邪道作家第八巻 人類未来を虐殺しろ!! 狂気を超える世界 分割版その6
新規用一巻横書き記事
テーマ 非人間讃歌
ジャンル 近未来社会風刺ミステリ(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)
縦書きファイル(グーグルプレイブックス対応・栞機能付き)全巻及びまとめ記事(推奨)
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悪の自認。
よくわからない噺だ。大体が、「貴様のやっていることは法律に反する」などと、それでいて己は悪くない、世間の基準とズレているだけだ、などと。
よく分からない。
いや、理解は出来る。だが、それがなんだというのか。悪かったから、だから何だ? 例え己の始めた行動が「悪」(これも、よく分からない基準ではある。どう決めるかは本人次第だろうに)だとして、それで止めてしまうのか?
私の行為はすべからく悪だとして、まぁ人によって基準も違うだろうし、とりあえず全てが全てこの「私」の行いが、「悪」だとしよう。
知るか。
貴様等凡俗の悲鳴など、何億有ろうが知ったことではない。この「私」が良ければそれでいいのだ。だが、世の中の人間って奴は「自分が悪くない」ことを証明しようとする。
そんな必要性がどこにあるのか。
いや、無論「法の網をかいくぐる為」だとかなら、私にも分かる。法的に捕らわれないように手を打つのは基本だからな。だが、当人の罪悪感だとか、善性を保つためだとか、そんなどうでもいい理由で、己の立場を守りたがる。
例え世界全体が敵に回り、全人類から非難され全ての生き物に迷惑を掛け被害を出し、絶対的な悪だと認識されようが、だ。
当人自身は笑ってしかるべきではないか。
私なら大爆笑だ。成る程、他の人間は幾分か、大分、かなり、傷ついたかもしれない。だがそれと私の利益は、何の因果関係もないのだ。
「それは君が人間として壊れているからだよ」
相対したその男はそう言った。人として壊れている、か。人を欠損品みたいに評して欲しくないものだ。どうせなら高値が良い。
価格などふっかけて当然だからな。
当たり前のことでしかない。
虚勢も図々しさも金はかからない。ならば己を高く見積もり高く売り、高く裁くのは当たり前でしかない。当たり前すぎる噺だ。
息を吸って吐くに等しい。
「通常、人間は己をそこまで信じられないのだよ・・・・・・君の言う所の「何かを成し遂げる」事から逃げた人間は、特にね。己で成し遂げた事柄がないのだから、信じるに足る根拠がない」
「根拠など必要ないだろう」
「それは君が狂っているからだ。そういう道を歩くことは、非常に難しい。人に理解されたがるのは人間の本能と言っていい。集団にはじき出されれば迫害が待っている。それを出来るのは君のように日常的に迫害され「慣れてしまった」人間か「最初から他の人類と違う欠損部分」がある人間くらいだろうね」
「おいおい、馬鹿を言うなよ。少しは気にしているさ。売り上げに関わるからな」
白い部屋だ。それも、私は実験室のような大きい部屋に出され、彼、標的の博士はモニタールームみたいなガラス張りの部屋から、こちらを眺めていた。だから、どうにも見下されているかのような感じで、人をこき下ろして見下すのが好きな私からすれば、絶好の環境だった。
何の話だったかそんな事を言っておいて忘れそうになる。なんだ、そう、人の評判がどうの、という話だったか。
「誰かと誰かを見比べて、生きる。これは己の立ち位置を確かめる行為だ。それが無い君のような人間は、そもそもが立っていないのだよ」
「立っていない?」
「そう、人間は誰かと誰かを見比べて、生きる。だが稀に例外は発生する。それが君だ。 君は人間の立っているステージにいないんだよ。だからどれだけ足掻いても人間と同じ、いや心の有る存在と同じ目線にはたてないし、その物真似も上手く行かないのさ」
「それで」
それが何なのだ。回りくどい男だ。
「いや、感心しているんだよ。君ほど、我が強く己を信じられる存在は非常に珍しい。根拠もなく己を信じ、変えようとする人間がいる。何か大きな環境、社会、政治、そういった強者を変えるには、根拠無き確信が必要だ。中々出来ることではない」
「世辞は良いから金を払えよ」
「世辞ではないさ、まあ、君を呼んだ理由の一つだからな。一応、説明したまでのことだ」
私はあれから、建物内を徘徊し、そしてこうして博士のいる場所までたどり着いた。とはいえ、すぐに殺してしまっては金にならないので、とりあえずあえて捕らわれてやり、こうして噺を聞いている。
これも金の為だ、我慢しよう・
取材にも成るしな。
「君の様な人間は、社会に適合することこそ難しいが、それ相応の環境を与えてやれば無類の強さを発揮する。危機的状況、つまり戦時だ」
「生憎私は戦いや争いが嫌いでね」
「だが得意だ、違うかい」
遠目ではあるものの、そのいかにも皮肉った言い方もそうだが、随分ないけず爺だ。性根が腐っているのではなく性根が悪い。
どちらも似たようなものだが、笑い方が凄く忌々しい。してやったり、みたいな笑い方は、私の側がすることだからな。
「君ほど、戦争に向いている人材もいないよ」
「嬉しくもない」
実際、嬉しくもない。争い事が得意、暴力が得意、それは子供の頃から、否、それ以前から知っていた情報でしかない。
しかし、この平和な社会で、何の役に立つ。
どう金になるというのだ。
「いいや、違うな・・・・・・平和な社会などありえんのだよ。いいかね? 社会とは人間同士を争わせ極一部が利益を出す、その為だけに存在しうるものだ。社会性が構築されずとも、それはそれで動物的な争い、自信の縄張りを守る戦いは存在する・・・・・・資源の量はこの際問題ではない。何か欲しいモノがある、生物としてこの「我」が有る以上は、どれだけ平穏だろうとどれだけ平和だろうとどれだけ優れていようとも、争いは存在する」
重々しい口調で博士はそう言った。老人の癖に随分と、含蓄の多い奴だ。いや、老人だからこそなのだろうか。
どうでもいいがな。
「君に自覚はあるのかどうか、いや、そんな労働をしている以上、自覚はあるのだろうが・・・・・・恐ろしく貴重な才能なのだよ。「人間性を捨てる」これをするために生涯を賭ける人間も、少なくはないのだ」
「御託は良い。嬉しくもないしな。それで、貴様等の目的は何なのだ?」
「知りたいかね」
「作家だからな」
「よろしい、ではお教えしよう」
まず、君は現行の社会形態をどう思う、などと彼はまず聞いてきた。どうやら噺の前の前置きと言ったところか。
「行き詰まっている感じはあるな」
「そう、その通りだ。人間は科学の力で圧倒的な力を手にしたが、限界を超えてきてしまった。それも精神的には何も成長しないまま」
「そんなもの、どうとでも言えるしどうでもいいだろう。愚かだとか精神がどうのだとか、そんな理屈は上から目線で神様ぶっているだけだ」
「そうも言ってられまい。切実な問題だからな。人間はそれをずっと先送りにしてきたと言ってもいい位だ。そして私は考えたのだ」
行き詰まっているなら、濾過すればいい、と。「私は例の「新人類」を使って、争いを起こすつもりだ、それも、宇宙規模のね」
「そんな事をして、どうなる?」
「選民を行う。生き残れば、争いに生き残ったモノは良かれ悪しかれ「成長する」からな。それを人為的に行うことが、今回の目的だ」
宇宙全体を巻き込んだ「選民」
新人類を大量生産し、それによる戦争を激化させ、激しい争いの中で生き残った「個性」強い人間、アンドロイド、ミュータント、エイリアン、ハーフ、それらの「濾過」で生き詰まった人類社会全体の再構築が目的、という事か。
争いと狂気をあの「新人類」で引き起こし、そして「それ」を克服し、乗り越えた生命のみを歓迎する。
人為的に「進化」を引き起こす。
あるいはそれは「成長」と呼ぶべきか。
「「異常」な環境下で人間は「耐え続ける」事は出来ないように出来ている。これは「生物」が、常に「生命の危険」を感じ続けるストレスに耐えきれないからだ。だが、そういった「異常」な環境下に置かれた生物は、死なずに生き残れば、だが・・・・・・それら異常な環境下に「適応」し「進化」する場合も、あるのだ。元より「異常」でそれを「通常」とでもしていなければ、だが。そういう意味でも存在自体が「異常」精神の頑強さではなく、精神の在り方そのものが「違う」サムライの被験者は、必要不可欠だった」
「それで、わざわざこんな惑星で待ちかまえていたわけか、ご苦労なことだ」
「人類は肉体の頑強さは確保した。後は精神の眼鏡さ、だ。無論、耐えれれば良い、というものではない。それはただ我慢強いだけでしかないのだ。そうでなく、「困難」を「克服」した魂、精神の有り様こそが、人類を次のステージへ進めるのに、必要なピースだと言える」
だから今回の実験を後押しした。
それが博士の計画である。
「社会全体を人為的に、どうすれば成長させることが出来るのか? それがテーマであり議題だ」「進化も成長も、人の手で引き起こすモノではないだろう」
「いいや、そうでもない。人間の有り様から言って、これが出来なければ最早先には進めない。それくらい行き詰まっているのだ。現行の社会構造から言って、天然の、つまり人の手の入らない、進化や変化、それによる改革は、まるで望みが無いものだ」
だから、ここまで馬鹿げた計画を実行した。
ご苦労なことだ。
「人間の手で人間を進化、成長させる、などと、随分不遜な思想の持ち主なのだな」
「そうでなければここまで出来ないさ。むしろ、私にとっては誉め言葉だな。君だってそうだろうに。・・・・・・人為的に社会構造を「進化」させるスキームが確立できれば、人類は「無限」に「進化」することが出来る。精神的な成長は、テクノロジーではカバーしきれないのだ。対して、肉体的な限界点の突破は、もう何十万年も前に、既に確立されている」
宇宙空間でもマグマの中でも、人類は適応できる科学力を持っている。問題はテクノロジーの進歩が早すぎて、「精神」が追いつかないまま、ここまで来てしまったことだ、と。
だが、精神的な成長の足りない人類に、「大きすぎる力」を与えれば、使いきれずに争うだけだ。それでは意味がない。
テクノロジーは既に修めた。
次は精神の限界を超える。
それこそが、進化ではなく進歩しすぎた我々の「次のステップ」なのだ。
それがこの狂人の行動原理だ。
誰に頼まれたわけでもないのに、ご苦労なことだ。一つ私と違いがあるとすれば、この男は「己の為に」動いていない。その狂気を、社会全体のために動かそうとしている。
誰にも頼まれていなくても、それを信じて。
本当に、ご苦労なことだ。案外、こういう人間が頼んでもいないのに勝手に泥を被って、無理矢理技術水準を引き延ばしてきたのだろう。
それに「心の平穏」から最も遠い「争い」こそが人類を成長させ、その「心」を持たないが故に、争いや異常を常に己の内に持ち、「進化し続ける」筈の「狂人」である「私」が、その「心の平穏」を求めているというのだから、何とも皮肉な物語だ・・・・・・夏がくれば冬を求め、心が有れば心に悩みなければ「金と平穏」を求めるというのだから、どちらかに偏っているだけでは意味がない、ということなのかもしれない。
重要なのはバランスか。
まぁ私の場合平穏と金を求める。金とは大抵が闘争の後に付随するものであるという事実を踏まえると、私は早く争い事から解放されたいだけなのかもしれない。
なんてな。
作家業を止めることは、できないししないだろう。バランスの良い「生き甲斐」という「刺激」そして「金と平穏」こそが、目的だ。
難儀な人生だ。
だが、必ずそれは達成しなければならない。そして矛盾せずにそれは両立可能だ。両立するからこそ、そしてそれをバランス良く行い、余力を持つからこそ、平穏は手に出来る。
争いを求めなければ、そして金が有れば平穏など簡単だ。争いを求め、分不相応な富や名声を求めるからこそ、平穏から遠ざかる。
私は自己満足の闘争で良い。
作家である以上、争う相手も打ち勝つ相手も、元よりいないしな。「傑作」を書き続け、それで自己満足し、それでいて金と平穏があり、後は良い女でも抱けばいい。
美味い食べ物を食べ、美味しい飲み物を飲む。 非人間であるが故、私にはそのどれもがまったく「幸福と感じられない」のだが、まぁ構わないだろう。自己満足で構わない。
それらで本当に満足できるなら、それはもう私とは呼べないだろうしな。
非人間でありながら、自己満足で満足する。
だからこその邪道作家だ。まぁ、そんなポリシーとて、私個人の充足の障害になるようならば、あっという間に捨てて、次の目的を探すのだろうが。
教授に文句を言われるわけだ。
私は私が満足できればそれでいいので、別に構わないがね。
それでこそ、面白いというものだ。
こんな風に「異常な状態でも楽しめる」というのは「異常者」を連想させるが、違う。
「異常者」と「狂人」は違うのだ。
異常者とは単に倫理観が崩壊していたり、あるいはそれを良しとしているだけの連中だ。だから社会と折り合いがつかない人間も多い。だが、それと狂うことは、まるで別モノだ。
世界には狂気しかないことを、知っている。
ただのそれだけなのだ、言ってしまえば・・・・・・奇異な行いであるかなど関係なく、この世界は全てが全て狂っている事を、ただ知っている。
正常や常識、普通などどこにも存在し得ない、ただの戯言であることを、知っているのだ。
だから、常識を信じない。
普通を疑い続ける。
正常など存在しない。
殺し合いも奪い合いも騙し合いも、それらが異常な出来事ではなく、「生物同士が争う事は、別に珍しくない」と、知っている。
人が人の欲望のために、人を殺しても実は、表向きに普段奴等が言っている「良心」などという存在の「呵責」が、「ただの嘘」であることを、知っているだけだ。
何一つ特別ですらなくとも、世界が狂気で満ちている事を知ってしまえば「常人のフリ」をしていられるほど、お人好しにはなれないものだ。
害意を向けられる側、奪われる側、搾取される側、意見を押し通される側、弱い側。持たざる側の人間にとっては、全て「狂気」でしかない。
世界は狂気で出来ていて、それらの狂気を金で操れる。世界の真実など、そんなものだ。
解明するほどの面白味もない。
それが、人の世の真実だ。
人間は物事を見る目線で世界の見え方が変わるものだ・・・・・・個人で有れば個人の、集団で有ればその集団の、集合体で有れば集合体の、企業で会れば企業の、国家で有れば国家の、社会で有れば社会の、惑星で有れば惑星の、宇宙で有れば宇宙の、世界で見れば世界の、神の目線で見れば神の世界が、見える。
無論見えるだけで何が出来るわけでもない。だが狂気の目線は無限大だ。際限がない、それを知ろうともしないからこその「狂人」だ。
その狂人が力を持てば、ここまでやっかいになるモノなのか、実に参考になる。無論、私は金は求めるが、およそ「力」というモノに関心がないのだ。金は力だが、それ以外の余分な力に興味がわかない、という事なのだろうか。
だが、作品の参考になる。これを機に、もっと狂気に満ちていて、読者の精神が汚染されるような、そんな物語を作れれば作者冥利に尽きる。
そして狂気に汚染された読者は、税金のように私に本の代金を払い続ける訳だ、素晴らしい。
何とかそうしたいものだ。
全世界の読者共が、嫌だ嫌だと言いながら、質の悪い中毒性に悩まされつつ、私の本に金を払ってもう読みたくないと苦しみながら物語を語る。 面白い。
これだから人生はやめられない。
実現すれば、だがな。
まぁ現実には私は「不運」などと言う「何をどう足掻いても上手く行かない」というクソみたいな環境下にいるので、何をしたところで上手く行かず、結局割を食うのだが。結局、私の行動は全て、持たざる人間の足掻きなど、持つ側からすれば何の意味も価値も生み出しはしない、ということを体現しているようなものだ。
結局、運不運か。
そんなどうでもいい、どうでも良さ過ぎるモノの有る無しで、決まってしまうのだろうな。最近はそれに異議を立てるのも、空しくなってきた。 どうせ勝てはしないのだ。
勝てない戦いは、空しいだけだ。
空しさ以外何もない。
何一つとして。
無い。
私の道のりはずっとそうだった。そしてこれからもそうなのだと考えると、吐き気を催す気も失せてきた。それすらも、どうせ無駄なのだから。 事実、無駄は無駄。
それを活かして何かを描くことすらも、馬鹿馬鹿しいとしか思わない。私は別に傑作を書くことそのものの為に、自信を犠牲にしようなどとは、考えたこともないのだ。
だから嫌だった。
勝てない世界が大嫌いだ。
面白くないからな。
「それでも君は諦めなかった」
「諦める権利などなかったさ、私には」
事実そうだ。物語にしたって無駄だと分かっていながらも、それでも突き進むしかないのだ。他に私に選べる道など無い。だからこそこの道での失敗は許されないはずだが、それでも私は勝てなかったのだ。
「意志も思想も諦めも、まるで無意味だ。何かを思えば世界が変わるか? 何かを諦めれば世界が良くなるか? ならない。だから私は現実に何かを何とかするために、続けた」
「それも無駄だった。けれど君の異常性は、まさにそこなんだろうな。常人なら妥協して、諦めてしまう事柄が、「諦められない」という異常。有る意味君は誰よりも熱血漢の主人公なのかもしれないな」
「やめろ、気持ち悪い」
あんな連中と一緒にされるくらいなら、一緒にされる前に皆殺しにした方が、労力的にマシ、というものだ。大体が、そういう連中は大抵が私と敵対し、それでいて「努力みたいなもの」で何か勝てる為の能力を「幸運に恵まれて受け継ぎ」それでいて人間性を端から抹消し、論理を冒涜してでも前へ進む私に「ごくあっさり」勝つのだ。
反吐が出る。
人類全体に忌み嫌われ、迫害されながらも敵対する方が、そんなぐうたらな馬鹿共の脳味噌を理解しようとするよりも、百倍面白い。
「だが、君は諦めきれない。何故だ?」
「何故も何もあるか、馬鹿が。私の意志などどこにも介在していまい」
「いや、こと作家行に関しては」
「それも、違う。結局の所、私はまっとうな環境や、それに見合ったモノが手に出来ていれば、絶対に出来上がらない人間なんだよ。何もかも不条理にまみれ人間性を端から持たず、あらゆる手段を尽くして敗北し、ここに至る」
「それもそうか。他人事だから私にはどうでもいいが、まぁ、私でなくて良かったよ」
「まったくだ」
あの女もそう思っていることだろう。本心でどう繕おうが、私という人間に押しつけている事実は消えないからな。
サムライとしても、生まれついての部分も、作家としての部分も、全てだ。非人間であるというだけならば、私は嘆くどころか歓喜しただろう。だが、私は何もかもが上手く行かない。
まるで呪いだ。
大きな何かに「へた」を押しつけられているイメージだ。そんな人生だった。いや、現にそういう道しか歩いてこなかった。
「ふん、本来なら嘆いたり怒ったり「するべき」なのだろうが、私にはそれも「出来ない」実に忌々しい限りだ」
「そして、それは君以外には不可能な行いだろうな。誉めるつもりはないが、君ほど「狂気」に愛され精神の頑強さ、否、精神の異常さを、狂気を保つ存在はいないだろう。君以外の人間性では、物語の中ですらそんな存在はあり得ない」
「・・・・・・」
いや、いい。言ったところで無駄な話だ。
「欲しくもないからくれてやろうか?」
「遠慮する。君と同じ狂気を保有する、など、実にぞっとしない。いや想像したくすらない、というべきかな。人間であれ何であれ、そんな在り方は狂っている。君は、実際の所何を求めることも出来ない。非人間性も、人間性も、それらしい金や豊かさすらも、求めることが「出来ない」のだろう?」
大きなお世話だ。
それでも金は必要だ。そして、私はそれで自己満足できる人種である。あれこれ言われる覚えはないし、そうでなくても作家が物語を高く売ろうとするのは当然でしかない。
当たり前の事を口にするな。
底が知れるぞ。
「ふむ、成る程。君自身はそれを「自覚」している。自覚した上でそんな生き方をしている、などと・・・・・・君は正真正銘の化け物だよ。生きているべきではないし、生きていれば他の全てを脅かすだろう。君は死んだ方がいい人間だ」
上から目線で偉そうな事を吐かれたが、私にとってはそんな言葉、ただの日常だ。
そして日常の一コマ程、作家にとってつまらない上にどうでもいいことはない。
「知るか、馬鹿が。ならば勝手に影響されて死んでいろ。私は生きる。生きて幸福を「支配」してやろう。無論、金の力で」
「それが出来ない事は、君が誰より知っているはずではないのかな」
「そうでもないさ。私は例外だからな。人間の幸福の基準など、当てはまりもしない。私は金で幸福に「成れる」存在だ。そして、それで何一つ負い目を感じることも引け目を感じることもなく、他の人類をあざ笑いながら道徳を踏みつぶせる」「君は人間ではないよ。人間と同じ形をして、人間と同じように生き、人間の物真似をしているだけの化け物だ」
「面白いではないか、何が悪い」
「そうやって、罪悪すらも飲み込む所さ」
いつかあの女にも似たような事を言われた。私という人間は、非人間は「この世界の悪意のみを信じ、善意を全て否定している」と。まさにその通りだ。世界に善意などありはしないという事実から、目を背けている方がどうかしている。
だが、この博士の言に乗っ取るならば、私のような「存在」でもなければ、世界の善意や心地よい綺麗事は、信じるに足るらしい。
どうでもいいがな。
ただの詭弁でしかない。
「何をお前達が言おうが、世界は最初から罪悪しか存在しない。それを飲み込んで何が悪い。お前達は見て見ぬ振りをして、善人ぶってるだけだ」「その通りだ。そして、生き物である以上、異常な非存在でなければ、それは当然なのだよ。強い人間は幾らでもいるし、弱い人間は幾らでもいるものだ。だが、君のように「何を飲み込んでも己を肯定できる化け物」は、存在するべきではないし存在して成らない存在だ」
「何度同じ言葉を繰り返すんだよ、論理の授業の講師か、貴様は」
「違うさ、私の専門は「人間」でね。君は自分を人間の失敗作だとでも思いこもうとしているようだが、君は人間なんかじゃないし怪物ですらないただの「化け物」だと言っているのさ」
「名称などどうでもいい」
それなら明日から名刺の中身を変えるまでだ。受けは悪そうだが。
「何が言いたい」
「君は、自分が思っている以上に「狂人」だということさ。どうして君みたいな存在が生まれたのか理解できないが、ある意味奇跡だよ。聖人が生まれるように、悪の聖者も生まれ出るモノなのかもしれないな」
「人を勝手に肩書き詐称するんじゃない」
大体が、ダサいぞ、その肩書き。
押しつけるんじゃない。勝手に名乗ってろ。
「私はただ、作家として必要な技能を身につけたにすぎん」
いや、元から身につけていた、か?
それだけでは書けなかっただろうが。
「物語を書く人間は経験や知恵で書く人間、考えて構成を錬る人間、点部の才能で書く人間と色々いるが、君は「狂気」に身を任せて書いている。それは危険なのだよ、狂気に感染した人間は、思想からの影響と違って「逃れられない」からだ」「知ったことか。読者が狂気に感染しようが、金を払えば「私の」貯金残高は満たされる。何故私が貴様等凡俗の安全保障などしなければならないのだ」
私はどこの軍事大国だ。
下らん。
「その通りだ。そして、それが危険だと言っている」
「だから」
同じ事の繰り返しになってきたな。こういう会話は終わりがないから嫌いだ。
私が改心するとでも思っているのか?
全世界の金を私に捧げた上で、そんな願いは諦めろ。どれだけ貴様等が金を積もうが、私は約束など守りもしないからな。
「そうだな、この話は終わりにしよう。要は、その「狂気」通常の人間では耐えられない環境下にいともたやすく「適応」いやその異常環境を楽しんでしまえる精神力。私はそれが欲しい」
「やめとけ、ロクな事はないぞ」
大体が、精神の頑丈さ(実際にどうだかは知らないし、別に責任もとらないが)が私にあったとして、だから何だというのだ。
精神の成長だの、精神的に大人になりたいだのといった願望は、お子様が大人に過度な憧れを抱いているだけだ。若いに越したことはない。
私は若い。
異論は認めない。
まだまだ子供だ。
少なくとも己の運命を覆そうとしたり、あるいはそれに流されようとしたり、こんな風に試行錯誤を繰り返している内は、そうなのだろう。どうでもいいし、子供でも大人でも金が有れば、私は何一つ構わないのだが。
いずれにせよ本筋から外れているこの状況は、あまり嬉しくない。私は「作家」であって「サムライ」はあくまで副業なのだ。本業である作家行で金にならなければ「自己満足による充実」も、得られようが有るまい。
こんな脇道で悩んだりしたくはないのだが。
幸福がどうのこうの、とこの男は言っているが世の中所詮自己満足だ。自己満足で己は最高に幸福だと、そう定義できればそれが幸福なのだ。
そしてその為に必要なモノが金だ。
だからこそ、金がいる。
金はそれそのものが幸福でもあるしな。
何でも買える。無論、買おうと思わなければ買えないのだが、金で買えないモノは存在しない。 この世の真実ですら金で買える。
私は何度も買ったことがある。
物語は別だが。数少ない例外、と言えるのだろうか? 少なくとも金の力では面白くできないだろう。無論、私のような存在が書いたからと言ってそれで面白くなるか確約されている訳でも、きっとないのだろうが。
まぁどうでもいい。
問題は売り上げだからな。
読む側はともかくとして、書く側はそれだろう・・・・・・皆にちやほやされたいだとかそんな浮ついた理由で大成する作家も多くなってきたが、私はどんな時代でもその姿勢を貫くつもりだ。論じるまでもなく私は気まぐれの権化みたいな人間なので、すぐに宗旨替えするかもしれないが、金を必要とする姿勢そのものは、無くならないだろう。 そうでなくては面白くないからな。
その方が、面白い。
生きる事は劇的ではないが、劇的ではないが故に幾らでも装飾が可能だ。言わば、金はその為のツールでもあるのだ。
物語とは違う側面で、この面白さの欠ける世界を面白く、そう在る為の便利な存在。
それが金だと言えよう。
金よりも大切なモノがあるなどと抜かす馬鹿がいるが、ならばダイヤのように美しい愛やエメラルドのように爽やかな友情とやらを、現金に換金できる形で持ってこい。
話はそれからだ。
「君が他者からどう思われようと構わない、とおよそ生物ならあり得ない感覚を抱いているのは、君が他の人類を「どうでもいい」と見なしているからだろう? それが、君が人間でない何か、である証左と言える」
「だから、どうした」
人間でないとして、だから何なのだ?
回りくどい野郎だ。
「いや、なに。非常に良いサンプルだと思ってね・・・・・・我々は人間の進化を促そうとしている集団だ。「人間と同じ姿をした、人間以外の何か」という存在は、非常に興味深い」
「・・・・・・・・・・・・」
人間でない「何か」か。
言い得て妙だ。
奇妙な納得間もある。そうだったのか、と。まぁだからといって私の主義主張は一ミリも揺るがないので、何の関係もない話ではあるが。
「さっき言っていたな「選民」だと。そんな事をして、人類が人工的に進化できたとして、人間のお前達は何の意味がある?」
「それは「同じ人間」に話すべき内容であって、君には関係在るまい。言わば本能だよ。君のように精神の形が、ある特定の形に固定される、ということは、生物である限りあり得ない、だがその壁を越えることが出来れば、人類は幾らでも無限に進化し続けることが出来る」
「進化、ね。私がその雛形だと?」
「その通りだ。良かれ悪しかれ最悪の環境下でこそ、生物の多様性は開かれる。魂の無い肉体に刺激を与え、それでいて最悪の思想と思考回路を持たせ、困難を与え苦難を経験させ、それが結果として強い生物、強い精神を育むのはよくあることだ。君の場合、人生を通して己自身の利益こそ上げられなかったものの、他者の参考にするには非常に優れたモデルケースだったと言うだけだ」
「素直に従うと思うか?」
「関係ないさ」
指を鳴らし、彼は私のいる実験室の扉を開いたらしかった。わらわらと武装したミュータント共が現れ、私に殺意の向きを定める。
こんな奴らにしか人気が出ないとはな。
覆面作家として正体を知る存在は消し、わずかな恨みすら許さず報復が不可能になるように敵対者を葬り続けてきた私だが、敵意ばかり向けられるのも考え物だ。向けられたところで痛くも痒くもないのだが、手間が増えるのは御免被る。
「さあ、好きにしたまえ。殺すも殺されるのも、君の自由だよ」
自由などというのは与える側にある。そんな有り難い教訓を教えてくれる、つまらない講師の授業が始まった。
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正当なる防衛だ。
だが、報復や恨みを残さないためにも、私は年には念を入れるタイプの人間だ。相手がミュータントであろうが心の臓を引きずり出し、延髄を切り裂いて殺し、死体が二つ以上に裂けていなければ死んでいても殺した。
まぁどうでもいい。動機も理由も些細な事だ。どちらにせよ私に「殺意」を向けた時点で、そいつは死の運命なのだ。私の保身、私の平穏、私の安全の為に、死んでいなければならない。
確実に。
でなければ「私」が安心できないからな。
別に「倫理観」が「欠如」しているわけではない、という点を間違えないで欲しい。倫理観そのものは恐らく、誰よりも理解している。
倫理観や道徳は「役に立たない」という事だ。 悩んで患者を救いきれず殺してしまおうが、心ない一言で誰かを殺そうが、従業員を過労死させようが、同じだ。
人を殺さない方が難しい。
そんな事は不可能だろう。
当たり前ではあるが、そんな環境下でどう生きればいいのか、それを考えなければ生きる事はできないだろう。私は悩んだり悔やんだりするなどという「過程」をすっ飛ばして「結果」だけを出すことにした。
ただの、それだけだ。
他者を尊重もしよう。倫理観に従って誰かに寄付をしてやっても良い。だが、それと私個人との幸福は別物であり、優先すべきは私自身であるという事だ。
その為ならば殺す。
幾らでも殺す。
殺人鬼よりも殺し尽くす。
皆殺しにしても尚足りぬ。
人類全体が滅んでも、殺す。
私は誰かの犠牲になって、踏み台にされるのは絶対に御免だ。綺麗事を言うのは勝手だが、利用されるかされないか、持つ側か持たざる側か、奪う側か奪われる側か、搾取する側か搾取される側か、騙す側か騙される側か、確固とした「事実」として、人間はそうして勝利を収めている。
誰かの犠牲なしには幸福になれない。
それが人間だ。
無論、私は非人間なので、適当な自己満足で満足できてしまうのだが、必要ならばする。
必要なことを必要なだけ、する。
それが彼らには奇異に見えるのだろうか。私のことを「恐怖そのもの」とまで評した奴もいたが私自身からすれば、当たり前の事を当たり前に、しているだけだ。
悩み、苦悩し、それでも前へ進むのが人間だ。だが私は悩みも苦悩も持ちはしなかった。売り上げに関しての不満はあるが、「そもそも出来るのかどうか」を考えすらせずに、気が付いたら傑作を書き上げていた。
まるで狂気だ。実際その通りだろう。長い月日を見返りがあるのかも分からない存在に費やし、それでいて「成功する」と盲信する。
無論、私は策略を持って挑んではいるが、だからってここまでやり続ける人間は、いないだろう・・・・・・凡俗は出来る事しかやらない。強かで在ればそれを秤に掛けて考えもするだろう。実際私ならそうする。だが普通は限度がある。
こと物語に関してそれが無いのだ。
作りたくても限度が作れない。
際限なく行動し、気が付いたら作品がいくつか出来上がっていたり、する。いまもそうだ。気が付いたらミュータント共を殺し終えていた。私の普段の執筆作業と同じだ。
生き方と密接していれば、そんなものだ。
労力と時間はかかるが、しかしそれを自覚できない。自覚した頃には終えている、
それが背負った業というものだ。
「邪魔者」は「始末」する。
無論、意味もなく争ったり、弱い奴を襲ったりはしない。そんな無意味なことはしたくもない。疲れるだけだからな。だが、私に殺意を向けた奴は、必ず「始末」する。
悩んだり道徳に苦悩したりして、奪われるのは御免だ。殺される前に殺す。一般人ほど、この感覚に無自覚だ。企業家がリストラするのも殺人となんら変わらない。違うのは、彼らには私と違って「自覚」どころか「覚悟」すらも存在しない、という点だろう。
自分達が善人だと思っている。
善人など、この世のどこにもいはしない。
「仕方のない」と言えば、彼らの中では殺人ですら「無かったこと」に出来る。素晴らしい自己肯定能力だ。楽で羨ましい。
無論、皮肉だ。
夢は見るもので叶わない。彼らの善意は夢と同じだ。思っているだけで実現することは決してないだろう。倫理観や道徳に、何かを変えられる筈など無い。
泥を被らず成し遂げるなど夢物語だ。夢は見るだけのモノ、野望は見据えるモノ、だが、狂気は見に宿すモノだ。私は己が善人だとは思わない。だが、悪であることを卑下するつもりもない。
その他大勢の都合など知るか。
私自身が納得すること。それが重要なのだ。
所詮この世界は当人の思いこみで構成されている。「持つ過ぎた人間」が、己は何でも許されるのだと自惚れ、破滅するのが良い証拠だ。
確実なモノなどどこにもない。
己自身でさえ、「信じる」しかないのだ。馬鹿馬鹿しいことだが、ここまでやって、いやここまでやったからこそ、私からはそんな言葉しか出ない。構わない。私は「作家」としてやるべき事をやったのだ。後悔などありはしない。
けれど、やっぱり金になっていればと思うのは甘えなのだろうか? 分からない。本当に分からなかった。
私は・・・・・・・・・・・・
「よく耐える」
私のいるところからでは博士の顔は見えない。恐らくは初老の老人だと思うのだが、それは私に持つイメージであって、恐らくは男、位しか分かりそうにない。
「その精神性といい、実に貴重だよ、君は。捕獲できて本当に良かった」
「そりゃどうかな」
私は携帯端末に語りかけた。
「ジャック」
「何だよ、警報装置にアクセスして逃げるか?」「いいや、逆だ。全て入れろ」
我々はわざわざ別行動をしている。何故か? 私が陽動している間に、マリーにはこの施設の保管庫へ移動しろと伝えておいたのだ。保管庫には全ての実験データが納められており、そしてその隣には収容所がある事は、既に確認済みだ。
警報の暴走と共に、全ての収容者が流れ出れば我々を捉えることなど出来はしない。
ここで博士を惨殺するのは簡単だったのだが、「殺したその後」が大変だった。脱出する脱走者の大半は射殺されるだろうが、これで私個人の脱出経路は確保された。
打ち合わせの時間までもうすぐだ。
「了解、ワイヤレスで今繋げた」
と、同時に全ての警報が鳴り、恐らくは向こう側でも上手くやったのだろう。大勢の人間が移動しているらしい振動が、地面から伝わって来た。「き、貴様」
「じゃあな、人間」
私は跳躍してガラスをぶち破り、中に進入するや否や「博士」を叩き斬った。
「生憎私はそこまで「人間」をしてないんでな。好きにやらせて貰うさ」
後には警報の音と、解放された奴隷たちの歓喜の声が響きわたっていた。
11
偉くならないに越したことはない。
悪目立ちで得られるのは大概、小さな虚栄心を満たすための下らない肩書きだ。そんなモノは欲しくもないし、何より「作品」が売れなければならないのであって「作家」が目立つ理由はない。 聖人も偉人もロクな結末は辿らない。ギロチンか不理解か貧困か、彼らの人生のレパートリィは非常に少ない。
驚くほど単調だ。
悲劇が少しばかり多い割に、報酬は著しく少ない。そんなのは御免だ。
しかし、悪事を働いても上手く行かないし、善行を積んだところで良い事は訪れない。私の運命は一体、どういうつもりなのだろう?
理解しようとするだけ、それも無駄か。
やれやれ、参った。
振り出しに戻る、か。
結局のところ、私は成し遂げてやり遂げたが、それを「結果」に結びつけられていないのだから何もしていないのと同じ、ということになる。あれこれ手を尽くしたところで、夢ばかり見て現実を見ていない「夢を見たまま人生を終える」奴等と同じ扱いとは、酷い噺だ。
そういう連中は多い。
死ぬ寸前になってさえ、自分達が行動せず生きてきたことを嘆くことすらできないまま、終える人間が。しかし「運命」が決定づけられているならば、そうした試みそのものが「無駄」だ。
結局はそれなのか?
運不運、なのか?
だとすれば、やはり無駄なことに時間を費やした。たかが人間の一生など、もとより無駄の集まりだが、私個人の目的からすれば、だ。
何のために手を尽くしてきたのか。
敗北する為だけに、ここまで来たのか。
「持つ側」に生まれなかった事を嘆くしか、結局道など無かったのだろうか。「結果」そういう事になる。
嫌な噺だ。
それも、また「現実」か。
夢物語を綴る作家とは、合わないわけだ。
狂言回しとはよく言ったものだ。だが狂気を感染させるだけでは儲からない。それだけでは意味がない。何もしていないのと同じだ。
どこかよその人間など知らん。
問題は、私の通帳残高なのだからな。
物語においても似たようなモノだ。物語そのものに意味はない。どんな物語でも読み終われば結末もからくりも全てが、晒される。それでも 何かを伝えようとするからこそ物語は輝くわけだがしかし、それに意味なんて在るまい。
感動はするが、ただのそれだけ。
無論、ただ物語の起承転結に気を配っただけの二流と違って、面白くはある。だが実質的に何か力を持つわけではない。
結局のところ無意味だ。
物語で救われる奴など、幻想だ。
現実には「弱者」だと言い張っている良識人はただの泥棒でしかない。「原価でワクチンを作ってくれ」「飢えている人々がいる」「人類皆平等なら救うべきだ」免罪符が在れば救われて当然、その為の費用は全て負担されて然るべきだ、と。 羨ましい。
ただ声を大にして叫ぶだけでよいのだから、楽で仕方ないだろう。無論、当人達は「これだけ頑張っている」などと「行動」ではなく「姿勢」で示せば金が貰えるというのだから、羨ましい限りではある。生きる事がこの上なく楽だろう。
現実に行動して結果を出し、それが金に換えられず悩んでいるのが馬鹿みたいではある。いや、実際そういう人種が特をするのだから、馬鹿そのものなのだろう。
生きる事は「何かを変えようとする」事が必要不可欠だ。だが「都合の良い夢だけを見ている」人種には、変えるという発想が無い。誰かが代わりにやってくれて当然、なのだ。
そしてそれを私のような人間がするのだとすれば、貧乏くじだろう。生きているのかもしれないが、ならば生きる事は凡俗の奴隷になることだとでも言うのだろうか。
本当に・・・・・・嫌な噺だ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
私は、何だったのだ。
最初から、無駄だとすれば、何なのだ。
この「私」は、何をどう足掻こうが「無駄」ではないのか。いや、そんな事は分かっていた。分かった上で変えようなどと足掻いた結末だ。現実には足掻いたところで結末そのものを変えることは出来ない、とそういうことか。
青い鳥などどこにもいなかった。
作り上げようとしたが、無駄だった。
奪おうとしても不可能で、偽造しようとしても上手く行かない。当然だ。私にとって青い鳥は金なのだ。代替が効くモノを代替させようなど、何かで代わりに作り上げようなど、横着している。 それでも金だ。
金、金、金だ。
金が在れば幸福など安く買える。
愛も友情も必要ない。ささやかなストレスすら許さない平穏なる生活。他者をどれだけ傷つけようが、何人死のうが、構わない。だが、こうも時間がかかってしまっては、過ごす事も出来まい。 どうしたものか。いや、答えは分かっているのだ。だが「不可能だ」と諦めたところで、何が変わるわけでもない。私には「変えない」という自由はないのだ。生きている以上、何とかして目的を果たし、達成しなければ。
金による幸福の実現だ。
何より、狂人に「制止」などあり得ない。何が有ろうと止まることを「考えられない」からこその「狂人」なのだ。私は止まる事は出来ない。
したくても、出来はしない。
そんな緩い速度で生きてはいないのだ。
だからこそ「屈辱」だ。こうも手を尽くして、およそ人間の考えられる方法論を試しつくし、己で駄目なら他者を利用して、人間性など自ら否定し続け、それでも尚目指し続けた「結果」がこれとは、「過程」よりも「結果」の思想の末路としては、実に笑えない冗談だ。
本当に嫌になる。
どうでも良い理由で成功する人間の傍らで、私は常に敗北し続けてきた。それら敗北すらも利用して進み、それで駄目なら方策を変え、それでもしくじりそれでも前へ進んだ。
進むだけ無駄だったが。
何の金にも、成らなかった。
むしろ「労働」としてやりたくもないのにやってきた「サムライ」としての労働の方が、金の入りは多いくらいだ。
才能や環境が全てか?
能力を持ち、それでいて大した労力もかけず、それにならって己の道を決める人間は、別に珍しくもない。だが、そんなどうでもいい理由で勝敗が決するならば、結局は無駄か、いや、そもそも才能のある奴は「使う側」の人間に利用される事の方が多いか。どちらかと言えば本当にただの偶然、幸運、そういったもので「流行」みたいなモノに愛されて、莫大な金を稼ぐ人間か。
ならば尚更「運不運」という事か。そもそも物語に限らず「本物」を求めている奴などどこにもいない。流行に流されて適当に楽しむ。真贋など誰も見てすらいないのだ。
物語も同じ。
何を書いているのか、どころか何の思想もなく流行を記事にしたような本の方が、売れる。
何度も読み返し楽しみ続ける物語など、望んでいる奴が少ないのだ。だから、白紙の方がマシ、みたいな本が溢れて選べなくなる。
本に限らず、デジタル社会は能力の多寡を関係なく、ただ「ネット上」の世界での評判や金の動きを頼りに売れ行きが決まるものだ。「何となく面白そう」であればいい。どうせすぐに消費して使い潰して捨ててしまう消費娯楽でしかない。
娯楽を消費する、まさにそれだ。
使い捨ててその場その場の「聞き心地の良い」情報にのみ、耳を傾ければいい。何かを学んで成長する必要など、資本主義社会では必要すらないからだ。とりあえず「金」になれば、猿のままでも立派になれる。
パソコンにへばりついたままの人間が、金と名声を手にしている姿は珍しくもない。ネット上では大人も子供もない。どんな馬鹿でもそれらしい事を吐いて、優越感に浸れる。誰もが情報を共有できるというメリットが、有効活用される事は永遠にないのだ。何故なら、人間は汚い。
元より高潔に生きられない獣だ。
養豚場の豚のように、目の前の「都合が良い」何かへ貪り付けばいい。作家じゃ有るまいし、私のように物事の裏側など、彼らは知りたくもないのだろう。
それでも持てば立派。
それが資本主義と言うものだ。
猿でも豚でも神になれる世界。
素晴らしく醜悪だ。
汚らしくて反吐が出る。
だからこそ私はそういう連中と関わらないためにも金の力が必要なのだ。「立派さ」などというどこにも無い彼らの自己満足につきあって、生きる時間を浪費するつもりはさらさら無い。
金がなければ支配される。それは御免だ。
金は支配した。後は人間を金で支配する。
それが「私」だ。
「ひねくれていますね、貴方は」
神社の境内で女はそう言った。こうして地球を訪れるのも何度目だろうか。いつか、労働ではない気まぐれで訪ねたい。
「自分が哀れだから助けてくれ、なんて抜かしている連中と、一緒にされたくないだけだ。己で決めて己でやり遂げ、己で成し遂げた。その結果がそんな連中と同じでは、意味がない」
「けれど、価値はあります。それに、貴方は後悔していないのでしょう?」
「詭弁だ、そんなのは・・・・・・横から見ているだけの貴様には、永遠に分からないだろうさ」
神の視点では、非人間の思想など理解の外だろうからな。神がいたとして、見るのは人間だ。化け物ではあるまい。
「そうでしょうか、こうしている今も、私は貴方を見守っていますよ?」
「下らん。見るだけなら猿でも出来る。問題はそれが金になるかどうか、だ」
「成ったじゃないですか」
「物語は生憎、売れていないのでな」
それに、今回の報酬もいまいちだった。私は金遣いが殆ど無いと言って良い。嗜好品と物語くらいしか買う事は無いのだ。
それが自由に買えない現状で、自己満足も何もない。言っても仕方のないことだが。
「貴方は有りもしないモノを求めすぎですよ。金による平穏、などと・・・・・・国家も社会も資本主義でさえ、明日には無くなってもおかしくないのですよ」
「わかってるさ」
「そうでしょうか。今まで、沢山の国家がそういう転換点を通る時を見てきましたが、何かを頼りにしてそれが失われたとき、人は脆いものです」「金がなくなる日がくるとして、私の物語が売れてはいけない理由には成るまい。貴様の言葉はただ綺麗事を垂れ流しているだけだ」
「なら、貴方は」
「貧困は救われる理由には成らない。不遇は報われて良い理由には成らない。弱者は豊かさを享受する理由には成らない。だが「傑作」が売れなくて良い「理由」などどこにもない。読者の見る目と、それこそ「倫理観」が足りないだけだ」
物語を無料で配布しあおう、なんて馬鹿げた発想は贅肉にまみれた「持つ側」それも今まで幸運生きてきただけの豚にしか、持ち得ない発想だからな。
読みたければ金を払え。
読み終わって文句を言い、それでいて金を払わないとはどうかしている。なんてそれこそ綺麗事か。どうでもいいがな。
言っても仕方ない。
「貴方だって、その恩恵は受けているでしょう」「それと、私の作品に金を払わない理由と、どう因果関係がある」
何の関係もない。ただ、それらしい事を言っているだけだ。
面倒な女だ。綺麗事以外出てこないのか?
まぁどうでもいいがな。私は彼女から札束を幾つか受け取って、それを懐にしまった。いつまでこんな風に使われる毎日が続くというのか。屈辱以外の何でもない。
口では大層な事を言っているが、その実、この女は私に厄介事を押しつけているだけだしな。
信じるには値しない。
神を信じるなんて、疲れた時くらいのものだ。 疲れてなければ信じる気にもならない、とそういうことだ。
「私は理解していた。否、知っていたのだ。どう足掻いたところで「持つ側」には勝てず、策を弄したところで「運不運」に左右される。私には度を超えた「幸運」など無かった。勝利者に成れないことなど、自我が芽生えた頃には分かっていたことだ。だが「仕方がない」と諦められないからこその「私」だ。口にしてもそう行動することは出来ないのだ。才能が無い事も幸運が無い事も後押しがない事も何もかもが「仕方ない」理由には出来ない。成らないのだ、環境がどうであれ、どれだけ不遇でも、理不尽が襲いかかろうとも、それは「売れなくて良い」理由には成らないし、この私が諦める理由にも、また成りはしない。豚や猿のように何も考えない醜悪なゴミ共と同じ扱いを受けるという屈辱の中ですら、私は諦めきれなかった」
「そこまで行けば、本物以上ですよ」
「どうでもいいことだ。信念や誠意ほど、どうでも良いモノは無いだろう。物事は「結果」で判断すべき事柄だ。「過程」に重きを重んずるなど、言い訳だ。お前は人間の「過程」に綺麗事の種を求めているようだが、それは逃避だよ」
「だから、今回あの少女を研究期間に売り渡したのですか?」
「そうだ」
彼女はいずれ、解明されるだろう。そしてその時には、博士の代わりに誰かが、否、権力者はこぞって「ミュータント」という新しい軍事力を歓迎することだろう。そして「選民」は行われることになる。
争いと新人類の発起によって。
「時間の問題だ。お前は「先送り」にすることで何か解決した気になっているらしいが、今回の件もそうだが、こんなやり方に意味など無い。遅いか早いかだ。いずれミュータントも権利を主張し新しい戦争が始まるだろう。その時、かつて無い規模の争いの中で人類は淘汰される」
「人それぞれに役割があり、それを活かす事が、支え合って生きるということです。貴方は、死んで良い人間の区別が出来るとでも?」
「出来るさ。己で道を切り開かない人間は、どんどん死ぬべきだ。まして、何をせずとも幸運や能力だけで生きてきた人間など、豚と同じだ。猿の生活と何一つ変わらない」
「そんなことは・・・・・・」
「ある。お前は人間に期待しているようだが、人間に美しい部分など塵一つ分もありはしない。あるとすればそれは己で考える人間だけだ。他は働き蟻みたいなものだ。組織には必要不可欠な死んでも良い駒だよ」
それに、押しつけられた役割を「仕方がない」と良いながら惰性で生きる人間など、元より死体みたいなものだ。例え実体が死体であれ「生きようとすること」が己を切り開く。だが「組織」や「権威」あるいは「自分ではない誰か」を基準に生きる存在など、二酸化炭素を無駄遣いしているだけでしかないのだ。
「人間は生きるに値しない」
「私は、それでも人間を信じたいです」
悲壮な顔で女は言った。だが、
「下らん。信じる事など誰でも出来る。要は何の根拠もなく己にとって都合の良い情報を信じるだけだ。お前は人間を信じたいわけでも、人間に期待しているわけでもない。本当のところは、人間を慮る自分に浸りたいだけだ」
ビンタされた。
「・・・・・・わ、私は」
「何だ、自分の論理が否定されたら暴力か? 言ってやろうか、「こんなに心配してやっているのに」心配して、だから何だ? お前の下らない自己満足につきあわせるな。勝手に思い上がって勝手に期待して、勝手に憤りを感じる。いいか、それを「身勝手な馬鹿」と呼ぶんだよ」
「・・・・・・・・・・・・」
無力感に浸っているようだった。まぁどうでもいいことだ。感傷に浸るだけなら誰でも休暇とかにしていることだ。そも私は救われたい訳では決してないのだ。
金が欲しい。
人間性など今更いらない。
役に立たないし実在しないからな。
「私に対して「心が無いなんて可哀想」だとか、そんな適当な感想を持っているようだな。で? お前の自己満足な哀れみで、私の残高が一度でも増えたのか? いちいちどこか遠くの星で、お前にとって邪魔な人物を消すのに、私の事を利用しているだけではないか」
「そ、それは」
「お前みたいに「自分はそんなつもりではない」と「思いこみ」ながら、誰かを利用する。正真正銘の邪悪だよ。気持ち悪くて仕方がない。私は生きているべきではない「悪の極み」かもしれないが、ならばお前達は「生きているだけで害悪な、偽善の極み」だろうな。悪などより、余程質が悪いと言える」
「・・・・・・・・・・・」
済まなさそうにしていれば、彼らの心は満たされるらしい。楽で羨ましい限りだ。
私も楽が出来ればな。
豚のように生きて、猿のように考える。汚らしい限りだが、それで楽が出来るのだろうか。まぁその場合、それが幸福かどうかすら、考えることを放棄しているのだろうが。
非人間のまま、豊かになりたいモノだ。
本当にな。
「それで、何か他に用か?」
「・・・・・・私は」
言って、俯いていた顔を上げた。
女は言った。
「いずれ、必ず貴方を救って見せます」
「そうか」
口にするだけなら自由だ。何を持って救うのか知らないが、所詮この世は自己満足。この女が救えたと思い満足すれば、例え私が泥にまみれていようとも「救った」事になるのだろう。
だからどうでも良かった。
別に救われたくもないしな。
欲しいのは金であって、救いなど必要ない。
それが狂人であれば尚更だ。勝手に哀れむのは勝手だが、それを押しつけるのは激しく迷惑だ。 哀れまれる覚えはない。
むしろ、逆か。
私は、こいつらと違って「何か自分ではない」基準など見もしないのだ。参考にはするが、それも私の独断あって、だ。自分の在り方を確立している人間からすれば、綺麗事などただの飾りだ。精々が戦争の口実に使うくらいしか、使い道はないだろう。
それより金だ。
金、金、金だ。
金が大切なのだ。
「人類皆平等、全員が一位のリレー競争の結果はただただ醜悪な猿の脳味噌と豚の行動原理を持つ生き物を生んだだけだ。二つとも似たようなモノだがな。ただ単に、私がいつも言っている事実から逃げただけだ」
生きるという事から逃げている。
そんな人間でも、幸運で勝利できる世界。
ロクな結末でないのは保証済みだ。
「お互いに争わず、仮初めの平等を叫んだ結果、金も払えない癖に救いを求める貧困地域、その癖何もしようとしない難民達。何もしなくても食料は配布され、己で勝ち取る必要すらない。それも「善意」ですらない。ただ「道徳的に正しそう」というだけだ。国が、社会が、救ってくれて当然な世界。羨ましい限りだ。己で何もしなくとも、叫ぶだけで救いが出る」
しかも金を出すのは他国の税金だと言うのだから、意味の分からない噺だ。
善意を食いつぶしている。
「逆に、社会と折り合いのつけられない人間、己で何かを成し遂げた人間ほど、無駄に終わる。現代社会は「華々しさ」が求められる。中身に目を向けず買いあさり、その癖すぐに飽きて次を求め別の流行に便乗し、また飽きる。猿におもちゃを与えても、豚に真珠を与えても無意味だ。何せ、モノの価値そのものを求めていないのだからな」「それは、一面的なモノの見方ですよ」
「本当にそうか? お前はそれを信じていたいだけだろう。人間に善性など無い。奪い殺し搾取し騙し差別し迫害し踏み倒してこそ、人間はやっとまっとうに生きられるのだ。人間社会には常に金が存在していた。自覚できないだけで、いや自覚するのが怖かっただけで、人類は生まれたときから「幸福に成れる人間と成れない人間」という、理不尽にどうでもいい理由で決められた、幸福の権利が存在することに、気づいていたのだ」
「だから、資本主義社会が発展したと?」
「その通りだ。そして人類は少し、増えすぎているからな。お前達の大好きな善意だよ。減らした方が後々豊かになるだろう。いや、私にとって住みやすくなると言うべきか。いずれにせよいらない人間は減らして消し去る事が出来る」
作家業と同じだ。
いらない部分は添削すればいい。
人間も、同じだ。
「いずれ、私が何もしなかろうが、どうせ起きる事実でしかない。それをお前は「自分が良い存在であろうとする為に」奔走しただけ。そしてそれによって起こる都合の悪い部分。つまり「邪魔者を排除する」という部分を、自分は綺麗でありたいが故に、押しつけただけだ。私に依頼して殺すことで、自分は「愛されるに足る存在」でいたいという、気色悪い私利私欲の豚の願望の為に、お前は私を利用し続けていただけなんだよ」
「そうですか・・・・・・そうですよね」
何故落ち込んでいるのだろう。私はただ、本当の事を言っただけなのだが。
偽善者は大抵、事実を突きつけられると怒り出す。自分達の正当性が脅かされることを恐れるのだ。この女は喚かないだけマシか。
「・・・・・・適当な事を言って貴様を慰める事も出来るが、それに意味なんてないからな。どうでもいいことだ。ふん、それにな、お前は自分が善意を利用している事を勝手に気に病んでいるようだが・・・・・・この世界は利用するかされるかだ。何一つとして特別なことはしていない。問題なのはお前が自覚せず、善意を押し売りしていることだ」
「善意の押し売りは、迷惑ですか?」
「当たり前だ。誰が感謝するか」
人間は人間を傷つけるし、踏みつけなければ、豊かさを感じ取れない。こんなただの事実、本当のことを何故「見ないフリ」をするのか、理解に苦しむ連中だ。
我が身可愛さなのだろう。己は善人で良識があり、良い人間だと「思いこみ」たいのだ。思いこむのは勝手だが、押しつけられても迷惑なだけでしかない。
図々しいにも程がある。
もっと申し訳なさそうに生きろ。
なんてな。そんな連中、生きていようが死んでいようがどうでもいい。問題は、そいつらが私の平穏をぶち壊すことだ。
だから迷惑なんだ、「一般人」という奴は。
「ですが・・・・・・私の意志は変わりません。貴方の息災を祈るだけなら、お金はかかりませんから」 ふっと、仕方なさそうに女は笑った。
どうでもいいがな。
この女が何を思おうが、通帳残高には何の関係もない。
だからどうでも良いことだった。
「ふん、ではな」
「ええ、息災で」
言って、我々二人は何をするでもなく、別れるのだった。用事は済んだ。またこの女が誰かを始末しようとすれば、私はまたここに来るのだろう・・・・・・その度に綺麗事の下らなさを、再確認するのだろうが。
次回作の構想は、もう錬りたくもない。
だが、どうせ他に出来る事もないのだ。無論、自己満足の範疇だが、精々適当にやるとしよう。
平凡に生きる、なんてもう手遅れかもしれないが、それでも。
狂気に身を任せて生きてきた。そしてそれはこれからも変わらない。例え世界の全てが私を否定しようが、私は己の「傑作」に疑いの余地すらなく誇りに出来る。
どこにも救いなんてありはしない。だが、結局のところ狂人にはその狂気を具現化したモノを、売るしか道は残されていないのだ。
保証などどこにもない。
だが、他でもないこの「私」の書き上げた作品を、この「私」が信じずして誰が信じるというのだろう。
己の道を歩いてきた。
なら、やり遂げた事、成し遂げた事を、信じるくらいしか出来る事はあるまい。
根拠なく己を信じるのは狂人の専売特許だ。精々活用するとしよう。
私の隣には誰もいない。
私の後ろにも誰もいない。
私を応援する奴など、いるはずもない。
それでも私は歩いていく。
それこそ「奇跡」でも信じるしかなさそうな状況だが、奇跡を起こす準備だけは整った。傑作という奇跡の出来の物語が、私の手の内にはある。 読者共に見る目があることを祈りながら、まぁどうせ無駄だろうと、大して期待もせずに、私は目を閉じた。
やることは既に終わらせているからなのか、実に清々しい気分だ。無論実利とは何の関係もないものだ。成し遂げた成果など、期待する方がどうかしている、成功は幸運で降りるモノだ。
変に希望を持ちはしない。考えるだけ無駄だろう事は明白だ。希望を信じられるほど、この世界に見る目などない。世界は人間の意志の行く末など興味がないのだ。
私はふと、空を見た。満面の星空、ではなく・・・・・・ただ、暗黒のような何も存在しない空間だけが、世界の果てまで広がっていた。
まるで私の人生だと、何の感慨もなく思う。
そして何一つ希望の無い暗闇の中で、何の根拠もなく私は、確固たる「確信」を何も無いところから作り上げて、狂気の様に笑うのだった。
狂人に根拠も確信も自信も未来の見通しもあるものか。私が私として存在する限り、邪道作家は不滅だ。
その方が、面白い。
右を向けと言われれば左を向き、前を向いて歩けと言われれば後退し、やれと言われればやらずやるなと言われれば断行する。
窮地にありながら根拠無く笑い、こうしている今も何の見通しも立っていないが、笑う事と自信や確信を持つことに、金はかからない。
狂人など、そんなものだ。
不可能なら断行し、理不尽なら覆そうと手を尽くして失敗する。
そんな事を考えながら、何の希望も見えない完全な暗闇の中で、私は不敵に笑うのだった。
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