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散文詩

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言葉 《詩》

言葉 《詩》

「言葉」

非調和性を帯びた不協和音と

トランス状態に似た
微かではあるが確実な狂気

意識と無意識の境目が手招きをする

僕は半円形の世界を見ていた 

其れはただ

見る必要性に迫られたからで

本当に見たいから

見ていた訳じゃ無い

いつしか僕は
現実では無い世界の中に

自分の見たいものを

自分自身で見つけ出した

其処には僕と個人的に

結びついているとしか思えない

そんな言葉が

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誰よりも 《詩》

誰よりも 《詩》

「誰よりも」

街路樹の並木が遊歩道の路面に

くっきりとした涼しい影を落とす

なんだか初夏に似た感じ

誰かがギターを弾いて
歌を歌っている

僕等は海を見ていた 

特に理由がある訳じゃ無い

もしもあるとすれば 

水と波音と其処に吹く風が

僕等にとっては
大切な意味を持っている 

海は太陽の光を受け色や波の形や

満ち引きの速さを変えて行く

鮮明であり曖昧であり  

その輪郭の色

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Let It Be 《詩》

Let It Be 《詩》

「Let It Be」

時間の座標軸が

少しずつ緩み崩れて行く

濃密な気配を其処に残したまま

深く理不尽な暗闇が

世界を激しく揺さぶる

朝の光と共に眠る

僕は僕の一部を僕自身で発見する

その時を其処で静かに待っている

本棚から取り出した地図には

僕の知らない場所 

行った事の無い街が描かれている 

無個性に似通った現実とは 

そんな夜

テーブルの上には

ケチャップだら

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境界線の北 《詩》

境界線の北 《詩》

「境界線の北」

意識の中で人工的に創り出した楽園

その外に一歩足を踏み出すと

途端に荒々しい現実に
直面させられる

擦り切れ始めた幻想の先 

汚れた海が物哀しい波音を響かせる

ひとつひとつの点を線で辿る時

幻想と現実の差異を認識する

冷静にして沈着な計算を
要求されている

僕は失敗するわけにはいかない

不調和 

脱落 

不協和音 

遥かなる眼下

虚空を睨むマリア像 

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オッドアイ 《詩》

オッドアイ 《詩》

「オッドアイ」

静かで濃密な確信が其処にはある

疑いの無い確信が恒常的に

内紛の火種を抱える

汚く猥雑で出鱈目な街 

それでも街の夜景は綺麗に見えた

屈曲していない純粋な微熱を帯びる

イエスかノー 
其処には一切の保留条項は無い

窓から海が見えた 

白い海と黒い海 波は無い

僕は轍を見つけては其れを辿る

強固な世界観を有した
偽装社会の中で

夕暮れの空を背景に観覧車が廻る

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君を捨てる 《詩》

君を捨てる 《詩》

「君を捨てる」

君を捨てる 

其の傷跡は誰にも見えない

深さや形を変えてなおも
消える事無く記憶の中に生きている

僕は独り君との足跡を辿る

悲しみ 

動揺 

葛藤を含む象徴的な暗号

誰にもわからない様に詩的に変換し
吐露する事

それが唯一の
逃げ場である事を僕は知っていた

斬殺 斬首された風の無い深淵

其処に残された血を

跡形も無く流し去る激しい雨

僕は捨てられ 僕は君を

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破滅の淵 《詩》

破滅の淵 《詩》

「破滅の淵」

僕等は先を急いではいない 

時間がかかるなら 

それでも構わない

空をゆっくりと流れる雲は

広い空の中に
自分の居場所を定めている

何処か遠くで

誰かが誰かを呼んでいる

僕等は世界でただひとつの

完結した場所に辿り着く

何処までも孤立し誰も入れない空間

其処には差し出すものも
求めるものも無い

沈黙のうちに過ぎる時 

だけど孤独に染まる事は無い

彼女は僕の

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静脈 《詩》

静脈 《詩》

「静脈」

時間が不規則に揺らぐ

僕が心の中の牢獄に

閉じ込められている事を

誰も知らない 

其の牢獄を出る事は 簡単だ

自分自身の意志で出てゆけば良い

鍵をかけたのも
鍵を開けるのも全ては自分自身

周りの声達は

もう僕に話しかける事を辞めていた

僕は誰にも

見る事の出来ない風景を睨みつける

其処には枯渇した水脈がある

僕が解き明かすべき暗号を
君は持って居る

現実と仮説

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神の月 《詩》

神の月 《詩》

「神の月」

起き忘れられた野心と色褪せた希望

空白に似た諦めが目に見える空を

無感覚に覆い尽くす

其処に浮かび上がる

薄い刃物の様な三日月は

失うべきものは何も無い 

命さえも そう静かに語る

何日も風の強い夜が続く

時々わけもなく涙が溢れた

だけどそんなに孤独じゃないよ

お前もそうだろう 
そう三日月に囁いた

俺は意識の枠の外側で

自分自身の神に触れる

お前達の神じゃ

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記憶の庭園 《詩》

記憶の庭園 《詩》

「記憶の庭園」

僕は其処に

ひとつの季節の匂いを感じていた

現実と幻想の境目

僕が死んだのは
もう一度再生する為だ

そうやって全ての事柄は

死に再生する

生命の萌芽を湛えた空が

海に溶け落ちる

其処にはどの様な地点も無く

時間の感覚さえも無い

死の無いところに再生は無い 

そう彼女は静かに囁いた

永遠とは
終わりなく何処までも続く道

僕は記憶の庭園で

彼女と会話を交わ

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風を待つ月 《詩》

風を待つ月 《詩》

「風を待つ月」

いつか遠からず其の日はやって来る

長い沈黙の後にそう彼奴は言った

僕は記憶の寿命を延命する様に 

其の断片を永遠に刻み込む様に

時折 
彼奴の言葉を心の中に落とし込む

ジムビームとメンソールと小説と

あの夜 
高速の高架下から見上げた月

僕は意識の中にある

彼奴の扉をノックした

彼奴の愛した最後の女 
そして弟

桜の花びらが結晶化する

永遠を形造るもうひとつ

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方舟と幸せの鐘 《詩》

方舟と幸せの鐘 《詩》

「方舟と幸せの鐘」

心を失くした

深い森の中を彷徨っていた

全ては無音のうちに始まり

邪悪な野獣と

純粋な精霊の吐息を聞いた

不確かな人生の灯りが揺れる

暗い終末の気配を含んだ
湿り気を帯びた風

彼女は方舟…そう一言だけ呟いた

特別な生命の匂いを彼女に感じた

僕等に歌う歌があるとしたなら

僕は漠然とそんな事を考えていた

僕の純粋な仮説が

保留の無い激しい愛を呼ぶ

彼女に

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小世界 《詩》

小世界 《詩》

「小世界」

この世界には 

絶対的な善も無ければ

絶対的な悪も無い 

善は悪に転換し 

悪は善に転換する 

あるのは其の均衡だけだ

すなわち均衡そのものが善である

其の本にはそう書かれていた

死は解放でも復讐でも無く
空白を生むだけだ

僕はそう書き残した

世界が同義を失い崩れてゆくのは

僕達の苦悩や煩悶のせいでは無い

雷鳴とどろく夜に全ての意味を知る

いつだってどんな時

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月明かり 《詩》

月明かり 《詩》

「月明かり」

満月がくまなく街を照らす夜

僕は自分自身が
失われるべき場所のドアを開けた

その場所に君が

閉じ込められている事を

知っていたから

君は残された短い命を慈しむ様に

詩を書いていた

その事だけは僕には 
はっきりとわかっていた

その場所には僕達ふたりしか居ない

そのドアは一方向にしか開かない

僕等は

正しく人を愛する事が出来なかった

そしてまた

自分自身を正

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