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Random Walk

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執筆したショートストーリーをまとめています。
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記事一覧

【ショートショート】深煎り入学式

【ショートショート】深煎り入学式

「今年の入学式は深煎りにしたいね」
「はあ。……は?」
今年の入学式に向けての書類の準備中、ふとした様子で校長がつぶやいた。何を言っているのか咄嗟に理解のできなかった私は間抜けな返事をしてしまう。キョトンとしている私に向けて呆れたように校長が話し始める。
「なんだ君は、深煎りも知らんのかね」
「はあ」
「深煎りというのはだね、コーヒー豆の焙煎度合いのなかで最も深い煎り方のことだよ。 苦味が強くなり

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【ショートショート】蜘蛛の命乞い

【ショートショート】蜘蛛の命乞い

なんの気なしに足元を見たら、蜘蛛がいた。
慌てて丸めた新聞紙で潰そうとすると、なんとそいつが命乞いしてきた。
「許してください。私はただの哀れな蜘蛛なのです」
「でも蜘蛛でしょ。気持ち悪いしなぁ」
「そんなこと言わないでください。ほら、昔話にもあるでしょう。蜘蛛を助けると良いことがありますよ。それに私は害虫も食べる良い蜘蛛なんですよ」
「ほう、そうなんだ」
僕が手を止めると、そいつはチャンスと思っ

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【ショートショート】桜回線

【ショートショート】桜回線

「ねえ、知ってる? ソメイヨシノって全部同じ木から生まれてるんだって」
僕のとなりで彼女がつぶやいた。
「へえ、そうなんだ」
どこか上の空で僕は答える。
僕らは桜の花びらが舞い散る中を並んで歩いていた。
「うん。だからね、いまここで見ている桜と、キミがこれから行く先で咲いている桜は同じものなの。だから……きっと寂しくないと思う」
そんなことを彼女が言ってきたのは、僕が故郷を離れる日だっただろうか。

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【ショートショート】三日月ファストパス

【ショートショート】三日月ファストパス

「ファストパス取った〜」
満面の笑みを浮かべて彼女が駆け戻ってくる。手には二枚のチケットが誇らしげにヒラヒラと揺れている。
「けっこう高かったでしょ。そんなに無理しなくてもよかったのに」
彼女からチケットを受け取りながら僕は尋ねた。
彼女がブンブンと勢いよく首を降る。
「何言ってるの、せっかく久しぶりの二人っきりのお出かけなんだからさ、するでしょこれくらい」
スキップしそうな勢いの彼女が飛び出さな

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【ショートショート】ダンジョンの奥深く

【ショートショート】ダンジョンの奥深く

勇者の僕が率いる冒険者パーティーは凶悪なモンスターが暴れまわる洞窟の奥深くまで冒険を進めていた。
ここまで地下深くなってくると、出て来るモンスターも強力なものになり、いままでの武器が通用しなくなってくることも出てきた。ミミックが出て来る宝箱を上手く避けながら、新しい武器を手に入れなければならない。それにトラップにも注意が必要だ。あの手この手で仕掛けてくる。

突然、洞窟の天井が崩れ落ちてきた。

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【ショートショート】私の彼は

【ショートショート】私の彼は

「ええっと、砂糖に、カカオバター、ミルクパウダー、カカオリキュール、レシチン、バニラと。バランスはどうしようかな。砂糖の値を増やしすぎないように気を付けないと」
 教室の隅でデバイスをいじりながらアカリがなにやら呟いている。
「なにさっきからブツブツ呪文みたいに唱えてるの」
「んー? なにってバレンタインのチョコを作ってるの」
「作ってる? レシピを検索しているんじゃなくて?」
 アカリがしている

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【短編小説】LOVE POTION NO.9(後編)

【短編小説】LOVE POTION NO.9(後編)

先を行くお兄さんに気づかれないように、私は美春にこっそりと尋ねる。

「そもそもあの人なんなの?」
「お店の人なんだけど、なんて言えばいいのかな、古道具屋さん?」

……古道具屋さん? 古道具屋さんがいったいなんでチョコレートなんて取り扱っているのだろうか。
先を行くお兄さんはまるでウィンドウショッピングを愉しむかのように飄々と町を歩いて行く。どれだけ歩いただろうか、いつの間にか私達は駅前の裏路地

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【短編小説】LOVE POTION NO.9(前編)

【短編小説】LOVE POTION NO.9(前編)

きっと、バレンタインのせいだ。

二月になると教室の空気がなんだかそわそわしてくる。他愛ないおしゃべりだったり、視線を交わす仕草にもなんとなく緊張感が漂っているみたいに感じる。

でも、私は正直に言うとみんながなんでそんなにバレンタインに必死になっているのかが分からないのだ。同級生の男子がなんだか子供のように思えてしまって、よっぽど仲の良い女友達と話している方が楽しいと思うんだけど、みんなはそうじ

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【ショートショート】お目当ての行列

【ショートショート】お目当ての行列

「ほれ、できたぞ助手ちゃん。これが行列のできるリモコンじゃ」
「ありがとうございます、博士。相変わらず発明の才能だけはあるんですね」
「ほっほっほ、褒めるでない」
嬉しそうに笑う博士。助手ちゃんはジト目で博士を見つめる。
「……ちなみにこれ、どんな原理なんですか」
「ふむ、よくぞ聞いてくれた。このリモコンからは人間の可聴域からは外れた特殊な周波数の電波が放出されていてな。これが周囲の人間を惹きつけ

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【ショートショート】ツノで刺される

【ショートショート】ツノで刺される

「ツノがある東館で人が刺されたらしいよ。怖いねぇ」
 夕飯の席で母親にそう言われて私は思わず箸を持つ手が止まる。
「えっ? 人が刺されたの」
 そう聞き返しつつも頭の中は疑問で一杯だった。
(は? え? ツノがある東館って何? 人が刺された? え、それってそのツノで刺されたってこと? 動くってことなの?)
 戸惑う私の様子に気がついていないのか、母親はのんびりとした様子で答えてくる。
「そうそう。

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【ショートショート】立てこもり

【ショートショート】立てこもり

 学校の保健室に男が立てこもってから既に12時間以上が経過していた。担当の鈴木刑事は苛ついた様子で鋼鉄製のシャッターで閉ざされた保健室を見つめている。
「一体どうなってるんだあの保健室。機動隊が突入を試みてもまったく歯が立たないぞ」
 鈴木刑事の言葉に、彼の部下の松本刑事が答える。
「校長に聞いてみましたらアメリカ製でむちゃくちゃ頑丈に出来ているみたいで、生徒の安全のために奮発して設置したらしいで

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【ショートショート】遠隔管理

【ショートショート】遠隔管理

「課長、おはようございます」
出勤してまず最初に課長の席に向けて挨拶すると、ぶうん、とプロペラの音を立てて小型ドローンが舞い上がった。ドローンのカメラに向けて軽く頭を下げる。
『おはよう、田中くん。今日もよろしく』
スピーカーからの返答を受けとり、俺は自席について仕事に取り掛かった。

昼休みの喫煙所でいつものように同僚の山田とタバコを吸いながらの雑談。
「いくら便利だからってまさかドローンで遠隔

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【ショートショート】秘密の合言葉

【ショートショート】秘密の合言葉

 会員制の秘密のバーに連れて行ってやる、と先輩が僕に告げたのは大口の商談がようやくまとまった打ち合わせの帰り道だった。
「どうせ今日は直帰だろ? せっかくだし飲みに行こうぜ」
「いいですね、なんて店なんですか」
「『粉雪』っていうんだよ。洒落てるだろ? でもなぜか人気がないんだよな」
 先輩に連れられた先は雑居ビルの地下だった。暗がりの奥に瀟洒なデザインのドアが鎮座している。先輩が前に立つと、ドア

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【ショートショート】輝け、願い

【ショートショート】輝け、願い

 暗くなりかけた冬の道を、幼馴染のトモヤと二人で近所の神社に初詣に向かう。もう中学生だから恥ずかしさもあるのだけど、昔からの習慣だからと今年もトモヤは誘いに来てくれた。照れ隠しにぶっきらぼうな返事をしながら、実はあらかじめ決めてあった一番お気に入りの冬服を着て出かける。
 いつものようにお参りを済ませた後、おみくじを引こうとしたところでトモヤが言う。
「へえ、夜光おみくじだって。なになに、願いの強

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