マガジンのカバー画像

散文詩

186
運営しているクリエイター

2024年1月の記事一覧

I’M FLASH 《詩》

I’M FLASH 《詩》

「I’M FLASH」

彼女は僕の名前を呼んだ 

確かに彼女の声だった

その言葉は複雑で精巧な

巨大な装置が動かしている

世界の空中に浮かんでいた

僕はその名前を
側からぼんやりと眺めていた

彼女は

僕の名前をもう一度だけ呼んだ

見慣れた辺りの景色の中で
しばらく眠っていた

そんな感覚に包まれて

僕は目を覚ました

全ては夢である事を知った

彼女の柔らかな唇と声は

全世界

もっとみる
風と月と流星 《詩》

風と月と流星 《詩》

「風と月と流星」

消え残った星が

幾つか頭上に見える明け方

区切られた記憶の空に見えた断片 

あの夜 
流星が描いた線を思い出していた

束の間の儚い一瞬の煌めき

僕を呑み込み含んだその光は

限定された意識の窓に映し出された

命の微粒子で描かれた 

その光の線に

特別な絆と
強い親密感を感じ取っていた

白昼の街が備えた

祝祭的な色彩と太陽の明かりが

僕の中の非対称性を浮き彫

もっとみる
205号室 《詩》

205号室 《詩》

「205号室」

僕の時計の針は

知らないあいだに止まっていた

花瓶の中には一輪の花

沈黙の中には 

ただ花の匂いだけがあった

分厚いカーテンの隙間 

僅かに射し込む光が
真っ直ぐな線を床に描いた

闇の中で黒い影が揺れた

後には戻れない 

わかっている

深い切り傷に
指先で触れ唇を這わせた

其処に全ての鍵がある

僕はそれを知る必要があった

205号室 

暗闇と沈黙と花の

もっとみる
死角 《詩》

死角 《詩》

「死角」

ダークな色合いの

スリーピーススーツ

白いカッターシャツに

律儀な模様の 

黒に近い色柄のネクタイ

その先に死角が
存在している事を誰も知らない

静観の構えを持つ曖昧な壁

その角を曲がると

其処にある黒き空白

死角と呼ぶに相応しい

血が脈打っていた

目印と呼べる物は何も無く

ただ地平線が何処までも広がり

空には灰色の雲が時折 
形を変えて流れていた

微かに吹

もっとみる
もう一度 《詩》

もう一度 《詩》

「もう一度」

不安定で不器用な
感情の塊が骨と肉を纏い

目に見える形を作り出している

その形を持つものから発する

熱と息づかいを

僕は首筋に感じとっていた

抱いてくれ…

そう言い出したのは

僕の方でも彼女からでも無かった

ただ必要だったから

僕等は抱きしめ合って
長い夜を超えた 

世の中の

常識や概念が作る心理を消し去り

ゆったりと川の流れに身を任せた

もう一度 

もっとみる
核 《詩》

核 《詩》

「核」

誰かの意見に

対抗出来るような意見も人格も

持ち合わせていない僕は  

ただうなずく事しか出来なかった

時には誰かの意見を借用して

さも自分自身の考えであるかの様に
振る舞っていた

自分の価値観を持たず 

いつも 

他人の視点と 
尺度を借りて来なければ

何ひとつとして

判断出来ない人間だった

他人の目に良く映る僕の形を

自分の中に創り出していた

人畜無害を装い

もっとみる
曖昧な夜と曖昧な朝の狭間 《詩》

曖昧な夜と曖昧な朝の狭間 《詩》

「曖昧な夜と曖昧な朝の狭間」

全てが暗示的で曖昧な夜

其処に大切な象徴を
見つけようと目を凝らす

ただひとつ

失いたく無いものを心に描いた

入江を渡る風の色が

知りたかったんだ

その色でしか

空白を埋める事が出来ない

最初からわかっていた

自分の属してる世界の価値観や

未来への展望だとか

そんな言葉を口にする人達

僕は耳を塞いで空を見ていた

夕暮れは以前より遥かに希薄に

もっとみる
侵蝕 《詩》

侵蝕 《詩》

「侵蝕」

僕はずっと昔に聞いた

雨音を思い出している

いつも
雨が降っている匂いがしていた

僕等の頭上にはただ空がある

地下鉄を乗り換えて
辿り着いた駅から

ビルの地下街を抜けて街に出た

其処に転がる季節を燃やした

僕等の意識の回路に 

埋め込まれた地図に従い

死の海に向かう

君がひとつになりたいと願った 
あの海に

柱時計のネジをまく片目の老人

時はまだ止まらない 

もっとみる
最終章 《詩》

最終章 《詩》

「最終章」

其処に君が居ると

思い込むんじゃ無くて

其処に君が居ない事を

忘れてしまえばいい

それが僕の恋の始まりだった

僕等を隔てる
距離や周りの雑音は消え去り

僕は常に君を感じる事が出来た

遠くに輝く星はいつも

僕の手を伸ばした少し先にある 

決して触れる事の出来ない虚しさに 

押し潰されそうになっていた

数々の記憶の中から

質の良いものだけを

セレクトして再生した

もっとみる
オールドファッション 《詩》

オールドファッション 《詩》

「オールドファッション」

発する事の出来無い言葉 

文字にする事の無い想い

それはもはや
文字では無い想いでも無い

流れる水が傾斜を降る

決まってそれは
最短距離の道を行く 

時には自らその道を創り出しながら

君はナイロンの光沢で包まれた脚を
何度か組み替えていた

僕は尖ったピンヒールの先を見てた

彼女はいつも自分が

1番綺麗に映る鏡を探していた

僕は特に何も集めてはいないよ

もっとみる
ロマンス 《詩》

ロマンス 《詩》

「ロマンス」

僕は鏡を見つめていた 

其処には

何も映し出されてはいない

空白があるだけだった

感覚が麻痺している訳でもない

混乱や戸惑いもなく 

今を成立させる

基準や理論を探してた

自分自身が捉えた感覚を
適切に言葉に置き換える

その事だけに注力していた

それが僕の証を残す事が出来る

唯一の方法だったからだ

不均一で不可解な
空白と短い語彙で綴られた言葉

形作られた

もっとみる
Beast of Burden 《詩》

Beast of Burden 《詩》

「Beast of Burden」

直感に似た感覚が

僕に耳打ちをする夜

CHANELとPRADAとGUCCIの
残骸が転がる

部屋の中は意味も無く明るい

山積みのファッション雑誌 

ハイヒールとバッグの箱

僕は閉ざされたシャッターに

スプレーで絵を描いている

脈略の無い他の場面の映像が
瞬間的に入り乱れ

混線した古い電話器の

通話の様な 

混沌と退廃を意味する

メッセー

もっとみる
B.G.M 《詩》

B.G.M 《詩》

「B.G.M」

とても小さな音で聴こえてる

耳を澄ませて  

と言う意識は無い 

いつでも交換可能な匿名的なB.G.M

僕はその他大勢の中にある 

固有の不協和音を探していた

何故だろう 
他の誰かでは無い その音を

その明確な理由はわからない

1行1行をしっかりと
噛み締める様な

そんな言葉を欲していた

僕は灰皿に置いたままの

煙草が燃え尽きるのを見ていた

指先でこめか

もっとみる
記憶の蓋 《詩》

記憶の蓋 《詩》

「記憶の蓋」

不確かな覚醒 

夜明け前の色 

それは
不自然に現実性の核を喪失していた

事実を記録した

モノクロの無声映画が流れる

断続的に訪れる場面に僕は居た

その映画に字幕は無く

僕は彼女の口元を見つめていた

灰色の曇り空を
飲み込んだ様な空間が

辺りを包み込み

僕等か共有したはずの時間が 

其処に映し出されていた

思い出せない 

何もわからない

彼女の名前も顔も

もっとみる