駅から学校までの道のりを歩いているはずなのに、なんだか

          【短編小説】LOVE POTION NO.9(後編)

          【短編小説】LOVE POTION NO.9(前編)

          きっと、バレンタインのせいだ。 二月になると教室の空気がなんだかそわそわしてくる。他愛ないおしゃべりだったり、視線を交わす仕草にもなんとなく緊張感が漂っているみたいに感じる。 でも、私は正直に言うとみんながなんでそんなにバレンタインに必死になっているのかが分からないのだ。同級生の男子がなんだか子供のように思えてしまって、よっぽど仲の良い女友達と話している方が楽しいと思うんだけど、みんなはそうじゃないのだろうか。 そんな感じで浮き足だった教室の雰囲気とは一歩引いた立場に立

          【短編小説】LOVE POTION NO.9(前編)

          【ショートショート】お目当ての行列

          「ほれ、できたぞ助手ちゃん。これが行列のできるリモコンじゃ」 「ありがとうございます、博士。相変わらず発明の才能だけはあるんですね」 「ほっほっほ、褒めるでない」 嬉しそうに笑う博士。助手ちゃんはジト目で博士を見つめる。 「……ちなみにこれ、どんな原理なんですか」 「ふむ、よくぞ聞いてくれた。このリモコンからは人間の可聴域からは外れた特殊な周波数の電波が放出されていてな。これが周囲の人間を惹きつけるようになっておるのじゃ。しかし行列のできるリモコンなんぞ何に使うのじゃ?」 不

          【ショートショート】お目当ての行列

          【ショートショート】ツノで刺される

          「ツノがある東館で人が刺されたらしいよ。怖いねぇ」  夕飯の席で母親にそう言われて私は思わず箸を持つ手が止まる。 「えっ? 人が刺されたの」  そう聞き返しつつも頭の中は疑問で一杯だった。 (は? え? ツノがある東館って何? 人が刺された? え、それってそのツノで刺されたってこと? 動くってことなの?)  戸惑う私の様子に気がついていないのか、母親はのんびりとした様子で答えてくる。 「そうそう。いきなり刺されたらしいのよ」 (えっ、刺されたってことはやっぱりそういう事なの?

          【ショートショート】ツノで刺される

          【ショートショート】立てこもり

           学校の保健室に男が立てこもってから既に12時間以上が経過していた。担当の鈴木刑事は苛ついた様子で鋼鉄製のシャッターで閉ざされた保健室を見つめている。 「一体どうなってるんだあの保健室。機動隊が突入を試みてもまったく歯が立たないぞ」  鈴木刑事の言葉に、彼の部下の松本刑事が答える。 「校長に聞いてみましたらアメリカ製でむちゃくちゃ頑丈に出来ているみたいで、生徒の安全のために奮発して設置したらしいです。メーカーに問い合わせたところ、今みたいに全部のシャッターが閉まったら内からも

          【ショートショート】立てこもり