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記憶

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宿世

宿世

どこまでも近づけなかった。
最適な距離を探るために待ち続けることはできなかった。

触れた目には、数えられるくらいの可能性が広がっていた。
澱みなく映るその姿に、ふたりは新しい自分をみた。

伝えたい言葉はいつもありふれていて、飾れば飾るほど陳腐なもののように思えてならなかったその「言葉」は、それほど重要ではないことを意味していた。

「言葉」なんてただのまやかしに過ぎなかった。いくらなにをどう伝

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四半世紀モノローグ

四半世紀モノローグ

その重さに耐えられなくなり、いつしか恐れを抱くようになっていた「言葉」。救われたと感じる時、いつも隣にいたのは、会ったことのない、もうこの世に存在しない人の「言葉」。生身の人間に救いを求めたかったはずの私が、声をあげることを幾度も拒んできたのは、それを伝えることで目の前の人が消えてしまうという強迫観念にも似た思いにあった。

"自分の感情を伝えること"

人生のハードルを著しく困難にさせていたのは

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春の記憶にあなた

春の記憶にあなた

季節を重ね、春を待った。

春めいたあの日、私はあなたに会いに行った。

ほんとうに優しい目をしている。

それは今も変わらずで、なんだかとっても嬉しくなった。

穏やかに時が流れ、心があったかくなる、
日常の花束みたいな人。

寄り道をして、
通れない道が次第にわかるようになった。

通れないと思っていた道は、
いつのまにか通れるようになっていた。

でも、ページの続きはめくれないでいた。 

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あなたに照らされて

あなたに照らされて

#1自分じゃない何かを変えようとすることは
いつからかしなくなった。

変えられないものと変わっていくもの。

変えられないもののために走り回っていたから、
いつも憔悴していた。

コントローラーを握っていたのは私ではなかった。
でもずっと私が握っているのだと思っていた。

私さえなんとかすれば、現状打破できる。
でも現実はあっけないくらいに私を素通りする。

私のコントローラーは私以外の何者か

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いつかの君へ

いつかの君へ

あの時かけてくれた言葉がよくわからなかった。

でも本当はわたしのためを想って吐いてくれた
言葉だったんだ。

表面をただなぞるだけ、
真意を理解できるほどの自分ではなかった。

きっと、あなたの好意に甘えていたのだ。

境界線を引いて伝えてくれたあの言葉の意味が、
やっとわかったよ。

あなたはいつもわたしの一歩先を見ている。
何年経ってもそれは変わらない。

奥底にこびりついたものを引き剥がす

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二月日記

二月日記


#1年が明けて 、早数ヶ月。
noteに心情を書き綴っては、悩んだ。

自分はなにを大切にし、生きたいのか。

過去の記憶との折り合いのつけ方。
手放したい人間関係や環境はなんなのか。

だれと会話するわけでもなく、
只々、自分の心と対話し続けた。

ハッとさせてくれたのは、
本、音楽、映画、YouTube、過去の記憶だった。

今のわたしにスッと入ってくる。
理解しなければとかではなく、腑に落

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眠れない夜の回顧録

眠れない夜の回顧録

過去の忘却辿る

これまで生きてきて、周りには本当にいろんな人がいた。会いたい人には会いにも行った。面白そうなことをしている人。自分と真反対の価値観を持って生きている人、似たような考えを持って、一緒に居て居心地のよかった人。今も連絡が取れる人もいれば、自然に疎遠になった人もいる。人間関係は流動的であるから、この状態はとても自然なことであると思う。でもここで言えるのは、今の私を形作っているのは、紛れ

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人が求めているのは、自分を見てくれている存在なのかもしれない

人が求めているのは、自分を見てくれている存在なのかもしれない

私は話をする側される側どちらの機会が多いか、断然される側だった。昔から相談や悩みを持ちかけられる。正直、なにも経験していない自分に話をされてもなにもできないのにと思いながら聞いていた。

自意識の芽生えがない時期に相談されていた時は、自分と相手との境界がわからなくなり、一緒に悩んだり考えたりして、相談してくれた相手に自分なりに考えた言葉を伝えたりもしていた。でもそのたびになにかをすり減らしているよ

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目に映るものがすべてではないのなら、あえて自分を忘れてみる

目に映るものがすべてではないのなら、あえて自分を忘れてみる

自分を捉える/ 逸脱する

包み隠さずに伝えること。伝えた後に相手がどう感じ動いていきたいのか、その部分は伝えた本人がコントロールできる領域ではない。伝えた本人が相手にこう動いてほしいと思って言ったとしても、目の前にいる相手が自分と同じように感じ動きたいと思うかは伝えてみないとわからない。

伝えられた側からしてみれば、正直に話してくれることは誠実だと感じるものだろう。しかし、自分とは異なる考えや

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