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邪道作家第八巻 人類未来を虐殺しろ!! 狂気を超える世界 分割版その3

新規用一巻横書き記事

テーマ 非人間讃歌

ジャンル 近未来社会風刺ミステリ(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)

縦書きファイル(グーグルプレイブックス対応・栞機能付き)全巻及びまとめ記事(推奨)

   3

「何故先生は人を殺せるんだい?」
「邪魔者を殺せなかったら、こちらが危ういだろうが。むしろ、それが出来なければどうすると言うんだ。黙って殺されるよりは殺した方がいい」「間違いだとか、事故だったらどうするんだ?」「人間社会は謝れば何でも許されるように出来ているらしいからな。御免ですませるさ」
「アンタ最悪だな」
 そんな至極どうでもいい会話を繰り広げながら私、いや我々二人は宇宙船の中にいた。
 無論、ファーストクラスだ。
 物語で儲けてこそいないものの、金はある。
 あの女から貰ったしな。
 だから、尚更作家業などやめてしまおうと思う今日この頃だ。金にならなければ意味などない。価値すらも。だからどうでもいいことだ。
 自己満足の充実と生き甲斐か。しかしそれも金あってこそだ。そうでなくては「ああああああ」と書き続けているのと、何も変わるまい。
 形はどうあれ、それが人間の最悪であろうと、成し遂げてやり遂げたモノを形にして、それが売れないとは。嫌な時代になったものだ。
 本当にな。
「人から見て「最悪」という事は、己自身からすれば「最高」という事だ。誰か知らない奴の為に「最高」の人間でいて、己自身を「最悪」に陥れるよりは、マシだな」
「そう開き直れるから最悪なのさ」
「だとしても、同じ事だ」
 少なくとも、私にとっては。
 そしてそれで問題ない。
 私の世界は最高だ。
 後は金が少し、足りればいいのだが。
「お前達の言う美しい「愛」や「心」や「信念」は「結果を伴わない」戯れ言だ。結果、実利を出さない戯れ言に、人が動く理由はない」
「けど、大抵の人間はそれで動いているぜ?」
「騙されているだけだ」
 綺麗事、それらしい理屈とそれを「正しい」という思いこみを、真に受けて信じているだけ。
 その「結果」酷い目に遭おうが、口にした奴は何の責任も取らないと言うのだから、適当な時代になったものだ。
 責任は取らなくて言い。 
 責任を取らなくてもいい立場にいれば、だが。 責任とは、もはやこの時代には存在さえしないものだ。誰かの囁いた言葉に責任などありはしない。ただ思いついたまま流されて適当に口にしているだけだ。そんな言葉に重みはなく、そんな言葉を信じるなど愚行でしかない。
 人間を信じるな。
 信じるに値する人間など、いない。
 相手が人間である以上、当然のことだ。
 口で言うのは実に簡単だ。作家だって、売らなくて良いならば、誰にでもなれる。問題は、そこに力を伴わせることが出来るかどうか、だ。
 女は大抵それをしない。
 だから信用も信頼もされないのだ。
 口だけ動かして「信頼と信用があって当然」などと、図々しい。馬鹿か、お前達は。
 行動してすら、それを獲得するのは至難だというのに、よくまぁ言えたものだ。言うだけだから言えるのかもしれないが。
 行動に移せばいいというモノでもない。事実私は狂気を身に纏いつつ、同じ行動を取り続けてきたが、指を指されて笑われる事が日常だ。
 金にならねば意味など無い。
 金こそが正義だ。
 だから、金だ。
「人間の美しい部分、なんて存在さえしない嘘よりも、私は現実に豊かさが欲しいだけだ」
「存在しないって、どうしてわかる? もしかしたらあるかもしれないじゃないか」
「じゃあ、ここに持ってこい」
「それは出来ないけどさ」
「私が欲しいのは「綺麗事」ではない。正しいかどうか、善かどうかよりも「確固たる力」が必要なのだ。私が、私として、私である為に。それが「悪」と呼ばれようが、「望むところ」でしかない。それが悪なら私は悪で結構だ」
「力に溺れた悪役は、大抵末路は悲惨だぜ」
「なら、成ってやるさ」
 主人公すら殺し尽くす、巨悪にな。
 それで望むモノを手にしてやる。
 綺麗事を並べて善人ぶっているよりマシだ。
 例えそれが正しく、何よりも尊く美しく、善であったとしても、そんな虫けらにも劣る惨めな人生よりは。
 悪として、そして己を通して生きる。
 その方が、面白い。

 そして、私は己の「道」に裏切られた。

 いっそ小気味良いくらいだ。ここまでして、何一つ結果に成らず、金も生み出さなかった。その苦悩があればこそ傑作が書けるのだとしても、私はべつに傑作が書きたくて作家をしているわけではないのだ。あくまで金の為、平穏な生活を他にする為だ。
 何もかもが上手く行かない時、出来ることと言えば「風向きが変わる」事を待つことだ。良い食事を取り適当に運動し、軽挙妄動を控え、ただただひたすら「待つ」姿勢を維持する。
 しかし、どうやら私に限って言えば、その法則は適応されないらしい。このままではミイラになってしまいそうだ。まるで兆候はない。
 どうにもならない。
 己の全てを狂気に変え、それで挑んだ結末が、この様か・・・・・・それであの女のような「持つ側」の言葉など、耳に入るはずもない。実際に行動し挑み続けて「無駄」に終わった人間に、よくもまぁ身の程知らずにも偉そうに、口だけを動かせるものだ。
 そういう奴の方が、美味しい思いをするのだろうと考えると、もう怒りすら感じない。怒りを向ける価値など無い。どうでもいいゴミに何かを感じているほど、私に余裕などありはしない。
「力に溺れるも何も、力を振り回す人間の方が、汚らしい綺麗事を押しつけているだけだろう。だから溺れるも何もない。力が無ければそういうゴミクズ共に、良いように利用されるだけだ」
「そんなもんかね」
「実際、そうだったからな」 
 私の人生はいつもそうだった。何をどう足掻いても呪われているかのように、例え石一つを投げることすら「成功」や「勝利」とは無縁だった。 それを自我が芽生えたときには自覚していた。 何をどう足掻いても「無駄」な「未来」。 
 それを覆すのに必死だった。
 その全てが、「無駄」に終わったが。
 ただの「事実」だ。何の装飾もない。
「さて、どうしたものかな。今回の依頼にしたって、私に何か得がある訳じゃない」
「寿命を延ばしてもらえるんだろう?」
「ああ。だが、それに意味があるのか? 充実した人生を楽しめるならともかく、私はどうも生きることに詰まっている」
 首を絞められ続けているようなものだ。
 苦しいだけで嬉しくもない。
 金あってこその人生だ。
「生きることは退屈かい、先生?」
「いいや、歯ごたえがありすぎて、むしろ飽き飽きしてきたところだ」
「同じだろう」
「違うさ。全然な。退屈ではなく、むしろ、そう・・・・・・難解すぎて、生きることが出来なかった」「そいつは傑作だな」
「まぁな」
 誇るような事柄でもないが、構わないだろう。誰に迷惑を掛けているわけでもない。掛けたところで、知らないが。
 虚勢を張るのに金はかからないからな。
 どうしようもなく私の未来は絶望色だが、何もない中身に自信という箔を付けるのに、金はかからないし手間もいらない。
 嘆けば解決する問題でもないしな。
 言っても仕方がない。
「とはいえ、げんなりするのは事実だな。もう何回目の試みになるのか・・・・・・最初から数えてすらいなかったが、「風向き」が変われば勝機はあるなどと、我ながら随分と辛抱強いものだ」
「それも報われていない以上、何もしてないのと同じだろうけどな」
「違いない」
 随分と長い道のりだった。そして、過程に意味や価値を求める馬鹿共にはわかるまい。そんな道を歩いたからこそ言える。
 そんなモノに価値はない。
 ただの言い訳だ。
 見苦しい。
「どいつもこいつも良く言うものだ。結果や実利が伴わなければ意味も価値も、ありはしない。横から口を出すだけの人生など、実に楽で羨ましい限りだ」
「随分な皮肉だな」
「ただの「事実」だ」
「けどさ、連中はそのツケを十分払っていると思うぜ? 先生みたいに強い目的意識なんて無いからこそ、ただ漫然と生きて、死ぬことしかできない」
「それが何だ。金があればいい」
「けどさ、実際問題精神的に未熟な人間が、先生みたいに上手いこと金と付き合えるわけがないんだよ。大抵は先生の言う「責任のない言葉」に惑わされて、ローンの返済に追われるのさ」
「そうだとしても、私が金を持たなくて良い理由には成るまい」
「まぁな・・・・・・けど、そういう人間は、悲惨だぜ・・・・・・生きている実感がないから危機感もない」「それが何だ」
「だからさ、本来なら回避できるような危機すらも「自覚すら出来ない」のさ。詐欺や搾取構造に利用されてしまう。そして、同じ作業を繰り返しているうちに、大した人間的成長も見込めず、死ぬ寸前になって「何かしておけば良かった」とか手遅れな後悔をするんだ」
「ふん。胡散臭いな」
「けれど「事実」さ」
 先生好みのな、とジャックは付け加えた。
「それで、何のデメリットがある? 結局は大した労力も掛けず、金の力で美味しい思いをしていることには変わるまい」
「そうでもないさ。金の力で味わおうにも、彼らは「味覚」が十分に発達していない。整った味のガムを買むようなものさ」
 上手いこと言うな、こいつ。
「・・・・・・だから金を半端に持った奴は、「味を確かめたがる」だろう? そして、味も分からないまま噛み続けて、脂肪をとりすぎて太るのさ」
「別に、問題はあるまい」
「あるさ。金を持つことは確かに幸福だ。しかしな先生。先生みたいに開き直った人間は、思うより少ないんだよ」
 前にも言われたな。つい数日前、冷たくあしらった女にも、同じ事を言われた。
「例外なく「死にたくなって」しまうのさ。不思議なことに、女を抱くのも酒を飲むのも飽きてしまえば苦痛でしかない。だから」
「だからといって、私が金を持つかどうかには、何の関係もあるまい」
「まぁ、そうだな。それに関しては俺の責任ではないから、知らないね」
「・・・・・・」
「そういう一面もある、という「事実」さ。案外世の中はバランスが取れているのかもしれない」「下らん」
 実に下らなかった。
 それでは噺のつじつまがわない。
「・・・・・・バランスというなら今、まさにそれだ。私の作品が、この私の書き上げた「傑作」が、金にならないなどどうかしている。例えどんな理由があろうが、私はそれに納得するつもりはない」「じゃあ、先生はもし、仮にだが・・・・・・大金を持って、どうするんだ?」
「とりあえず」
 私は運ばれてきた紅茶を啜りつつ「平穏に暮らすさ」と答えた。後は健康だろう。健康でなくて成し得る事柄など、無いからな。
「それだけかい」
「今のところは、な。必要に応じて動くだけだ」「必要に応じてる時点で、欲望じゃあないな。先生は欲しい物とか、無いのか?」
「平穏と豊かさと、静かな時間だ」
「そりゃあ良い答えだ」
「あの女の「殺人論」もそうだが「人間」の噺を適応されたところで、迷惑なだけだ」
「どういうことだい?」
「例えば、だが・・・・・・人が人を殺す、あるいは戦争を起こすことを嫌悪するのは「失う物」があるからだ。現に、関わりのない連中が何人死のうが何とも思わないだろう? 失うのが怖い、自分たちの大切なモノに危害が及ぶのは恐怖だ。だがな・・・・・・私には「失えるモノ」なんて無い。痛いのは私も御免だが、「己の生命そのもの」に対する執着ですら「持つことが出来ない」のだ。私という人間には「何もない」んだ」
「作品のデータは?」
「ふん。それも、このまま売れないようなら、あってもなくても「結果は同じ」だ。何も書いていないのと変わるまい。掛けた労力による分が大きいから、失う失わないと言うより、大損をこいたような、気分にはなるだろうな」
 これだけ手間暇掛けてそのデータが消える、など、あまり想像したくもない。愛着とかではなく割りにあわなさすぎる。
 世界に関われない以上、それに拘泥することも無意味な気もするが、な。世界に関われないと言うことは、結局の所「世界」があろうがなかろうが同じだということだ。人間が本来素晴らしく感じる全てが、私の現実には存在さえしない。
 全てが無意味だ。
 全てが無価値だ。
 この世界に生きていないとは、そういうことだ・・・・・・一体どれだけ、私は歩いてきたのだろう。もう自分でも分からない。大した距離ではないのかそれとも長かったのか、それもどうでもいい。 少し、疲れた。
 私は、休みたいだけなのかもしれない。
 挑み続けて試行錯誤し続けてきたがそれらの試みは全て無駄に終わった。その無駄の繰り返しと挑戦の繰り返し。ただ繰り返しただけだ。
 どう足掻いても「成功」や「勝利」どころか、本来得るべき「結果」も「幸福」すらも、砂粒の一掴み分すら、ついぞ手にすることはなかった。 いつまで、繰り返せばいいのやら。
 我ながら、狂気の沙汰だ。
 私の特技は「物真似」だ。いや「人真似」と言うべきか。私の身体能力で再現可能ならば、かかる時間の際はあるが、どんなことでも再現が可能だ。歌声でも、武術でも、モノによっては見ただけで再現出来る。
 無論、物語も同じだ。
 少し見ただけで、その人間の作風、その人間のキャラクター性、その人間の信条を、ほぼ完璧な形で再現可能だ。実際問題身体がついて行かない武道や声変術などは修得に時間がかかるが、その制限がないモノ、いわば精神面の形など、幾らでも量産が効く。
 武術や声にしたって、動画を見るだけである程度はすぐに使えるようになる。実際、私は適当な動画を見るだけで自衛術程度の体裁きを修得しておいている。無論、疲れるし使わないが、緊急時の保険として、一応達人の動画を見て、ある程度だけ修得しておいた。
 便利だからな。
 それに関して言えば、サムライとしての能力がある以上、もはや不要と言ってもいいのだが。サムライの能力があれば相手が何であれ、魂さえあれば切り刻んで殺せる。無機物にだって魂はあるし、この世の道理から外れている怪物にすら、意志がある以上魂はある。
 殺せないとすれば私のような化け物だけだ。
 心がないから殺せない。
 殴れば良いだけだがな。
 だから私に殺せない相手は存在しない。
 後は金だけだ。
 札束があれば私は私の目的を遂げられる。
 そういうことに、しておこう。
 人間の真似をするのも、正直疲れるしな。
 非人間には、生きづらい時代になったものだ。戦争が盛んな過去には、そういう人間の方が生きやすかったらしいが。ついていない。
 結局、この世は「自分だけは絶対に損しないように搾取する」形態こそが、幸福への道なのだろうか。そうとしか思えないし、思うつもりもないのだが、だとすればやはり、人間であるかどうかなど、どうでもいいことだ。
 そんな価値は人間には無いという事だ。
 そういった汚物の方が、結局は生きている上で満足し続ける。ジャックはああ言ったが、私はむしろ、人間の美しさなんて嘘よりも、実際に儲けるクズ共の方が、結局は上手く生きるのだろうと思うのだ。
 だから人間らしさに意味はなく、価値もない。 つまらない、わき道に逸れた出来事だ。
 金だけが真実であり事実。
 それが世の中の回答だ。人間の心なんて欲しくもない。そんなゴミはいらない。私が求めるモノはあくまでも変わらない。「ささやかなストレスすら許さない平穏なる日常」だ。そして、それには金が必要だ。
 何人死のうが知ったことか。
 そのミュータントも、一切の罪悪感無く、一人残らず「始末」するとしよう。
「先生みたいな存在は、現象として存在するべきであって、自意識を、確固たる意志を持って動いたら危ない存在なんだろうな」
「どういうことだ?」
「つまりさ、先生は、言わば「あってはいけない存在」いや「いるはずのない人間」なんだよ。まさにバグキャラだ。強い弱いとかじゃなく、こんなキャラクターは存在してはいけない。細菌は本当にそう思うよ。

 先生は、怖い。

 他の何よりも。存在してはいけないほどに。素直な気持ちとしてそう思うぜ」
「そりゃあありがとうよ」
 私はお化け屋敷のバイトではないのだが。嬉しくもないしどうでもいいことだ。私が他からどう見えるかは、私がどのように行動するかには、何の関係もないからな。
 しかし、怖い、か。
 怖いキャラクター性というのは私が詳しく知らなければならない事項も一つなのだが、一体どの辺りに恐怖を感じるのだろう。
 私に恐れるべき部分などあるのか?
 執筆の早さくらいだと思うが。我ながら、旋律に値する。気が付いたら数十ページ書かれていたという事が、最近ざらだ。
 もっとサボりたいのだがな。
「それはお世辞か何かなのか?」
「人に「怖い」って面と向かって言うことが、どうお世辞になるんだよ」
「そりゃそうだが」
 大げさとしか思えない。
 誇大広告もいいところだ。
 この「私」が恐怖の対象? 何というか、現実味のない噺だ。
「事実さ。先生の前じゃ何もかもが「同じ」だ。実利が好きだとか言っているが、金が大好きだとか言っているが、それで満足する姿が想像も付かないね。先生には限度が無いのさ。概念としてそもそも「存在さえ」しない。だから、先生は怖いんだよ」
「限度の無い行動だと? そんなの」
 誰でも出来るじゃないか。そう思ったが、どうやら違うらしかった。
「無理だよ。人間には「心のブレーキ」があるからな。残虐なことでも、理性より本能が止めてしまうのさ」
「それは私も同じだろう。出来るからと言って、私はむやみやたらに人間を襲ったりしないぞ」
 私は争いが嫌いなのだ。
 面倒だからな。
「けどさ、先生は堂々と殺人出来る環境があればあっさり、殺しちまうと思うんだよな。いや今だって「法律」の外側にいる「サムライ」だというただそれだけで、何の罪悪感も無く、行動できる・・・・・・出来てしまう」
「他のサムライも同じだろう。始末屋なんて、別に珍しくもあるまい」
「それは己の心を消すからさ。最初から平気って訳じゃない。いいか、先生。人間は普通、訓練して心を殺し、それでも悩み、後から殺したことに対するストレスがぶり返し、罪悪感に苛まれて自殺しちまうような生き物なんだよ。でも、先生はそれを天然で、何の罪悪感もなく、そして何より生まれつき平常な状態で、やってしまう」
「それの何が問題なのだ」
「問題さ。「人間」というくくりの生き物には、本来そんなブレーキのない生き物は存在しないんだ。いや人間だけじゃない。どんな動物にだってブレーキはある。もし「ブレーキが無ければ」その行動に「際限が全く」無くなる」
「それで」
「際限がないから「何でも出来る」先生は己を無力であるかのように捉えているが、俺から言わせれば無力な癖に、行動力だけでここまでしてしまうのは、どうかしている。歴史上の偉人とかだとわかりやすいかな、戦争をしている国があった所で、普通はそこまで行かないだろう?」
「私も行かないぞ」
 面倒だからな。
「それは面倒だからだろう」
 見透かされていた。まぁ、構わないが。
「先生は他者の為でなく「己の為」に際限なく行動することが出来る。他の全てを下に置いて、どれだけ犠牲を出そうが意に介さず、な。きっと、そういうのを「狂気」って呼ぶんだろうな」
「何が言いたい」
「先生には「際限が無い」概念すらも。何をやるのにも限界がどこにもないんだ。だから、執筆なんてモノにも、作家業なんてモノにも、何年も何十年も何万年も何十万年も、それこそ狂気のように続けている。生き甲斐だのと言っていたが、先生には生き甲斐も充実も感じる器官はありはしないだろう? なのに続けられる。それはきっと、先生自身がそう決めたからだと、思う」
「それが、何だ。大層な噺だが」
「大層なのは先生自身さ。そんな在り方、普通は許容できない。どう足掻いたってパンクする。それに耐えうる異常な狂気。いや、耐えうると言うよりも、それすら飲み込む狂気だ。
 
 
 それが、恐ろしくない筈がない。
 
 
 底なし、さ。先生には限度も際限も無い。相手がどれだけの能力を持とうが、どれだけの英知を振りかざそうが、先生の前ではまるで等価だ。どれだけの力も信念も誇りも心も友情も愛情も、何一つとして存在すら許されない。まるで閻魔大王だよ。あの世の裁判官だな」
「そこまで大層な役職を、持ったことは生憎、無いのだがな」
「それで良かったと思うよ。先生がもし、そうなったら、どんな人間でも、人間でなくても、逃げられないからな」
「走ればいい」
「心が、さ。分かっているんだろう? 己を偽るのは誰でもあることだ。見たくない部分に蓋をすることも、珍しくない。能力や肩書きで、普段それらは隠れている。だが、先生はそれを容赦なく無視する。無視されれば、最初から無いのも同然だからな。誰だって、心の奥底を抉られれば、先生みたいに「心がない」なんて頓狂な事が無い限りは、正気でいることすら難しい」
「・・・・・・ふん」
 正直私の評判などどうでも良かったが、また随分な言われようだ。そんなに私が恐ろしいのだろうか? 確かに、ちょっと気まぐれで真をついて心を掘り下げて、当人の信じたモノを否定するのは良くあることだが。まさかそこまでとは。
 私みたいに忘れっぽく無い奴が多いらしい。
 私ならどれだけ己を否定されようが、二分後には忘れている自信がある。言われた次の瞬間には他のことを考えているかもしれない。
 記憶力は良いはずなのだが、どうでもいいことはすぐ忘れる。この「どうでもいい事」って奴が無いのだろう。「大切にするべき」な項目が、彼らには多いのだ。だが、そんなのは項目が多いだけで、あまり大差はないと思うがね。
 人の心を壊すなんて簡単だ。
 人の心は大抵脆いからな。
 私でなくても、砂糖細工を壊すのは、容易い。ただ、砂糖細工を壊すことに、罪悪感だのといった「最初からどこにもありもしない」倫理観みたいなモノを破ることに、恐怖してしまうのだろう・・・・・・良くわからない噺だ。
「先生みたいに、人から拒絶されてケロッとしている化け物には分からないさ。先生は最初から、自分以外を誰一人として同じ人間だと、思ってすらいない。だから幾らでも残酷になれる」
「おいおい、そう誉めるなよ」
「誉めてねぇよ」
 誉めてはいないらしかった。別に誉められても嬉しくも何ともないので、構わなかったが。
「自分と同じ人間であるから、と、先生には耳の痛い噺だが「共感」するからこそ、彼らは残酷にはなれないのさ。逆に、先生に限度がないのは、相手を同じ人間だと思っていないからだ。というか先生の場合、実際問題「他とは違う」失敗作、いやバグキャラみたいなものだ。本来あり得ないが、「人間でない別の人間」が生まれてしまった結果、先生は「虫を殺すような感覚で」人間を殺し尽くすことが出来る。言葉にすれば単純だが、そんなこと、心がある奴にはできないさ」
「私にだってブレーキはあるぞ。私はゲンを担ぐ人間だからな」
「それはただ単に「理不尽な、関知できない部分での罰」が嫌なだけで、殺人自体には何も感じてはいないだろう」
「確かに、そうだが」
 ブレーキ、無かったかな。無かったところで、やはり「どうでもいい」がな。どうでもよくないのは金の残高だけだ。
 こればかりはどうでも良くない。
 そうはすませられまい。
「先生は、「怖い」よ。限度がない際限がない、そして限界も、ない。先生は自身を「悪」だと標榜しているが、「限界のない巨悪」なんて物騒なモノも、無いと思うね」
「ブレーキがない、程度なら、幾らでもいるだろう。歴史上に殺人鬼は沢山いる」
「確かにな。なんだかんだで依頼以外では、先生は殺さない。無論、自衛などの場合もあるだろうが、先生の場合「意識的に狂って」いる。だから厄介なんだ」
「何がだ」
「己の狂気を自覚する狂人なんて、ギャグにも冗談にもならねぇよ。先生は己の恐ろしさを、凶悪さを、もっと自覚するべきだな」
「ふん、そんなつもりはなかったが、まぁいいさ・・・・・・自覚したところで、金が貰える訳でもないし、私個人としては、やはりどうでもいい」
「どうでもいい、と割り切れるからこそ、俺は先生が怖いね。暇つぶしに人を惨殺したところで、あるいはちょっとして感覚で何かを滅ぼしたところで、そして他者の心情を無茶苦茶に書き換えたところで、同じ事を言うだろうからな」
「人工知能のお前が、たかが人間ごときを怖がるとは、以外だな」
「先生の前じゃ、肩書きは関係ないからな。何であろうが同一に見る。どれだけ力を持とうが、どれだけ権力を持とうが、どれだけ超越した存在になろうが、同じ、だ。だから、先生に対する恐怖を克服する方法は「心が存在する限り」絶対に存在し得ない。そんな化け物を怖くない奴なんて、いるはずがない」
 大げさな奴だ。
 噺を聞いている限り、「対抗策が存在し得ない事」が、私に恐怖を感じる一番の原因らしい。
 確かに、どれだけ力を蓄えても、どれほどの存在になろうとも、例外なく「同じ」くこちらの心情を誇りを信念を心を在り方を「書き換える」なんてぞっとしない相手だ。どう足掻いても勝てそうにない。まぁ、私の事らしいが。
 その割には、私はあまり美味しい思いを出来た試しがない。能力差など些細なことだ。問題は、それが金になるかだ。
 狂気も正気も、些細な事だ。
「能力じゃないさ。こと単純な能力差なら、むしろ先生に勝てない奴を捜す方が難しい」
 だから大きなお世話だ。
「無論、サムライの能力もあるが、それは先生自身が関係ないしな。それに、「存在そのもの」が物騒だと言っていい。そんな心の在り方が出来る人間はいない。心がないからこそ、先生は誰にでも勝る。容赦なく相手の心情を踏み砕く」
「あまり嬉しくないな」
 ただの暴れん坊ではないか。もっと、こう、平和なイメージを保ちたいものだ。
「事実さ。まさに「恐怖そのもの」だ。己の全ての能力と肩書き、あらゆるステータスを無視してこちらの最も「見たくない真実」を突きつけ、心を破壊する。真実がなければ粗探しして心情と信条を書き換えてしまう。どんな人間性を持とうがどんな能力を持とうが関係ない。己に心がある限り、何者であろうと裁かれる。地獄があるとしてそこに「王」がいるなら、きっとそいつは先生と同じ顔をしているぜ」
「それは有り難いな。出世できそうな顔つき、というのは」
 少なくとも、ジャックからはそう見えるらしい・・・・・・問題なのは、作家に出世もへったくれもないということだろう。
 売れればいいのだが。
 作家に出来ることは書くことだけだ。
 売ることは、専門外なのだ。
 心を暴くことと心を操ることは、また別、ということだろうか。
 しかし「恐怖」か。私自身恐怖の概念が持とうと思っても持てない存在だ。だから恐怖と呼ばれるモノ、それを解明すれば物語に活かせるのではないか、何より「面白い」のではないか、と、そう思っていたのだが・・・・・・恐怖そのものとは。
 まぁ、これに関してはジャックが大言壮語を無責任に吐いているだけの可能性もある。その場合はその場合で、相応しい「恐怖そのもの」を探すだけだが。
 やることは何も変わらない。
 狂気にまみれて、続けるだけだ。
 成功するまで。
 勝利するまで。
 満足するまで。
 さまよう亡霊のように、終わり無く。
 ・・・・・・私個人にとっては、何の役にも立たん技能でしかない気もするが。
「役には立たないがな」
 とりあえず言っておくことにした。
 ジャックは、
「そうかな、そうは思わないぜ。肉体は誰だって壊れるが、時がたてば誰でも治る。逆に、精神は一度でも壊れたら、二度と元には戻らない。先生の場合元から壊れて、いや狂っているから、精神面での人生に対する悩みが存在しない」
「精神的な悩みなど、最初からどこにも存在しないものだろう」
「だがな先生。人間って奴はむしろ、金よりも内面での悩みに悩むものなのさ。金の悩みは金が解決してくれるが、「劣等感」や「罪悪感」そして先生の言うところの「その他大勢の評価」に、常に意識を向けながら、生きている。その悩みは存在さえしないからこそ「解決出来ない」ものだ」「だから厄介だと? ふん、ありもしない悩みで悩めるなど、贅沢としか思わないがな」
 生き詰まっていようが息が詰まっていようが、金さえあれば問題はない。だから私の人生には問題ばかり発生している。
 どうしたものか。
 実に切実な問題だ。
 金の残高というのはな。
 何より、手間暇掛けた物語が金にならず、どうでもいい労働で稼ぐのでは、結局私個人の目的が果たせないままだ。それでは意味がない。
 精神的な悩み、などと・・・・・・随分とまぁ暇な奴らだ。他にすることは無いのか?
 ないからこそ、そんなどうでもいいことで悩んだり死んだり、馬鹿な生き方をするのだろうが。 何も考えていないからだろう。
 有能なだけで、自分の未来すらも、まともに考えない。考えないし行動もしない。それでたまたま持っていたりするものだから、中途半端に勝ってしまう。
 変わった奴らだ。
 何も変えようとせずに「自分の人生はこんな筈じゃなかった」などと、言えるというのだから、楽で羨ましい。
 猿の人生というのは。
 理性ではなく感情と本能で生きる猿。
 さぞ簡単なのだろうな。
 喚いているだけで、嘆いているだけで、たぶん彼らの一生は終わるのだろう、直接見なくても、それくらい簡単に分かる。
 そういうものだ。
「人間は「足りない何か」を求めるものだ。そして私の内には「何も無い。だからこそ無尽蔵に、不足を感じて埋めようと出来る」
「成る程な。満たされていれば充足はするが、先生みたいにはならない、か」
「ああ。だから、それはきっと正常なのだろう。お前達の言う「人間性」というのは「余裕が有る存在にのみ許された特権」だ。ただ、余裕を持って平穏に暮らすならそれでもいいが、私と違って「何かを変えようとする」ことを望むなら、私のように成るしかない。何かを変えるほどの力は、金や権力と言った手に入れ難いモノばかりだ。その中で「狂気」は最も安上がりで金がかからないからな。だから、私はこう在るだけだ」
「皮肉だよな。別に何を変えたいとも思ってない先生こそが、全てを変える「狂気」を持ち、何かを変えたいと現状に不満を持つ人間こそが、金や平穏と引き替えに、先生のような狂気は決して持ち得ないってんだから」
「要はマッチングの問題だ。私はそれが合わなかっただけだ」
 だが、世の中そんなものかもしれない。当人が望んでいない能力こそを持つのだ。それでいて、その当人の能力は、他から見れば「替えの効かない唯一絶対の技能」に見えるのだろうから、ちいぐはぐというか。
 面倒な噺だ。
 素直に当人が望むものだけ与えればいいと思うのだが、それではきっと、人間は何も成長しないのだろう。別に成長なんて望んですらいない身としては、忌々しい限りだ。
 成長がなんだというのか。
 だから、何だ。金になるのか?
 所詮見栄と恥の概念から生まれたモノだ。成長を繰り返したところで、実利がなければただの子供の遊びと変わるまい

 
 
 邪道作家 その3へ 
 
 
 
 
 
宇宙船

 ジャック 事前調査 謎の惑星 

 わずかな映像 ミュータントの姿

 武器をもったミュータントの姿。

 ガン細胞はそもそも「自然の摂理」であり、
 人外と取り引きせずに寿命を延ばすことは
 バランスを壊すことに繋がる

 宇宙一バランスをどうでもいいと思っている  「私」がバランスを守る「サムライ」として
 活動している矛盾

 いいように使われているだけ 
 奴隷じゃないのに
 
 何もないことが「死」だとすれば、
 「邪道作家」とは「死そのもの」を表す
 「概念」である。

 
 辺りには何百年も時が経過したかのような、まさに「廃墟」と呼ぶべき生活後が残っている。ところどころ「ウィルス」がこびり付き、汚染された世界を彩る。
 

 統率されている、それも軍隊のように・・・・・・

 何らかの指揮下にあるミュータント共を撃退
 
 下水管の中に逃げるミュータントを追う。すると下水道作業員の待機室らしき部屋の奥に入り口がある。

 逃げたミュータントは例外らしく、知性が残ったままらしい。人肉は食べない。と、言うよりも何も食べなくても生きてはいける。ただ、知性を残すにはある程度新鮮な「肉」を食べる必要があり、外にいる動物などを狩りでしとめる。
 
 高い暴力性のみを残した「失敗作」が多くうろついており、数少ない成功作はひっそりと暮らしている。
 
 まるで「民族浄化」だ。ミュータントになってまで、人間は同じ事をしている。きっと根底にあるモノが「暴力」だからだろう。何かを欲するのに必ず暴力は伴う。暴力の力が人類を発展させ、暴力の威圧が平和に導いたと言えるだろう。
 
 それが世の「真実」だ。
 隠されてすらいない「真実」が「事実」に成らないのは、誰もが目を背けるからだろう。
 目を背ければ問題にはならない。
 人間社会はそれで通る。
 通ってしまう。

「成長か。それも、バランスの良さが必要なんだろうぜ。今回のミュータントだって、ガン細胞の異常成長から生まれた存在だからな」
「ミュータントか」
 人間の成長の「果て」を越える為に、彼らは作られたらしい。だが、過ぎた成長は人間を人間でないモノに変えてしまった。これはやはり、私の考えが合っているということだろうか。
 成長に意味はなく、価値はない。
 金こそが全てだ。
 金で買えないモノは、どこにもない。
 ミュータントの人権だって、普通の人間の人権だって金で買える。臓器も、人生も、運命も、悲劇も、奇跡すら、金で起こし金で買えるのだ。
 科学の力と金が合わさり、表向きは小綺麗な人間社会に二つが揃えば、不可能は何もない。人間は何でも金で買える。それは金の力が万能と言うよりも、何でも「売ってしまう」からだろう。
 品性も。
 人生も。
 誇りも。
 何もかもが、金ほどの価値と力を持たないからこそ、金は全能の力を持つ。少なくとも人間社会において、金の力が失われることは、未来永劫無いだろう。
 それが人間と言うものだ。
 人間は金で買える。だから、人間社会で買えないモノなど、有りはしない。
 この世に、生きているのだから。
 あの世でも、きっと同じ事をしている。
 地獄の沙汰も金次第、だ。

 私は何も持たずに生まれた最悪の人間だ。

 そんな私だからこそ分かる。人間の道徳や愛情や信念に、力はない。現実に何かを動かすのは、綺麗事の道徳感情ではないのだ。それは意志だ。綺麗事を述べる人間には持ち得ない「狂気」こそが、全てを凌駕する「可能性」を持つ。
 可能性、可能性だ。可能性でしかない。だが、「持たざる人間」が「持つ人間」を越えるには、奇跡を越える程の何かを、武器として携えなければならない。そして、その条件を満たすことが出来るのは、「人間の狂気」だけだ。
 要は方向性の違いだ。
 狂気を何に向けるか、だろう。
 愛に向けるか友に向けるか、社会に向けるか、あるいは「金」に向けるかだ。
 無論、私は金に向けるがな。
 当然だ。
 以前にも言ったが、私は自我を持ったNPCのような存在だ。己に押しつけられた役割を無視して、望む方向へたどり着こうとしている。無論、この世界のシステムそのものを書き換えるなど、分不相応を飛び越してただの無謀だ。実際、私自身が書き換えられたのは、私自身の在り方、キャラクター性だけだ。
 プロフィールをいじり、己のキャラクター性を作り替え、それでも届かなかった。物語を金に換えて儲ける、という目的は、未だ達成できてはいない。
 だが、不可能であることは挑戦を止める理由には成らないし、私にはそれが出来ない。簡単な話だ、「作家として生きる」事を諦めればいい。諦めて妥協し、適当に、何一つ成し遂げず、自分を誤魔化し続けて、我慢して生きる。いや、生きると言うよりこなす、か。
 それが出来ない。
 金の為なら頭を下げることも、金額次第で吝かではない。プライドよりも、私は実利を選ぶ人間なのだ。
 ただ「己を偽る事」は、できない。
 したくもない。
 それで、生きていると、言えるのか?
 ただの奴隷と、同じではないか。
 私は運命の奴隷には成りたくない。御免だ、そんな在り方は。生まれていないのと変わらない。他でもない己を偽って、つまり自分自身を裏切って、成すことなど、実につまらない。
 人を騙すことに躊躇はしない。
 私は優しくもない。
 容赦すらもないのだ。
 だが、己自信を誤魔化して、自分を安く売り歩き、それでいて卑屈に笑いながら、生きる? 冗談じゃない。そんなのは「生きる事」から逃げた愚か者共の言い訳だ。
 私は情けない言い訳を聞くつもりなど無い。
 だから、貴様等の下らないプライドの拠り所、「常識」などという、雰囲気に流されて、ただ皆がやっているからという理由で、何も考えず、何一つ言葉に責任も取らず、自分で考えすらもしない馬鹿が、思い上がった台詞などに、聞く耳を持つつもりなど毛頭無い。
 もっとも、そういうクズは声だけは大きい。でかい声で言っていれば「自分が正しい」と錯覚するのだろう。実に、迷惑極まりない。
 そういう人間のゴミ共の、汚らしい騒音を聞かないで済ますためにも、金は必要だ。
 無ければならない。
 金があることで、ようやく「人間になれる」のだ。資本主義とはそういうことだ。

 金がない奴は人間じゃない。

 権利も、主張も、人権も、金有ってこそだ。金のない奴に、世界は何も与えはしない。金がない奴はどう取り繕おうが、搾取され奪われ、殺されたって文句は言えない。「文明」も「文化」も、金がある人間にだけ許された「特権」だ。
 綺麗事は現実に何の力も無い。だから、綺麗事を振りかざして「そんなことはない」と、道徳という馬鹿の一つ覚えを信じた結果、周りに多大なる迷惑を掛けた上で、結局助けることも出来はしないのだ。
 世の中そんなものだ。
 存在してはいけない「悪」か。言い得て妙だ。私の場合、そもそも「存在するはずの無かった」人間だろうからな。私自身がそう動いた。だが、それにも意味はなかった。価値すらも。金を手にしていないのが良い証拠だ。
 何をどう足掻いたところで、無駄。
 それが私の宿命だ。
 運命か。
 いずれにしても、己自身のキャラクター性を完全に書き換え、作り直したところで、至る結末は同じだというのだから、笑えない。実につまらない噺だ。もう少し、何とか成る、と思っていたのだが、世の中に、世界に、期待しすぎた。
 試み時自体が無謀だというのも、勿論ある。そもそもが、私の試みは「物語の結末を、登場キャラクターが変える」ようなものだ。厳密には違うのだが、やっていることは同じだ。
 最後のページを読めば嫌でも分かるが、物語の結末は決まっている。ならば、書いている最中にでも、変えるしかない。私の場合、死ぬまでの間に、と考えると、時間も余裕もあるかと思ったのだが、中々上手く行かないものだ。
「己自身をこうまで作り替え、それでも「幸福」には届かなかった。金を求めることすらな。なぁジャック、お前は私がまるで、「他の人間に無い何か」を持っているかのように語るが、そんなものは私には無いぞ。試みは悉く失敗し、それでいて金すらも掴めていない」
「けれど、その人間性があるだろう」
「だから、何だ? 私は誰かに人間性を誉められたいわけではないのだ。金だ、ジャック。私は金の為に、その為だけに書いてきた。それによる充実と平穏は、金が有ってこそだ」
「けれど「事実」として「人間性の成長」が無ければ、金があっても幸福にはなれないぜ。扱いきれずに自滅するのがオチだよ」
「だから」
「だから、先生は今まで散々だったのだろうさ。これからは金を手に掴めばいい。それが有るからこそ、金を掴めると言っても良いな」
「その兆候はまるでないがな」
「当然さ、俺たちは未来が見える訳じゃない。けれど、目の前の事実は見える。人間性を高め、成長し、物語を書く作家の姿がな。そして、それを言うなら「早いか遅いか」さ。長い長い生涯からすれば、誤差みたいなもんだぜ」
「随分と長ったらしい「誤差」も有ったものだ」「それもじき、終わるさ」
「生憎、そう言われて随分経つのでな。そんな戯言を信じるほど、私は人間をやっていない」
「それもそうだ」
 けらけらと、ジャックは笑うのだった。まぁ、こいつからすれば他人事なのだから、当然か。
 変に期待するつもりもない。
 期待できるほど、私は平坦な道を歩いていなかったからな。常に、落とし穴のみがあった。
 単調な罠を受け続けるかのような道だ。
 どう足掻いても同じ所で屈辱を受ける。
 未来を信じろ、などと、他人事だからだ。
 信じるに、まるで値しない。
 未来を信じていないからこそ、私は変える為に動いたのだ。だが、その試みが無駄に終わり続けている以上、無駄なモノは無駄だ。
 無駄だった。
 何の意味も、無かったのだ。
 己を疑った事は一度として無いが、己がやったことに対して相応しい報酬が得られるかどうか、それは信じるに値しない。
 払われた事など無い。
 対価、とは、立場が強ければ、元々払わなくても良いものだ。それが世の中であれ個人であれ、まともに私に金を払う奴は、いなかった。
 私の信じて進んだ道は。
 私に何も、払いはしなかった。
 その癖、未だその道を歩いているのだから、本当にどうかしている。狂っていなくては、出来なかっただろう。
 嬉しくも無いがな。
 実利、結果、即ち金。それだけ貰えれば、良かったのだが・・・・・・随分と、遠回りをしたものだ。 我ながら、どうかしている。
 過程よりも結果を重んじておきながら、こうも遠回りに過程での成長ばかり、得るなど。人間的な成長など、そんな見えない上数字で計れもしない「存在さえしない嘘」など、求めてすらいなかったというのに、だ。
 因果な噺なのか。
 あるいは、それも運命であり宿命か。
 私という、「非人間」の。
 避けられない宿命だったのか。
 分からない。
 私には、計りかねる事だった。
「私から言わせれば、お前たちの珍重する「本物の強さ」とかいう紛い物ほど、価値の無いゴミはない。お前のその言にしたって、ただの綺麗事でしかない。世の中の過程に意味や価値を見いだそうとするのは、決まって余裕のある勝利者だけだ・・・・・・現実には、幼い子供が思いつきで行動していて、何一つ意志も誇りも伴わずとも、金や力を持つ方が、得るのだ」
 そして、一般的な「正しさ」など、要は勝てば手に入るものでしかない。今までの苦痛は、実はこういう意味があったんだよ、なんて、下らない台詞を聞く気は無い。
 下らない。
 そんなことはどうでもいい。
 重要なのは「結果」だ。そして、私の成し遂げた事柄は悉くが、それに相応しい支払いを得ていない。金にならなければ意味など無い。
 実際、世の中そう言うものだ。
 本物が勝つことなど有りはしない。子供のだだのような言い分であろうが、金と権力と暴力と経済力と情報力で、人間は「正しく」なれる。
 正しさは金で買える。
 暴力を買い地位を買い、権力を買い情報を買い相手を叩き潰せば良いだけだ。
 綺麗事などどうでもいい。その方が美味しい思いが出来て、結果豊かになれるなら、その方がいいに決まっている。
 綺麗事に陶酔する趣味はない。
 実利が有れば何でもいい。
「先生には無理だよ」
「何故だ?」
 純粋な疑問だった。
 だが、事も無げにジャックは続ける。
「そもそも、作家業なんて、その最たる例じゃないか。大した見返りもないのに大勢の人間へ、伝えるべき事を伝える」
「そうでもない。売れれば何でも作家だ。現に、中身のないゴミを本という形で売る奴は、腐らせても足りないほどいる」
「けれど、先生の本はそうじゃない。と、いうか先生自体がそういう人種を毛嫌いしすぎているんだな。生理的に無理なんだろう?」
「何がだ」
「だから、そうやって中身のないモノを売る人間さ。何であれ、先生には人間の情けない部分が、偽物が許容できないわけだ」
「それが私の作り上げたもので、売れるならいいのだが、ただ単にそいつらの下らない「ごっこ遊び」に付き合わされるからだ。誰だって、御免だと思うが」
「確かにな。けれど、先生はどちらかと言えば、本物がある方がいい」
「まぁな」
 それに越したことはない。
 金になる方がいい。
「けど、そういう儲け方が出来る人間って、先生とは性根から合わないんだよ。何せ、たまたまの偶然で成功した、とか、あるいは中身がないけれどブームに乗っかって売れた、とか、そんなたまたま幸運に味方されただけの人間に、先生みたいな人間が相容れるわけがないし、何よりそれこそ先生のいう「持つ側」の存在だ。それが出来れ博労はしないと、俺は思うぜ」
「ふん」
 どうなのだろう。いずれにせよ私がどれだけ労力を費やそうが、望む結果にたどり着けた試しがない以上、こんな試みは無駄なだけか。
 どう足掻いたところで、綺麗事で、ジャックやあの女がいうような下らない綺麗事「如き」に、敗北を喫するのか。
 実に屈辱だ。
 綺麗事など、捨て犬の残飯にも劣る汚物だ。
 汚らしい。
 持つ側の台詞など、そんなものか。
 私は持つ側に回りたいというよりは、金の力で平穏に暮らし「そういう人種」と「絶縁」する事もまた、目的の一部なのだ。そう言う意味では、前提としてやり方が間違っているのかもしれない・・・・・・横着しているのだろうか。
 現実問題、金は必要なので、綺麗事だとしか思いはしないが・・・・・・クズの方が儲けていることは事実だ。そして、そいつ等がそれに相応しい報いを受けているのかどうか知らないが、それは私が金を手にしない理由には、決して成らない。
 関係ないではないか。
 意志も道徳もどうでもいい。「過程」はどうでもいいのだ。価値はないし意味も無い。「結果」こそが「全て」だ。
 「金」という「結果」だけだ。
 この世界で価値があるのは。
 断言できる。
 その他に、「現実に存在するモノ」で価値の有るモノは他に存在しない。概念自体が有るだけで現実には「存在さえしない」モノばかりだ。
 そんなモノはどうでもいい。
 現実には金だ。
 金だけが全てだ。
 全ての幸福の源泉だ。

 金で買えないモノは、ないからな。

 世の中、そういうものだ。
 私なら、神様だって買ってみせる。それも、いとも容易く簡単にな。
 その「程度」朝飯前だ。
 神など殺すまでもない。金の力で従えてやる。理不尽も、神も悪魔も、その他大勢のカス共も、金の力で買ってやる。
 それでこそ「私」だ。
 金で買えないモノはない。
 私には、それが出来る。
 有能であろうと無能であろうと、同じ事だ。金の力の前では「個々人の優秀さ」程、役に立たないモノはない。資本主義社会において、認められるのは金を持つ側であり、能力や信条が優れている側では、決してないのだ。
 何が正しいかは金で決まる。
 何を成し得るかも金で決まる。
 金とは、そういうものだ。
「全然そう思ってないくせによ」
「思っているさ、金で買えないモノはない」
「だが、先生は少なくとも「金で買えない何か」が有った方が「面白い」とは、思っている」
「何度も同じ事を言わすな。そんなモノは、精々が物語の中にしか、存在し得ない」
「確かに。けれど、先生は本当に諦めたのか?」「ふん、「諦める」だと? 私にはそんな行動、取りたくても取れないさ。最初から存在すらしないだけだ。有りもしないモノを求めているほど」 暇ではない。
 少なくとも、生きる事に必死だ。
 生きるという事柄に、真摯だ。
 私はそう生きてきた。これからもそうだ。
「それに、先ほど私のことを「恐ろしい」とか何とか言っていたが、私からすればああいう女の方が恐ろしいね」
「あの女? タマモさんの事か」
 例の「依頼人」とかいう人だろ、と、まあ地球に行けないジャックからすれば至極当然だが、よく知らない人間を指す言い方だった。
「ああ、綺麗事を並べ立てて、それでいて私が何かに利用されたり、苦痛や苦渋を味わう事を「仕方がない」と割り切れる外道だ」
「そんな人物なのか? 俺は噺を聞く限り、まっとうな人間だと思ったが」
「だからこそだ。あの女は「愛情」みたいなモノを向けている「つもり」なのかもしれないが、全然違う。あれは「飼っている動物」に対する愛情とさほど変わらない。私に向けても良いが、私に向けなくても良い」
「どういうことだ?」
「つまり・・・・・・ペットが死んだら悲しむだろう。だが、まぁこれも「仕方がない」と、妥協して諦めて、「次」を使える人間なのさ」
「よく、わからねぇけど、要は見切りが早いって事か?」
「まぁな。そして、己自身では「最大の愛情を与えている」つもりでいる。厄介だよ、ああいうのはな。愛情を向けているつもりで、自分が愛情を向ける事さえ出来れば、向けられる対象が幾ら苦しんでも「仕方が無く」妥協できる。私が最悪ならあの女は「邪悪」だ。最も質が悪い」
 まさに外道だ。
 己自身では「良い事」をしているつもりだろうから、尚性質は悪い。その他大勢の民衆にも、愚かしくもそういう輩は数多くいるが、違う。ただ愚かだから「良い事」をしていると思いこんでいるのでは、無いのだ。「本気」で愛しているつもりだし、己では「尊く奉仕している」つもりでいる。その結果、己自身の在り方、「誰か、あるいは何かを愛する」という行動の為に、肝心の相手が苦しんでも、それはそれで「仕方がない」愛につきものの犠牲、だとでも割り切れる。
 極悪だ。
 吐き気を催すくらいには。
 それでも、きっと、私よりは良い道を、歩いているのだろうが。全く、忌々しい限りだ。
「人間にあの女は期待しすぎだ。期待するのは勝手だが、人間の魂が輝くときは大抵地獄の底でしかない。地獄の中に尊いモノがあるからって、地獄に突き落として眺めるのは、ありを観察する子供みたいなものさ」
 まさに神の視点ということだ。
 面白くもない。
「先生は、あの女を憎んでいるのか?」
「いや? 別に」
 憎む、か。恨んではいるかもしれないが、それにしたって理不尽を生み出す対象として、つまり人間以上のモノに対しては、私は基本的にそういう態度を取っている。
 だからどうでもいいことだ。
 重要なのは、あくまでも「金」だからな。
「まぁ、私は悪女は嫌いではないからな」
「先生の好みは、よくわからねえよ」
 その方が、面白い。
 無論、面白くても、利用されるのは御免だ。できれば、私とは関係ない輩に、被害を及ぼし続けて欲しいものだ。
 ジャックの言うことも、もっともだったが。
「着いたぜ」
 ジャックのその言葉に反応して、私は戦艦(宇宙空域が危険にさらされているため、民間で運用している戦艦に乗り込まざるを得なかった)の外が見える窓を見た。
 外には、灰色の死んだ世界が広がっていた。

   4
 

 被害者と加害者。
 どうなのだろう。ここにいるミュータント共は「被害者」と呼べるのだろうか? まぁおよそロクでもない生き方をしていたからこそ、こんな灰色の惑星でミュータントなんてやってるのだろうが・・・・・・つい、考える。
 無論、論じるまでもなく、私なら「金に成る」方になる。加害者の方が儲かれば加害者を名乗り被害者の方が儲かれば堂々と道理を説き、裁判を起こして悲劇をマスコミに訴え、金に変える。
 自覚的な悪人など、そういうものだ。
 だが、世の中には自分を「被害者」だと、本気でそう思っている馬鹿が多い。被害も加害もあるか馬鹿馬鹿しい。人間である以上環境に対する加害者で、他の全ての人類に対する加害者だ。
 人間など、他の人間からですら、邪魔だ。
 何かしら傷つけるし、他人と関わり人を傷つけないでいられる奴など、最早人間ではあるまい。他者を傷つけるからこその人類だ。生きる為に、誰かを、何かを、傷つける。これは当然の事でしかない。他者を傷つけるのは、生き物なら当然の事だ。
 被害者。
 何ともいかがわしい台詞だ。
 人間である時点で加害者ではないか。
 金の為にやっているなら分かる。私も、被害者ぶることで金が貰えるなら、そうしようかと思うくらいだ。まぁ、私の場合、被害を訴えたところで聞く奴など一人もいないが。
 未だかつて見た事がない。
 まぁどうでもいいがな。
 いてもいなくても、金にならなければ同じだ。 加害者でない、私は被害者だ、などと。それは「生きていない」と宣言するようなモノだ。生きていれば騙し奪い殺すのは当然だ。お前たちは二酸化炭素を出さずに息を吸えるのか?
 私は吸えるが。無呼吸でも、なんなら真空空間でも活動が可能だ。遺伝子操作で人体を改造したのもあるが、「サムライ」としての戦闘能力と、その頑丈さのおかげだろう。
 便利なものだ。
 宇宙空間でも太陽の黒点の中でも活動できる強靱な肉体があったところで、使う機会はまるでないがな。精々、健康に気を使わなくて良い位か。 戦闘で死ぬ可能性が無いので、私としては気楽に殺戮活動に勤しめて、気楽なものだ。
 その結果善良かどうかすら知らないミュータントが死ぬことになるが、まぁどうでもいい。私の人生には何の関係もあるまい。そいつらを気遣ったところで、私の貯金残高は何も変わらない。
 だからどうでもいい。
 どうでも良さ過ぎる。
 気にする部分など、皆無だ。
 私にとって命の価値は実に平等だ。

 私を頂点に私の役に立つかどうか。

 基準は大体これで決まる。
 決められる。
 私はそういう非人間だ。道徳だの倫理観だの、そんな「暇な理由」に悩まなくて、非人間で本当に良かったと、心無い内側から思う。
 そんな「下らない」理由で死ぬのは御免だ。
 私の事以外など、気にする価値はない。
 それが人間というものだ。
 己自身を秤の中心に添えられない奴が最近多いが、自分ではない誰か、偉さとか権力とか空気とか、そんな曖昧なモノに己の人生を預けるというのだから、どうかしている。
 運命とはどうにもならないものだ、しかし、だからといって選択をしなくて良い訳でも、無い。 後悔しない、という理由もある。
 だが、「それ以前」の問題だ。己自身のことを己で考えられない奴が、前へ進めるものか。人間に己があるのは「他でもない己自身」を満たすために他ならない。社会の為だとか人類の為だとか他の誰かの為だとか女の為だとか皆の為だとか、全て、己自身で決められない言い訳だ。 
 情けない奴等だ。
 他にやることはないのか?
 「生きる」事に向き合わず、ただ「持つ側」という理由だけで、幸せになれても何かを成し遂げられるはずがない。そのくせ、「特別な何か」に憧れ、あろうことか「作家」という「肩書き」に憧れて、中身のないカス以下の作品を、たまたま運が良かったりして売りさばくというのだから、忌々しい限りだ。
 当然ながら、皮肉だ。
 私のような人間が金を稼げないからだという、私的な理由も有るがな。
 実際、そういう人間は実に邪魔だ。
 生きているだけで迷惑だ。
 言っても仕方ないがな。
 現時点で何を言おうがあまり説得力はないが、「運命如き」いずれ「克服」する対象でしかないのだ。出来なければ死ぬしかない。何事においても頂を越えることを見据えて、初めて先の一戦に勝利できる。視線も上を見れない奴が、大いなる障害を越えられるはずもない。
 作家などと言うのは、そもそもが人間を止めた連中の吹き溜まりだ。人間であるくせに作家をしようなどと、どうかしている。
 なんて言ってみたが、案外私は人間らしい人間かもしれないではないか。ちょっとばかり他の人類が滅んでも、大して気に掛けず、どころか人間であろうが無かろうが区別が無く、それでいて利用して使い捨てることにまるで躊躇がないだけだ・・・・・・案外、それも人間の一面なのかもしれないしな。
 まぁどうでもいいが。
 人間かどうかなど、些細なことだ。
 別にどうでもいい、金の多寡にはまるで関係がないしな。
 短期的に「敗北の運命」があるだけで、長期的に見れば「勝利の運命」があるとして、その場合試みそのものが無駄なわけだが、別に構わない。早めに美味しい思いが出来ればそれでいい。
 「結果」的に私の望む結末が手に入れば、運命などあっても無くても構わないのだ。
 私はそういう思考回路だからな。
 それで自己満足できる人間だ。
 非人間、だ。
 それもまた、些細な違いでしか、無いのだが。 とりあえずミュータント、か。生け捕りにして売り払えば、そこそこの金になるだろう。非合法であるほど金になる。資本主義の基本だ。
 法律はバレずにくぐり抜けるためにある、だから内容が穴だらけなのだ。そうでなくては、利用できないからな。
 核弾頭の開発、いや「核」という「概念」は永久に不滅だ。政治力の問題もあるが、そもそもが無くす気など無いのだから、無くなる訳がないだろう。
 兵器が無ければ国力を示せない。
 わかりやすい「基準」だ。その結果ミュータントが生まれ、核の影響下で人体を成長させ、それらを解析し実験することで医療や延命に役立ち、それを仕入れることで私が儲かるのだから、感謝は有っても文句はない。
 あるはずがない。
 自身に向けられない「脅威」など、利用する為の対象でしかないのだ。核など、保有することが目的であって、本来なら世界から無くそうなどという考えそのものが甘すぎる。
 どうやって現実問題国家を運営するのか、考えてもいない。馬鹿馬鹿しい事に「義侠心」とか、あるいは「倫理的な問題」とかそういう風潮に乗っかって、自分たちが「良い行い」をしていると思いこんでいる。
 もし核を放棄する案を通したとして、国家が核兵器という脅威を持たなければ、テロリスト共の思う壷ではないか。テロリストがそんなルールを守ってくれるとでも思っているのか? 私ならそんなルール守らないが。
 人類の平和は「核兵器」でもたらされた。
 それを無くして平和にしよう、など、おこがましいにも程がある。子供が「世界から兵器を全部無くしてしまえばいい」というのと同じだ。理想的ではあるが現実味はまるでない。
 現実問題、ここのミュータント共の犠牲のお陰で、その利益をもたらす人間は加増多くいるだろう。そして自分たちが受けている恩恵は無視して「道義的に駄目だ」と吠える。なら、その分不利益をこうむれるのかというと、そうでもない。やる前にはそれらしい事を言っているが、いざ自分たちに火の粉が降りかかれば、あっさり「こんな政策を決めるなんてどうかしている」と叫ぶのだ・・・・・・難民に体する「義侠心」も、同じ事が言えるが、綺麗事を叫ぶのは簡単だ。
 叫ぶだけならば猿でも出来る。
 実際に何か成し遂げてからモノを言え。
 それでこそ現実に変化を起こせるというものだ・・・・・・口と態度だけデカくするんじゃない。
 そんなことは、誰にでも出来る。
 いい加減自覚しろ、馬鹿共が。
 所謂「プロ」としての実力をつけるだけなら、実に簡単な事だ。およそ「十万時間」程、訓練すれば、人間の性能的にその道のトップクラスの技能を身につけられる。「反復学習」とでも言えばいいのか、言語でも同じ事が言えるだろう。どんな馬鹿でも現地で暮らせば、三ヶ月もしない内に喋れるようになる。
 これは才能とかそんな下らない些末事ではなく「そういう風に」人間は作られているのだ。
 たかが十万時間だ。
 年中それのことを考えている人間からすれば、実に容易い関門だ。
 何をするでもなく、ただ己の信条に従って・・・・・・狂気のように繰り返すだけだ。私はそれ以外の事をしてはいない。狂気、そう、まさに狂気だ。 何の見返りもなくただ「繰り返す」作業。
 いや、見返りはある。ただ、その保証がどこにもないというだけだ。
 完全に人間の在り方から外れることで、狂気は生まれるのだろう。「ご褒美」があるからこそ、人間は活力を伴って生きる。生まれたときから何一つ持ち得ず、何一つ「欲しがることさえ」出来ないような人間だからこそ、「何の理由も動機付けも」無く、あり得ないほどの行動力を発揮できるのかもしれない。
 確かに私には「金と平穏」という理由があるがそれだって絶対ではない。無論金は欲しいが、それが「作家業」の動機付けかどうか、と言われると、知らない、としか答えられない。
 「過程」よりも「結果」を重んじる以上、動機付けや理由そのものが「どうでもいい」のだ。金になればそれでいい。
 人生における自己満足、充足の方法として確立した今となっては、どうでもいいことだ。
 どうでもいい。
 どうでも良くないのは、「金」である。
 無論、目的を達成したところで、やることは同じだろう。金に困る可能性がゼロに成れば面白い物語を読みふけり、それでいて足りなければ、また他の娯楽を探しつつ、作品を書いて充足を得るまでだ。何なら、未知のジャンルを書くのもいいだろう。私は作家として才能ではなく経験で書いている人間なので、どんな作風であろうが、書けないモノは存在しない。
 理論上では、だが・・・・・・どれだけ目的を達成しようとも、私は飽き足り退屈することはない。半恒久的に、人生を楽しめる。
 それに比べれば人並みの人生など、安いモノだ・・・・・・狂気の方が、面白い。
 狂人で良かったと、心から思う。心なんて有るのかどうか、別に保証もしないが。
 するつもりもない。
 私は寂れた惑星に降り立ち、そんな事を考えていた。見る限りでは、だが・・・・・・まさに廃墟といった印象を受ける。
 この辺りは開発地区だったのか、主に居住区とその周りに農産業地帯があるようだ。だが、中央部にある中央管制室。恐らくは核実験の主導を行っていたであろうその施設に至るまでの道のりにある居住区には、人の気配はしない。
 まるでしない。
 街が死んでいるようだ。
 死んでいるなら死んでいるで、死体を売るだけだが・・・・・・ミュータントを殺し尽くし、写真の男を「始末」するにしたって、まずは「巣」を探さねばなるまい。
 面倒な噺だ。
 ミュータントの応用性は非常に高く、近いところでは「ガン治療」の特効薬として、彼らの血清が売られている。多量で有れば毒になるが、少量なら利用可能になるというのは、毒物の基本だ。 他にも、遺伝子治療によるアンチエイジング、移植用(無論、殺菌後だ)臓器もある。ウィルス耐性が高い分肉体に核による有害ウィルスを宿してこそいるが、不思議なことに「肉体そのもの」は至って健康なのだ。だから血清用にまず血抜きをし、そして殺菌消毒を行えば、非常に有用性の高い臓器、また非合法なバイオコンピュータ用に脳を売りさばけば、結構な金になるのだ。
 繁殖方法が現状、不明なので、だからだろう。こんな廃棄惑星に、ミュータント共を放っておいているのは。「遺伝子組み替え食物」にも非常に高い毒への耐性が有用であり、バイオテロ対策の意味合いも有るのだろうが、少ない栄養価で育つ部分からも着目を得て、現段階では、だが・・・・・・およそ八割の飼料は、アンドロイドとドローンの管轄下で「遺伝子組み替え食物」主に完全な栄養を得られると評判の万能麦と、それを食べる全ての管理動物に、飼料として出されている。
 それを食べているわけだ。
 牛や豚、羊や鶏を美味しそうに。間接的にではあるが、ミュータントの肉を食っているのと、大差はないだろう。
 私は無論、有機栽培麦を食べているのだが、非常に値が張る。極々一部の富裕層でしか、そんな自然からの恵みは食べられなくなっている。
 昔の人間が普通に行っていたことを、金を掛けて金持ちの特権として活かしているのだから、何とも奇妙な噺だ。もっとも不気味なのは、本来そういう生活をしてきたはずの庶民こそが、そういう「安い遺伝子改良食物」を食べている部分か。 集団心理なのか何なのか。いずれにせよ、そうやって時代に流されれば、確実に、知らない内に多くの毒素と後悔を、その身体を持って味わうことになるのだろう。それを自覚すらも出来ないようだかな。大抵の人間は「年をとったから」で、誤魔化すらしい。
 年齢に健康状態は関係がない。
 だが、そう「思いこみ」たいのだろう。自分たちに何一つとして「落ち度など無い」と、信じ込みたいのだ。だから、利用されるのだろうが。
 ああはなるまい。
 ああなってはお終いだからな。
 生物としても、一個人としてもだ。
 私もお前達読者共も、何一つとして「特別」ではない。私とて、手間がかかるというだけで、少なくとも人類史で同じような人間がいないかどうかと言えば、否だろう。
 それでも己を際だたせたいならば、狂気に身を任せればいい。私は取るに足りない人間だったが「狂気」は人間を替えの効かないモノにする。
 己自身は決して替えが効かないものだ。
 サムライの能力とか作家業とかそんなモノは些細なことだ。誰にでもある肩書きでしかない。そして肩書きとは所詮、存在さえしないものだ。
 そこに至るまで、至ってから、そしてこれからの人間の狂気こそが、己を己たらしめる。
 それでこそ「人間」だ。
 人間はもっと「狂気」に満ちるべきだ。
 そうではないか?
 その方が・・・・・・面白い。
 替えが効く人材? 大いに結構。別に何一つとして問題は生じない。似たような作品も、いずれ世に出るかもしれない、だがこの「狂気」だけは代わりの効かない唯一であるべきだ。
 だからこそ、人間は面白い。
 狂気だけが、人生だ。
 金と狂気で、得られぬモノなど何もない。
 狂気とは、戦力差も実力差も財力差も無視して全てを台無しにする思想だ。そして、そうでもしなければ「持たざる人間」は決して勝てない。
 敗北は人間の味を濃くするが、誰だって濃い味にする為頑張っている訳ではない。いるとしたら背伸びしているお子様ぐらいだ。
 そういう奴は多い。成長する事が重要だ、などと・・・・・・欠伸すら出ない。
 偉そうに説教を垂れる前に、本の一冊でも買いてから言え。噺はそれからだ。
 我々は所詮、肉と骨の固まりでしかない。自身を「特別だ」とか「悟っている」とか思いたがる人間は多い。背伸びして大人ぶって、自分は凄いんだぞと、思いこみたがる。
 そんな暇があるなら金を数えろ。
 偉ぶるだけなら犬でも出来る。
 私の場合処世術、というか交渉ではそういう態度を取るのは合理的だと分かる。交渉事で低姿勢でいて良い事など一つもない。舐めた真似を許せば奪われる。取引の基本だ。
 傲慢さなどカードの一つだ。
 現実には「偉さ」などどこにも存在しない。
 そういう意味では、ここにいるミュータント共も銀河連邦の権力者も、私にとっては同じだった・・・・・・利用できるか出来ないか、殺せるか殺せないかだ。
 そして私に殺せない、「始末」出来ない相手など、この世にもあの世にもいない。だが、容易い依頼だ、と慢心するつもりもなかった。
 街を歩きながら、考える。
 アンドロイドを素手で破壊できる私でも、汚いモノは触りたくはない。そこらじゅう汚染の後があり、街にペンキをぶちまけたかのような有様、そしてもう何年も人の生活が無いであろう雰囲気を醸し出していた。ウィルスや細菌兵器如きで、どうこうなる「サムライ」でも無いが、まぁ汚いモノに触る必要もあるまい。ハンケチを取り出して、試しにそこら辺のガラクタを拾ってみる。
 これは、機械だろうか。恐らくは元々はラジオだった残骸のようだ。しかし、気になる点が、一つあった。
 中の回路が幾つか引き出されている。
 「誰か」が、他の機械に流用する為に、中の回路を引き抜いたのだ。それを何に使ったか、なんてのは分からないが、奇妙だ。
 ミュータントは原始的な生き物だ。
 文化、と呼べる程のモノを持たず、ほとんど本能で行動する「生物」いや「生物兵器」と呼ぶべきモノだそれが、「機械を作り直す」なんて、そんな事をするのか?
 手がかりになるかもしれない。
 街を歩くと、レストランらしき場所があったので、そこの中にある席に座ることにした。当然ながら、食べ物は出ないので、あらかじめ持ち歩いている非常食のカロリーバーをかじりつつ、水筒に入れてあるコーヒーを飲み干しだ。
 やはり美味い。
 ミュータントが跋扈し、文明が滅びても、コーヒーの味は不滅だな。
 いいものだ。
 私は金以外に価値を見いださないし、見いだすつもりすらない非人間だ。だが、そんな私だからこそ、言えることもある。
 所謂「信念」だとか「意志」だとかに価値は存在し得ない。だが、もしお前達がそれを価値ある何かにしたいのならば、誰かにその意志をバラまき、そして自分ではない誰かに受け継がせることだ。悪であれ善であれ、自分ではない誰かに、受け継がせない意志に価値は生まれない。
 愛だの友情だの眠い事を言ってる暇があるならそれを誰かに伝播して見ろと、まぁそういう噺だ・・・・・・少なくともコーヒーは素晴らしい。
 コーヒーが素晴らしいという「意志」を受け継がせた人間が誰だか知らないが、きっと私のような非人間ですら、その価値は認めるだろう。
 美味いからな。
 味は本当は分からないし、美味しくてもそれを「美味しい」と認識できないのだが、雰囲気がいいのだ。優雅な雰囲気、静謐な時間を演出するのに、コーヒーは優れている。
 こんな廃墟でも、それなりに絵になるしな。
 思想はバラまいてこそだ。
 それでこそ、意味と価値が生まれる。
 何もないところからでも、存在しうるのだ。
 戯れ言だがな。

 そこに女の子供がいた。

 少女だ。まるで「不思議の国のアリス」だ。こんな

 当然、こんなミュータントの跋扈する惑星に、まともな人間がいるはずもない。何者だ?・・・・・・いや、今それを考えても仕方がない。 
 私はサッカー選手がスタートを切るかのように椅子を蹴飛ばしながら少女の後を追った。早い、こんな足の速さ、子供ではあり得ない。
 一キロを三十秒フラットで走る私が、サムライが追い抜かれるなど、あり得るのか?
 恐らくは街全体の下水を処理していたであろう大きな排水溝のトンネルような場所に出た。どうも街全体を囲うように下水が通っているらしい。どうにも建築の仕方一つとっても、作為的な場所だ。洪水対策か? こんな大きいトンネルみたいな下水があるとは。
 大きな排水溝トンネルの向こうにある、暗闇の入り口へ、少女は消えていった。あまり追いたくないが、追うしかあるまい。私で有ればミュータントが何万何億いようが、引けは取らない。
 筈なのだが、どうも、嫌な予感がした。
 毎度ながら、ロクな依頼ではないな。
「ジャック、どう思う?」
 私は携帯している端末に向かって聞いてみた。「・・・・・・ミュータントが薄暗い場所を根城にするのは珍しくないが、どうも、妙だぜ」
「何がだ」
「さっきの「少女」何かしら強い意志を持って移動しているように見えた。本能的な動きじゃあないな、あれは。ミュータントは進化の代わりに、殆ど「理性」を失っている。あんな動きが出来るほど、性能も高くはない」
「成る程」
 つまり「悪い予感」がすると。長々と説明したが、何も分かってないではないか。
 私は彼女の後を追おうとして
「逃げて!」
 その声にかき消されたと思う暇もなく、私は咄嗟に身を伏せた。と、ほぼ同時、殆どのタイムラグも無く、私の頭上をプラズマ放射銃の軌跡が頭をかすめた。狙撃、か?
 ミュータントが銃を構えて狙撃?
 訳が分からない。
「こっちよ」
 そう言って、少女は私を手招きし、トンネルの中へと誘導する。私はとっさに飛び降りて下水道のトンネル前に一般歩道から飛び降りてしまったので、見えたのはほんの一瞬だったが・・・・・・間違いなくミュータントが「プラズマ銃」を持っている姿を、確かに見た。
 なんだあれは。
 アンバランスすぎて気味が悪い。
 ああいう造形は好きだが、そのミュータントが最新式の狙撃銃を構えている姿は、なんだか同家じみていて、滑稽でしかなかった。
 少女に言われるがまま私はトンネルの中に避難した。応戦しても良かったが、狙撃後には移動するのは鉄則だ。同じポイントにはまずいないだろうし、いたとしても追撃は難しい。
 だからここは引くことにした。
 武装したミュータントなんて、念頭に置いてすらいなかったしな。
「ここなら安全だわ」
 言って、少女は恐らくこの下水道を管理していたであろう警備室らしき所へ入り、その奥にある隠し扉らしき場所を何やら番号を押して認証して開いた。
 その奥には暗く長い通路があり、そこを抜けると・・・・・・
「何だ、これは?」
「歓迎するわ。ようこそ、レジスタンス本部へ」 

    5

 この世は所詮紛い物だ。
 勝利も友情も努力も漫画の中位にしか、つまり作り物の世界にしか存在し得ないただの嘘だ。
 そんなモノは存在しない。
 汚らしいただの嘘だ。
 愛情は自己満足の裏返しで、友情は利他行為の別称だ。この世にある「綺麗事」ほど、醜悪で厚かましいモノは無い。
 善意を無理矢理押し売り、断れば「信じられない、こんな道徳的な頼みを断るなんて」と、厚かましいことにこちらの都合も考えず、それでいて自分たちの主張は通って当然だと思っており、そのくせ大して行動すらしない。
 綺麗事を口にする人間は大体そうだ。
 そして、こいつらも似たり寄ったりだろう。
 レジスタンス、と呼ぶにはあまりにもお粗末な場所だった。どうやらここは「ミュータント化」の手術を受け損なった人間達のコミュニティーらしい。標的の博士、生物学遺伝学専門の男は、どうやら人工的にそういう存在を作り続けているらしい。
 私には関係がないので、どうでもいいが。
 こいつらは私が自分たちを助けてくれて当然だと、厚かましくも思っていたらしい。何人かの人間が「助けてやったのに」と叫んだが、別に頼んでいないし、金があれば人間に助けなど、塵一つ分すらも必要ない。
 人間は人間など助けられる筈があるまい。
 人を助けるのはいつだって「金」なのだから。 窮地に必要なのは金であり、絶望から人間を引き上げるのも、また金だ。人間が人間を助けるなど、お前達漫画や小説の読みすぎだぞ。
 そんな訳が無いだろう。
 私は先ほどの少女、マリーとか言う少女に、談話室のようなスペースに案内され、そこに座ることにした。
 安っぽい椅子だったので、私の座る椅子にはクッションを敷かせた。その方が良いと判断したのか彼女もそうして、向かい合うように座った。
「私の名前はマリー。ここの責任者よ」
 解放された人たちへ食事の提供と、地下農場の指導、及び解放活動の指示を出しているわ、と彼女は言った。
「俺の名前はジャック。違法取り引きされた人工知能で、今の持ち主はそこにいる先生だ。存在自体が違法だから、俺の事は黙っていてくれ」
「私は作家だ。「先生」とでも呼んでくれ。私も存在自体が違法、というよりも、政治的にも色々問題があって、「サムライ」であると同時に、指示された邪魔者の始末も請け負っている。当然、活動は違法どころか政治的にもグレーな存在だ。だから私の事は公安には言うなよ」
「・・・・・・貴方達、二人とも存在そのものに問題があるのね」
 私と一緒だわ、と見た目に似合わない笑みを軽く浮かべてから、彼女はそう受け止めた。
「私はクローンよ」
「クローン、と言うと、ミュータントから人工的に作られたのか?」
 厳密には違うわ、と前置きをしてから、彼女はこう続けた、「私は時森博士の娘の卵子を使ってミュータントと交配させた成功例なの」と。
「ミュータントと人間が? あり得るのか」 
「俺はあり得ると思うぜ。不可能じゃないだろうしな」
 言って、ジャックは端末上にデータをズラズラと並べた。どうやらミュータントの遺伝子情報やその人間との差異について書かれたレポートらしかった。
 それを見てマリーが口を開く。
「人間とミュータントは、遺伝子が変質しただけで、元は同じ人間だもの。勿論試行錯誤は必要だったみたいだけど、当然と言えば当然よ」
「だが、そんな事をして」
「貴方も見たでしょう?」 
 私の足の速さ、とそう言ってスカートを翻した・・・・・・ませた子供だ。こういう子供は自尊心は結構高いので、扱いには気を使う。
 注意しておこう。
「元々、「人間を越える種族」として、実験を進めていたらしいわ。けれど、相次ぐ核実験が当時の上層部にバレて大きく揉めた」
「秘密裏に核実験なんてやっていたのか」
「当然よ。そこの貴方、人工知能ならネットにアクセスして、当時のデータくらい出せるでしょ」「あいよ」
 言って、また端末上にジャックはデータを映し出した。どうやら、人物データのようだ。ジャックは「どこもこういうもんだよな」と軽口を挟みつつ、説明を始めた。
「当時、時森博士は「ハイブリット人間」の開発主任として、ここに招かれていたらしい」
「ハイブリット人間、とは?」
「先生、遺伝子情報の操作で、優れた作物を作れることくらいは知っているだろう? それを、ミュータントと人間でやったのさ」
「馬鹿な事を考える奴がいたものだ」
 いや、どちらかというと私に近い。「発想はあっても普通実行はしない」そういう類の実験内容であることは、確かなようだ。
 狂気だ。
 人間の改造など、考えても実行しない。
 私が言うと、どうにも説得力に欠けるが。
 サムライなんて改造人間そのものだからな。
「ええ、馬鹿な事よ。けれどそれを実行に移す人間がいて、それに相応しい資金と場所を提供する人間がいれば、それは実現可能な「現実」になるのよ。狂気を実現させるのなんて簡単よ、権力と金が有ればいいのだもの」
 言って、関係者リストを眺めていると、その資金を出したのはどうやら「教授」のようだった。 こんな古い段階から考えていたのか。
 読めない男だ。あの教授も。
「実際にその被害を受ける側からすれば、たまったもんじゃ、無いけどね。権力者なんて金をため込んでいるだけの、ただの豚よ。自分たちを立派だと思いこんでいるようだけど、品性は金では買えないらしいわね」
「言われてるぞ、先生」
「大きなお世話だ。いいんだよ、金になれば」
 私は「それで」と噺を区切り「何が望みだ」と聞くことにした。
 彼女は、
「ええ、貴方の協力が欲しいのよ。彼らは最新鋭の兵器を、この惑星と生き残りの人間達を狩りの獲物にすることで「技術の遊び場」として活用しているの。私たちは兵器の実用性を実証する為の的ってわけ」
「ん、まてよ。確か貴様は「ハイブリット化」に成功した成功例なのだろう? ならば、お前は博士の所へ行けばいいんじゃないのか?」
「冗談は止めてよ。愛情なんて、勝手に向けるのは良いかもしれないけど、向けられる側はたまったもんじゃないわ。レジスタンス役を押しつけられた人間を殺すことで愛情を確認するような変態に、私は媚びなんて売りたくもない」
 何事も、一方的に満足する側はいいが、される側はたまったものではないらしい。ならば私の作品もそうなのかと思ったが、私の作品は満足と言うには苦悩に満ちすぎている。ならば案外、私の作品を読む相手も、その苦悩を疑似体験して苦しんでいるのかもしれない。
 金を払った後の読者など、どうでもいいがな。 重要なのはあくまでも「金」だ。
「私に出来る事はなさそうだな」
「ちょっと、待ってよ」
「何だ」
「見捨てるつもり?」
「見捨てるも何も、私とお前は友達か?」
 契約で仕方なくここにいるだけだ、私は。別にこいつらと仲良くする為に、いる訳では無い。
「だったら、何よ」
「自分の事は自分でするんだな。私はその時森とか言う男を「始末」せねばならんのでな」
「始末、って、ちょっと」
 服を捕まれ、仕方なく私は立ち止まる。
「手伝うわ」
「邪魔だから家で寝てろ」
「いいえ、行く。もう決めたの」
 逃げないって、などと、よく分からないことを口にして、どうも、私を手伝うことで、何かしらの自己満足を充足させたいらしかった。
 気絶させて放置させようか、と思ったが、よくよく考えれば、この女なら博士の居場所を知っているのではないだろうか。
「お前、博士の居場所を知っているのか」
「知らないわ、けど」
「じゃあな、お疲れ。子供は寝てろ」
「待ちなさいよ! 博士は、貴重なサンプルとして、貴方、サムライなんでしょう? 捕獲しようとするはずだわ。その時を狙えばいい」
「ふん」
 どうしようかな。
 物語の流れに従うなら、この女を連れていくべきなのだろうが、別に無視しても私は何も痛くも痒くもない。何なら今ここで五月蠅い口ごと首をはねても、別に構うまい。
「連れて行こうぜ、先生」
「正気か?」
「弾避けは多い方がいいだろう?」
「ちょっと、聞こえてるわ」
 愉快な愉快な三人組。
 案外あっさり死ぬかもしれないが、連れて行くだけなら構わないだろう。
 別に守る必要もないのだから。






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