桜桃を溢るるほどに禅林寺
二十歳を前にして「太宰治」に心酔してしまったことは、今から思えば、若気の至りとしか言いようがない。
作家の、あまりにも不道徳な私生活。それを逆手に取ったような、才能あふれる文章表現の秀逸さ。「破滅型」とも「無頼派」とも呼ばれ、戦前や戦後すぐの作家としては、決して珍しくはなかった。
とはいえ、どの作品にも通底する、あまりにも濃密なナルシシズムに、嫌悪感を露わにする人も多かった。
私が東京三鷹の禅林寺に墓参したのは、二十代最後の年だった。
季節は違ったけれど、それでも墓前には