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連載シリーズ 物語の“花”を生ける

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文学作品や絵画、映画などに現れる花や植物の持つ力を、作品の中から掬いだして生ける
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【プロローグ】 物語の“花”を生ける

【プロローグ】 物語の“花”を生ける

昨年の7月から「物語の“花”を生ける」というシリーズで連載をしている。

そもそもこのnoteのコンセプトが「物語と物語をつなぐ千の花」である以上、花について何か書いてみたいとずっと思っていながら、何を書いたらいいのか分からない時間が長く続いた。

作家梨木香歩さんに『不思議な羅針盤』というエッセイ集があり、その中のいつくかに、さまざまな土地での暮らしとその土地に生きよう、根づこうとする花や植物の

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女の生き難さを物語る花

女の生き難さを物語る花

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第11回 『源氏物語』 朝顔の巻
駅の改札で待ち合わせをしていると、女子高生がふたり、向こう側から歩いてきた。

眩いばかりのエネルギー、この瞬間にしかない生命のきらめき。

その年齢にあるときは気がつかなかったけれど、私の人生にも、きっとそんな一瞬があったのだろう・・・。

そんな気持ちで近づいてくるふたりを眺めていると、そのうち

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それでも太陽をみつめつづけた花

それでも太陽をみつめつづけた花

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第10回 映画 『ひまわり』(監督:ヴィットリオ・デ・シーカ 主演:ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ)
トリエステのロンキ・デイ・レジョナーリ空港(通称 フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア空港)に到着したのは、空にまだ、オレンジ色のグラデーションが残る時間だった。

薄暗いターンテーブルところで荷物が出てくるのを待ちなが

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過去も未来も超える花

過去も未来も超える花

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第9回 『時をかける少女』(筒井康隆)
数年前に花生けをはじめるまで、花が好きだとか、植物に興味があるだとか思ったことがあまりなかった。

小学生のとき、夏休みに朝顔やひまわり、糸瓜(へちま)を育てて観察日記をつけるという課題があった。なぜか毎年、芽すら出たことがなく、観察日記がつけられなくて、田舎で植物を育てていた祖父に泣きついた

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小町の復讐をかたどる花

小町の復讐をかたどる花

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第8回 『小町の芍薬』(岡本かの子)2020年。私たち人間だけでなく、花や植物たちにとっても厳しい年だった。

日本では3月に自粛生活がはじまり、4月に緊急事態宣言が出て、一年のうちでもっとも花を必要とするイベントがすべて中止になった。花や植物の需要が激減し、それを生業とする人すべてが苦しんだ。生産者は丹精込めて育てた花や植物たちを

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花に生かされ、花に奪われたラブストーリー

花に生かされ、花に奪われたラブストーリー

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第7回 『うたかたの日々』(ボリス・ヴィアン)花を生けるというのは、実にお金がかかる。もちろん生ける頻度、花の種類や量、表現したい世界観などによって、かける額は違うけれど、上手になろう、自分の世界を表現して他者に見てもらおうとすると、相応にかかる。

お茶やカメラ、釣り、車、楽器など道具にお金がかかる仕事や趣味はたくさんあるけど、花

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鬼がこの世にただひとり、生きた証を刻みつける花

鬼がこの世にただひとり、生きた証を刻みつける花

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第3回 紫苑物語(石川 淳)前の週の暑さがうそみたいに冷え込んだ9月終わりの雨の日、花の稽古で花材の仕分けをしていると、直径3センチほどの小菊のような薄紫色の花を手にした。

それまであまり見たことのない花だったけれど、その姿形からこれは紫苑かもしれないと直観した。先生にたずねてみたところやはりそうだった。

須賀敦子の『トリエステ

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純度の高い恋は地に落ちて、いっそう輝く

純度の高い恋は地に落ちて、いっそう輝く

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第1回 ナイチンゲールとばらの花 (オスカー・ワイルド)子どもの頃、女優の岸田今日子さんや宮城まり子さんらが声優となって、世界の名作童話を語るというテレビアニメがあった。童話といっても昔話やおとぎばなしの回もあれば、世界の近現代の作家が人間の真善美やかなしみを描いた短編作品の回もあった。

私は基本的に昔話やおとぎばなしの回の方が好

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