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ドラマ・シネマローグ

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日本のドラマ・映画を中心に感想と思ったこと考えたこと。
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#映画レビュー

映画「髪結いの亭主」パトリス・ルコント〜醒めない甘美な夢

映画「髪結いの亭主」パトリス・ルコント〜醒めない甘美な夢

主人公のアントワーヌは12歳の頃、豊満でいい匂いのする理髪店の女主人に恋し店に通いつめていた、なかなか早熟な少年であった。
父親に「将来の夢はなんだ?」と聞かれ、「床屋の女の人と結婚すること」と答えたアントワーヌは、ぶん殴られる。
日本でも昔は "髪結いの亭主" といえば、妻の稼ぎをあてにし養われている男を意味し、いわゆる "ヒモ" を指していた。
フランスでも同じなんだろうか、と思った。

この

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映画「土を喰らう十二ヵ月」、水上勉「土を喰う日々 わが精進十二ヶ月」~滋味深く生きること

映画「土を喰らう十二ヵ月」、水上勉「土を喰う日々 わが精進十二ヶ月」~滋味深く生きること

映画『土を喰らう十二ヵ月』を観た。

作家のツトム(沢田研二さん)は、愛犬の "さんしょ" と信州の山奥にある山荘で暮らしている。
ツトムは季節ごとの山の恵みを享受し、小さな畑を耕し、子供の頃口減らしに出された京都の禅寺でおぼえた精進料理を自ら作り、喰う。

映画の中では四季折々の山の風景が映し出され、季節の移り変わりを表す二十四節気を示す構成は、まだ雪深い立春から始まり、啓蟄、清明、立夏、芒種、

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映画「PERFECT DAYS」〜かけがえのない毎日に、言葉はいらない

映画「PERFECT DAYS」〜かけがえのない毎日に、言葉はいらない

やっと観てきました「PERFECT DAYS」
ヴィム・ヴェンダースの映画を観たのはいつぶりだろう…と思い返したら「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」以来だった…。
なんとあれから20年以上も経っており、浦島太郎にでもなったような気分。

上映開始40分前に、いきなり夫が映画に行こうと言い出し、体感温度マイナス20°の中、ツルツルに凍った道を小走りし滑り込む勢いで映画館に到着したものの、慌てて家を

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Chet Baker〜ブルー ヴァレンタイン ジャズ

Chet Baker〜ブルー ヴァレンタイン ジャズ

2月14日は、こちらの国はヴァレンタインデーではなく「友だちの日」だ。
愛を告白する日でも、恋人同士が愛を囁き合う日でもなく、女性から女性、男性から男性、女性から男性またはその逆などなど、親しい友人にクッキーなどほんのちょっとしたものを贈る日なのだ。それもけっこう最近のことで、その前は只の普通の日だったので、そんなに定着もしていない。
あくまでも欧米の商業主義には迎合せず(いちおうヨーロッパなんだ

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映画「怪物」〜人は、見たいものだけを、見たいように見ている

映画「怪物」〜人は、見たいものだけを、見たいように見ている

ずっと観たかった映画「怪物」
実は、昨年の一時帰国の際に飛行機の中で観ることが出来たのだけど、途中何度か機内アナウンスが入り画面が中断したりで集中出来なかったこともあり、観終わったあとも混沌として感想がまとまらず…。
今こちらの国ではやっと上映が始まりもう一度観たので、今頃だけど感想を書こうと思う。

あらすじについては、note内でも沢山の感想記事があるので割愛する。

まず2度観た最初の感想は

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映画「ノスタルジア」 アンドレイ・タルコフスキーの内的宇宙と映像詩

映画「ノスタルジア」 アンドレイ・タルコフスキーの内的宇宙と映像詩

30年ぶりくらいにタルコフスキーの映画を再び観た。

アンドレイ・タルコフスキーは旧ソ連出身の映画監督で、亡命後は祖国に戻ることなく1986年にパリで生涯を終えている。

「ノスタルジア」は、タルコフスキーの中でも一番好きな作品だ。
18世紀ロシアの音楽家であるサスノフスキーの足跡を辿りイタリアに滞在している、主人公の詩人・ゴルチャコフは、信仰心の厚さから世界の終末を信じ7年間も家族ぐるみで家に閉

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ジョン・カサヴェテス~30年ぶりの邂逅

ジョン・カサヴェテス~30年ぶりの邂逅

先日、契約しているサブスクでジョン・カサヴェテス監督の作品が配信されているのを発見し、30年ぶりくらいに鑑賞した。
20~30代の映画漬けだった頃に出会った、インディペンデント映画の父と呼ばれるギリシャ系アメリカ人のジョン・カサヴェテスの作品は、ハリウッドとは一線を画し、あくまでもインディペンデントにこだわり、自身が俳優業で得たギャラ(「ローズマリーの赤ちゃん」では夫役)、自宅も抵当に入れ、撮影場

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小説・映画「こちらあみ子」今村夏子~無垢な歪さと世界の軋み

小説・映画「こちらあみ子」今村夏子~無垢な歪さと世界の軋み

今村夏子さんのデビュー作である「こちらあみ子」を読み終わり、何と表現したらいいのか…言葉に出来ないような感情が次々と湧き上がってきた。

これは映像の方も観てみたいと思い、急いで映画の方も観た。
あみ子役の大沢一菜ちゃんの目力のある表情がすごく良い。これが初めての演技とは思えないくらい自然にあみ子になりきっていた。「誰も知らない」でデビュー時の柳楽優弥くんを彷彿とさせた。
父役の井浦新さんが舞台挨

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映画「ツユクサ」~ありふれた日常の小さな奇跡

映画「ツユクサ」~ありふれた日常の小さな奇跡

小林聡美さん主演の映画「ツユクサ」を観た。

海辺の町でつつましく暮らす五十嵐芙美(小林聡美さん)はある日、運転中に落ちてきた隕石と衝突する。
冒頭からこんな事件が起きると、非日常を描いてゆくのかと思うけれど、物語は終始、田舎町の平凡な日常の中で進んでゆく。

芙美の年の離れた親友である航平(斎藤汰鷹くん)の将来の夢は、天文学者になることで、「隕石が人間に当たる確率は1億分の1なんだよ!」と芙美に

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映画「花束みたいな恋をした」~あの頃の風景

映画「花束みたいな恋をした」~あの頃の風景

遅ればせながら、映画「花束みたいな恋をした」を観た。

この作品は坂元裕二さん脚本にしては、サブカル好きのカップルを主人公にしながらも、拗らせずに素直というかマイルドで、これはこれでスッと心に入ってきた。
"これって自分たちのことですか?" と思った人も多いんじゃないか、というような、普遍的なラブストーリーだと思った。

ところで、学生時代の恋愛がそのままスムーズに結婚へと成就したカップルというの

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映画「すばらしき世界」〜厳しくも優しくこの世は美しい

映画「すばらしき世界」〜厳しくも優しくこの世は美しい

西川美和監督作品『すばらしき世界』を遅ればせながら視聴した。
今回も一人の人間の多面性と人生に深く切り込んだ脚本が素晴らしかった。

役所広司さん演じる三上は、旭川刑務所での13年の刑期を終え出所し東京へ向かう。
人生の大半を刑務所で過ごしてきた三上は、今度こそもう二度とムショには戻らないと誓い悪戦苦闘しながら社会復帰を目指すが、元ヤクザの前科者である三上が堅気の世界で生きる術を見つけることはそう

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映画『ドライブ・マイ・カー』〜喪失と再生のロードムービー

映画『ドライブ・マイ・カー』〜喪失と再生のロードムービー

私の住む国でも映画館で『ドライブ・マイ・カー』の上映が始まった。
だけど何度か見直したい作品だと思ったので、私は配信で鑑賞した。

冒頭、窓の外に広がる夜明けの空を背に、家福の妻・音(霧島れいかさん)は寝物語を家福(西島秀俊さん)に語る。その様子はまるでトランス状態にある巫女のようで、天から物語が降りてくるかのようだ。
しかし音は、翌日になると自分が話したことを覚えていなくて、今度は家福が昨夜の物

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三浦春馬 映画「アイネクライネナハトムジーク」~小さな夜、ささやかな幸せ

三浦春馬 映画「アイネクライネナハトムジーク」~小さな夜、ささやかな幸せ

『アイネクライネナハトムジーク』は、春馬くんが旅立ってから何度も観た。
ずっと感想を書こうとしていたけれど、もう春馬くんの新しい作品はないのだと思うと、残された一つ一つの作品を惜しみながら噛みしめるように、その感想を丁寧に書いてゆきたいという気持ちが強くなった。

◇ ◇ ◇

この作品の主役は春馬くんだけれど群像劇なので、一人だけ突出するでもなく、これまで春馬くんが演じた中でも一、二を争うくらい

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三浦春馬 映画 「東京公園」 ~ファインダー越しに見つめる世界

三浦春馬 映画 「東京公園」 ~ファインダー越しに見つめる世界

秋も深まり、紅葉した木々の葉が散り始め、地面は黄色や赤の落ち葉の絨毯が敷き詰められたようで美しい。
この国はすでに晩秋で、もうすぐ長い長い冬がやって来る。
そんな季節が来る前の秋日和の休日に『東京公園』をまた観た。
春馬くん21歳(撮影時は20歳)の時の公開作品だ。20歳の頃というと、高校生を演じたかと思うと高校教師になったり大学生になったり、春馬くんは演じる年齢も変幻自在だ。

はじめに
この作

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