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邪道作家第七巻 猫に小判、作家に核兵器 勝利者の世界 分割版その7

新規用一巻横書き記事

テーマ 非人間讃歌

ジャンル 近未来社会風刺ミステリ(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)

縦書きファイル(グーグルプレイブックス対応・栞機能付き)全巻及びまとめ記事(推奨)


 10

 泥を被らない人間は何も変えられない。
 綺麗事を述べる人間が、未だかつて世界を導いたことは一度もない。理想と現実は違う。どちらかしか、優先できはしない。
 現実に革命を起こすということは、罵声を浴びせられるという事だ。誰かに反対されることが前提だ。現存するルールで駄目なモノを変えようとしているのに、現存する人間達に賛成されるようでは、同調してなあなあで終わるだけだ。
 同調せず、相手の意識そのものを変え、そして己の思想に同調させなければならない。これは政治でも同じだ。国民に同調して同意を求めながら綺麗事で進める政治に、意味はない。政治家ごっこ、だ。ごっこ遊びでしかない。
 今までに無い思想を波のように伝播させるからこそ革命は起こる。まぁそれも口で言うなら簡単ではあるが、実現は実に難しい。適当な綺麗事を人間は好むものだ。現実より小綺麗な理想を。だから彼らにその意志が伝わることは、まず無い。 有り得ない。
 あったとしても、すぐ忘れる。
 だから政治の腐敗は無くならないのだ。指導しても無駄な国民の相手よりも、自分たちの利益を現実的に回収する方が現実的だからな。どうせ国民に何を期待しても無駄だ。どうせすぐに忘れるし、どうでもいいことで感情的になる。政治の基本すら覚えていない癖に、徒党を組んで抗議のデモだけは起こしたがる。
 相手にしなくて当然だ。
 相手にされるわけがない。
 綺麗事を言うのは簡単だ。そして簡単な事しかしなかった人間、口だけ出して現実に何を変えようともしない人間の言葉が、通って当然と考えている甘ったれた民衆の意識。政治のシステムそのものに問題があり、民衆の意識は高いだけ。これで政治家が金を求めないわけがない。
 デジタルなネットワークが、まるで活かされていないわけだ。集まるだけでは意味がない。集会を開くだけなら猫でも出来る。問題は未来を見据え、現実にどう行動を起こすかだ。
 暴動でも起こした方が早い。民衆などどうせ何をしようが何も出来ない。そう思われている事実こそが問題なのだ。民衆を舐めると痛い目にあうと、そう学習させればいい。
 痛い目を見なければ学習しない。
 権力者は大抵そうだ。
 どの世界でも同じだ。
「初めまして。私の名前はヴァチェスラフ・ホフマンだ。ホフマンと呼んでくれたまえ」
 出口周辺で護衛と一緒に待ち伏せていた大男、体格の良いその老人は、そういった「権力者」のイメージからかけ離れていた。フットボーラーのような体格に、兵士が好みそうな古くさい葉巻をくわえている。ここ数日待ち伏せされて捕らえられることが異様に多いが、何かあるのだろうか。 日頃の行いは良いはずだ。少なくとも金は寄付してやっているし、神社への支払いも多く、行ってきている。
 ああいう連中に金を払ったところで、無駄か。 現にまた、ホフマンとやらに拘束されるようだしな。
「勘違いしないでくれたまえ。君と争うつもりなど、私には無い。「サムライ」と戦うなど、愚かなことだ」
「なら、このまま見逃してくれないか?」
 このところ仕事尽くしだ。いい加減疲れてきた・・・・・・執筆は充実に繋がるが、過ぎれば毒でしかない。何か、リラックス出来るバカンスに、行くのも良いかもしれない。
「そうも行かないな。君には、まだ聞くことがあるのだ。ついてきたまえ」
 言って、空から飛んできた輸送機の中へ、私は彼と共に足を運んだ。内装は思いの外立派で、食べ物と飲み物、シャンパンまで完備されていた。「座りたまえ」
 言われたとおり私は真正面に座り、男を、ホフマンを見た。
 実に厄介そうだ。
 私が言うんだ間違いない。
 立場や思想、そう言ったモノを越えて、物事を判断できる人間だ。そういう人間は非常に強かで強い。私と違って立場もあるようだしな。
 権力をフルに使い、そういう人間が目的を持って進めば、拒める人間はいないのだろう。
「それで、何のようだ」
「いったはずだ。話があるとな」
 言って、彼は酒をグラスに注ぎ「飲むかね」と誘うのだった。「生憎飲めない」と断ると、特に残念がる様子もなく「そうか」とだけ答え、そのまま酒を一気に飲んだ。
「レアメタルの実状は知っているかな」
「実状・・・・・・新型の核兵器に使われているのだろう?」
「それもそうだが、それだけではない。レアメタルとはな「万能の杯」なのだ」
 順を追って説明しよう、とグラスを揺らしながら彼は続けた。
「そもそも、レアメタルとは「希少金属」のことだ。そのまま、流通量が少ないからこそ、高値で取り引きされる訳だ」
「それは知っている」
「ふむ、では君は「どういうレアメタルが」利用されているかは知っているかね」
「・・・・・・密輸品だろう」
「その通りだ。現在、流通するほとんど、君の持つ携帯端末などにも必要なレアメタルは、非合法に密輸されているモノで、多数を占める」
「希少金属なのに、どうしてそんな流通量を、確保できる?」
「それは簡単だ。希少ではないからだ」
「なに?」
 彼は空になったグラスに再び酒を注ぎ、
「希少金属の実態は、政府の公開している量と大きく異なる。実際には「金」いや「銀」と同じくらいの量は流通しているはずだ」
「どうやって」
 と聞きかけて、気づいた。そうだ、ここだって非合法な、表向きには採掘さえされていないはずの場所ではないか。
「貴金属の流通を握って、市場をコントロールでもする気か?」
「そんな小さな事は言わんさ。レアメタルはそのまま「軍事」へ応用できるモノが多い。今回のモノもそうだ。だから流通を握ることで、ある程度軍事力の逆算が可能だ」
 逆算。
 レアメタルの流通量から、兵器の質、量、携行されているであろう主力武器まで、わかるというのだろうか。
「そんな事が、出来るのか?」
「出来る」
 ホフマンは断言した。
「そも、使用目的によって違うレアメタルを使わなければならないのだ。何を多く取り込み、何を軽視しているか。それが分かれば誤差三百程度での判断が可能だ」
「三百って、何の数字だ?」
「兵器の数だ」
 つまりおおよそなら、戦闘機の数も四百〜七百位と、分かるわけだ。数が分かれば対策も取れる・・・・・・必然的に数の限界があるので、敵戦力がどこに重きを置いているかさえ、透けて見える。
「我々は今回の件で、君の上司。サムライの総元締めの真意を計るつもりだった」
「あの女の真意?」
 どういうことだろう。
 真意も何も、あの女はバランスを、
「そう、バランスを守り、邪魔者を排する。それがサムライの役割だ。だが、サムライをわざわざ敵に回す必要もない」
「それで、あいつらを扇動して、危機を煽り、サムライがパイプライン破壊に出向くよう仕向けたのか?」
「概ね、その通りだ」
 彼女のバランス基準を見極めることが、今回の目的だった。そうホフマンは語った。
「神の視点で「どの程度なら法に触れないか」これを見極めれば事実上、我々は何の気兼ねも無く開発を続けられる。サムライを敵に回すこともなく、むしろ敵対者が出れば自発的にサムライが向かってくれるように、な」
 世の中の仕組みそのものを味方に付ける。
 確かにこれが出来れば無敵だ。
 そうそう実行に移す奴も、いないのだろうが。「なら、何故私を呼び止めた」
「興味があってね」
 言って、ライターを鳴らし、葉巻に火をつけ、ふぅ、と煙を吐いた。
「君はあの女に仕えているそうじゃないか」
「雇われているだけだ」
 寿命のために。
 私個人の平穏な生活の為に。
「ふむ。君は確か「ささやかなストレスすら許さない平穏なる生活」を求めているそうだな」
「それがどうした」
「ストレスの存在しない人生を「生きている」とは言うまい。君はその矛盾に気づいているはずだ・・・・・・どうしてかね」
「なら、それなりに良い「刺激」を求めるだけだろう。スカイダイビングとかな」
「いいや、それも無駄だと分かっているはずだ。人生において「試練」はある。だが君はそれを排して「幸せ」になろうとしている。そんなことは不可能だと承知の上で、だ。君は、人生における苦痛、苦境、理不尽こそが人間を人間たらしめることを、誰よりも理解しているだろう」
 何故だ、とホフマンは聞いた。
 だが、その答えは簡単だ。
「いいか、よく聞け・・・・・・確かに人生において、そういったモノが無ければ生きている実感は掴みづらいかもしれない。だが、だからといって理不尽を容認する理由には」
「ならない、か。確かに。君の立場からすれば、そうなのだろうな」
 人の台詞を勝手に取るな。
 著作権侵害ではないのか。
「だが、分かっているはずだぞ。君は既に「生き詰まって」いるのだ。生きることに対して、生まれながらにハンデがある。幸福を実感すら出来ないまま、このまま永遠に生き続けて、恐らくはサムライとしての労働が上手く行く限り、君は死なないのだろうが・・・・・・君はそれでいいのか?」
「いつぞやも聞かれた台詞だがな」
 私の幸福は私が決める。
 誰かの基準など知らん。
 この「私」こそが基準。
「それは私が決めることだ。所詮この世は自己満足・・・・・・生憎私は面白い物語を呼んでいるだけで満足できる人間でな。何がいいか、何が悪いかは私が決めることだ。端から見てどう写ろうが、私は「ささやかなストレスすら許さない平穏なる生活」の為に、邁進するだけだ」
「思考放棄か? 君らしくもない」
「いいや、そうでもないさ。どう足掻いても不可能な幸せを、どう自己満足するか。それはそれでやりがいのある取材内容だ」
 そして物語を書いていれば「自己満足の充足」を得られる。物語を読んでいれば「自己満足の生きる実感」を得られるだろう。
 要は、この世界をどう楽しむかなのだ。
 そして楽しむための道具は、金で買える。
「だから私は今まで通り「金」を幸福の基準として据え置く。これは私が決めたことだ。変えることがあるとすれば、それは私の意志だ」
 年寄りにとやかく言われる覚えもない。
 くつくつとホフマンは笑い、
「そうか、済まなかったな。謝ろう。君はどうも・・・・・・思った以上に愉快な人物のようだ」
 それが子供っぽいという事ならば、私にとっては誉め言葉だ。少なくとも「雰囲気が老けていますね」などと言われるよりはマシだ。
「さぁ、好きなモノを食べたまえ・・・・・・もっとも君には「好きなモノ」など本質的に持ち得ないのだろうが」
「あるさ」
 即答したことには自分でも驚いたが、まぁ事実なので良しとしよう。
「私は面白い物語が好きだからな」
 
 
 

   10

 早ければいい訳ではないのだろうに、私の執筆速度は日に日に早くなってきている。以前は数時間賭けて十ページだった速度が、一時間、三十分と、どんどんと速まって、止まらない。
 一ページおよそ二分。
 早いときはそのくらいだ。だから何だって話ではあるのだが、もし、これが「作家として成長」しているのだとすれば、私はどこへ向かうのかとふと、思う。
 いずれにせよ金になって欲しいものだ。
「あの老人の方は、捕まって死んだとさ」
 宇宙船の座席の上で、ジャックのその言葉を聞いたとき、私は彼がどんな気持ちで死んだのかを想像した。
 関係ない人間が何人死のうがどうでもいいが、あの老人は私に近いものがあった。
 時代遅れの人間。
 所詮、時代遅れは時代遅れで、淘汰されるしかないのだろうか・・・・・・時代に置いて行かれた人間は所詮、「要領」や「流行に乗る」人間には、永遠に勝てない、ということなのか?
 分からない。
 本当に、分からなかった。
 私には、わからない。
 無気力な人間、目的意識のない人間でも、有能であれば生きていける。そして、そういう人間は意外と多い。
 だが、それでいいのか?
 無気力にだらだらと生きる人間は責任を取りもせず、何かをやり遂げた風に装い、結果大きな迷惑をかけたところで、軽く頭を下げて「すまなさそう」に振る舞えば、責任は消える。
 それでいい訳がない。
 だが、それを肯定する人間、そして肯定する人間を後押しするように、そういう人間こそが、美味しい思いと勝利の愉悦に浸っている。
 だから、皆諦めているのだ。
 最初から、やはり無駄だと。
 挑戦もせずに、いい気なものだ。
 楽で羨ましい。苦悩は深く考えず、考えないから悩みもしない。思考放棄で楽に生きる。それが人間だ。
 だからつまらないのだが。
 人間は、つまらない。
 人間をやめた奴の方が、面白い。
 今まで何度、そのつまらない連中に飽き飽きし作品を捨ててやろうかと思っただろうか。もう覚えていない。覚えられるような道のりは、歩いてこなかった。
 結局、金にならなければそれも無駄足だが、何か価値はあるのか? あったとして、金にならなければ、やはり無意味だろうが。
 無駄かもしれない・・・・・・「運命」で敗北が決定づけられているからこそ「時代遅れ」なのだとすれば、何の意味も価値も有りはしない。
 無意味で。
 無価値で。
 無駄だ。
「・・・・・・結局、あの老人といい、現地の人間達といい、大きな仕組みの前では無力だったな」
「確かにな。原住民が幾ら努力しようが、どう行動しようが圧倒的な「力」の前では、無駄だ」
「端から見れば美しく感じるだけで、やはり運命に立ち向かうことは愚かなのだろうな」
「先生は立ち向かわないのか?」
「立ち向かって、無様に負けた。この上ないくらいにな。私は「傑作」を書き上げ、やるべきことを成し遂げたが、世界は何も変わらなかった。あの老人も同じだ。憂い、行動し、変えようとしたところで、負けることが決まっていては意味がないだろう」
「運命、か。先生は信じているのか?」
「さぁな。あるかどうかは知らないが、そう言わざるを得ないような状況に、敗北してきたのは、ただの事実だ」
 信じるも信じないもない。
 ただの、事実でしかない。
 私はソファに全体重を預けつつ、考える。
 もう何万回考えたかしれない位、この問題については考えてきたが「負けるべくして負ける」などというふざけた答えこそが、私を取り巻く環境なのだ。どれだけ手を尽くそうが、どれだけ積み重ねようが、どれだけ時を刻もうが、勝てない。 勝った試しがない。
 漫画のように意志を貫いたところで、それを受け継ぐ人間など、実際にはいはしない。ただ独りで延々と一つの方向へ向かってきた。
 それも、無駄だった。
 勝てないなら、価値なんて無い。
 過程に意味を求めるだなんて、言い訳だ。本当に過程に価値があるならば、その意志が結果、形にならなければ嘘ではないか。
 世界の理不尽に対する、言い訳。
 うんざりだ。
 理不尽こそが勝利する現実から目をそらし、それでいて綺麗事を押しつける。馬鹿馬鹿しい。そんなことをしている暇があったら何故、理不尽が得をするような社会形態にするのだ。
 気持ち悪い。
 気持ち悪い。
 気持ち悪い。
 汚物が・・・・・・「道徳」を説こうとする。そしてそれを支援する世界。本当に「気色悪い」。
 汚らしい雑菌が「努力すれば成功する」と、馬鹿の一つ覚えのように叫ぶことを良しとして、それを支援する。何も考えない人間ほど何もしなくても上手く行き、そしてそれを肯定する世界。
 汚い。
 お前達は「汚い」んだ。
 せめて自覚しろ。
「最初から無駄だと分かっていながら、挑むことを私はやめられなかった。やるべきではなかった・・・・・・何もかも無駄だった」
「それでいいのか?」
「いいも悪いもない。私の意志が「結果」に反映されたことなど、一度もない。この世界は、どうも私個人の意志を踏みにじることで、何か利益でも出るらしい」
「諦めちまうのか?」
「諦めるも何も無い。どうしようが同じことだ。むしろ、私はもっと賢く生きるべきだったのだろうな。頭が悪かった。だから諦めきれずに無駄な試みをやめられなかった。だが、今にして思えばもっと早く諦めておくべきだった。どうせ無駄だということは、子供の頃から知っていたはずなのにな」
「・・・・・・・・・・・・」
「無駄だと知りつつ、挑戦することにも、もう疲れてきた」
「それでも・・・・・・書くことはやめられないんだろう?」
「ああ。だが、それも頑張って諦めるべきなのさ・・・・・・諦めずに、屈辱を耐え、成し遂げた結果がこの様だ」
 この様で続けるべきだという考えは、ただの綺麗事でしかない。才能の有無や、運不運。あるいは環境や生まれ、そういったあれこれで、人間は成功できるかどうか、決まる。
 だから当人の意志に意味はない。
 何の価値も生み出さない。
 ただ「無駄」な足掻きだ。
 足掻くことをやめなかった私が言うのだ。間違いない。全ては、無駄だった。
 金に物語がならない。それは物語を書いた過程も、結果そのものも、書く姿勢も、その在り方すら「何の価値も無い」と判子を押されたようなものなのだ。サインでもいい。とにかくお墨付きって奴だ。
 金にならなければ価値など無い。
 それは私がよく知っている。
「けどさ・・・・・・慰めるわけじゃないが、およそ人間が「価値がある」って定めるモノは、大抵何の価値があるのかわからんようなモノばかりだぜ」「確かにな」
 ミロのビーナスも、あれを本当に「芸術だ」と思っている人間は少数派だろう。皆が素晴らしいと称えるからそう思うだけだ。
「だが、言った筈だ。金にならなければ価値はないのだ。それらだって、金になっているからこそ「価値がある」と定められている」
「そうか? 芸術家なんて、金にならない基準ばかり、見ていそうなもんだがな」
「・・・・・・いずれにせよ、私には関係のない話だ。私は金の為に書いている。金にならなければ意味なんて無いさ」
「価値はないかも知れないが、意味ならある」
「そうかもしれない。だが、私に金を運んでこない、という確固たる現実がある限り、私にとって作品とは「ゴミも同然」なんだよ」
 厳しいねぇ、とジャックは嘯いた。その内この人工知能は口笛でも吹くのでは無かろうか。
 今となってはどうでもいいがな。
 もう全てが、どうでもいい。
 元より、どうでもよくないのは金だけだ。
 金だけが。
 現実に力を持つ。
「意味、いや価値の無い旅路だった」
「人間なんてそんなもんだろ。そもそもが、人間に価値がないんだから、人間の行う事なんて、価値のない破壊行為でしかないのさ」
「そうかもな」
 私には心がない。だからこういう時「絶望すべきだ」と分かっていても絶望できない。
 虚脱感すら感じられない。
 だから嫌なのだ。
 やり遂げて、成し遂げて、得られるモノは正真正銘何も有りはしない。
 自身の内にさえも、だ。
「さて、どうやって筆を折るべきか」
「無理だろ。先生自身が一番よく知ってる筈だ」「ああ。だが、やるしかない」
 必要に応じて、やるしか。
 だが、この場合折ったところでもう意味はない・・・・・・元より私の歩いた道に「金」という結果が付随しない以上、何もかもが無駄だ。
 無駄。
 私自身の意志すら関係なく、また次の試みも、無駄に終わるのだろう。
 今までと同じように。
 これで何かを「信じろ」などと・・・・・・違う言語で話されているのかと、戸惑うだけだ。
 信じるモノなど有りはしない。
 全てが全て、信じるに値しない。
 物語すらも。
 運良く金を掴むかどうか。それが生きることの全てだというならば、金そのものも、所詮信じるには値しないということか。何せ、持つべくして持つ人間が持つならば、そんなモノは権力者に媚びを売る人間と、やっていることは同じだ。
 金は金のあるところを好むと言うが、ならば金そのものすら信じるには値しないのか。
 何を信じるべきか。
 己を信じた結果、私は何一つ得られなかった。己を信じて突き進んだ人間が、何かを掴むのは、所詮フィクションの中だけ、いやこの世界は元よりフィクションのようなモノなのだろう。勝てるから勝利し、負けるから無駄に終わる。そんな子供の言い分みたいなルールが大昔から続いている・・・・・・質の悪いジョークだ。
 品性の無いジョークこそが、この世界の本質なのだ。だから、本来「美しい」とか「尊い」とされるものは、あくまで観賞用であって、現実には存在さえしない。
 それが「事実」だ。
 ただの「事実」。
 厳然たる「現実」だ。
 生きることに価値はなく、意志を貫くことには何の意味もない。私は「ささやかなストレスすら許さない平穏なる生活」を目指してはいたが、案外私が、心を持たずに生まれたその時から、何一つ得られず苦しみ続け、全ての試みが無駄に終わることさえも「運命」とやらに組み込まれていたのかもしれない。
 運命。
 実に忌々しい言葉だ。
 結局、それなのか。
 無駄だから無駄。
 そんな子供の言い分。
 それで全ては水泡に帰すのか。
 今まではそうだった。それを変えようとした。だがその試みすら無駄だった。
「私が生まれたことは、どうも間違いだったようだな」
「己の事を卑下しない先生にしては、珍しいな」「卑下ではない。私のような人間は、その性質からして「生きる」ということが「出来ない」のだ・・・・・・幸福になれず目的は果たせず、金を得ることも出来ない。それを生きているとは言うまい」 むしろ「生きない為」にあるかのような生態だろう。死人の在り方だ、そしてそれでも構わないと思おうが、結局は目的も果たせず、何一つとして届くことがない。
 いてもいなくても、同じ。
 私の意志と関係なく。
 私はそう、出来ている。
「やれやれ、参った。本当に参ったな。どう足掻いてもどうにもならない、か。言葉遊びとしては面白いが、実際には無茶を押しつけられただけだな、これは」
「いいじゃないか、面白そうで」
「面白くもない」
 他人事だと思って適当な奴だ。まぁ、私もこの現状を「嘆く」ことすら、もう出来なくなっているのだから、案外私という人間は、それこそとっくの昔から「生きていない」のかもしれない。
 どうでもいいが。
 金さえあれば・・・・・・この文言も空しい言葉だ。 まぁ今の私に気になることは、カルシウム不足で歯茎がやられないかとか、そういう至極どうでもいいことだ。何を考えてもどう足掻いても無駄という状況そのものは昔から変わらない。
 何もかもが無駄なのは今更だ。
 再確認しただけだ。
 これからの行動に関しては、考えることを放棄するかもしれないが。考えたところで、策を弄したところで、上手く行ったことは無い。
 一度も。
 ならばどうでもいいだろう。どうにもならないならどうにもしないまでだ。虫歯にでも気をつけながら、適当に生きることを頑張るとしよう。
 手を抜いて、もっと手を抜いて生きることを意識しつつ、生きるとしよう。何せ、何をどう足掻いたところで「無駄」なのだから。
 私は頼んでおいた暖かいミルクを飲み干し、ゆっくりと眠りについた。どうせ私が手を尽くそうが私の未来は暗闇だ。考えるだけ馬鹿馬鹿しい位時間の無駄だ。
 さして期待も出来ない未来のことを考えると、このまま目を覚まさなくても覚ましても、どちらにしても同じ、何か期待できるモノなど有りはしないだろう。
 未来に絶望はしないが希望も持たず、ただ期待できないであろう結末だけを見据えて、私は特に何の感慨もなく眠りにつくのだった。

   11

「と、いうことで、老人は運命に敗れ、私もお前達に良いように掌の上で踊らされ、行動することの無意味さを改めて思い知ったわけだ」
 満足か? と私は女に聞いた。神社の境内、ではなくそこから少し外れた所にある、茶飲み屋で私たち二人は並んで座っていた。タマモは、どうやらあまり茶菓子を食べまくるよりは茶を飲んで風景を眺めるタイプのようで、私と違い、鯛焼きをむやみやたらと食べ、団子を何串も食べるようなことはしないらしかった。
 花より団子だ。
「あなたらしいですね。それ」
 と言われて、どうやらその事を指摘されたらしいことに私は気づいた。当然だ。花を眺めて何の意味がある? 下らない。
「そうでしょうか」
「そうだ。今回の件にしたって、結局はあの老人も私も、大きすぎるモノに左右されただけだ。何か一つとして変えてはいない」
「確かに、それはそうですが」
 人間独りの力で、何かを変えられるなんて思い上がりだからではないですか、とタマモは続けて指摘した。
 だが。
「いいや、何かを変えられるのは「力」だ。権力であり財力であり、意志だとか仲間がいるかどうかなんていうのは問題ではない。結局の所物理的に変えられる力が合れば、誰でも変えられる」
 今回の件も、民族としての誇りが弱かったとかそんな問題ではないのだ。ただ単に、「弱いから負けた」だけだ。逆にあの老人に権力と財力があれば火星はこうも良いように利用されなかっただろうし、私も本を売る「力」があれば、作品の出来、すら関係なく、金に変えられるだろう。
 世の中そんなものだ。
 尊さ、とか意志とか、誇りとかそういう綺麗事を表面だけで見るから惑わされる。どんな思想であれ関係ない。金があれば「正しい」し、金にならなければ「悪」だ。
「だから強いていえば、今回老人と私が権力だの既得権益だの、私たちには関係ない人間の意志に振り回されたのは、ただ単純に弱いから利用されて使い潰された。ただのそれだけだ」
「貴方はそれでいいのですか?」
「私の意志は関係あるまい。綺麗事の為に言葉の逃げ道を確保しようとするなよ。私の意志など関係ない。ただの「事実」だ」
 弱ければ抵抗しても無駄。
 持たなければ成し遂げても無駄。
 運命が悪ければ、やり遂げても無駄。
 ただの、事実だ。
 それを覆そうとして、あれこれ画策してきたというのだから、我ながら無駄なことに時間を費やしたものだ。弱ければ、そして、持たなければ何をどう足掻いたところで無駄だという事実は、生まれたときから知っていたというのに。
「まったくの「無駄」だった。ジャックにも言ったが、私も何とかして「筆を折る」ことを考えなければならないだろうな」
 無駄だからな。
 金にならないなら、別に書きたくもない。
「それは嘘でしょう。貴方が、利益や実益の為に本を書いているとは思えない」
「だとしても、同じ事だ。無駄なことに力を注いだところで意味なんか無いからな。この世は金だ・・・・・・そして、金にならないモノに価値はない」「貴方は」
「良くないさ。だが、私の意志は関係あるまい。私がどう思おうが、どうしようが無駄は無駄。ならばさっさと適当に、終わりを迎えるその日まで生きることを「こなし」続けるだけだ」
「そういう生き方を、一番嫌っていたはずです」 確かに、と私は茶飲みを置く。
 だが、何をどう足掻いても無駄ならば、出来ることなど何もない。私の意志すら関係なく、消去法でそういう方法しかあるまい。
 それを知っていながら、私は今まで無駄な試みを延々と繰り返してきたというのだから、我ながらよくまぁ、諦めなかったものだ。
 それも無駄だがね。
 何の意味も価値も、有りはしなかった。
 さっさとくだばってやりたいところだが、私は死ぬことすら出来ないのだ。それこそ「運命」で決められているのかと言うくらい、私はどんな方法でも、いや「どんな苦しい目に遭おうとも」死ねない。
 ただ苦しむだけだ。
 それももう、うんざりだ。
 だとすれば私の試み、私の意志、私の労力、私の思想、私の行動、私の信念、私の誇り、私の物語の全て、は完全に無駄で、価値のないゴミだったわけだが、ならば当然私に生きる意味など、その動機となるモノは無い。そもそもが、私の意志が蔑ろにされるというのに、私がそれを率先してやろうと思うはずもない。
 だが死ねない。
 そして、何とか出来るように足掻いたところでそれも無駄だというならば、消去法。そう、消去法で「こなす」しかあるまい。
 他に何があるというのか。
 口でそれらしいことを言うだけなら簡単だ。だがそれで私の本が売れた試しがない。
 文句があるなら金を払え。
 話はそれからだ。
「それにしても、今回の依頼はあれでよかったのか? 革命運動は止める必要がないので放置したが、あれでは大勢死ぬぞ」
 内容にないからと放置したのは私だが、依頼内容に人命救助がなかったのも、また事実だ。
「構いません。私の役割はあくまで「バランスを保つこと」ですから。個々人の不幸に関しては、関知するつもりはありません」
 成る程、そういうことか。
 神の目線からすれば、残酷な答えすらも、全体のバランスが取れていればそれで「良し」と出来る内容でしかないのだ。その割りを食って、私みたいな人間がどれだけ憎悪にまみれても、全体の幸福度数は満足行くからそれでよし。
 普段から意見が合わないわけだ。
 そんな奴と、私のような人間が、気が合うわけがない。何事も被害者からすれば、加害者の言い分なんて下らない言い訳以下でしかない、とそういうことか。
 冗談じゃない。
 だが、それを言っても無駄だろう。結局の所何が正しくて何が素晴らしいか、それを決めるのは「持つ側」だけだ。「持たざる側」が何を言おうが、何をしようが、力がなければ全て無駄。
 それが真実だ。
 この世の事実。
 だから私個人の意志は関係ないし、その被害を被った人間達が何を考えようが、どれだけ意志を貫こうが、何を叫ぼうが無意味で無価値だ。この女の言に乗っ取るならば「世の中のバランスのために」必要だからというクソみたいな理由で、好き勝手蹂躙されるのだろう。
 犠牲になることが運命づけられていたのだ。
 ただの、それだけだ。
 結局、人間は運命には勝てないし、何をしようが全て無駄、ということが今回の取材から証明されてしまったわけだ。いや、私のような人間が生きている時点で、それは証明されていたのだろう・・・・・・どれだけ生きようがどれだけ努力しようがどれだけ信念を貫こうが、「幸福になれる権利」は決まっている。幸福を目指し獲得する、などと人間の思い上がりだったわけだ。
 チケットを持っているから幸福になれるのだ。 持たない人間には目指す資格すらない。
 事実、私はそうだったではないか。
 幸福に対する挑戦権、すら無い。初めから幸福になれるかどうかは「持つ側」に生まれるか「持たざる側」に生まれるかで決まっている。
 物語と同じだ。
 悪役は幸福にはなれない。主人公達を成長させ途中で殺され「彼らを満足させるため」だけの生涯を終える。どう行動しようと、どの物語も結末は同じだ。
 持つ側が勝利する。
 持たざる側は、「勝ってはいけない」のだ。
 存在そのものが「持つ側」を引き立てる為に、あるといっていい。だから持たざる側の努力など主人公達が活躍する為のモノでしかない。
 間違えた、と言うわけか。結局それなのか。私は自分の意志で運命を切り開こうとした。だが現実にはそんな意志そのものが無意味であり、出来ることと言えば終わるまでの間どう消化試合をこなし続けるか、だったのだ。
 それを、思い上がった。
 貫き通せば、成し遂げれば、やり遂げれば結果に繋がるのではないか? そんな風に考えてしまったのだ。それこそ物語の読みすぎだ。
 何かをして報われるのは「持つ側」だけだ。
 通常、努力も労力も無駄に終わる為にある。
 いや、それも違うのか。
「どんな形であれ、成し遂げたことは形になる。だが、それと金になるかは別問題だ。形になったところで、金にならなければ何の意味もない」
 今回の件にしたって、そうだ。結果的に、私はいいように使われただけだ。あの老人にしたって何一つ変えてはいない。
 結果が全てだ。
 だから、結果を伴わないのであれば、最初から何もしていないのと同じなのだ。あの老人も私の作家業も、結果が無い。
 意志だけでは何もないのと同じだ。
 私は傑作を書いたが、売れなければ書いていないのと同じだ。今回、意志は結果に関与するのかを調べる意味合いもあったが、やはり個人の意志なんて何の関係もなく、大きな力のみが、大局を動かした。
 個々人の意志は、今回の結末には関係ない。
 ただなるべくして成っただけだ。
 私が関与しなくても、案外あの鉱山は取り壊されていたのではないだろうか。革命を起こした後となれば、あんな物騒な施設は邪魔でしかない。彼ら自身の手で壊されていたのではないか。
 女はぐうの音も出ないようで、黙っていた。まぁどうでもいいがな。負け惜しみのように「それでも」と彼女は続け、
「それでも・・・・・・人の意志には価値があります」「あるかもしれないな。で、それが何だ?」
 金になるのか?
 ならないよな。
 だから、どうでもいいことだ。
「まぁいいさ、どうでもな、お前の綺麗事に興味はない。そう思うならそう思えばいい。押しつけられるのは御免なので、独りでやっていて欲しいがな」
「そうでしょうか・・・・・・私は、結果のみを求めた人間の破滅する姿を、よく知っています。だからこそ「過程」に価値がないとは思えません」
「そうかもしれない。だが、それとこれとは関係がない。過程に価値があったとして、それが結果にならなくてもいい理由には成らない。お前の言葉は一々言い訳臭いな。過程に価値を求めるのは勝手だが、結果が伴わないモノに「良い過程があるから美しい」などというのは、傍観者の戯れ言でしかないのだ」
 当人からすればたまったものではない。
 冗談ではないのだ。
 そんな事を言われるために、やってはいない。「そうでしょうか」
「そうだよ。その程度の現実も見ないで生きられるというのは、お前が「持つ側」だからだろうな・・・・・・楽で羨ましい」 
「別に、私は」
「いや、いいさ。お前の意見などどうせ役には立たない。綺麗事は「持つ側」の特権でしかない。私には関係ない世界の話だ」
 さて、行くか。と私は腰を上げようとして、女に服を捕まれた。
「貴方は」
 言って、俯きながら女は続けた。
「それでいいのですか?」
「良くないさ。だが、私の意見は関係あるまい。今回それが証明されたことだしな。適当に今後を消化することでも、消去法で考えねばな」
 掴んだ手をはたき落とし、私はそのままその場を去った。
 いつも通りだ。
 理不尽に屈する、といういつも通りの結末で、私はとりあえずの幕を閉じるのだった。

   12

「人類のテクノロジーも、頭打ちらしいぜ」
 帰り(ホテルに泊まりに行くだけだが)の宇宙船で、ジャックはそう言った。
「人間という品種にも、限界が来ているということだろうな。元より、経済面の数字ばかり大きくなって、根本的な社会問題は何一つ解決しないで放置してきたのだから、当然だろう」
 人間という生き物。だがアンドロイドが生まれ自我を持ったこの時代に、果たして人間は必要だろうか?
 要らないと思う。
 それもまた、「事実」だ。
 アンドロイドが世界を覆い尽くしたところで、根本はあまり変わらないと思うが。何せ、彼らが人間に近づき、追い越すという事は、人間以上に欲深くおぞましい生き物が生まれることに他ならない。
 争いが起こるのは「心」があるからだ。いっそ全ての生き物から心を消し去ってしまえば、世界も平和になるに違いない。
 少なくとも静かには成りそうだ。
 尊さなど幻想だ。心があるが故の素晴らしさなど有りはしない。何一つとして心が素晴らしいなどという妄言を肯定する言葉には成らない。
 人間の心は邪悪そのものだ。 
 全ての悪がそこにある。
「テクノロジーなど、利便性を追求するだけのモノだからな。テクノロジーそのものが何かを生み出すことはない。それを扱う人間次第だ」
 つまり何の期待も出来ない、ということだ。
 私には人間としてあるまじき事に「思い出」が存在しない。きっとこれからもないだろう。だから「私個人の実利」と「私個人の平和」さえ手に入れば、他はどうでもいい。
 テクノロジーに人間がどれだけ溺れ、足下を救われようとどうでもいいことだ。ただ、テクノロジーに限らず人間は「成長」を止め、体制のみで保とうとする習性がある。きっと、成長を全人類が諦め、前へ進むことをやめたとき、その時人類がどれだけ栄えていようとも「滅び」への道を、転げ落ちていくのだろう。
「テクノロジーは利便性を高め、あらゆる困難を打破したが、結果困難のない世界を作り上げたからこそ、成長しない人間が多数を占めるようになったのだとすれば・・・・・・何とも皮肉な話だ」
 私の求める「困難の克服」を人類はテクノロジーの力で達成した。だが、その結果精神的な多様性は減り、自律思考能力の無い人間が生まれた。 どうにもちぐはぐだ。
「先生は困難そのものを嫌う節があるが、困難が全くない人生を送った人間なんて、そんなもんさ・・・・・・困難は確かに厄介きわまりないが、全く困難が存在しなければ、それは成長しないことと同義なのさ」
「ふん」
 だからといって困難そのものを肯定するつもりはないし、無いに越したことはない。だが、全く無くても成り立たない、という事実は認めよう。 困難もストレスも、無ければ人間は生きている実感を掴めないものだ。無論、私には生きている実感など必要ないが。
 私は生きていないしな。
 適度な自己満足の充実があれば、構わない。
「困難を克服すること、あるいは困難を受けて、耐え凌ぐことで「成長」できると」
「その通りさ。山も谷もない環境では、人間は自分自身が生きていることを自覚できない。無論谷だけでも駄目だが、山だけでも駄目なのさ・・・・・・平坦な道では歩いているかすら実感できない。そして山だけでは足下がおろそかになり、下へ落ちる可能性を考えることをやめてしまう。ある意味谷の底にいる先生は、油断しないし慎重に考えられる」
「そんないいものじゃないさ」
 谷の底と言うより、私は同じ道にいないのだ。 道を歩く権利が、まだ手に入らない。
 未だに、手に出来ていないのだろう。
「言葉遊びよりも、私は実益が大事でね。金になれば何でもいいのさ」
「商いでもすればいいじゃないか」
「仕方あるまい。私は作家として歩いてきた。もう戻れないところまで、な。作家として勝利できないならば、私は私を作り上げてきた「作家」としての部分を否定される、ということだ。否定されたところでどうでもいいが、だがそれ以外の部分で今更、勝利は望めそうにない」
 今更言っても仕方ない話だ。まぁ、これから先目指すのもありかもしれない。作家なんてさっさと筆を折って廃業し、屋台でも開こうか。
 それもいい。
 どうでも、いい。
 何か金になりそうな事を考えておこう。
「作家として歩いてきたんではなく、作家として歩いていきたいんだろう?」
「だが、それも結果が出なければ無駄なことだ。精々儲かりそうな商売でも始めるさ」
 金があれば平穏は買える。そして幸福など所詮自己満足でしかない。
 適当に自己満足し、生きる。
 金の力で。
 それもいいかもしれない。
 実にガキっぽいことで悩んでいて、青春みたいではないか。そういうことにしておこう。精神年齢が老けているなどと、そんなモノは誉め言葉でも何でもない。ただ「老けていますね」と言われるようなものだ。子供が背伸びするならそれでもいいが、生憎私は若さに拘る男なのだ。
 子供っぽい悩みで悩んでいる。
 そういうことにしておこう。
 「運命」を「克服」する、などと、如何にも子供っぽいではないか。克服できないからこそ運命と呼ばれるというのに、それを克服し、敗北の運命があるならばそれを塗り替えよう、などと。
 我ながら子供っぽい考えだ。
 それを実行するのだからどうかしている。
 まぁ・・・・・・悉く失敗してしまったが、な。
 物語は、金にならなかった。いや、この先金になるかもしれないが、しかし、未来の可能性など考えていたら、どんな不可能ごとも可能になる。 ただの妄想もいいところだ。
「作家として、金を儲け、それなりに充足した生活を送りたかっただけなのだがな」
「何だよ、先生。もしかして今回あった老人が、何もかも無駄に終わったから自分に重ねているのかよ?」
「そうではない。ただ、客観的な事実として、そういう人間が敗北する、敗北しかできないのだ、と再度思いしらされただけだ」
「敗北するから挑戦しない、なんて先生の言葉とも思えないな。毎度、不可能事に挑戦している男が吐く言葉とは」
「不可能を可能にするために、私は作家などという生き方で固定しているのだ。それが無駄に終わり、金にならない今、落ち込むのは当然だろう」 実際には落ち込んですらいないが。
 できないのだ。
 そういう、人間の行動が。
 だからこそ、金だけは確保したいのだが。
「不可能を可能に、ね。不可能は不可能だろう」「ああ。だが、やるしかあるまい。そのまま放置すれば、私にとってはこの世の全てが、不可能なままだったからな」
 生きることが不可能。などと、しかし現代社会ではありがちな問題ではあるが。個々人の幸福よりも「社会全体」の幸福こそが優先される。だからこそ「個人」として「幸福」を勝ち取ることは社会全体の幸福を敵に回すことに他ならない。
 だから険しい。
 難しい。
 それでも、不可能ではないと思っていたが。
 どうやら、間違いだったようだ。
 私の人生は、最初から終わっていたのか。 
 それとも。
「成し遂げれば見える景色も変わるかと思ったがやはり、何も変わらんな」
「金を手にしたところで、それは同じだろう」
「だろうな」
 だが、出来ることは変わってくる。
 だからこその「金」だ。
 金は不可能を可能にはしない。だが、個人を助長し、力を与え、扱い方によっては望む方向へ、確かな道筋を持って進むことが可能だ。意志の力でもそれは可能だが、金による現実的な橋渡しがなければ、物事を形にすることは、出来ない。
 先に進むためには必要なピースだ。
 それこそが、「金」だ。
「十億人くらいなら、年内に売れると思ったのだがな・・・・・・」
「目標高すぎだろ」
「馬鹿が」
 私は言った。
 私だからこそ、言ってのけた。
「目標を低く設定して高く飛べるか? だからお前達は間抜けだというのだ。目標とは所詮越えるためにしかない。どうせ越えるなら天高く、だ」「上を見るのに、金はかからない、かい?」
「まあ、そうだ」
 先に言われてしまった。まぁいい。誰が言おうが同じ事だ。問題なのはそれを実行に移すか、だからな。
「言うなれば私の試みは、物語のキャラクターが「自身の役割を無視して」己のやりたい役割を作り上げるようなものだ。役割そのものが与えられていないと言ってもいい、いや、役割を与えることを忘れられた「私」が、役割を作り上げようとしたからこそ、失敗したのかもしれない」
 今更どうでもいいことだが。与えられた、いや与えられなかった運命を覆すとはそういうことだ・・・・・・何もないところから己の物語を作り上げる暴挙、と言っていいだろう。
「ふぅん。よくわからないけど、要は先生、また無茶な挑戦をしたって事か?」
「まぁ、そういうことだ」
 どちらかといえば「挑戦権」を得る為の戦いだったと言っていい。だが、それも、終わった。
「幸福を得られないなら幸福を得られるキャラクターになればいい。だからこそ私は生き方を固定し、充足と豊かさを在り方として捉え、それを目指し続けたわけだが・・・・・・役割に無いキャラクターでは、どうあってもたどり着けないらしい」
 金を得ることすらままならない。
 得る側としての立ち位置を持っていなければ、得る事は出来ないのだ。私がそれを証明した。してしまった、と言うべきか。
 どう足掻いたところで「持つ側」に居ない存在は「持つ側」に回ることは出来ない、ということなのだ。ただただ奪われるしかない。
 それを享受するか、妥協してその奴隷としての人生を受け入れる、いや諦めるかだ。
 下らない役割を押しつけられてしまった。
「でもよ、ただ役割を受け入れた人間と、先生とじゃ違うと思うぜ」
「なんだそれは」
 同じではないか。
 「結果」は「同じ」だ。
 何もしていないのと変わるまい。
「先生は形はどうであれ、それを形にしたじゃないか。物語を誇りに思えばいい」
「生憎、私は誇りなどいらない。金だ。欲しいのは金であって、それ以外に意味はない」
「人間の人生なんて、どうせ百年か二百年か、先生は何万年か生きているらしいが、それだって宇宙全体からすれば小さいもんだろう? そんな短い時間の中で、紙だのチップだの集めたところで子供がコレクションしているカードを集めているのと、そう変わらんと思うがね」
「私の場合、それにもう一つ、先ほど言った試みも加わるがな」
「どういうことなんだ?」
 興味があるらしく、しつこく聞いてくるのだった。話す機会がなければ適当に話を終わらせようかと思っていたが、まぁいいだろう。
「言ってしまえば、作家にあるまじき、そして物語にあるまじき冒涜行為だ。無論、私は何かを冒涜したところで何の罪悪感もないので、問題なく実行に移せたが」
「それで?」
「要は、だ・・・・・・「私」は元々、モブキャラと言って差し支えない役割を与えられた人間だった。だがある日、何の動機付けも無いというのに、私は「作家を目指す」という大きな行動を始めてしまった。本来、私が作家として行動する未来などどこにもなかったにも関わらず、だ」
「つまり先生は「物語のあらすじ」を無視して動き出したキャラクターみたいなモノなのか」
「そういうことだ」
 無論、それだけでは意味がない。
「だから私は・・・・・・まずは自身のキャラクター性を「書き換えた」と言っていい。運命を克服しようとする、というのはそういうことだ。物語で例えるならば、キャラクターが自身のプロフィールを勝手に書き換えたようなものだ」
 それでも「運命」には届かなかったが。
 無駄な事は無駄だった。
「本来成功する未来がない、のだから、通常の方法では成功しようがない。たとえば、だが・・・・・・物語に限らず、現実の成功者というのも「たまたま運良く理解者と巡り会えた」り「賛同する同士と小規模ながら行動を移す」ことは、ままあることだ。それは彼らが成功することがある程度決まっていたからに他ならない」
 成るべくして成る。成功者、勝利者の運命を、過去のデータを通して読めば、誰にでも理解せざるを得ない事実だ。
 だが、私にはそんな運命はない。
「私は、恐らくだが、本来の史実であれば「作家を目指すこと」すら無かったはずの、物語で言えば「戦いに巻き込まれる事すら無いはずの村の住人」みたいなものだ。「心の欠落」という「どうしようもないバグ」を放置した結果、私という人間が出来上がった、と言えるのだろう」
「話だけ聞いていると、先生の異常性が際だってくるな」
「そうか? まぁいい・・・・・・いわば「自我を持ってしまったNPC」と言ったところか。役割すらも「越える」為に行動し、「狂気」を軸として、勝つために進み続ける。恐らくは、私が唯一なのだろうな」
 どうでもいいが。しかしジャックは引っかかったようで「何が唯一なんだ?」と聞いてきた。私は説明は面倒だから嫌いなのだが。
 言っても仕方がない。
 説明してやるとしよう。
「言ってしまえば「物語そのものを変える」事が出来るキャラクター性だな。今回の件も、私でなければ本来は「老人と結託」して「革命を止める為に行動する」とか、そんなあらすじだったのではないかな」
「?・・・・・・なら、先生の目的は達成できているんじゃないのか?」
「いいや、私は物語そのものに興味など無い。変えようとしているのはあくまでも、私個人の未来が豊かであるかどうか、だ。周囲が変わったところで、私個人には関係あるまい」
「なんだかはた迷惑なキャラクターだな」
「知ったことか。私は、私の為に行動するだけだ・・・・・・言ったはずだぞ、私以外の人類が絶滅しようが、私個人が豊かなら知らんとな」
 実際、知ったことか。
 私の未来には関係ない。
 座席のソファにぐったりと身を預けつつ、私は続けた。
「・・・・・・まぁ、それも無駄だったがな。私個人の運命が、どうもこの世界にはあらかじめ存在すらしていないようだ。だから私は勝つことが出来ないし、負けて実利を得ることすら、できない」
 弱い人間が他者を利用して美味しい汁を吸うような真似も、強い人間が立場や肩書きで他者を、己の糧とするような真似も、「出来ない」のだ。 したくても出来ない。
 出来た試しがない。
 何かしら邪魔は入る。
「苦しみ続けるだけだ、だからあの女にも消去法の選択肢と、伝えたのさ」
 私の意志とは関係なく、私の未来は決まっているのだ。それも、無惨な何も無い道と言う形で。 むしろ「決められなかった」と言うべきか。だからこそ私の生きて歩いた道には、本来人間であればあって当然のモノすら「何一つ無い」という異常な結果が出るのだろうが。
 異常だ。
 幸福があり不幸がある、それが人生というものだ。だが、私には幸福は「一つも」無かった。比喩でも何でもなく私の今までには、何一つとして無かったのだ。「生きていて」幸福が一つも経験できないなどという「異常」そして「不幸を感じとれない」が故に苦痛はあっても不幸はなく、そして「何をどう足掻いても、何事においても絶対に勝利できない」などという、異常。
 負けることはあるだろう。だが、どんな人間でも勝つことはある。私には一度もない。あり得るか? 何一つとして、例え石を投げるだけでさえも「勝利できない」などという人間が。
 バグだとしか形容できない。
 それ以外に言葉がない。
 私はそういう「人間?」なのだ。
「なるほどな。事情が込み合ってて原因までは分からないが、先生も相当こじれた扱いを受けているんだな」
 同情するぜ、と言われたが、同情は要らないから金が欲しいというのが本音だった。
 本当にな。
「内面を変えるだけなら簡単だ。狂気を身に纏えばいい。だが、現実的に物質で何かを必要とするなら金が必要だ。こればかりはどうしようもないからな」
 それをどう足掻いても手に出来ない、だとするならば、結局は無駄な試みだったという事だ。
 ただのそれだけだ。
「例の老人もそうだが、どうも「時代遅れ」の人間というのは、実利を獲得しにくいらしい」
「自覚はあったんだな」
 驚いたぜ、とジャックは嘯いた。
 私は頼んでいたコーヒーを飲み干し、一息ついてからソファにもたれ掛かる。こんな時でも、やはりコーヒーは美味かった。例え長い年月を費やしたモノが、やはり客観的に見て無駄だと証明された後でも、同じくだ。
 それに私は無駄だからと言って諦めることも、出来ないのだ。したくても出来ない。だが、このまま無駄に終わる事が分かり切っているのだ。無駄なことに時間を費やすよりは、「頑張って」諦めなければ成るまい。
 諦める事に労力が必要とは、割に合わない話だ・・・・・・実際、私のような人間が在り方を諦めるなど無理なことなのだが、それでもやるしかない。 同じ所でぐるぐる回り続けるよりはマシだ。
 亡霊のようにさまよい続けるよりは。
 かくして邪道作家は筆を折るのだった、適当に妥協して残りの時間を適当に潰してこなしましたとさめでたしめでたし。と出来れば楽なのだが、具体的に、何をすれば筆が折れるというのだ。
 全ての事柄を作家として吸収し続けてきた以上最早私に「作家でない部分」なんてあるのか?
 無い。
 無いからこその「私」だ。
 だが、その在り方も結局無駄だったわけで・・・・・・堂々巡りだな、どうも。考えて解決する類の問題では無いのだろう。
「結局、あの火星の住民は滅ぶ運命なのか?」
「さあな。少なくとも私にはそう見えた。大きな権力や陰謀の中で、あの老人も私も、完全に無力だった。その中で何か「意志みたいなもの」がどう作用するのかを探る意味合いも今回の取材にはあったのだが、結果、何一つ影響は無かった」
「人工知能の俺には分からない話だな。それこそ結果的に「大きい何か」に依存して生きればいいじゃないか」
「そうだな、そうかもしれん」
 私やあの老人のような「己の道を持つこと」が最早現代社会には不要なのだ。だから淘汰され、迫害され、何よりも成功しない。
 それが当然であるかのように。
 あらかじめ決められているかのように、だ。
 面倒な話だ。
「運命、か。人間賛歌が描かれるモノを手がければ、必ず考えるテーマではあるが・・・・・・実際、最初から最後まで結末が「決まっている」ならば、物語のキャラクターの葛藤に、意味も価値も有りはしない。それを見る側が楽しいだけで、それを見る側が心躍るだけで、実際にそれを実行する側からすれば、道化もいいところだ」
「確かにな。けど、人間賛歌、「苦境の中で光り輝く意志」は見ていて心躍るぜ」
「下らん。実際にやる側からすれば、綺麗事ばかりホザき、その方が道徳的に正しい、などと言う気持ち悪い身勝手を、押しつけられているだけだ・・・・・・実際に行動したことのある人間からすれば現実を知らないガキの台詞だ。口だけの奴ほど、そういう御託を大切にする」
 実行したことも無い癖に、だ。
 大仰な口を叩くだけなら簡単だ。誰にでも出来る作業でしかない。だが、実際に何かをやり遂げようとすれば、綺麗事の下らなさにすぐ気づく。 人を騙した方が得だ。
 人を殺した方が得だ。
 人を欺いた方が得だ。
 人から搾取し、騙し取り、奪い、暴力で事を進め、誰を何人踏みにじってでも、実利が得られれば人間は幸福になれることに、気づくのだ。
 困難も対して経験せずに生きてきた人間だけだ・・・・・・道徳だの、倫理観だの、努力論だの、精神論だの、因果応報だの、下らない。
 夢がみたいならベッドの上でやっていろ。
 現実に勝利する方法を模索する側からすれば、たまったものではない。だが、そういう馬鹿ほど「たまたま運良く持って」いたりして、幸運だけで勝利を収める。結局、どんな馬鹿であろうが、どんな信念を持とうが「持つ側」にいれば勝利できて、居なければ無駄なのだ。
 だから、意味も価値も無い。
 適当に「こなす」だけだ。
 それ以外にやることなんて、やれることなんてありはしない。
 全てが全て、勝てるか負けるか、最初から決まっているのだ。
 ただのそれだけ。
 足掻くより諦めた方がマシだ。
 これからは適当にこなすとしよう。
 どうせ無駄なのだから。
「運命を切り開く物語、というのは「それそのものがそういう物語」なのだろうな。だから、負けるべくして負ける人間は、あの老人のように良くわからないまま敗北するしかないのだろう」
「だろうな。負け役担当が勝ったら、勝つ役担当が困るだろうし」
 そんな、ものか。
 それならそれで適当に流されるだけだ、何をどう足掻いても仕方がない。とはいっても、その考えたかに乗っ取れば、私に出来ることは何一つとしてないのだが。
「でも、金を手にしたところで、結局は他の事で悩むんだぜ? 金を手にしたところで、問題の多い人生という根本的な問題は、変わらないと思うがね」
「そうかもしれない。だが、金のない悩みよりは金のある悩みの方が、解決のしようもあるということだ。金のある人間の悩みは大抵が精神的なものでしかない。精神的な悩みなど、自己満足で解決できる。だが、物質的な悩みは、現実問題金がなければ解決できない」
「そうかな、金に困らない人間ほど、大きな悩みを抱えている気もするけどな。金を持ってさらに大きい悩みで悩むか、金を持たずに小さい悩みで満足するかじゃねぇの?」
「金の無い悩み、というのは当人だけでは済む問題ではない。それは飛躍だな。金を持つ人間でも悩みはあるかもしれん。だが、金のない悩みよりはどうとでもなる問題だ。金が無くてもあっても同じ、などと言うことはない。金を扱いきれない半端者が多いだけだ」
 金そのものに悩みなど付随しない。
 悩みを解決するためにあるのが「金」だ。
 扱いきれていないだけだ。
「そうなのかな・・・・・・まあ先生が言うなら、きっとそうなんだろうさ」
「そうだ。そして・・・・・・金で買えない物は無い」「愛とか友情とかあるじゃないか」
「下らん」
 存在もしない物に、夢を見ているだけだ。
 そんな物はありはしない。
 どこにもない物を振りかざして、金で買えないなどと・・・・・・暇そうで羨ましい。
「買えない物など無い。友情も愛情も、存在さえしない架空のモノだ。絵空事を買うために、金は存在しているのではない」
「けどよ、先生には買いたいもの、いや欲しいモノなんて何もないんだろう」
「まぁな」
「いや、まぁなじゃねえよ」
 それじゃ意味ねぇだろ、とジャックは言ったが・・・・・・そんな訳が無い。
「確かに、運命は遠回りであればあるほど、人間を成長させるものだ。金に関しては、いや金という概念そのものが、その「遠回り」を避けるための「チケット」と言っていい。本来は求めるべきではなく、むしろ率先して成長し、その果てに掴むべきモノだ」
「そこまでわかっていて、何で拝金主義者なんだよ、先生は」
「当然だ。私は別に成長など「どうでもいい」からな。さっさと「結果」いや「実利」を手にして平穏に暮らしたいだけだ。そして、私個人の平穏の為であれば、何人死のうがどれだけの被害が出ようがどれだけ本筋からはずれた行動であろうが他でもない「私」がそうしたいが故の行動だ。それを「綺麗事」や「絵空事」あるいは「誰かの都合」で阻害されたくはないだけだ」
「けど、それはきっと「作家としての成長」からは外れると思うぜ?」
「構わない。金さえ手にしてしまえばこちらのモノだ。大体が、既に書くべき事も書きたいこともあらかた、書き終わっている。既に作家としてやるべき事の大半は終了している段階だ。これ以上の作家としての成長は、むしろ蛇足だな。あろうがなかろうが、結末には関係あるまい」
 後は私個人の自己満足だ。それこそが、本来の目的でもあるわけだしな。
 目的意識による充足。
 それがあれば十分だ。
「そこまで意識的に狂えるってんだから、やっぱり先生は恐ろしいね」
「どうでもいい」
 ・・・・・・まぁ、私はお化け屋敷のアルバイトではないので、恐れられたところで何とも言えない。それは所詮、見る側の感想でしかないからな。
 どうでもいいことだ。
 どうでも良さ過ぎる。
「本来なら、金などと言うのは「国家」が保証して然るべきモノだ。最低限の生活を保障するからこそ、誰もが税金を払い、豊かさを享受したければ仕事を興す。だが、国家が責任を取らなかったところで、誰も文句は言えない。言ったところで無視すればいい。国家という枠組みのみが残り、金だけは請求するようになってしまった。貧困層の生活を保障せず、金を巻き上げるだけの国家、そんなモノは誰も必要としていない。この世界は責任を取らなくても良く出来ている」
 だから社会問題は無くならないのだ。無くす気がないのだから、無くならないのは当然だ。
「そうなのか?」
「先進国であれば、な。無論、国家としての義務なんて果たさなくても構わないから、当然のように無視するがな」
「労働に身をやつしていない人間が、飢えて死ぬのは仕方がない、ってぇのが資本主義社会なんだろう?」
「その通りだ。しかし間違っている」
「どういうことだ?」
「労働もそうだが、そもそもそれらを保証しないなら国家など必要あるまい。何より、その理屈で行くと、国家に属する理由など無い」
「確かに、国家が金だけ貰う制度はどうかと思うが、貧困層へ支援したとして、労働していない、あるいは出来ない人間達へ金をばらまくのは、問題にならないのか?」
「国家である以上、それは当然の義務だ。全ての人間の生活を、管理して保証する。だからこそ皆金を払う。それが出来ないならば国など必要すらない。貧困層を、あるいは労働につけない人間を養うのが嫌ならば、独裁政治にするべきだ。民主主義などと歌って金だけ貰い、美味しい思いをしている人間がいる世界で、労働していないから金を貰うのは間違っている、などと、説得力が足りないな」
「それもそうかもな。実際、先進国は福利厚生、最低限の生活の保証がされている所が多いな。でもそれだけでは経済が成り立たなくないか?」
「豊かな暮らしをしたい奴は、勝手に自分自身のビジネスを始めるさ。本来なら成し遂げた人間が豊かさや利便性を享受する。そうでない人間も、最低限の保証を行う。それが「国」だ。仕組みに騙されて言いくるめられているだけだ、だから、搾取と拝金主義が横行するわけだ」
「今はそうじゃないのか?」
「資本主義社会は「既得権益」を守るためだけに運営されてしまっている。持つ人間が酒を浴びるほど飲むために運営されてしまっているのだ。だから、何か成し遂げた人間ですらも「持つ側」にいないというただそれだけの理由で、何一つ得ることが出来なくなっている。お前達の言い分では「頑張らない奴に豊かさは許せない」とかなのだろうが、逆だ。頑張ったところで、あるいは頑張らなかったところで、「持つから持つ」などという子供の言い分が通ってしまっている」
「・・・・・・労働をして真面目に生きれば、豊かな生活が出来るってのも」
「ただ、その方が都合が良いだけだ。自分たちに都合の良い仕組みから、精神論と根性論という、中身のない言葉で誤魔化しているだけだ」
「それで、社会は回るのか?」
「回るさ。下が支える。無論、奴隷として、当人達の意志は関係なく、な」
 搾取して、こき使って、騙し通す。
 現在の国家形態はただの「大規模な詐欺集団」だ。何の保証もなく人が死に続ける中で、当人の意志など言い訳もいいところだ。
 本人次第。
 そんな言い訳が通ると、本気で思っている。
 それでどうにかなるなら、この世界に問題など一つもなく、社会構造に不満を言う人間は、独りとしていないだろう。だからこそ、問題しかこの世界にはなく、社会構造は人を苦しめ、金も払わないくせに作品を読もうとする馬鹿共が増えるのだろうが。
 そして、世界というのはそういう「クズ」こそを支援するものだ。そういう人間には世界が味方してしまう。不思議なものだ。だからこそ、現実にはあり得ない展開の多い「物語」を読む人間が多いのだろうが。
 世界に信じる価値など無い。
 信じられるのは金だけだ。
 その金すらも、「品性」と「人間性」を捨てた人間の元に、集まる。案外、この世はそういう奴らを中心に、少なくとも経済に関しては、回っているのだろう。
「私ももっと下品に生きた方が良いのかもしれんな。その方が現実的に金になりそうだ」
「具体的にどうするんだ?」
「そうだな・・・・・・まず誰かを騙さなければな。給料も払わず、人間性を貶めて、自殺する人間がいたら「根気が足りない」とヒステリーを起こし、客の人体を破壊する作物を安く売り、それでいて商品自体も偽装し、肩書きに固執して偉そうに振る舞うのだ」
「先生には無理だ」
「・・・・・・まだ分からないではないか」
 言っても仕方ないが。まぁ、そういう立ち位置に座れるようなら苦労はしない。いや、案外そんな適当な考えこそが金を生むのか?
 だとしたら品性を捨てるところから始めた方が早そうだ。金を持って太っている人間の特徴は、大体それであっている。
 世の中そんなものだ。
「それに、私は本当に何もしていない人間は、別に死んでも構わないと思っているしな」
「掌返しか?」
「いいや、生きるべき人間が死ぬ、この社会を嘆いているだけさ」
 ただの独り言だ。
 だから意味なんてないし価値もない。
 嫌な世の中になったものだ。
 本当にな。
「いっそ、安楽死を取り入れればいい。生きる上で目標すら見つからなければ死に、そうでなければ支援する。その方が面白そうだ」
「面白い面白くないより、実利で生きているんだろうさ。それも個々人の利益だから、そうでない人間の利益には無頓着だ。結果、先生みたいな人間が食いっぱぐれるのだとすれば、確かに面白くない世の中だ」
 まぁ世の中そんなものさ、とジャックは適当にまとめるのだった。
「人間は多くなりすぎ、それでいて成長しなさ過ぎた。テクノロジーが頭打ちにならずとも、人間自体がもう期限切れなのさ」
「人工知能の俺が言うならともかく、それを先生が言うと、何だか末期って気もするが」 
「とっくにそうだ。末期を終えた後、とでも言うべきか。個々人が惰性で生きている現代社会では人類という品種も「惰性」で続いているだけだ」 何ら変わらない。
 ただ、続いているだけだ。
 続けるだけなら放っておけばいい。
 何もしていないのと、同じではあるが。
「過去、何一つとして若者に「残さなかった」そのツケが来ている。口に出すのは簡単だ。だが現状の社会を築き上げた人間達が、自分たちの残したツケを払わず、偉そうに振る舞うだけの社会では、こうなって当然だろう」
「確かに、無気力な奴が多いな」
「労働だからさ。本来「誇り」を、形はどうあれ当人たちの誇りを金に変える錬金術。それが仕事と呼ばれるモノだった。だが、時が経つにつれ、中身を重視する人間がいなくなり、中身の無い仕事、「何をしているのかさえ不明瞭」な労働形態が定着し、それをロボット任せにし始め、労働、そう、まさに「労働」だ。仕方がないからやっているだけ・・・・・・それで目に光が灯るはずもない」「確かになぁ。先生みたいにギラギラしている人間なんて、むしろ少数派だしな」
「ああ。私みたいな人間はむしろ、はじかれる。際だった個性よりも、従順な奴隷だ。それで自立性を磨けなどと無茶を遠そうとする。それも、口にする奴は大抵自分のない人間ばかりだ」
「先生が労働問題に興味があるとはな」
「何を言う。作家など大手出版社の奴隷になるか独り孤独に戦うかしかない。名声を求めて作家を志す馬鹿者が多いが、作家を志しておきながら、税理士の雇用すら考えていないというのだから、どうかしている」 
 あるいは、とっくに世の中はどうかしてしまったのだろう。中身のない人間は多い。誰が言ったのかも分からない「規範」に従い、行動する。命令もされていないのに従うロボットだ。

 私からすれば、お前達こそ人間じゃない。

 私こそが「人間」だ。
 人間の、あるべき姿だと、そう信じている。
 あるいはそれは「非人間」として、か。
 この「私」が、間違いだとは思わない。
 思うつもりもない。
「私は大した奴ではない。才能にあふれたり、まして人に出来ない事など出来た試しがない」
「そんな変な物語ばかり、書いているのにか?」「そうだ」
 自信を持ってそう言える。
 私は、出来ることしかしていない。
「私がしていることは単純だ。「生きる」というテーマと真摯に向き合うこと。ただそれだけだ。物語を才能で書く奴はいるにはいるが、私の中にそんな便利なモノは無かったし、才能では書けない物語というモノがある。人間の心に「食い込んで離さず」影響を与え、それでいて「狂気に満ちた」言葉を伝える。書きたい事も書くべき事も、私にとっては同義だ。

 お前達はそれでいいのか?

 そう問いかけることが、物語の本質だ」
 多分な。
 私は真理を知る賢者ではない。だが、物語とは大抵が「教訓」を学ぶものだ。楽しみつつも、生きる上で必要な「何か」を吸収する。それが出来なければ意味があるまい。
 金にはなるかもしれないが、キャラクターのデザインで売っている物語など論外だ。物語とは、その内容だけで心を惹きつけ、捉えて離さないものであるべきではないか。
 その方が・・・・・・面白い。
 だからこそ、読む価値がある。
 それこそが、物語だ。
 この世全ての娯楽に勝る、人類の愉しみ、生きると言うことを豊かにするモノだ。
「私はこの「私」以外のことは何一つとして考えてはいないからな・・・・・・私からすればお前達凡俗の方が狂っているが、それこそどうでもいい。問題なのは私の幸福だ。私の充足だ。私の自己満足だ。そのためなら何万人死のうが構わない。私以外の全てを生け贄にしてでも、この「私」が満足する結果を追い求めるだけだ」
「最悪だな」
「まさか。我ながら道徳的な良い人間だと、自負しているよ」
 これは本当だ。思想はどうだか知らないが、私はそれほど悪人をしている訳でもない。
 ただ人のことを勘定にすら入れないだけだ。
 それを最悪と呼ぶのかもしれないが。
 構わない。
 どうでもいいしな。
 どうでもよくないのは、そう。
「だから金だ。金で買えないモノは無い。いや変えられないモノはない、と言うべきか。私個人の世界のために、とりあえず変えてやるとしよう」 己の道も選ばず、「金になれば何でもいい」などと「生きる」事から逃げる馬鹿も多いが、私はそういう訳には行かないのだ。
 金、金、金だ。
 そして・・・・・・物語。
 作家という在り方だ。
 それによる自己満足。
 ささやかなストレスすら許さない、平穏。
「どんなに足掻いても、どう行動しても無駄だとしても、先生はやるつもりか?」
「当然だ」
 自分でも驚いた、私はこんなにやる気に満ちた人間だったか・・・・・・いや。
 変えられないだけだ。
 生き方を。
「最初から無駄だと言うことは、生まれる前から分かっていたさ。無論、金を求めることは続けるし、私は不可能だとは思っていないが」
 それでも続ける。
 だからこそ、続けるのだ。
「それが」

 「私」だ。




あとがき

さて、ここまで読んでいる奴がいるのか謎だが、一応書いておこう。
思うに、ここまで読んでいるなら当然札束で支払うべきであり、そうでない輩なら殺されて文句は言えない。むしろ、不埒極まる輩はさっさと淘汰すべきであって、人間なんぞ中身のない詐欺術で稼ぐ男や、認知はしていないが金は寄越せと言う女と同じ程度に数がある。ならばそのような奴らは殺されて当然だろう。
そんなだから、電子賭博だの玉打ちの台に消えるのだ。
恥ずかしくないのか? それが「強者」として語られる人間の姿か?
情けない奴らだ。思うに、訳分からん念じるだけで願いがどうのという話を信じる暇があったら、まずは身だしなみを整え鏡にウインクし、実用品を見栄えのする物へと買い替え運動と健康に気を配れ。
言っては何だが、貴様らの言う「神仏」とやらは、みすぼらしい浮浪者に力を貸すか?──────無理だと思うぞ。連中は面食いだ。
不細工がもてはやされることは、犯罪業においても皆無だ。
いや、一人いたかもしれない。浮浪者のフリをする事が得意で、風景に紛れ込んでの情報収集が得意な奴だ。名前は確かエリンジェットと呼ばれていた。彼の特技はと言うと、観光客に親切な案内人を気取り、主に集団での軍事侵攻や厄介な探偵に対して道ならぬ道へと「案内」するのだ。
というのも、基本的に「外部からの客」というのは、例え犯罪でも歓迎されない。なので、あらかじめ設定されてある狩場へとそういった連中を誘い込み、男ならば奪い女でも奪う。とどのつまり強盗だが、貴様らはもしや同業か?
だとすれば死んで当然だ!! 金も払わずに、奪うだけとは。
あんな奴でさえ、私から物語を買う時には、それなりの金を払ったぞ••••••浮浪者のフリで稼ぐ犯罪者以下だと知れ。大体が金は使う物であって、貰って使わないのであれば、そんなのはただの紙屑だろうに。
何であれ使ってこそだ。命も、尊厳すらも。
使うからこそ「強者」なのだ。強度ではない。力や才能があったところで、何かと泣き言吐かす輩は弱者の部類だ。少なくともそういう奴を騙して奪うのは得意であり、別段奪われて当然だろう。というのも、結局のところ強かろうが弱かろうが、それを「使いこなす」事こそ肝要なのだ。例の案内人だって戦闘能力は皆無だが、それはそれとして立場を利用する術には長けていた。
さて、貴様はどうだ? 利用するだけか? 盗むだけか?
違うというなら払えるだろう。それが「大人」というものだ。
自分で判断し、自分で考え、自分で価値を決めるのだ。何かある度に値段を表示される曖昧な貴様らと違い、私は常にそうしてきた。

最も、それを悪事に使い、叩かれることの方が多かったが。
まあ、綺麗なだけの奴の言葉に説得力なんてありはしない。
これも「読者の為」だと言っておこう!! 言うだけならタダだ。
そう、盗み、奪い、騙し、それもこれも「読者の為」だ。なんて綺麗な言葉だ!!
とりあえず「何とかの為」と、叫びながら殺す連中の気分が分かったぞ!!!

さあ、ここまで読んだからには貴様らとて「同類」だ。もう、後戻りは出来ない。
同じ犯罪者同士、まあ人間なんて大抵がそんなもんの気もするが••••••仲良くしようじゃないか、仲良くな。
さあ、金を払うのだ。それが為すべき事柄だ。
そして、人間性など捨ててしまえ!! そうすれば、今悩んでいる悩みなど消えてなくなる事だけは「保証」しよう。

実際にやった「私」が言うんだ、間違いない!!!





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