マガジンのカバー画像

140文字小説

306
Twitterで日々投稿している140文字小説をまとめたものです。
運営しているクリエイター

#小説

薬指の殺虫剤 (140文字小説)

薬指の殺虫剤 (140文字小説)

 私は薬指に殺虫剤をはめている。

 効果絶大だ。

 戸籍にバツがつく書類を提出した途端、虫がぶんぶん寄ってきた。

 新しいパートナーも考えたが、暫く一人を満喫したい。

 友人に相談すると殺虫剤を提案された。

 おかげで毎日穏やかだ。

 いつか殺虫剤の役目が変わればなと、今は少し思っている。

魔法の使い道 (140文字小説)

魔法の使い道 (140文字小説)

 世は第三次魔法少女ブームが来た。

 学生の希望職業ランキングでも堂々の二位だ。

 養成所は数を増やし、卒業生達は街で悪を成敗している。

 彼女達の収入源はもっぱら握手会だ。

 イベントには多くの人が列を作る。

「皆さん。今日も魔法でたっぷりとお布施もらってください」

「はい!所長!」

哲学者 (140文字小説)

哲学者 (140文字小説)

 我思うゆえに我あり。

 有名なデカルトの言葉だ。

 懐疑的なものばかりでも、それを疑う自分は紛れもなく存在している。

 そう、僕はいる。

 僕はここにいるんだ!

 でも誰も僕を認知していない。

 だから僕は訴える。

 身体を使って渾身の力で。

 そして、僕は飛び込む!

 バチン!

「また蚊か…」

海はひろいな (140文字小説)

海はひろいな (140文字小説)

 海は広いな、大きいな。

 子供の頃、よく口ずさんだ。

 月が昇り、日が沈む。

 いつからだろう。

 一日中、海を眺めるようになったのは。

 海は大波、青い波。

 揺れてどこまで続くの?

 海にお舟を浮かばして、行ってみたかった他所の国。

 着いたのは無人の島。

 嗚呼、発見されるのいつなのか~。

五十の恋 (140文字小説)

五十の恋 (140文字小説)

 好きな人ができた。

 来年は五十だ。

 年甲斐もないと自覚している。

 女房とは若い頃に別れ、娘とも長いこと会えていない。

 このまま、ゆっくり歳を重ねると思っていた。

 待ち合わせの場所に彼女は急ぎ足で現れた。

「じいじ~」

 パタパタと駆けてくる姿は娘にそっくりだ。

 年甲斐もない男だ。

失格者 (140文字小説)

失格者 (140文字小説)

 怒ってないよ。

 そう口を動かしながらも、表情は冷たい。

 楽しいね。

 そう声を発しながらも、口角は下がっている。

 人の表情と裏に潜む感情の不一致に、いつも戸惑う。

 僕がおかしいのかな。

 足元に猫がすり寄る。

 彼らは気まぐれだけど裏表がない。

 人を怖いと思う僕は失格者なのだろうか。

ささやかなコーラ (140文字小説)

ささやかなコーラ (140文字小説)

 彼と別れて、1000回眠った。

 私は日課のコンビニに向かう。

 冷たくないコーラを開け、人気のない店を出る。

 道の死骸はすっかりと消えた。

 空は青く、鳥もいるのに、人だけがいない。

 土地も店も好きにできるけど、嬉しくない。

 誰かとコーラを飲みたい。

 それが、いまのささやかな願いだ。

命の矜持 (140文字小説)

命の矜持 (140文字小説)

 まずっ!食えるか、こんなもん!

 隣の席の男が吠えている。

 味は普通だけど。

 贅沢だな、と私は思った。

 七日後、世界は戦争になり生活が一変した。

 瓦礫を背にして、見たことある男が佇んでいた。

「水を分けてくれ…」

「泥水でよければ」

 拒否した男がどうなったか、その後私は知らない。

紺碧のサファイア (140文字小説)

紺碧のサファイア (140文字小説)

 これをください。

 泉の胸元で映えそうなブルーサファイア。

 誕生日に喜んでくれるだろうか。

 改札を出ると、泉から着信があった。

 僕は踵を返し、いまはつり革に釣られている。

 目的がない旅の終点は海だった。

 ─好きな人ができたの。

 残響する泉の声。

 紺碧の海に僕はサファイアを投げた。

僕は待つ (140文字小説)

僕は待つ (140文字小説)

 改札口から人が流れてくる。

 たくさんいる。

 顔馴染みもいる。

 知る人は手を振ってくれる。

 今日も駄目なのかな。

 僕は項垂れ、踵を返し家に戻る。

 ご飯を食べて、床についた。

「ハチ。もう先生はいねえんだよ…」

 彼はなんと言っているのだろう。

 人の言葉がわかればと、僕はいつも思う。

クイズ王にも勝つ! (140文字小説)

クイズ王にも勝つ! (140文字小説)

 指が強張る。

 集中だ。

 耳を研ぎ澄ませ。

 目を見開け。

 さあ来い。準備は万端だ。

 今の俺の集中力なら、間違いなくクイズ王にも勝てる。

 ガチャ。合図が鳴った。

 ハラリ。なんの音だ。

 カーテンの隙間に集中しろ。

「ベランダにぶら下がっている男!降りて来なさい!」

 ちっ!ここで脱落か。

雨を歩く (140文字小説)

雨を歩く (140文字小説)

 パラパラと雨が鳴る。

 雨粒達が軽快に窓を叩く。

 こんな日は、傘を持たずに外に出たいと私は思う。

 自然のシャワーにからだを洗われるけど、水溜まりにも足を落としたくなる。

 雨は人間みたいだ。

 いないと生きられない。

 けれど度が過ぎれば災いもある。

 それでも、私は雨の中を歩くのだ。

ままならないことばかりだ (140文字小説)

ままならないことばかりだ (140文字小説)

 ままならないことがある。

 たとえば親の転勤。

 ガキの俺は、当時、抗う力がいなかった。

 ─20歳になったら会おうね。

 引っ越しの日の、あの子との約束。

 約束の場所に、大人のあの子?が来た。

 あなたが…君?

 あの子は死んだの。私は伝言係。

 好きでした、約束守れずごめんね。

 だそうよ。

約束はただの保険 (140文字小説)

約束はただの保険 (140文字小説)

 約束は保険だった。

 お互い、三十まで独身なら結婚しようぜ。

 同僚の酒の席での戯言。ただの保険だ。

 でも保険を使う歳になってしまった。

 しかし約束を履行する直前、同僚の海外転勤が決まった。

 約束はご破算だ。

 の、はずだったのに…

 約束は守る、とあいつは会社を辞めた。

 本当、バカ…