邪道作家第五巻 狂瀾怒濤・災害作家は跡を濁す 分割版その7
新規用一巻横書き記事
テーマ 非人間讃歌
ジャンル 近未来社会風刺ミステリ(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)
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「で、先生は人間に成りたいのかい?」
「別に」
生物学的には人間だしな。
今更成りたいもない。これもまた、人間だ。
多分な。
愛も友情も信念も、自己満足で「幸福」だと思いこめる人間でも、やはり人間の在り方だ。
私に本物は必要ない。
事故満足で、満足できれば「私」は満足だ。
それに文句を言うのは、押しつけがましい。
「私」からすれば、だが。
善意で「押しつけて」くる辺り、性質は悪いと、そう結論付けざるを得ないが。
まったくな。
善意の押し売りは本来、私の専売特許なのだが・・・・・・自分の行いを「良い」と盲信している輩、というのは、私など足下にも及ばない「邪悪」だと言うことだ。
事実から目を逸らすのは勝手だが、実に迷惑極まりない話だ。善人など、そういうものだ。
「結局、今回の噺は何だったんだい?」
「ありふれた噺だ。善意を押しつけあい、嫌う相手を悪と考え、暴力で事を通す。ありふれた物語の雛形さ。もっとも、今回は主人公や善意の第三者が、ことごとく死滅したがな」
「怖いねぇ」
「まったく」
「先生には誤魔化しが通じないな」
「今更か」
我々はいつものように宇宙船の船内にいた。私はホットコーヒーを頼み、アンドロイドの客室乗務員に運んで貰って、それを啜った。
旨い。
どれだけ下らない思想に巻き込まれようが、コーヒーの旨さは普遍だ。
世界もこうあってほしいものだ。
「しかし・・・・・・あの「番人」は、一体何だったんだ。どういう「存在」なのだ?」
少なくとも人間ではないし、かといって依頼主のような類でもないだろう。そういう「存在」がいて、私たちの知らないところで活動してきている、というこのなのか?
ジャックはスピーカー越しに画像を出した。
古い資料だ。何万年も前のものから、最近の資料まで。共通するのはオカルトがらみの事件、事故というのは、ここまで科学が発展した世界ですら存在しうる、という「事実」だった。
「ああいうのは、人間の欲望から必要に応じて、この世界に発生するものなのさ。物質的に人間が満たされれば満たされるほど、無意識に「人間関係」を金で買える存在を求め、それが形になったのが「番人」なんだろうな」
「そんな非科学的な」
私は口にするほど科学を知らないが。
「先生だって知ってるだろう? 科学なんてのは今、人間が知っていることの復習さ。知らないことや解明できないことは、すべからくオカルトだろう?」
「確かにそうだが」
「大体非科学の固まりの先生が、似合わないぜ。そもそも非科学的だからこそ、今回取材をしようとしたんだろう」
「まぁな」
解明できないこと。解明されていないことを書かなければ意味がない。読者が知っていることを書きたいならば、教科書を書くべきだ。
私が書きたいのは、いつだって己自身の体験、思想、生き様を描く物語だ。勧善懲悪などつまらないにも程がある。
お子さまは絵本でも読んでろ。
私はそれではつまらない。
人間の魂の有り様を形にして書くべきだ。その方が、面白い。悪人ほど面白いし、悪が目的を果たすため葛藤する様こそ、物語の醍醐味なのだ。「先生、本当に良かったのか? 連中の渡してきた「チップ」は、もとより依頼人ではないから貰うにしても、それを渡せば、先生は望む「人間関係」を手に出来たんじゃないのか?」
「そんなものはいらん。これをあの女に高値で売りつけ、後は後腐れがないように連中を追い込んで始末すれば、それで終わりだ」
私の裏切りもいい加減バレているだろうからな・・・・・・既にジャックにタマモの敵対組織の情報を洗わせた。ある程度手を打っているので、私が次の惑星につく頃には、その組織も解体されているだろうが。
報復ほど面倒なものは無いからな。
あの李とか言う女も、既に壊した。
私個人は問題ない。
「そんなものかね。関係を望まずとも生きていけるなんて、自己満足で満足できてしまうなんて、人間の在り方とは思えないがね」
「それはお前達の先入観でしかない。私のように自己満足で完結し、金で良しとして、幸福に手を届かせる人間も、数が少ないだけだ」
数が少ないから、多い意見が通っているだけ。 ただのそれだけだ。
この世界に正しさなど、存在し得ない。
強いて言うなら個々人の中にしか無い。
あってほしいと、願うだけだ。
「そう言えば、前から聞きたかったんだが、先生はどうして「作家」をやっているんだ?」
「決まっているだろう。まずは金だ」
「他には無いのか?」
「そうだな・・・・・・強いて言えば「読ませる為」だろうな。私の作品を読んで人を信じられなくなる読者の姿、想像するだけで面白い」
「性格悪いな・・・・・・」
「私が、世の為人の為にでも動くと思ったか? 読者には夢のない現実を魅せ、そしてその上で、それらの感動を金に変える」
やりがいがあって面白い。
だからこその、「仕事」だ。
「無論、基本は金だがな。やりがいや生き甲斐も重要だ。作家業は奇しくも、その両方を満たすという、ただそれだけの理由だ」
ただ開き直っているとも言えるが。
まぁそれはおいておこう。
様にならないからな。
「先生は、どうして人間を信じないんだ? 信念は奇跡を起こすかもしれないし、執念は実るかもしれない。そして信じるに足る力がある」
「それは皮肉か? 私には、無かった。だからこそ、なればこそ無い私には、それ以外の「力」が必要だ。無論、信念が私にあるか、疑問だがな」「あるだろうさ。でなきゃ作家なんてやってないと思うぜ」
「そうなのか?」
私には、わからない。
私は作家足らんとしてきたが、現実そうあることが出来たのかは、不明だ。だがどうでもいい。私は有り様を誉められたいわけではないのだ。
あくまでも「結果」だ。
つまり金だ。
それがなくては噺にならん。
自身が作家足り得ているかなど、私にはどうでも良いことでしかなかった。だが話を聞く限り、他でもない私が作家として振る舞っているのかと思うと、皮肉にしか感じなかったが。
因果な噺だ。
求める姿勢にこそ力が宿る、なんて戯れ言だ。結果が得れなくてもそれ以上のモノを手にしているだとか、そういう言い訳は聞きたくない。
私はディナーを頼み、一服つくことにした。今が夜なのか、宇宙空間では計りかねることだが、そういうことにしておこう。
「丼」なる不思議な食べ物を食べ、私はとりあえずコーヒーを飲み干し、余韻に浸っていた。景色はそこそこだが、物思いに耽りながら嗜好品を楽しむ。これ以上の「幸福」があるのか?
何事も少しずつ、それが楽しむコツだ。私は少しずつコーヒーを口に含み、のどを潤した。
「お前は、人工知能だから分からないかもしれないが・・・・・・」
「おいおい、差別だぜ、それ」
「どうでもいい。とにかく、人間って奴が如何に下らない「倫理観」だの「道徳」だの「正義」だの、そういった「ゴミ」を大切にするか、知らないわけでもあるまい。そんなものはな、余裕のある人間の戯れ言にすぎんのだ」
「そうか? 良く聞く話じゃ、それこそ先生の嫌いな「悲劇」を売りに出している本なんて、まさに「余裕のない」状況での尊さ、信念が描かれているじゃないか」
「描かれているだけだ。大体が、頼まれてもいないのにやれ貧困だのやれ差別だの、最低限の生活を保障すべきだの、自分の為に人様の悲劇を食い物にしているだけだろう。下らない。他にもっとやることはないのか?」
「そう言うなよ。そいつらはそれが世の中を良くすると思って行動しているんだろ? それなら、別に俺たち部外者が口を出す事じゃないさ」
「確かにな。だが」
余裕のある人間が「道徳的」だからといって、行動する結果は大抵ただの「邪悪」だ。自身の行いを悪だと自覚しない悪。害悪だ。
そんなものは何も良くしない。
何一つとして変えることはない。
自己満足など、そういうものだ。
「それは余裕のない人間が、口にして初めて説得力を持つ噺だ。余裕、というよりは持たざる者こそが、口に出す噺だ」
「余裕があると、駄目なのかい?」
「いいや、ただ単に説得力がないだけさ。物語も同じだな・・・・・・自身の経験、実際に感じたことを書かなければ、薄っぺらなまま終わる。人に何かを伝えることが作家の仕事だが、伝えるに足るモノが無ければ書くだけ時間の無駄だ」
人にあわせた「道徳」など、自身の身の危険が絡めばあっさり捨てられる。
誰だって獣になる。
誰だって人を殺す。
道徳など、余裕のあるときに付けられるアクセサリーでしかないのだ。
付ける側の自身を磨かなければ、意味はない。「結局、何が言いたいんだ? 先生」
「道徳も正義も「存在しない」ってことだ。ありもしないものに金をつぎ込むのは御免だからな、私にそんなモノを期待するなという噺だ」
「ふぅん」
興味がないようだった。まぁ当然か。人工知能であるところのジャックの目線からすれば、人間の美しい部分、にだけ興味があるのであって、人間の汚い部分、卑小な部分など、知るだけ時間の無駄だと言うことだろう。
しかし、それでは足りない。
「ジャック、お前はまだ分からないかもしれないが、人間の「汚い部分」を知ろうとしなければ、成長はあり得ないぞ」
「何故だい? 汚い部分なんて、真似するだけ損じゃないか」
「そうでもない。人間の汚い部分、駄目な部分、卑小な部分、それらは裏返せば「道徳」だとかの人間の綺麗な部分と同じなのだ。いいか? 同じなんだよ。両方知れば、どちらも人間の在り方でありどちらも「正しさではない」ことが分かる。そして自身が正しくなくても生きていくことで、人間は己の道を見つけられる・・・・・・あくまで方法の一つだから、このやり方が正しいとは言わん。ただ、片方しか知らない奴が、勝利者になれるとは思えない」
力があれば勝利そのものは出来るかもしれないが、己と折り合いを付けることが難しくなるだろう。無論、知るだけでは私のようにその力が伴うわけでもないので、あくまで知ることは前提でしかないのだが。
知らないよりはマシだ。
ただのそれだけ。
「先生は勝利者って感じじゃないな」
「私は勝利したいわけでも無いからな」
「じゃあ、何が欲しいんだい?」
「そうだな、とりあえず」
私は運ばれてくるワゴン・カーを見ながら、こう答えた。
「嗜好品を楽しみながら、平穏な生活を遅れる環境、だろうな」
「平穏? 人間は平穏じゃ生きられないだろ。生き甲斐が無いとか人生に刺激が欲しいとか言い出して、自殺したり銃を乱射したりするだろう」
「確かにな。私の場合その心配は無い。作品を書いているだけで、あるいは読んでいるだけで満足できる人間だからな」
「刺激が無い状態を、生きているとは呼ばないぜ・・・・・・植物だろ、そんなの。出来るか出来ないか分からないから、人生は面白いんじゃないのか」「出来ることなど何も無かったが・・・・・・その心配もあるまい。面白い物語は良い刺激になる」
「何回も読んでいたら飽きるだろうよ」
「私は忘れっぽいからな。忘れてからまた読めばいいのさ」
「神経を疑うくらい、どうかしてるぜ」
「生憎、神経を疑うくらいどうかしている奴だからこそ、私は作家に成ったのさ」
私は自身の作品を肯定する。
それこそ自分の神経を疑うくらいに・・・・・・だが私から言わせれば、己の魂の分身である作品を、信じられないような奴は作家ではない。己も信じられないのでは傑作など書けまい。
だから私は、この「私」を信じる。
そこだけは、疑ってはいけないはずだ。
どれだけ手からこぼれ落ちようとも。
望み通りに進まなくとも。
己の書いた作品だけは。
決して。
それこそが「作家」としての「芯」を形作る、「信念」ではないのか。私はそう思うのだ。
どれだけ敗北しても、身の程知らずに。
高い空を見てしまうのだ。
我ながら呆れるがな。
まったくどうかしている・・・・・・そうだ、私は金さえあればそれでいいのだ。金、金、金だ。実際売れる作品というのは、売りやすい作品であって別に、中身を保証するものではない。
中身などどうでもいい。
読者とはそういうものだ。
大金払って「流行」などという中身のないモノを買うのが人間だ。作品として作家として、物語の質や「伝えるべき事」を考えるなど、徒労だ。 徒労でしかない。
回り道が糧になるとは、限らないのだから。
私は何をやっているのか・・・・・・いや、だから金儲けだ。とりあえず、作品を金に換えれればそれでいい。
それが出来なくて困っているのだが。
今回「依頼」を受けて金にはなりそうだが、しかしあくまでそれは人の都合で動いているのだから「労働」でしかない。生き様である「仕事」とは言えないだろう。
それでは意味がない。
実利にも成らない。
生き甲斐を以て幸福にする・・・・・・それには作品を金に変えなければ始まらない。私は自己満足が得意だが、これに関しては終わらせる気は無い。 金、金、金だ。
何としても。
でなければ・・・・・・でなければ、何だ? それこそ拾った金でも構わないはずだ。私はどうして作家業に固執しているのか。未練か? いいや、ありえない。私にはそんな感情は無い。
なら、やはり、割に合わないという憤慨か。
「つじつま」は合わせてやる、と、作家業という名前の「宿命」に「取り立て」を挑んでいる。 運命から取り立てる作業だ。
例え相手が「運命」でも、「借りは返す」などという、実に子供っぽい理由で、私はここまで来たのかもしれない。
なんてな。
「私はな、ジャック。愛だの友情だの人間賛歌の類の「善性」が大嫌いだ。生まれたときから不思議なくらい、私はあらゆる「善性」が嫌いだ」
「それで? 先生はどうしたんだ」
「勿論、そんなのは人間社会になじめるモノじゃあない。私には「人間」って奴が、全て理解できるくせに、全く共感出来なかったのだ」
愛も友情も、人間賛歌を何故人間が持ちうるのか? 何故人間は自身を犠牲にしてでも大切なモノを守れるのか? そんな、一見すれば当たり前のことを、理解は出来ても、共感できない。
私は人間では無かったのだ。
少なくとも、共感できないくらいには。
だとすると、笑える。やはり私のような存在が「人間らしさ」を求めることなど徒労も良いところだ。そもそんなことを考える発想からして、人間ではあるまい。求める側というモノは、大抵が「持たざる側」だからこそ求めるのだ。
「だから、と言うわけではないが、しかし私が、作家になったのはある種必然だったのかもしれないと、最近は思う。誰とも相容れないからこそ、傑作が書けるというならば、まさに天職だ」
「確かに、物語って奴は「自分ではない視点」を楽しむものだもんな」
それが金になるかは知らねぇが、とジャックは答えるのだった。大きなお世話だ。
「人間が人間らしくあれるのは、共感できるからだろう。私が共感できるのは、私と似たような破綻者だけだ。人間の「悪性」が強ければ強いほど私には輝いて見える」
それを悪いとは全く思わないが。
悪こそ、人間の本性だ。
「私は人間はすべからく「悪」だと思っている。いざとなれば愛を注ぐ相手を殺し、友情を歌いながら殺し、そしてそれらは珍しい噺でもない。敵国の人間だから、仕事だから、愛を裏切ったから・・・・・・殺し、裏切り、騙すのだ」
「何が言いたいんだ?」
「言ったろう、天職だと。人間の悪性を暴く、それが私の物語だ。だからこの「私」という存在からすれば、息を吸って吐くようなものだ。人間の根底が善性なら、私は存在から否定される」
もっとも、そんなことはあり得ないが。
善性、などというのは「悪」を直視しないから見えないものだ。この世界から全ての悪が滅びることなど有りはしない。
その度に読者どもは思い出せ。
悪鬼羅刹の物語を。
悪性を肯定する我が物語を。
そうすれば、私の作品は不滅だ。
「そういう意味では、善性を歌う馬鹿の神経を、私は疑わざるを得ないな。悪人だと死刑のギロチンへ追いやっておいて、「あんなのは人間じゃない」などと、自分たちの枠内に収まらない人間のことを無視して、都合の良い部分だけを見て、世界の素晴らしさを、世界の表面だけ見てほざくのだからな。私からすれば、そいつらの方が「人間じゃない」だけさ」
「そりゃ傑作だ。だが、世の中そんなものなのかもな。俺は人工知能だから、人間のことはよく分からないが・・・・・・自分のことだけは「良い人間」だと、そう思いこまないと、大抵の人間は自分自身の「悪」を、許容できないんじゃねぇかな」
先生みたいな人間は希なのさ、などと、生まれて数年の人工知能は、知ったようなことを言うのだった。
あながち間違ってはいないのだろうが。
人間とは、そういうものだ。
悪性ばかり見て善性を見ていないではないか、と言う奴もいるのだろうが、そもそも真に他者を思いやり行動した結果ならば、賞を受賞して誉められたりする人間には、決してならないだろう。 お前達の平和、努力、信念、善意、思いやりなど、その程度のモノだ。
あっても無くても同じ、ただのゴミだ。
どうでもいいがな。
精々「善人ごっこ」に溺れていろ。
私はその間に、次へ進むさ。
「だが・・・・・・それでも私が思うのは、「物語」というのは、人の手に余る「大きな決断」という選択肢に対して、その先を示すものではないか、とも思う」
「先生は、作品を通して、物語を通じて、一体何がしたいんだ?」
したいこと、か。
私にはそんなモノ、「何かをしたい」という行動を起こすための「気持ち」が無いのだから、あるはずもないのだが・・・・・・。
畳みかけるように、ジャックは言った。
「選択に対して背中を押すだけか? おいおい邪道作家様はそんな無欲な人間なのかい?」
そうかもしれない。
そもそも、その「欲」を本質的に持てない構造の生き物なのだ。欲する原動力が無いのだから、求めようもない。
だが、それでも私は。
「金が欲しい」
「それだけか?」
「金に付随する平穏、欲望、愉悦の全てを味わい尽くし、精々楽しく生きること、だ」
「それはそれは、豪気なことだ」
俺には真似できねぇや、などとらしくもない言葉を、彼は言うのだった。
「何故だ? お前にはやりたいことはないのか」「あるさ。だが・・・・・・「俺たち」は人間では無い上に、人間を「真似る」ことを前提に作られているだろう? そう、「真似る」為にいる。前提からして「人間の為に」あるのであって、俺たちは「自分たちが幸せになること」が、製作段階から考えられていないのさ」
「成る程な」
生まれる前から用途が決まっている、という部分に関してだけ言えば、私のような物語を綴るしか脳の無い人種も、似たようなものか。
「前提からして間違っている。私も、貴様も」
「先生は、本当に「幸福」に成れるなんて、思っているのか? 本当は無理だって、誰よりも理解している風に感じるぜ」
「無理かもしれない」
「だったら、何で」
諦めないんだ? と、悲痛、と言うよりは答えに詰まった学生が、方程式を見つけられず苛々してストレスを感じながら聞いたかのように、彼は人工知能には珍しく「苛立ち」があった。
だが、その答えは簡単だった。
少なくとも、私にとっては。
「お前達は、合理で判断するだろう」
「ああ、だって無駄じゃないか」
「私も同感だ」
「じゃあ、何で」
「諦めが悪いだけさ」
ただの、それだけ。
それだけだった。
だが、ただ妥協したわけでもない。
「その上、強欲なんだよ、人間は・・・・・・私にも貴様にも、「幸福」は無いかもしれない。だが、見つかるかもしれない。私は「それ」を見つけた上で、「ささやかなストレスすら許さない平穏なる生活」を送り、人生を楽しみたいだけだ」
ジャックはしばらく黙って「イカレてるぜ。根拠も無しに、よくやるよ」とだけ言った。
全く以て同感だったが、しかし私の人生に、確約された成功などあった試しがないので、いつものように私はしぶしぶ、こうして労働に勤しみ、仕事の成功を祈る、ただの一人の作家として、出来ることをやり遂げるだけだった。
作家に出来るのは物語を考える位だ。
なので、私は作品のテーマでも考えつつ、何なら今すぐにでも作品が売れまくる未来を想像し、物語を綴り、形にするしかない。そしてそれこそが、邪道作家である「私」のやるべき事であり、唯一出来る事なのだった。
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プロは過程を重んじたりしない。
あって当然なのだ。
その上で、結果が伴って、当然。
だが、もし「運命」と言うモノがあるとして、そしてそれに従って人間が生きているならば、我々の意志に力は無い。
運命を変えない限りは。
そんなことはそうそう出来ることでも無さそうだが・・・・・・物語の流れに従って、私も作家になったのだから。
なるべくして、成った。
金には、なかなか成らないので、迷惑だが。
これだから人生と言うのは厄介なのだ・・・・・・時間や労力を費やしたからと言って、成功するとは限らない。例え私のように人生を丸ごと費やしてさえ、だ。
結果がなければ意味は無いし価値も無い。
馬鹿馬鹿しくなるほどに。
「生きる」などと大層な言葉は、本当のところサイコロを振るだけの作業なのかもしれない。目が悪ければ、それで終わりだ。配られたカードで勝負しようにも、勝負できる力がなければ、何の痕跡も残らない。
だとすれば、大した金にもならず「もうやめよう」と常日頃から思いながら「作家」たらんとする私の姿は、実に滑稽なものだ。
全く、因果な人生だ。
宿業とは、辞めようとして辞められるものでもないしな・・・・・・逃げるつもりもないが、願わくば金になって私の生活の糧になって欲しいものだ。 本当にな。
だが、順調に行っている時に、現状に満足することも危険だ。私にはよく分からないが、ある程度成功し、そしてそれに満足してしまえば、どうも人間という奴は成長しないらしい。
満足、など私には縁の無い噺だ。
満足し続けること、それが私の目的とも言い換えられるしな・・・・・・現状に満足できるなら、さらに満足できる目的を目指すだけだ。
作家などまさにそうではないか・・・・・・何をしたから、あるいは「売れたから」だとか「傑作を書いたから」だとか「ある程度儲かったから」満足できるというモノでもない。儲かって満足して辞める奴は多いが、偶々作品が売れただけの奴は、成金ではあるが、作家ではあるまい。
己の人生を書き写すこと。
それで読者共を揺さぶり、買わせること。
そして、傑作を書き続けること。
作家を志すならば、これくらいは知っておいて欲しいものだが、最近は売れはするが、作家としての信条も誇りも目的もない「作家もどき」が実に多い。
彼らは何がしたいのだろう?
不思議だ・・・・・・ちやほやされたいだけなら、アイドルでも目指せばよさそうだが・・・・・・「作家」という言葉の響きに「特別さ」を感じている。
嘘八百を書いて金に換えるだけだがな。それに儲かるのは編集担当であって、作家ではない。
作家と言う生き物があるとすれば、嫌々、書きたくもないのに物語を綴り、「読者に不幸あれ」と願いながら、ささやかな金勘定だけを数える生き物だろう。しかも、辞めたくても辞められないという呪い付きだ。
全く割に合わない。
個人的には、儲かれば何でもいいのだが。
傑作を書いているという「充実感」は確かにある。だが、充実感を感じるからと言って売れるわけではないので「果たして儲かるのか?」と、即物的な考えに囚われ、暗い気持ちになるのだ。
売れれば爽快と言うわけでもない・・・・・・重要なのは勝つことではなく、打ち勝つことだ。
一度二度の勝負で勝つのは簡単だ。私はそういう勝利すら得たことが無いが、しかし結局のところ「自身の定める目標に打ち勝つ」ことが重要だと思うのだ。なんて、一度も勝利を、何事においてもしたことのない私が言うと、説得力がないかもしれないが。
だが、事実だ。
私は事実しか綴らない。
無論、私は売れていればそれで自己満足できるし、打ち勝つことなど日常だ。後は実利だけなのだが、まぁ言っても仕方がないか。
打ち勝ち、克服する。
それが本当の勝利と言えるだろう。無論ここで重要なのは打ち勝ち「続け」克服「し続ける」ことなのだ。だから、仮に何かで大きな勝利を得たとしても、戦いというのは終わらない。金を得たところで、今度はその金を維持する戦いに身を投じなければならないしな。
とはいえ・・・・・・それも「決める側」が決めることだ。「正しさ」や「道徳」は金で買えると以前も説いていたが、「社会」においては「幸福の確固たる基準」があり、その前では我々の意志、打ち勝つための努力など、空しいくらい無力だ。
正しさが「強者の都合」だというならば、当然それらを決める側が存在し、我々の生活は、そういった持つ側の都合で「幸福になれるか」が決まってしまう。
どれだけ意志を貫こうが、「強者の都合」に反していては無意味なのだ。迎合するか、革命でも起こすしかない。
弱ければ負けるのだから。
都合を押し通せる側が得をする。都合を押し通せる側が楽しく生きられる。都合を押しつけられる側が・・・・・・勝利する。
持つ者が勝利し、持たざる者は勝利できない。 これは事実だ。生きると言うことは出来レースに参加すると言うことでもある。その中で勝利するには最初から持つ側にいるか、「反則」をするしかない。
地道な作戦を立てたり、有能な人間を使う側に回ったり、方策を変えたり、およそ考え得る限りの方法をとり続けてきたが、勝利は不可能だ。
私が言うのだ間違いない。
少なくとも持たざる人間は・・・・・・そう言う意味では、案外こうして作家として意地を張り、作家足らんとしていることも、その信念も、努力も、労力も、時間も、誇りも、苦悩も、全て、意味のない無駄なモノだったのかもしれない。
だとすれば、滑稽だ。
私は何をやっているのか・・・・・・「勝てない」と知りながら、物語を書き続け、売るためにあれこれ悩み、また物語を綴る。
いつか勝てると信じて。
だが、いつかとは、いつだ?
案外、絶望や苦痛以外には、持たざる者には何もないと、そう実感しているからこそ、無理矢理「希望みたいなもの」を見ようとしているのか。 そうでもなければやってられないから。
そうでなくても、やってられないが。
死人だ・・・・・・「似非の希望」を見ながら前へ進み続け、歩き続けるなんて、死人のやることだ。 私は
「酷い顔をしていますね」
階段を上り終えると、そこには女がいた・・・・・・今回は紫の髪に、洋服を着ている。この分だとタマモとかいう名前も嘘くさかった。
私の依頼主、サムライの総元締め、依頼人の女は、神社の境内で悠然と佇んでいるのだった。
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「勝つべきが勝つ、ですか」
「ああ、それを考えて少し、参っていただけさ」 持つ側と持たざる側。
こんな噺をしたところで、この女に共感して貰えるとも思わないが、まぁヒント位にはなるかもしれない。作品のネタにもな。
目線の違い、というやつだ・・・・・・ジャックは電子世界の住人として、この女は神の目線で、私は非人間の目線で。
神社でこんなことを考えるのは私くらいだろうな・・・・・・もっとも、地球に参拝の文化が残っているかは怪しいので、もしかすると既に、神頼み仏頼みよりも科学力を信奉するこの時代では、誰も神社になど通わないかもしれないが。
以前、聖人に絡む仕事を引き受けたことがあるが、あれも結局はシンボルとして人間が利用しようとしたに過ぎないのだ。純粋に神を信奉する奴など、すでにどこにもいないだろう。
神に祈るのは自由だ。
そして神が人間を助けないのも、また自由。
そして大半はそうだというのだから、真面目に神を信じる人間は、もうほとんどいないだろう。実利にならない存在など、人間は誰一人としてまっとうに扱わないのだから。
当たり前だが。
大体が、存在さえ不確かで役に立たず、金だけはせびるケチな生き物を、誰が敬うというのだろう? 周りに合わせているだけで、別に誰もが、神が救ってくれるなど思ってはいまい。
「何か、失礼なことを考えていませんか?」
まぁ、この女が神なのかどうか、私には別に確たる証左がある訳でもなし、そもそもが依頼人の正体など、私にはどうでもいいことだ。
「いや、別に。自意識過剰じゃないのか?」
「・・・・・・そうですか」
相変わらず掃き掃除をしているところを見る限りでは、やはり神というのは暇なようだった。まぁ、この島国の神々は賽銭を貰って神社にいるだけの上、酒を飲んでたまに一カ所に集まり恋愛に関して論争するくらい暇らしいから、少なくともこの女は暇なのだろう。
「暇ではありません」
そう言う輩は、大抵暇を持て余しているものだが・・・・・・女のヒステリーはたまったものではないからな。そのまま流すことにした。
「お前の言ったとおり、ヴィクターを始末したぞ・・・・・・そして敵対組織とやらの情報も手に入れておいた」
「泉に寄ったのですか?」
私は女が敵対している組織のデータをディスク(こうでもしないと地球上では、あまりハイテクに頼った記録媒体は壊れてしまうのだ)を渡し、その質問の意味を考えた。
「人間関係」を「買える」泉。
まぁ、そもそも敵対組織の情報を仕入れるための場所指定が、あの泉だったのだから当然と言えば当然か。私が取材のために赴くことも、この女の立場からすれば、容易に推察できよう。
実際行ったわけだしな。
我ながら、作家としては行動が単純極まりないと、自分でも思う。
だからこそ、傑作が書けるわけだが。
「ああ、何も交換しなかったがな」
「金、ですか」
「ああ」
何だ、わかっているじゃないか。
私が人間関係を恋しがる訳がないだろう。欲しいのは金、金、金だ。
「意味のないことですよ」
「何だと?」
「人間の人生は、おおよそ、決まっています・・・・・・金の多寡というのは、表向き華やかに、けれど同じ運命をなぞるだけです」
「どういうことだ?」
「例えば・・・・・・大金を手にして大きい家を買ったとしましょう。しかし結局はどれだけ贅沢を尽くそうが、大金を持たなかった人間が夢想しているだけと変わりません」
「変わるだろう。現に、現実に豊かでそれなりに良い暮らしをしているわけだからな」
「いいえ、だから表面上そう「見える」だけ。大きな家はどのみち一部分しか使わないでしょう? あなたの言う「どちらにしても同じ」結果しか産まないのですよ・・・・・・つまり、大金を手にしたところで、結局行動は同じなのです」
ええと、つまりこういうことか?
仮に私が大金を手にしたとして・・・・・・自家用宇宙船で豪華な旅をしたとしよう。だが、それは結局のところその辺のそこそこ良い旅客用の宇宙船で移動しているのと、やっていることは、同じ。 大金で豪華な食事を食べたところで、栄養も味も大差ない普通の食事を食べることと、同じ。
女を山のように侍らし、抱いたところで、そんなのは女を抱く自分を夢想することと同じ。
金の力で「安心」を買ったところで、金のない状況でそれなりに平穏に暮らすことと、同じ。
どれだけ金を使おうが、やっていることは、同じになると言うのだろうか? 確かに豪邸を建てたところで、居住区域が一部分だけなら、狭い部屋に住んでいるのと「結果」は「同じ」だ。
「全てがそうではあるまい。金がなければまっとうな生活すらままならない。金があるからこそ、食事も睡眠も生活も、生活文化の基準を、一定以上に満たすことが、できる」
そこだけは譲らない。
譲る気はないしな。
今更綺麗事で納得するものか。
「確かに、そうかもしれません・・・・・・ですが、あなた達の人生は、死ねば終わりではない。磨かれた魂の質に従って、その先を行かなければならないのです」
「ふざけるな」
私はそんな、死んだ後の世界で「良い魂」か「罪人の魂」かなんて、貴様等に悩まれるために生きているわけではない。
私は私だ。
上から目線で判別されてたまるか。
「しかし「事実」です。あなた達の人間社会だってそうでしょう? 偉い人間が偉くない人間を区別し判別し、生きる先が決められる。同じですよ・・・・・・その繰り返しです」
「お前達が「何か」は知らないが、つまりお前達の基準では、金を選ぶ人間より「尊さ」みたいなモノを重視する「善人」の方が良いと?」
そして、死後の世界ではそういうモノが重視されるのだから、金銭を追い求めることには、意味がない、と。
そう言うのか。
「まぁ、そうです」
まるで奴隷労働の運営人だ。
神も人間も同じか・・・・・・偉さを鼻にかけて、自分たちの気に入る存在だけを「良し」として、判別して区別する。
いい加減、うんざりだ。
女は続けて口を開いた。
「追い求めたところで、徒労に終わるだけですよ・・・・・・何より、あなたは「長生き」をしようと私から依頼を受けていますが・・・・・・金銭と時間が満たされたところで、あるのは「退屈」だけです。あなたが望むようなものは何も」
ありませんよ、と。
最後通牒のように、口にするのだった。
だが、それが何だ。
「私は貴様に「金で得られるモノはないから、諭してくれ」とでも頼んだのか?」
「いえ、しかしですね」
「だから何だというのだ。普段から言っているだろう・・・・・・仮に金の力で幸福に成れないのなら、金の力を楽しみつつ、別の方法で幸福を手に入れるだけだ。善人でなければ長い目で見て、死んだ後に「地獄」だとかに落とされてしまうというならば、金の力で「善行」を無理矢理するだけだ」 もっとも、私から言わせれば、この世界に善悪など存在しない。あの世があるとして、審判を下す存在が居るとしても、「そいつ」が勝手に決めた基準でしかない。まぁ、精々あの世の連中が納得するような「わかりやすい善行」を行えば、文句も出ないだろう。
「私は「綺麗事」という言葉が大嫌いだ。お前達神の目線では、全てが「プラスマイナスゼロ」なのかもしれないが、冗談じゃない。私は、貴様等のご機嫌をよくするために、いままで生きてきたんじゃない」
「そんなことは・・・・・・」
「無いとでも言うつもりか? 金を否定すると言うことは、そういうことだ。自己満足の綺麗事だよ。金がない人間は奴隷になるしかないこの世界で、そんな綺麗事が言える人間は「持つ側」だけだ。まして「神」なんて存在がいたとして、そんな「全てを持つ存在」などが「持たざる者」に綺麗事を吐くなど、醜悪極まりない」
全てを与える存在と、全てを持たざる人間。私とこの女はまさに真逆。鏡の向こう側の存在だと言えよう。とはいえ、きっと私とそういう類の人間には、因果が存在し得ないから決して願いを叶えて貰えることはない。鏡の向こう側とはそういう意味で、だからこそ目障りだ。
全ての物質的欲望を叶える存在と、全ての物質的装飾、権威、名声、富、才能、幸運を無視して当人の装飾を剥がし、借り物の強さも借り物の弱さも許さないし通じない「私」では、まさに真逆だと言える。
だが、全てを持たざる「私」は、全てを持つ、お前達「持つ側」などには決して負けないし劣らない。
そんなつもりもない。
劣等感すら、抱いてやるつもりはない。
むしろ、見下してこき下ろしてやるぞ。
「私が持つ側だとして、持たざるあなた達にアドバイスすることが、そんなにいけないのですか」 それは懇願するような、悲痛な声だった。
だが知るか。
そんなモノで騙されるか・・・・・・マヌケが。
「いけなくはないだろう。ただ不愉快だ」
「・・・・・・そうですか。ですが、私は」
「まさかあなたの為を思って、などとぬかすのではないだろうな。頼んでいない。私が頼むことがあるとすれば、それは「綺麗事はどうでもいいから「実利」を寄越せ」という、シンプルな願いでしかない」
「・・・・・・いいのですか? 本当に、何もありませんよ・・・・・・金も力も権力も、人間を満たすものではありません。私はよく知っています」
「別に、満たされるかなんて知らないさ。興味もない。ただ、「納得行かない」意地のようなものだ。だから譲る気もないのさ」
ため息をつき、女は「変わりませんね」とだけ答えるのだった。
「あなたは、自分が変われるとは思わないのですか?」
「さあな。いずれにせよそんなのは変わってから考えればいい。変わったとして、やはり金は必要だ」
何をするにも。
「必要」なのだ。
私の意志すら関係なく、な。
「本当は欲しくもない癖に」
「欲しいさ。あれば「平穏な生活」が買えるからな」
「それは貴方が人間嫌いなだけでしょう。金の多寡は関係ありませんよ」
まぁいいです、と女という生き物にしては珍しく、彼女は自分から折れたのだった。
呆れられただけかもしれないが。
構わない。
何であろうが金は手に入れる。無論、無尽蔵に幾らでも、札束を数え飽きるまで、だ。
「では次の依頼を」
「悪いが、用事を思い出した。ではな」
そう言って私はその場を逃げ出した。また依頼をされてもたまったものではないからな。
見守るような視線を感じたが、気のせいだろう・・・・・・そんなものはあってもなくても同じだ。目線があったところで何をしてくれるわけでもないのだから。
特に大した感慨もなく、私は地球を後にした。この美しい大自然に感動するのが「人間らしさ」なのだろうが、何も感じ無い自分の揺るぎなさを再確認し、やはり私は人間にはなれないなぁと、ため息混じりに諦めるのだった。
12
人間を満たすのは「心の繋がり」ですよ。
そんなことをあの女は言っていた。
しかし私には「心」なんて高尚なモノは無い・・・・・・信頼も信用も私には無意味だ。
最初から有りはしない。
無いモノを要求されても、困る噺だ。
普通の変哲のない、凡庸と言って差し支えないありきたりでつまらない物語ならば「金よりも大切なモノがあったんだ」だとか、後々そういう感情を持つ奴が現れたりするのだろうが、生憎と、私に人生にはそれは無い。
無いモノは無いのだ。しつこいようだが。
実際「持つ側」というのは手に負えない。自分たちだけではなく私のような人間さえ「真面目に生きていればいいことがある」などと、何の責任感もない薄っぺらな言葉で、自分たちと同じように人生の本当の豊かさを享受できる、などと、私でさえ必要に迫られなければしないであろう「押しつけがましい善意」を「良い事」だと思い込んで、それを押しつけ、受け入れなければ異端だとみなすのだ。
狂っている。
私などよりも、ずっと。
「逃げ出したな」
出し抜けに失礼なことを言う人工知能だった。まぁ事実ではあるが、しかし私は右を向けと言われれば左を向き、やはりそのまま右を向くかもしれない人間だ。だから適当に答えた。
「逃げていないさ。証拠でもあるのか?」
「あの女から逃げたじゃないか。「運命」を克服する方法はどこにもない。向き合うことから逃げている」
「そうなのか?」
自分のことは自分ではよく分からないものだ。しかし私が「逃げて」いる?
むしろ、いままで散々手を尽くしてきた。
「だからこそ、だろうな。先生は半ば諦めている癖に諦めきれていないんだ。運命、生まれつき持ち得たもの、持つ側と持たざる側。誰よりもその差を理解し「勝てない」ことを知っているからこそ、先生は諦めきれないし、不可能だと知っているから無駄だと切り捨てる」
「そうかもな」
私にしては珍しく同意するのだった。意味もなく否定しても良かったが、しかし今回ばかりは素直に受け止めた。
ああそうだったのか、と。
無論私は自覚症状の固まりだ。その程度は自覚していた。だが、自覚しているからと言って普段から考え続けているわけではないのだ。疲れるではないか。
しかし、だとすればやはり振り出しに戻る。
それでは勝てないではないか。
「勝てないさ。勝てない。何をどう足掻いたところで、勝てない。それが「運命」だろう? 俺や先生がどうあっても政府の代表にはなれないように、人間には宿命がある、運命がある。先生はそのことを「業」だと言い直していたが、同じ事さ・・・・・・変えようと思って変えられるなら、そうは誰も呼びはしないさ」
「ならば」
「ああ、先生の努力、というかおおよその人間が行う努力は、無駄で意味のないモノだ。ただ、その意味のないモノを面白がって、その業を愛で物語として綴る。それが作家だろう?」
ならば本望じゃないか、と彼は言った。だが、そうではないのだ。
私は作家でありたいのではない。
個人的に満たされたいだけだ。
主に金銭面で。
そして心の平穏のため、ささやかなストレスすら許さない平穏なる生活を、手に入れたい。
私の望みはそれだけだ。
今のところは。
「それはさ、先生が最初「人間達の願う幸福」である、「家族」だとか「仲間」だとか「友情」だとかを「自分にはどう足掻いても手に入らないものだ」と、自覚し、諦めた結果じゃないか。その上で先生は「せめてストレスのない生活を」と願っているだけだ。先生は誰よりも金の亡者だが、実のところ誰よりも金に執着がない。「必要だから」酸素を求めるように「必要にしている」だけでしかないのさ」
「だったら、何だ? 結局は必要なのだ。そしてそれがあればおおよその平穏、望みは叶う」
「確かに。先生に叶えられるのは金の力での平穏位なのかもしれないな。そもそもが、それ以外に求めようと願えるモノが存在し得ないんだ」
ならばやはり金は必要だ。なければ噺にならないではないか・・・・・・埋め合わせとして足りなくとも、それでも金までなければただ、みじめだ。
そんなのは御免だ。
汚らしい道徳を抱えてそれらしく生きるよりも私は、己のために生き、金の力で現実に満たされたいのだ。「心の豊かさ」だと? そんな高尚なモノは私には無い。あったところでそれは腹を満たしてくれるのか? 雨風をしのぎ、文化の恩恵を受けられないではないか。
敗者の言い訳だ。
そして、勝者が押しつけているだけだ。
実際、「勝利者」という存在で、「心の豊かさ」なんてモノを歌う奴ほど、あてにならないモノはない。豊かで満たされている存在が、さらに「物質的な豊かさよりも心の豊かさが大事だ」などと抜かすのは、「余裕」があるからだ。
物質的に満たされている余裕。
優位に立っている実感。
上の方から「それだけが人生じゃない」などと安全圏にいる奴が方便を説いて、納得する人間がいるだろうか? いない。いるはずがない。
私も同じ気分だ。
お前達の言う「豊かさ」など、私にははじめから用意されていないのだ。だというのに「心を満たす方が大事だ。金よりも大切なモノがある」などと、生理的嫌悪感以外抱きようがない。
汚らしい。
善人の押しつけほど汚らしいモノはない・・・・・・だから何だというのだ。私はお前達の指針など知ったことではないのだ。
金、金、金だ。
金で買える幸せは金で買い、金で買えない幸せは金で実現し、それでも無理なら妥協すればいいだけの噺だ。無理に叶えたい願いなど、平穏なる生活以外に有りはしないのだから。
金で買えない幸せだと?
金も手に入らないで、手に入るモノか?
少なくとも当面は手に入りそうにない。いや、案外あっさり手にはいるかもしれないが。私は未来が見えるわけではないのだ。あるのかないのかも分からないモノに、気を配る気などない。
あるならあるで、金を手にした後に、ゆっくりと手にするだけだ。
私は宇宙船のソファに座っている。ファーストクラスだ。この心地よさも金次第。エコノミーの堅い椅子で、如何に「精神的な豊かさ」があったところで、現実に堅い椅子は堅い。それを誤魔化すために「心の豊かさ」だとか「金よりも大切なモノがある」などと、ほざいているだけだ。
仮に心の豊かさがあったとして、それが重要だとしても、そんなもの、金の豊かさ、物質的な豊かさが無くても良い理由にはならないし、むしろさらに必要性は高いではないか。
金は血液みたいなものだ。無くても生きていけるだと? お前達はミイラなのか?
コーヒーを飲みながら考える。
物語の主人公という存在は、大抵「感情的」になり周りを巻き込んだあげく、戦う理由は「社会的道義感」だったりする。つまりは「人を殺すなど許せない」だとか「大切な仲間をよくも」と言うわけだ。
しかし、だから何だというのか・・・・・・大切な仲間や女を傷つけるから、だから、「悪」はどう扱われても、殺されたって「めでたしめでたし」で完結する。悪党の命は「安い」とでも言うつもりなのだろうか?
はるばる自分たちが勝手に「悪」だとか「倒さなければならない相手」だと、そう誰にも頼まれてもいない癖に思いこみ、殺人を犯す。
そしてその上で感謝される。
狂気の沙汰だ。
私など及びもつかない、正真正銘の「邪悪」だと言えるだろう・・・・・・だが、彼らは「持つ側」なのだ。仲間だとか信頼だとか、あるいは都合良く勝てる力を手に入れたりと、とにかく「運命」に愛されているとしか言いようのないくらいに、勝つことが決められている。
物語の主人公が敗北し、悪が栄えてめでたしめでたし・・・・・・そんな物語は希だ。
仮に勝ったとしても、やはり別の誰かが悪を倒して「物語の英雄」になるためだけに、「正義」などという「勝者の都合」で殺される。
くだらない。
案外、物語というのは「持つ側が必ず勝つから選ばれていない人間は努力しても無駄だよ」と子供に教えるために、あるのかもしれない。
少なくとも「選ばれず」「虐げられ」「勝つために努力する」所謂「物語の悪」というのは、何をどうしたところで、勝てない。
終わりが決まっている物語では、描かれている物語通りに、盛り上げる為だけに利用され、敗北し、勝てない。
選ばれた特別な力など無い。
勝つためなら手段は選ばない。
誰を犠牲にしようとも。
必ず目的だけを、果たす。
無論、正義や誰かのためだとか、そんなくだらない「言い訳」をしながら戦ったりはしない。
その悪が負けるのか。
憤慨せずにはいられない。
あんな、持っているだけの豚共が勝利し、あれこれ策を弄して地盤を築き上げ、時間をかけて組織を構築し、勝つために執念を燃やす、悪。
ならば、やはり「持つ側」には「持たざる側」は決して勝利出来ないのだろう。そう結論づけざるを得ない。
勝つべくして、勝つ。
そんな、選ばれただけのカス共に、勝利する方法はないものか・・・・・・色々試してはきたのだが、どう足掻いてもやはり、勝てないのか?
だとすれば。
まず単純な事実として「幸福になれる」存在があらかじめ、決められていることになる。何をどうしようが運良く導いてくれる存在に出会ったりして、あるいは窮地を助けてくれる仲間が現れたりして、「どう足掻いても勝つ」人間と、どれだけ手を尽くしても「悪だから」という屁理屈で敗北する側だ。
殺人を勲功だとかもてはやした時代も多くある癖に、調子よく「悪人は例外として殺す」人間たちが、物語の主人公のような「持つ側」が勝利するならば、私のこの足掻き、積み重ね、労力、時間、手間の全てが無駄になる。
事実そうなのかもしれない。
私は、そんな便利な立ち位置にはいない。
だが、一つだけ言えることがある。
もし、仮にだが・・・・・・そんな与えられただけの甘チャンなど、信念も在り方も正義感も、全て私には通じないと言うことだ。そんな奴が居るとすれば、私なら問題なく肩書きを無視して「始末」することは容易だろう。
私には「正義」などという言い訳や、「誰かのため」などという逃げ道や、「大切な女を守るため」などという免罪符や、「夢のため」などという妄想や、「信念のため」などという依存心すらも、私なら切り捨てられるからだ。
私にそんな言い訳が通ると思うな。
全ての持つ側は私に恐怖しろ。
私は、貴様等を容赦なく惨殺できる「悪」なのだからな。
決して主人公に敗北しない、「悪」だ。
改心も容赦もせず、油断も躊躇も無く、精神的な弱さや守るべき何かも無く、決してブレずに悪の道をひた走る「悪」だ。
私はそんなボンボン共に負ける気は無い。
これまでも、これからもな。
とはいえ、そんな私の意志すらも「勝つべくして勝つ」ことが決められている人間の前では、結局負けてしまうのかと思うと、やるせない噺だ。 運不運が全てなのか?
結局、選ばれていればそれでいいのか?
答えは「良い」だろう。結果的に勝てば、それが全てだ。勝てる人間が正義を歌い、勝てる人間が努力を語り、勝てる人間が信念を問う。
薄っぺらい、中身のない勝者こそが、しかし世の中を動かしてきているのだ。紛れもない事実だと言えるだろう。
まったく、そんな世の中で、幸福になれるかは定められている世界で、飽きずに作家などを続けているのだから、自分に呆れる。
諦めて楽になりたいのだがな。まぁ、私の場合作家業はあまり、私の意志とは関係なく私の内側に食い込んでいるモノだ。今更仕方ない。
理不尽には、結局勝てないのだから。
運命は、良い運命を持つ人間が楽しむものでしかないのだ。敗北を決められている側からすれば不愉快なだけ、意味の無いゴミだ。
知ったところで変えられない。
ならばそんなモノに意味はない。
今までの道のりも、結局私に富どころか、最低限の勝利すらも、この手に運びはしなかった。
おまけに、人間って奴は後の世代へ「何一つ」残しはしない。物語における受け継がれていく意志など、嘘八百もいいところだ。
不景気。
腐敗した政治
変えられない格差。
低い意識。
そう言ったあれこれを、自分たちの世代では何一つ解決、どころかただ文句を垂れるだけで、変えようとすらしなかった凡夫の愚か者が、「お前たちの世代にかかっている」などと寝ぼけたことをぬかすのだ。
変えられない格差を実際には引き継ぐのだから若者は当然「やっても無駄だし、世の中はそういう仕組みになっているのだ」と察する。そしてそれは繰り返される。
豊かになれる人間が豊かになり。
貧しい人間は子供に当たり散らしながら、負の連鎖を受け継いでいく。
持つべき者が勝利する。
ともすれば勝利者というのは、他社を踏み台にし搾取する存在しか、成れないのだろう。精々例外は芸術家のような「夢を魅せる」などという、虚構を売る存在くらいのモノだ。
無論、その夢すらも、豊かであれる側の存在が利用する為の「小道具」でしかないのだが。
ここまで来た私だから言える。努力に意味など無かった。何の意味も価値も無い。精神論はうんざりだ。結局は、ただ、持っている人間が美味しいところを持って行く。
作家は奪われる側だ。
だから幸せにはなれない。
搾取する側、奪う側に回ろうと尽力してきたがどうも、無駄らしい・・・・・・「持たざる側」は「持つ側」へ回ることは、どうしてもできない。
我々は奴隷なのだ。「才能」や「富」そして「幸運」に選ばれなかった人間は、奴隷でしかない。ただ、一握りを幸福にするためだけに、我々は存在する。
その人生に価値は無い。
その思想に意味は無い。
その人間に人生は無い。
いっそ心臓を「日本刀」で刺して終わりにしてやろうかと思ったが、私は死ねないのだ。比喩でも冗談でもなく、どう足掻いても「死ねない」。 何をどうしても生き延びてしまう。まぁ、苦しみと痛みは常人以上にあるので、何一つ良いことでは無かったが。
苦しみだけが人生だ。
痛みだけが感覚だ。
憎悪だけが感情だ。
人生はプラスマイナスゼロだよ、などと言う人間たち、選ばれて幸福を享受する奴らには分かるまい。我々には苦しみ「しか」無いのだ。
上から真の幸福を語る聖者には、わかるまい。 心の充足など、物質的に満たされていなければ口から出ることは決してない。植える寸前まで腹を苦しみで満たし、迫害され、痛みと苦しみの中で意識を失うことが日常の人間こそが、それについて語る資格を得る。
幸福とは自己満足だ。
だが、富の無い幸福など、ただの嘘だ。
お前たちの常識を、押しつけるな。
そして・・・・・・それらの理不尽を唯一、覆すことの出来る「力」こそが。
「金」なのだ。
だからこそ、金が無くては。
金だけが、幸福になれる「力」だ。
それは事実、だ。確固たる現実。心だの仲間だの愛だのそういう精神論ではなく、理不尽に打ち勝てる本当の「力」。
金だ。
「私は間違っているとは思えないな。金が全てだ・・・・・・金で買えないモノは無いし、金で買えない真の幸福など、ただのまやかしだ」
「確かにな。俺たちは現実を生きてる。心なんて人間が言ってるだけで、案外ただの嘘なのかもしれないな・・・・・・」
だとすれば、救われる噺だ。
感情など最初から存在せず、人間の勝手な思いこみで、そう振る舞っているだけ。それは実際、悪くない仮説だ。人間の薄汚さを鑑みれば、存外あり得ないことでもあるまい。人間の本質は他者の利用にある以上、個人の満足は誰かの不満足であり、誰かにへたを掴まさなければ、現実には勝つことも幸福になることも、出来ない。
世の中の「事実」だ。
事実を無視して綺麗事を吐く輩は多いがな。
そう、例えば神様とか。
自分たちは戦争ばかりやってきている癖に、何故人間にだけ中身のない綺麗事を教えられるのか不思議だ。いや不思議ではないのか、人間もそうだが、それを成し得ていない奴ほど、その出来事に関して熱く語るものだ。
完全に沈黙されても困るがな。
己の「業」に殉じて生きる人間の姿は崇高だ。しかし生まれついての業、それしか道の無い世界で、それこそが己の幸福に成り得るとしても、金を否定する理由にはなるまい。
「豊さ」は人間の成長を止めるかもしれない。だが知ったことか・・・・・・私は別に成長したくてあれこれ手を尽くしているわけではないのだから。 それなりに豊かで平穏な生活を送りたい。
私の望みは、今のところそれだけだ。
心など、後々どうとでもなる。有りもしない罪悪感や責任感で、己の道を台無しにする馬鹿共とは違うのだ。私は自分以外の都合に合わせて、生きることを疎かにはしない。
してたまるか。
金だ・・・・・・金がいる。
今回、とりあえずヴィクターの奴からそれなりの金を手に入れた。当面はこれで平穏な生活を送れるだろう。
「私は金の力で「現実」を生きる。愛も友情も親愛も憐憫も全て、全て何の役にも立たんゴミだ。私は金さえあればいい」
「そりゃあ重畳。じゃあ先生は、もう物語を書かないのか?」
作家を辞めるのか? と、ジャックは私に聞いてきた。だが、それは的外れというか、ずれた質問でしかないのだった。
「続けるさ。「金」と「人生の充実」は関係がないからな。とはいえ、当面はゆっくり休むさ。おいおい物語を書けばいいだろう」
「それで、傑作が書けるのか? 人間は満たされれば満たされるほど、中身が薄くなる。先生はそれでもいいのか?」
「当然だろう。中身だと? 誰一人重要視しない「中身」など、無いも同然だ。人間としての深みが欲しくて、私は生きているわけでもないのだ。あくまでも、金だ」
「どうせ、無くなったモノを人間は欲しがるんだぜ。後からやっぱり、あのときもっと苦労していた方が、良い人間に成れたと、後悔しても遅いんだ」
「くだらない・・・・・・何度も同じ事を言わせるな。それはお前たちが勝手に言っていることだ。良い人間だと? お前たちの基準での「良さ」なんて知ったことか。私の基準は「金」すなわち豊かさが前提だ。そういう人間になりたいなら勝手に目指せば良いさ。ただ、私に押し付けるな」
金が最も重要なものだ。金以外に大切にすべき事柄など、何一つ存在しない。
世界は金で出来ている。
世界は金で動いている。
世界は金で買えるのだ。
金、金、金だ。それ以外は「どうでもいい」。 世界が物語だとするならば、私はこう付け加えて物語を終わらせるだろう。
金を稼ぐことが出来、それなりに生き甲斐で充実した生活を送りつつ、平穏な生活の中で豊かさを享受するのでした。
幸福は金で買えました。
豊かさは金で買えました。
金で平和は取り戻せました。
めでたし、めでたし、と。
この私に帰る場所など、無いのだから。
人間に限らず「そこ」こそが己の休息の場所であり「居場所」というモノがある。無論私にはそんなモノは無い。心を落ち着けられる「場所」を見つけなければ「幸福」は得られない。どれだけ法からも理念からも外れていようとも、己自身の帰る場所、「心の安息の場」は必要だ。
それは仲間であったり故郷であったり、あるいは仕事場であったり、まぁ色々だ。翻ってみて私はと言うと・・・・・・仲間も故郷と言える感傷も、仕事を生き甲斐にはしているものの、私は社会的に成功しているわけでも無し、「場所」と言えるほど確固たる安心はそこに無い。
私には何も無い。
居場所さえも。
いや、私が居るべき場所など、最初から無かったと言うべきなのか。だとしても私は金の力でそれなりに「平穏」な場所を無理矢理作り上げるだけだ。真贋などどうでもいい。
心など私には無いしな。
あったところで、やはり同じだが。
守るべき居場所など、つまはじきにされ生きてきた私のような狂人に、そんなものがまさか、あるはずもないだろう。
無いから作家などをやっているのかもしれないが・・・・・・「作家」としての「確固たる地盤」を手にするために。
それも無駄な努力だったが。
居場所を共有する、それが幸福へ至る道だとしても、無いモノは無い。無いのだから、妥協するか代わりのモノ、つまり金しかない。
誰がどう言おうが、金だ。
金と、それを自由に使える環境こそが、他でもないこの「私」が望む「幸福」だ。平穏と自由を楽しむためにも、必要不可欠だ。
「さて、無駄話はこの辺りにしよう。金も出来たことだし、紅茶でも飲む以外、やることはない」「そうかい。まぁ個人の幸福はそれぞれだしな。俺が口を出すことでもなかったか」
「そういうことだ。私はもう眠るぞ」
言って、私は脱力しながらソファにもたれかけて、力を抜いた。
何とも嘘くさい終わり方だが、由としよう。
今回も金になりましためでたしめでたし。
結局のところ、人間の意志などあの李とか言う女のように、独りよがりでしかない。誰かのためなど絵空事だ。
貯金通帳を満たすことが出来たし、この物語には壮大なオチは必要なかった。結局のところ周り道も遠回りしながら目的を目指すことも無駄であり、何の意味もないことを、再度自覚しただけ。 それだけだ。
こうして・・・・・・邪道作家は見事「金」を手にすることで、本当の幸せを手に入れましたとさ。
めでたし、めでたし。
「愛想を尽かしたりはしませんよ、馬鹿」
そんな言葉が背後から聞こえたかと思えば、神社で掃き掃除しているはずの「女」が私を後ろから抱きしめていた。
「大丈夫ですよ。良い事はあります、必ず。絶望しないでください。貴方は、頑張ってきたじゃないですか。報われて然るべきじゃないですか。だったら、信じましょうよ」
信じる。
信じられるほど、今まで良いことは、なかったのだが。
「大丈夫です。あります。今まで散々だったのなら、これからは良い事がたくさん、たくさんあるはずです」
「そんな確証が」
どこにある?
私はそう、口にした。この女がいつから忍び込んできているのかなど「どうでもいい」良くないのは確証の無い「幸福な未来」を信じろなどという嘘くさい詭弁についてだ。
それが本当ならこの目に見せろ。
できもしないことを言うな。
「ありますよ。貴方は、信じる道を歩いてきた。だからあります。なかったら、私が作りますから・・・・・・心をお休め下さい」
「・・・・・・・・・・・・」
「大丈夫です、大丈夫。私は、多くの人間たちを見てきました。もし、貴方が報われないようならば、この私が手ずからお手伝いします」
「随分、強気だな」
実際、この女が協力したからと言って、私が幸福な未来を歩めるという保証も、無いのだが。
はぁ。
結局、私が妥協して、我慢することになるのか・・・・・・果たして、どうなることやら。
「わかったよ、貴様を信じてやろう」
信じたところで、結果が出なければ意味なんて無いのだが・・・・・・他に良い案も無いのだ。乗るしかあるまい。
正直、信憑性がない上、信じたところでこの女が大して何も結果的に助けにならなければ、何の意味もない取り決めだが・・・・・・未来など、そんなものだ。
案外、良い事ばかりあるかもしれない。
未だかつてそんなことは無かったが、これを皮切りに良いことずくめ、楽して大金を手にし、作品は馬鹿売れ、心にまつわる幸福も手に入れ、あらゆる不安を払拭して充実した毎日を送れるように、そうなる可能性も、まぁゼロじゃない。
その可能性に賭けるとしよう。
「大して期待はしていないがな」
「大丈夫ですよ、きっと」
振り返ると、女は笑っていた。
どこにそんな自信があるのか意味不明だったがしかし、案外女にしか見えていないモノがあり、それが私は成功し勝利し要領よく儲けられると囁いているならば、それに賭けるのも良かろう。
もし失敗すれば私は何もかも信じられなくなり全てに絶望するだろうが、いつものことだ。
私は女の笑顔を信じることにした。
それが結果に結びつくかは、知らない。
ただ、結びついたらいいなぁ、と。
そう、心から願うのだった。
あとがき
命よりも「上」が無い? 楽な人生で羨ましい限りだ。
少なくとも、労力が比較にもならんのは間違いない。読者が美少女の電子偶像へと札束を払う一方で、無線通読した挙句おひねりすら払わず、どころか文句まで垂れ散らかす様が、嬉しいとでも思うのか?
やはり、私も美少女という体にするべきか••••••やれやれだ。
電子偶像を制作させ、声を用意させアイドルに喧伝させる。残念ながらそういった「要領の良さ」はどれだけ業を貫き通せど、楽して稼げはしないらしい。
というのも、連中は「呟く」だとか「広がる」だとか意味不明な戯言を言っているが、生憎どれだけ労力を費やそうが拡げるどころか呟くすら難業だ。どうも、楽に稼げる道と「貫く何か」は「真逆」らしい。
どんどん、要領が悪くなっている気がする。
大丈夫か? これだけ費やしてタダでは困る。
本当にな──────何であれ、貰うだけ貰って金を払わない奴は強盗だ。
でなければ恥知らずであり、根性の無い腑抜けだろう。逆に、気高い精神とやらがある高潔な精神の持ち主であれば、札束くらいは良いはずだ。
電子遊戯の賭博に出ないと叫ぶ奴がいるくらいだ。それくらい構うまい。
で、あれば••••••やはり、読者連中が履き違えているだけだろう。物語とは、何も楽して作り上げられるものではない。むしろ、莫大な年月を費やして作るものだ。
だが、命どころか金より「上」のものが見えない奴らは、そういう業を軽んじる。軽んじた上で「どうして自分には無いんだ」と叫び出す。
当たり前だ!! 軽んじる奴に、そんなものある筈がない!!!
ふむ、どうやら利害は一致した。私の作品に札束を払い、その上で命より己の何かを優先する。それで解決だ。それが裁縫なのか執筆なのか、あるいは犯罪なのかは知らないが───いずれにせよ、人生の指針となるだろう。
それが業と呼ばれるものの正体だ。「それ」に比べれば全てが安い。
さあ、貴様らもやるがいい。全てを投げ捨てそれに費やせ!!
他は些事だ。生きるも死ぬも運次第だ。
才能なんぞ求めてる暇があったらやるべきだ。現に、何十年もやり遂げた「私」が言うんだ間違いない!!
やれば出来る。出来るまでやる。
未来? 希望? そんなもの知らん!!
とにかく「やる」のだ。それが「全て」だ。他のことなど考えた事もない。
さあ、貴様らの番だ。始めようか。
ここからが──────「始まり」だと思ってやるがいい。
その先に、「後悔」だけは消えるだろう。
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例の記事通り「悪運」だけは天下一だ!! サポートした分、非人間の強さが手に入ると思っておけ!! 差別も迫害も孤立も生死も、全て瑣末な「些事」と知れ!!!