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東原そら
2021年11月14日 19:45
私は薬指に殺虫剤をはめている。 効果絶大だ。 戸籍にバツがつく書類を提出した途端、虫がぶんぶん寄ってきた。 新しいパートナーも考えたが、暫く一人を満喫したい。 友人に相談すると殺虫剤を提案された。 おかげで毎日穏やかだ。 いつか殺虫剤の役目が変わればなと、今は少し思っている。
2021年11月10日 16:58
世は第三次魔法少女ブームが来た。 学生の希望職業ランキングでも堂々の二位だ。 養成所は数を増やし、卒業生達は街で悪を成敗している。 彼女達の収入源はもっぱら握手会だ。 イベントには多くの人が列を作る。「皆さん。今日も魔法でたっぷりとお布施もらってください」「はい!所長!」
2021年9月29日 20:51
我思うゆえに我あり。 有名なデカルトの言葉だ。 懐疑的なものばかりでも、それを疑う自分は紛れもなく存在している。 そう、僕はいる。 僕はここにいるんだ! でも誰も僕を認知していない。 だから僕は訴える。 身体を使って渾身の力で。 そして、僕は飛び込む! バチン!「また蚊か…」
2021年9月29日 20:42
海は広いな、大きいな。 子供の頃、よく口ずさんだ。 月が昇り、日が沈む。 いつからだろう。 一日中、海を眺めるようになったのは。 海は大波、青い波。 揺れてどこまで続くの? 海にお舟を浮かばして、行ってみたかった他所の国。 着いたのは無人の島。 嗚呼、発見されるのいつなのか~。
2021年9月26日 19:49
好きな人ができた。 来年は五十だ。 年甲斐もないと自覚している。 女房とは若い頃に別れ、娘とも長いこと会えていない。 このまま、ゆっくり歳を重ねると思っていた。 待ち合わせの場所に彼女は急ぎ足で現れた。「じいじ~」 パタパタと駆けてくる姿は娘にそっくりだ。 年甲斐もない男だ。
2021年9月26日 19:31
怒ってないよ。 そう口を動かしながらも、表情は冷たい。 楽しいね。 そう声を発しながらも、口角は下がっている。 人の表情と裏に潜む感情の不一致に、いつも戸惑う。 僕がおかしいのかな。 足元に猫がすり寄る。 彼らは気まぐれだけど裏表がない。 人を怖いと思う僕は失格者なのだろうか。
2021年9月22日 20:21
彼と別れて、1000回眠った。 私は日課のコンビニに向かう。 冷たくないコーラを開け、人気のない店を出る。 道の死骸はすっかりと消えた。 空は青く、鳥もいるのに、人だけがいない。 土地も店も好きにできるけど、嬉しくない。 誰かとコーラを飲みたい。 それが、いまのささやかな願いだ。
2021年9月7日 18:08
まずっ!食えるか、こんなもん! 隣の席の男が吠えている。 味は普通だけど。 贅沢だな、と私は思った。 七日後、世界は戦争になり生活が一変した。 瓦礫を背にして、見たことある男が佇んでいた。「水を分けてくれ…」「泥水でよければ」 拒否した男がどうなったか、その後私は知らない。
2021年9月5日 17:37
これをください。 泉の胸元で映えそうなブルーサファイア。 誕生日に喜んでくれるだろうか。 改札を出ると、泉から着信があった。 僕は踵を返し、いまはつり革に釣られている。 目的がない旅の終点は海だった。 ─好きな人ができたの。 残響する泉の声。 紺碧の海に僕はサファイアを投げた。
2021年8月25日 20:37
改札口から人が流れてくる。 たくさんいる。 顔馴染みもいる。 知る人は手を振ってくれる。 今日も駄目なのかな。 僕は項垂れ、踵を返し家に戻る。 ご飯を食べて、床についた。「ハチ。もう先生はいねえんだよ…」 彼はなんと言っているのだろう。 人の言葉がわかればと、僕はいつも思う。
2021年8月23日 20:21
指が強張る。 集中だ。 耳を研ぎ澄ませ。 目を見開け。 さあ来い。準備は万端だ。 今の俺の集中力なら、間違いなくクイズ王にも勝てる。 ガチャ。合図が鳴った。 ハラリ。なんの音だ。 カーテンの隙間に集中しろ。「ベランダにぶら下がっている男!降りて来なさい!」 ちっ!ここで脱落か。
2021年8月22日 21:34
パラパラと雨が鳴る。 雨粒達が軽快に窓を叩く。 こんな日は、傘を持たずに外に出たいと私は思う。 自然のシャワーにからだを洗われるけど、水溜まりにも足を落としたくなる。 雨は人間みたいだ。 いないと生きられない。 けれど度が過ぎれば災いもある。 それでも、私は雨の中を歩くのだ。
2021年8月21日 19:49
ままならないことがある。 たとえば親の転勤。 ガキの俺は、当時、抗う力がいなかった。 ─20歳になったら会おうね。 引っ越しの日の、あの子との約束。 約束の場所に、大人のあの子?が来た。 あなたが…君? あの子は死んだの。私は伝言係。 好きでした、約束守れずごめんね。 だそうよ。
2021年8月21日 19:42
約束は保険だった。 お互い、三十まで独身なら結婚しようぜ。 同僚の酒の席での戯言。ただの保険だ。 でも保険を使う歳になってしまった。 しかし約束を履行する直前、同僚の海外転勤が決まった。 約束はご破算だ。 の、はずだったのに… 約束は守る、とあいつは会社を辞めた。 本当、バカ…