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邪道作家第七巻 猫に小判、作家に核兵器 勝利者の世界 分割版その5

新規用一巻横書き記事

テーマ 非人間讃歌

ジャンル 近未来社会風刺ミステリ(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)

縦書きファイル(グーグルプレイブックス対応・栞機能付き)全巻及びまとめ記事(推奨)

   7
 
 
 
 世界は金で出来ている。
 暴力が正しさであり、権力こそがルールを作る・・・・・・そして、愛は依存であり恋は身勝手であり友情は利用であり、銃を振り回す人間こそが持つ側に回り、搾取するからこそ豊かさが手に入り、人の尊厳を奪うからこそ幸福になれる。
 ただの事実。
 その事実から目をそらす人間というのは、どうも「完全なる暗闇」に弱いらしい。全く光のない坑道を歩きながら、私はふと、そう思った。
 古く使われていた坑道から、採掘場へ移動し、そこで事を行うのだ。犬ゾリでの移動は非常に堪えたし、暗い内に移動したので、一日以上完全なる暗闇に入っていることになる。
 変な昆虫だけが心配だが、まぁライトは持ってきているし、暗闇そのものは問題ではない。少なくとも、私にとっては。
 見せられたのは坑道の地図だった。
 こういう完全な暗闇を見続けると、世の中はクズに天罰などありはせず、人を食い物にすればするほど儲かるという事実、世の中の汚い現実をみようとしない人間からすれば、恐ろしくてたまらないのだそうだ。
 穴の中に刑務所を作る話もあったが・・・・・・完全な暗闇の中では大抵は発狂し、駄目に成ってしまう。精神が持たないのだそうだ。
 下らない。
 暗闇で発狂すると言うなら、最初から狂っていればいいではないか。それなら、私のように暗闇で参ることもあるまい。
 昆虫はイヤだが、暗闇そのものはむしろ好みではある。あまり光を浴びなさすぎるのも考え物だが、紫外線とかを考えれば暗闇の方がいい。
 完全な暗闇を進みながら、そんな事を考えていた。当然、あの老人も行動はしているのだが、今回は別行動だ。
 だからいるのは小うるさい人工知能だった。
「なぁ、先生」
「何だ。今地図を読んでいるんだが」
 この地図間違っているのではないだろうな。いざとなれば刀で掘り進めばいいが。
「暗闇を怖がらないのはどうしてだい?」
「さぁな。存外、いつも暗闇の中にいたから、ではないのかな」
 思えば私の人生に、光など射したことがあっただろうか・・・・・・無かったと断言できる。何も、なかった。暗闇の中、私は進んできた。
 華々しい光の道を歩く方が、楽で充実した生活が出来そうなものだが。
「そうかな、俺はそうは思わないぜ。どんな光だって永遠じゃない。だが、光の元を歩いていればそれを忘れがちになる」
 その点、先生は暗闇を知り尽くしているじゃないか、などとお世辞にもならんことをジャックは言うのだった。
「それが何だ? 知らなくても良いではないか」「いや、むしろ生きる上では知っておかないと、知らなかったときに抜き差しならなくなっちまうと、俺は思うね。予防注射みたいなモノだよ」
「役に立たないからいらないがな」
「そうでもないさ。生きる上で、理不尽に合わずに終われる人間は稀だ。そしてそれが「光り輝く道」を歩いてきた人間では、全く対処できないからな。一歩先は闇、とはいうが、まさにそんな感じだろう? 実際、若くして成功した人間ほど、先生の大好きな「金」の危険な部分を知らないで「投資」だとか金を貸したりだとか、「麻薬」だとかそういう「生きる上で危険なもの」を知らないで歩いている。歩くスピードこそ早いが、その分落とし穴に落ちやすい」
「なら、落ちないで歩けばいい」
「そうも行かないさ。人間って奴は分を越えた金や富を手にすると「自惚れ」という厄介な病にかかるからな。その点先生は、こんな上も下もわからない、普通の人間なら発狂する状況でも、慣れている、という異常な理由で難なくこなせる」
「嬉しくもない」
 そもそも、本質的に人間と「共感」できない私からすれば、「自惚れる」ことも出来ないのだ。「ある意味羨ましい。私は自惚れたくても、どう足掻いても「出来ない」からな。酒で前後不覚になることも煙草で自分を誤魔化すことも、女に溺れることも、私は「出来ない」んだ。なら、それに見合った「平穏」位は欲しいものだがな」
「そう言うなよ。だからこそ先生はこんな環境でも対応できるんだぜ?」
「別に対応したくもない。私は苦境で動じないために手を尽くしている訳ではない。私が、ただ平穏で豊かな生活で「自己満足」する為に、仕方なくその非人間性を、可能な限り役立てているだけだ。まぁ、実際私の性質が、私を豊かにしたり、役に立つことは無かったがな」
「そうなのか?」
「当たり前だろう。人間社会は人間が構築するものだ。世界のルールから外れた怪物、あるいは神と呼ばれるモノでさえ、同族がいる。究極的には同じ狂っている人間ですら「役不足」と感じてしまう私は、どんな場所にも馴染めないのさ」
「馴染めないが故に、悩みもしないじゃないか」「悩みはするさ。ただ解決する方法は有り得ないというだけでな」
 我ながら完全な闇の中で元気なものだ。ここで悩んだり困ったり、あるいは参ったりできれば、私ももう少し、人間に馴染めるのだが。
 中々上達しない。
 人間の物真似は。
 思えば、人間の物真似をして生き始めた時点で私は「非人間の狂人」として、歩みを進めてきた・・・・・・別にそれ自体に被害者意識を覚えるほど暇な人生は送っていないが、しかし、その分金を手に出来なければ「割に合わない」というのが素直な感想だ。
 割を合わせる。
 ただのそれだけの動機なのだろうか。
 この暗闇の先に求めるモノは。
 逆に暗闇を歩いてこなければ、自分で何かを変えようとする意識に欠ける、ということか? 残業地獄で死ぬまで働く人間みたいに。死ぬまで働いて苦しんで死ぬことよりも、その場所を離れて他でやっていくことの方が困難に感じるから、劣悪な環境を受け入れてしまう。
 環境も悪いが本人も悪い。
 アテが無かろうが、危険からは遠ざかるのは生きる上での基本だ。社会的な「立派さ」に囚われすぎて、思考を停止しているとも取れる。同情するのは勝手だが、環境が悪いからと言って本人が悪くない訳ではない。私のような悪人が環境を問わず産まれるように、そういった人間は、意識を変えない限り生き残れないだろう。
 会社に限らないのだが、例えとしてはそれがわかりやすい。一つの場所が駄目だったのに、変えようとしないで自滅する。あるいは変えることが恐怖なのか、挑戦権があるにも関わらず、逃げるのだ。
 そういう人間は多い。
 人生に「安泰」を求めるのだ。何かにすがって得られる「安泰」などどこにもない。寄りかかるなら己自身だ。あるいは、己自身で作り上げた何かに、もたれ掛かるのが良いだろう。
 周りがどう言おうが「己を通す」こと。
 過労死による自殺も人権侵害も、政治的な問題も組織間でのイザコザも、大体これが原因だ。
 通すことから逃げるからだ。
 同情の余地はない、なぜならそれは「生きる」ことから逃げたという事だ。生きる事と向き合っている私からすれば、実に腹立たしい。
 お前たちはそれでいいのか?
「全く、因果な人生だ」
「そりゃそうだろうさ。作家の人生に波瀾万丈がなければ、つまらないだろう?」
「波瀾万丈と言うより、ただの暗闇だったがな」「だからこそさ。暗闇の歩き方が分かる、そんな物語が出来上がるからな」
 ああ言えばこう言う奴だ。
 忌々しい。

 

「生憎、私は物語の善し悪しなどどうでもいい。売れるかどうかだ」
 傑作度合いは売れるかどうかと関係ない。
 作家業はあくまでも自己満足の手段であって、作家としての成長よりも、金が優先される。もし私が作家として成長しているというならば、皮肉でしかない。
「先生、「力」や「悪意」を考えないのは確かに論外だ。しかしそれらに頼りきりの人間は、同じ力に滅ぼされる。金も力も過ぎた量になれば、邪魔でしかないと思うぜ」
 過ぎた力は、いやそうでなくても「力」を持てば、敵対者に対する幻影を見る。誰かが攻撃してくるのではないか、そう考えて使いもしない警備システムを作る金持ちは多い。
「だろうな。だから私は私の平穏を維持し続けるだけの金があれば、それでいい」
「そんなこと有り得ない、というのは承知の上でなんだろうな」
「当然だ。究極的には、銀行が倒れればそれで終わりだ。だが、金が通用する以上、私は金の力で誰かに左右されたり私の平穏を邪魔されない、そんな生活を目指す」
「刺激のない生活なんて、死んでいるのと同じだろう?」
「自己満足だ。刺激だって自己満足で済ませるさ・・・・・・いずれにせよ、書いた物語の代金くらいは押収させてもらうさ。どんな因果、運命がそこにあろうが、それで私が傑作を書いたことに対する金が、支払われないことを肯定するわけでは、談じてないのでな」
「そりゃそうだ」
 大体が金融システムが崩壊するような事態になれば、どのみち悠長なことは言えまい。なら、少なくとも普段は平穏な生活を送ることの、一体どこが悪いのだ。
 金に頼りすぎて金がなければ生きていけないのではないか、という考えはこの場合当てはまらない。社会に属する以上、属さなくても、金がなければ何一つ成し得ないのは世の常だ。
 革命を起こすというならむしろ金以外を求めるべきだろうが、生憎私は革命家ではない。ただの作家だ。世界を変える何かがしたいわけではない・・・・・・世界の方向性を大きく変えたいならば、むしろ金をまるで持たず、本物の思想のみで人々に伝えるのだろうが、私には興味がない。
 別にしたくもない。
 私は、私の事以外はどうでもいいのだ。
 「同情」などという下らない自己満足で、自分が「良い人間」であろうとする人間は多いが、同情するだけなら猿でも出来る。豚でも可能だ。所詮下らない自己満足でしかない。
 誰かの為に何かがしたいって?
 なら、金を払え。
 例え誰かが殺されたとして、残った人間に必要なのは金だ。同情の声は耳障りなだけだが、金を手にすればとりあえず食べ物は食べられる。
 自己満足に偽善がしたいなら、どこかよそでやればいい。そんなのは子供の砂遊びと同じだ。
 人前でやるんじゃない。
 迷惑だ。
 デジタルマネーが流通してからはますます、持つ側が持ち持たざる側は持つことが出来ないように、仕組みそのものが動いていることを考えると案外、金というのは「持つ側」を豊かにする、ただそれだけの為にあるのではないだろうか。
 元より意味など無く。
 ただ持つ側が、搾取する側が、権力を持つ人間が「美味しい汁を吸うためにあるシステム」なのではないかと、思うこともある。
 実際そうではないか。
 何を成し遂げようがどれだけ労力をかけようがまるで関係なく「持つ側だから持つ」などという子供の言い訳みたいな理由で、豊かになるべくして豊かになる人間が「成功の法則」を説き、そしてさらに儲ける。
 生きることが馬鹿馬鹿しくなってくる。
 実際、この世界は真面目に生きることと向き合えば向き合うほど損をする。何も考えず豚のような人生を送るか、たまたま「持つ側」にいた豚の方が、美味しい思いが出来るのだ。
 ただの事実だ。
 だから、ともすれば全ての試みは無駄なのかもしれなかった。「持つ側だから持つ」なんて下らない理由で、ただの事実として、勝敗は決まってきたのだ。
 いままでずっと。
 そして恐らくは、これからも。
 ただ運の良い奴が勝つ。
 勝利する。
 美味しい汁を啜る。
 それが現実。
 だとすれば私に言えることは特にない。頑張って早く人生を終わらせるか、適当に消化試合として終わらせることくらいしか、思いつかない。
 勝てないなら意味などない。
 それが事実だ。
 押しつけるな。
「・・・・・・この調子では無駄そうだがな」
「なぜだ? 未来の事は先生だって、分からないだろう?」
「下らない。分かるさ。分かるからこそ変えようとしたが、無駄だった」
「予言者じゃないのに、なぜだい?」
「ただの経験則だ」
「けれど、これから先は違うかもしれないぜ。案外あっさり金と名声を手に入れる、かも」
「そんなことを期待できるほど、この世界はまともに動いていない。今まで散々だったモノが、期待してくれなんて図々しい。私はあらゆる方法で物語を売りに出したが、金を払う読者はいなかった。金を貸している心境と同じだよ。こちらはやるべき事をやり、金の支払いを待つ段階なのに、いつまで立っても支払われない。そんな滞納者に期待する点などない。つまりだ。私が言いたいのは、私がこんな目に遭っているのは、まごうことなき世界の悪意にさらされているからさ」
「世界の悪意?」
「少なくとも、私を幸福にしたくないのは確かだな。昔から思っていたが、私が苦しめば苦しむほど、誰かが儲かるのかもしれない」
「考えすぎだろ」
「現実にどうであれ、そう言って差し支えない状況にしか出くわしたことがない「事実」が問題なのだ。これが偶然だとは思わない。偶然というのは何十年も続くものではない。何にしろ、結果としてそうされているのと変わらないと、まぁそういうことだ」
 被害者意識、妄想の類と言うには、正直出来過ぎている感じが否めない。どう考えても偶然や環境で駄目になる限度を超えている。
 それ位、私は失敗、敗北「のみ」を、ずっと、産まれてからずっと経験してきた。
 一度も勝利できない、なんて異常だ。口にしたところでどうなるものでもないので、誰に話すでもなかったが。
 想像できるだろうか?
 産まれて、一度の成功も、一度の勝利も、少しの仲間も、些細な幸せも、些細な感動も、何一つ「絶対に」手に入らない。
 そんなモノを人生、とは呼ぶまい。
 ただの作業だ。
 実際、そうだった・・・・・・あらゆる方策を試し尽くし、運命に打ち勝とうとする「作業」だ。どう足掻いても無駄に終わるのだからやりがいも、あまりない。
 「絶対に勝てない」実利も成功も何一つ、どんな些細なことであろうが、無駄に終わる。
 今まで無駄に終わらなかった事は、一つもない・・・・・・異常だ。人間でなくとも、数学的に考えればそれこそどう足掻いても、例え負けたくても、ついうっかり勝利してしまうことは、あるというのに、だ。
 何一つ掴めない。
 絶対に。
 それが「事実」だった。
 こんなもの、幾ら何でも「偶然」だと考えるのは無理がある。子供の時からそう考えていたが、結局勝てないのでは噺にもなるまい。
 自分で言うのもなんだが「何者かの悪意」でなければ「世の中の仕組み」とでも考えればいいのだろうか? あるいはそれを「運命」と呼ぶとしたら、私の全ては無駄だった。
 この意志すらも。
 無い方がマシだった。
 それが「事実」だ。
 無駄なら無駄で、やりたくもないのだが。
 とどのつまり、私は私の意志とは関係なく、ただ罰ゲームじみた何かを押しつけられているだけなのかもしれない。あるいは、私という人間の魂とやらはもう抜けていて、肉体だけが動いているのではなかろうか。
 意外とありそうな話だった。
 こんな事なら頑張るのではなかった。もっと手を抜いて生きて、いっそ麻薬でも吸いまくり、金も借りまくって派手に破滅してやった方がスッキリしそうなものだが、まぁどうせそれにも邪魔は入るのだろう。
 それでは私が幸せになってしまうかも、しれないからな。無論、今更意味の無い噺だ。もしも、というのは暇つぶし程度の価値しかない。麻薬も借金も面倒事が増えるだけだ。いずれにせよ、分かり切っていたことだが、どうも、私が幸福になることは、無いらしい。
 「運命」で決まっているとしか思えない。
 そんな下らない理由で、全ては無駄だった。
 無駄なら無駄で、これからは適当に手を抜いて生きた方が良いのかもしれない。と、いうより他に出来ることなど無い。どうせ、事実として、何をやろうが、何を積み重ねようが、何を成し遂げようが、どれだけの信念があろうが、どれだけの時間を重ねようが、無駄に終わるのだ。
 今までうんざりし飽きるほど、それは経験してきた。今まで諦めずに挑戦し続けたことこそが、異常だったのだろう。
 頑張って諦める。ここまで、ここまで到達し、やり遂げて成し遂げた結末が、この様か。この程度の分際で「未来に期待しろ」などと、おこがましいにもほどがある。
 どうせ言っても無駄だがな。
 もしかして「言霊の力だ」とか、口に出しているからだとか、そんな下らない理由を言い訳でもするつもりだろうか? まぁその程度の方策は既に試し終えているが。
 何をやっても無駄は無駄。
 それが事実。
 今まで経験してきたただの現実だ。
 何一つとして信頼も信用も値しない。どうせ無駄に終わるモノに、期待する何かなど無い。無駄なのだから、精々人間の物真似をしながら、適当にこなす位しか、どのみち私にはその程度の行動の自由しか、手に出来ないのだ。
 挑戦権そのものが、私にはいつだって無い。
 勝負を挑む前から「お前は駄目だ」と言われて生きてきた。無論、無理に挑んだところで、やはり結果は同じだったが。
「なぁ先生」
「・・・・・・何だ?」
「先生は、結果がなければ、本当に価値は無いと思うのか?」
「なんだそりゃ」
 この期に及んで「他にも大切なモノがある」と言うとでも思ったのか? 漫画の読みすぎだ。
「無い。一切無い。結果がなければゴミ以下だ。それが「事実」だ。事実から目を背けても許される人間こそが、過程を求める。私から言わせればそんなことを言っている時点で、お前も「余裕がある持つ側」だと思えるがな」
「結果以外を求めるのは、余裕があるからかい」「そうだ。持つだけ持って、何の不安も無く、適当に生きて、いや「生きてすらいなくても」やっていけるくらいに、運がよい側の存在だ」
 だからそんな適当なことが言える。
 金以外の尊さを求めたりする。
 真面目に生きても、いないからだ。
 お前等こそ手を抜いて、生きている。
 それでも許されているだけだ。
「結局、それなのかもな、「幸運」か。運不運に見放されれば、無駄なのかもしれない。案外、どうでもいいところで誰が勝つか、負けるか、決まっているのかもな」
「本気か?」
「私はいつだって本気さ」
 事ここに至ればそう考えるしかない。
 ただの消去法だが。
「少なくとも、信念だとか意志だとか、そんなモノが現実に役立つ姿は見たことがない。あんなのそれこそ物語の中だけさ」
 現実にはどうでもいい人間がどうでもいい理由でどうでもよく勝利する。
 中身のないサービス。心に響かない本。綺麗事ばかりで嘘ばかりの内容。人類がそれらを望んでいるからこそ、そんなモノが発展したのだ。
 その他大勢が、と言ってもいいが。
 考えないで流される人間の意志、つまりどうでもいい下らない理由で、決まるものだろう。
 世の中その程度だ。
 期待する程のモノは、物語の中にしかない。
 世界は、金で出来ている。
 そして、底は知れている。
 世の中そんなものだ。
 昔は人情だの助け合いだのが必要な社会だったのかもしれないが、科学が進むにつれて、そんな役に立たないゴミが必要なくなった。昔は火事炊事を女がこなし、お互いを補い合う生き方が主流だったが、家電がありロボットがあるこの世界では、補い合いなど必要すらない。
 食事はレトルトでいいしな。
 「自分ではない誰か」を、社会構造からして必要としなくなっているのだ。私のような非人間でなくても、人間は一人で生きられる。
 金あさえあればだが。
 だから現代における補い合いとは、金の補い合いでしかない。そういう鬱陶しいモノと無縁であるためにも「結果」即ち金が必要なのだ。
 今ではそれも、空しく響くだけだが、
 言っても仕方がない。
 こういう時、絶望したり己の信条が報われないことを呪ったり「すべき」なのだろうが、生憎私は「したくてもできない」のだ。機械的に次へと移すしかない。「嘆く」ことが出来ない私には、そういう行動しか取りたくても取れない。
 難儀な話だ。
 本当に。
「こういう真っ暗闇を歩くとき、普通ならいつか光が射すと信じて、動くのだろうな」
「先生は違うのか?」
「生憎、今まで光など見たことがないのでな。別に射さなくていいから金だけでも欲しいものだ」 別に永遠に暗闇をさまよっても、それはそれで別に、全く構わない。問題なのは実利がそこに発生しているかどうか、だ。
 実利こそが納得になる。
 金にもならずお前はどうせ大丈夫だからと、暗闇の中をさまよわせられ続けて、それで満足しろと言うのがどうかしている。
 できるか。
 いいから金を寄越せ。
 話はそれからだ。
「それに、どんな場所であろうが、どんな環境であろうが、「人間らしさ」を全く共感そのものが出来ない私にとって、この世界は最初から完全なる闇の中だ。光などそもそもが、ありもしない幻想でしかない。世界は最初から闇そのものだ」
「歪んでるねぇ」
「そうかな。私はむしろ、正常なモノで世界が出来ていると信じ込んでいる人間こそが、現実にある歪みを見ようとしない考えで歪んでいる」
 世界に希望など無く、光などどこにもない。むしろその現実を見ずに「物語」などという夢一杯で現実味のない紙の束を買う人間相手に、商売をしようと言うのだから、そのまま勘違いしておいて貰った方が、楽なのかもしれないが。
 人間は死ぬ為に生きていて、国家は国民の為に無く、政治は搾取の為にあり、経済は富める人間の為にあり、他人との繋がりは利用する為だけに存在する。
 私からすればただの事実だ。
 その方が有利ではないか・・・・・・まぁ、有利や優勢と、勝利は違う。そういった下らない道徳を、守りながらでも勝てる奴は勝てる。
 だからあまり意味のない話だ。
 どうでもいい。この世が希望で溢れていようが絶望にまみれていようが、同じ事だ。「結果」が同じならばどうでもいい。問題はいつだって、金になるかどうかだけだ。
 道徳は金にならない。
 だからいらない。
「そりゃ先生だからだろう? 異常な人間には世界がそう見えるってだけじゃないのか?」
「いいや、そうじゃない。厳然たる事実として、この世界は醜く、手に負えない。だが所謂普通、普通の人間って奴らには、その醜さが認識できないし、したくもない。気のせいだと思っている。あるいは、実感がないのかもしれんが・・・・・・全ての事柄に対して「自分を誤魔化して」生きている人間が多いのだ。そして、自分を誤魔化して生きている人間が「普通」とされるこの世界は、異常とされる人間からすれば、自分たちより余程狂っているように見える」
「はぁん。よくわからないな」
「自分たちではそれを「基本」だと思っていても世の中の「基盤」はよく変わるものだ。流行が変わる度に疑問も持たずにそれに合わせる。それを繰り返していく。それを生きているとは言うまい・・・・・・生きることを諦めている」
「なら、先生みたいに個人で、確固たる自分を持つことが「生きる」ことなのか?」
「さぁな。どうでもいいさ。問題なのはそんなモノを押しつけられても迷惑だという現実と、それらを無視するためには金が必要だという事実だ」「俺にはわからねぇな。人間は一体何がしたいんだ?」
「劣等感と向き合えなければ「ちやほやされる」ことだろう。あるいはそれは金の力を使って「誰かに認めて欲しい」だとかな。私のような非人間でもなければ、大抵は「己の利益」のようでいて「集団の中での地位」を求めるようだ」
「先生はどうなんだ?」
「いつも言っているだろう。私個人の幸福さえ、平穏なる生活と豊かささえ確保できれば、他の人類が絶滅しても問題ない」
「人間の発想じゃねぇよ」
 そうかもしれない。 
 だからこそ、私個人の幸福を誰よりも何よりも優先できるのだが。そのために人間の思考回路から離れて行っているのだとすれば、皮肉な話だ。 だが事実だ。
 この「私」こそが至上だ。星の裏側で死にかけている人間を気遣って「良い人間」であろうとするような、そんな劣等感からくる偽善など、私は持ち合わせていない。
 別に持ちたくもないしな。
「おい、妙だぞ」
 坑道の果て、闇の奥からは光が漏れてきた。
 だが。
「何だ、あいつら・・・・・・」

   8

 豊かになるにはどうすればいいのか?
 答えは簡単だ。奪えばいい。搾取し、搾り取り奪い尽くし、ミイラになるまで汁を啜る。
 それで人類は発展してきた。
 これまでも、これからも。
 資源の問題は、どれだけ科学が発展しようが、そこは変わらない。「燃料」と言えばいいのか、エネルギー源になるモノがなければ、どんなテクノロジーも動かしようがない。
 無論、半永久的に作動する半物質エネルギーや真空素粒子によるエネルギー活用もあるにはあるが、如何せんコスト面を考えると、その辺の惑星から奪った方が早いのだ。
 何より、法の目を逃れる為だ。
 だから、資源開発は永遠になくならない。
 新型の振動核弾頭、こいつを動かすにはレアメタルを埋め込まなければならない。分子の運動を活発化させ、理論上は「生物のみ」を対象に殺傷する兵器、だそうだ。具体的には目に見えない放射線もどきがこのレアメタルからは出ているのだが、それを増幅し数百キロに及び拡散することで「生きているモノ」のみを、分子の運動を暴走させ、免疫不全を及ぼし殺すらしい。
 生物のみを殺せる。
 これは大きな利点だろう。
 建築物をいちいち壊していては、侵略は成り立たない。殺すにしても、死体を毎回荼毘に付す訳にもいかない。無駄な金がかかりすぎる。
 そこでこの「新型振動核」の出番というわけだ・・・・・・厳密には「死ぬ」のではなく「行動不全」になるので「流用」できる。倒れている肉体を集めて、臓器は売り、幾つか生かしたまま血液を採取することが出来る。これは大きい利点だ。
 人工臓器はデメリットが大きいからな・・・・・・それに資金も獲得でき、死体を増やさなくていい。一石二鳥というわけだ。
 いつの時代もそんなものだ。
 綺麗事の下には必ず、銃と血と悲鳴があって、初めて成り立つ。
 それが人間社会の正体だからな。
 ニコラ・テスラの提唱した「世界システム」はとっくに宇宙規模での応用が実用化されているが「資源」は別だ。単純なエネルギーとは違う。
 エネルギーはデジタルで管理、運営出来るようになった。だが、単純な電気エネルギー、あるいは熱エネルギーなどは「反物質」の力でどうとでも生産できるのだが、形の無いエネルギーではなく現実に希少な資源を作り出すことは、出来なくはないが金がかかる。
 特に、開拓した新たな宇宙空間で発掘した古代文明、あるいは未知の鉱物などは、解析そのものが時間がかかる事が多い。だからどうしたって多くは望めないし、また現存する技術で大量に生産できるならば、軍事的、政治的なカードとして切ることが出来ないだろう。
 どんな技術も、資源も、そして金も独占してこそ価値がある。皆で分け合えばこの世界に価値のあるモノは、存在しない。
 原子の構造を書き換え、新たな物資を作り出すこと「程度」なら、人類は簡単に実現した。困難なのはそれらの技術を「己の利益」と「周囲の反発」を買わないように運用することだ。
 技術が進歩してもそこは変わらない。
 世論を無視すれば弾圧される。
 どんなエネルギーも運用できなければ意味がないのだ。反物質にしたって幾度かの銀貨系レベルの消滅、運用失敗から宇宙の果てで、かつ馬鹿みたいに厳しい安全基準を通り抜け、それでいて結果を出さなければ、維持できない。
 皮肉なものだ。
 これだけのエネルギーを持ったにも関わらず、エネルギーが膨大すぎると、その分身動きがとれなくなる。いや、これは人間でも同じか。
 過ぎた才能を持つ人間(才能など何一つ欠片も持ち合わせなかった私には共感し難いが)は、周囲の期待、偏見の眼、勝手なイメージを魅せなければならないというジレンマがあるらしい。
 合わさなければいいではないかと、私のような人間は思うのだが、「才能」にすがる人間は、それを失えば自分は終わりだと、そう思いこんでしまうそうだ。
 金をため込むだけため込んで、適当にやめればいいものを・・・・・・持つ人間の考えはよくわからない。いや、自分で道を切り開かなかったツケが、当人に返ってきている、と言えるのだろうか?
 わからない。
 私は神ではない。
 作家だ。
 だから想像して適当にこき下ろすだけだ。
 人間は何十万年も欠けて宇宙の七割を支配するまでに至ったが、根本的な問題は何一つとして、解決するには至っていない。
 差別。
 戦争。
 飢餓。
 怨恨。
 嫉妬。
 中傷。
 見栄。
 貧困。
 傲慢。
 自惚れと分不相応。それらが問題を作り、そして問題の根底にあるのは「人の心」だ。
 そんな物騒なモノを持たなくて本当に良かった・・・・・・人間の心は問題しか起こさない。高尚な生き物ぶって、誰かを貶め辱める。
 何万年経っても進化しない。
 人間は成長しない。
 未だに戦争はするし、諍いは見栄と驕りから発生し、化学反応のように「他の人間」がいるというだけで、何かしら問題を起こす。
 殺して奪って争って。
 原始時代から何も変わらない。
 それが、人間だ。
 目的は生き方を固定し、自負は在り方を形作るものだ。だが、能力や環境にかまけて無目的に生きてきた人間は、精神が非常に脆い。
 だから進化しない。
 人間は本来、己で答えを出すものだ。だが、この世の中が何か自分たちに答えを示してくれるのではないか、と自分で探そうともせずに、何かを期待して漫然と生きる人間が増えてきた。
 人間は科学が進む毎に「劣化」しているのではないか? そんなことを最近考える。
 無論、言葉遊びも良い所だ。だが最近は善悪ですら、真面目に語られることはなくなった。
 科学は良いモノかもしれない。
 だが、良いモノが善ではない。
 その程度も考える事が、なくなった。
 人間は、どこまで行き着けばいいのだろうか。 どこまでも堕落してしまったのか。
 期待するだけ、無駄なのか。
「聞け、兵士達よ!」
 そんな私の考えをよそに、坑道の出口から見えるその男の姿は、まさに「革命家」という言葉が相応しく、所謂「希望」という存在を、この世界に魅せる人間だった。
 希望。
 つまりありもしない幻想だ。
 だが、それがあるかのように魅せることは出来る・・・・・・人を魅了するカリスマが、あってこそ、可能な芸当だが。
 出口からこちらの姿がバレないように、慎重に私は遠目でその演説を眺めることにした。
「我々火星の民は耐え難きを耐え、「民族独立」という大儀の為、今まで地に伏してきた。だがそれももう終わりだ・・・・・・新型振動核弾頭量産の為の形態は整った。我々は核武装と、そして銀河連邦の議席の三割を掌握した」
 物騒な話だ。もしこれが事実なら、第57宇宙大戦が起こっても不思議ではない。まぁ、長い目で見ればこの程度の殺し合い、人間同士が争うこと事態はさほど珍しくも何ともないので、驚くには値しない気もするが。
 いつの世もこんなものだ。
 民族。だが民族というのは所詮自分たちのグループ名でしか無く、民族浄化も民族戦争も、自分たちのグループが得をしたい。自分たちのグループが幸せならそれでいいと、我が儘を通すこととあまり変わらない。
 男の演説に感極まっているのか、あまり深いことは考えなかったであろう聴衆の兵士達は、そうだそうだ、と言わんばかりに頷いていた。
 わからん奴らだ。
 それを言っているのはあくまでも演説をしている男であって、お前達ではない。同調するのは勝手だが、それを自分たちの意志、みたいに勘違いして思いこむのは、間違っている。
 この場合道徳的に正しいかどうかは問題ではない。ただ単に、自分の考えで動かない人間というのは、ロクな結末を出さず、周囲に被害だけを及ぼすという、非常に迷惑な話だからだ。
「これからは、いや、これからも「資源戦争」の時代が必ず来る! そして、次世代エネルギーの供給源を確保しうる国家こそが、次代の軍事産業を担うのだ。軍事を征服するモノは、全ての経済を支配する。連邦制度が確立されようが、実態が変わるわけではない。ただ、暴力の指揮権が多数の意志によって決められるだけだ」
 まさにその通りだ。
 中々良いこと言うではないか。
「人間に相互理解など無い! 人間とは、争い、奪い、殺し合い、そしてそれらが遺伝しレベルで刻み込まれた獣の名前だ。施しも同情も、余裕ある人間の偽善にすぎん。現に、お前達は知っている筈だそ・・・・・・文化レベルの向上という名目で、我が物顔で支配地域を広める企業家の姿。そしてそれらの悲劇を知りつつも「自分たちには関係がない」と、悲劇を見ぬ振りで済ませる富裕国の国民共の姿を・・・・・・「平和」とは、「他の誰かが平和でない」ことが条件で成り立つものだ。故に、「世界規模での平和」などと歌うのは、ただ単に「自分たちに都合の良い世界」しか見ていない愚か者共の虚言にすぎん」
 まさにその通りだ。観客でもないのに、口笛でも吹いてやりたい気分だった。しかしそれどころではないのも事実だ。あの女・・・・・・何がパイプラインの破壊だ。それ以外のおまけの方が、厄介そうではないか。
 もしかすると、私を始末する、厄介払いするために仕組まれているのか? だとしたら「覚悟」するんだな・・・・・・このサムライ刀で殺せない相手はいないのだ。例え相手が神でもな。
 邪魔者は誰であれ「始末」する。
 今考えても仕方ないことだが。
「核の驚異とは、人間が愚かである限り無限に、効力を発するものだ。そして、人間が愚かでなくなる日など、ありはしない。核攻撃による武力行使、そしてそれによる「威圧と発言力」こそが、全てを支配できる。我々はまず近隣の銀河連邦軍北西基地を占領する。既に、内通者が洗脳兵器で現地の兵達を掌握済みだ。そして同時に北方の各拠点を核攻撃する。これで、指揮系統のみを消し去り我々は銀河連邦の三分の二をモノにすることが可能だ」
 実際にはそこまで簡単ではないのだろうが、この男が言うと何だか可能に聞こえてくるから不思議だ。それもまた、指導者に必要な素質だろうが・・・・・・どうしたものか。
 私は争いが嫌いだ。疲れるからな・・・・・・今回の依頼も適当に終われれば良かったのだが、そうもいかなそうだ。人間は「今自分が持っていない」からこそ欲しがる。平和も平穏も、既に持っている人間からすれば退屈なものでしかない。金も同じだ。持っていれば価値を感じない。札束を山のように持つ人間が、札束を大切にすることは、やはりないのだ。
 まぁ、私は「必要」だからというだけで、実際に「欲しい」と思っているわけではない。あくまで必要だからだ。そしてそれを「幸福」だと定義することで人生の指針を作り、自己満足で満足しようとしている。
 だから分からなかった。
 何かを欲する、というのは私には未知だ。欲しいモノなんて何もない。心も名誉も愛もいらないし、富はあれば便利だというだけだ。
 無論平穏を求める心は分からなくもない。だが私は「必要だから」求めるだけだ。本質が、きっと違うのだろう。
 彼らは尊厳の為に戦っている。
 私は、平穏と豊かさ、があれば人生を充実させ楽しく生きる為に「便利」だから求める。
 あるに越したことはないから。
 ただそれだけの理由だ。
 そこまで考えていたのだが、男の声が空洞の中に響きわたり、私の思考を中断した。
「民族は浄化されるべきなのだ。民主化によって貴様等が得られたモノは平和などではない。ただ馴れ合いと多数決で決められる、己の意志無き政治形態だ。「道徳的」に良いから決める政治が、民衆を救うことなど無い。泥を被り、罵声を浴びて、前へ進むことで初めて、血と肉と骨を踏み台にすることができ、そしてそれらが後々の肥料となる。それが政治だ。だが、「皆の意見」というわかりやすい思考放棄こそが民主主義の正体であると同時に、それは国民も平和と引き替えに、己の主張を持たないことを意味する。

 お前達には「自分」があるのか?

 確固とした信念が、国家を愛する思想が、あるいは他国を侵略する野望が、無い。大多数でまとまることを良しとし、個人で事を成そうとすることから逃げた結果だ。己の主張すらふやけてしまい、そこに己の意志はなく、ただ漫然と周りにあわせてこなす。それを生きているとは呼ばん。ロボットと同じではないか」
 問題なのは、この男の主張を聞いて、心動かされるようなその他大勢共は、その「自分のない」人間だからこそ、演説に歓喜しているのだ。
 そんな連中こそが、数の暴力で歴史を変えてきたことは如何にも皮肉だが、しかし数が多いだけでは歴史は変えれまい。
 どうも妙だ。
 言ってることは正しいかもしれないが、しかしそれで世の中を変えられる、いや国家転覆を実現できるモノなのか? 確かに、優れた指導者ではあるようだが、核を打ち込むだけで支配できるなら苦労はすまい。核を持つということは、それに対する対抗策も持つということだ。それに、仮に上手く行ったとして、議席を確保したところで、根底にある人間の意識が覆るとは、あまり思えないが・・・・・・どうなのだろう。
 革命で変わるのは社会構造だ。
 人間の心じゃない。
 だから、変えても何も変わらないだろう。ただ変えるだけでは駄目なのだ。環境と人間の意志は関係がない。それは、環境に関係なく産まれた私のような悪こそが、よく知っている。
 悪とは、生まれながらの悪だ。環境が良かったところで、私は何人己のために犠牲になろうが、やはり気にはしなかっただろう。心がないのは生まれつきだ。先天的な異常者は、確かにいる。
 緩い人間共には、それが分からないのだ。
 何か理由があるはずだ、完全な悪人などいないだとか、民主主義などという温い生き方を肯定する国家には、そういう人間が多い。
 異常者を許容できない癖に、多数決など笑わせる。ただ単に誰にも傷を負わさず、負わすならそれらしい理由を付けられる相手に負わし、大勢を生かすためという理由で、誰かの犠牲を良しとすること。
 それが「民主」の正体だ。
「民主主義、などというモノの正体を教えてやる・・・・・・結局の所、民主主義が発達した理由は単純明快だ。王政は貧民の怒りを買いやすい。かといって民衆主体では政治は回らない。だからこそ、「全員の意見が反映されている」と民衆が思いこむことこそが重要だった。現に、民主主義を掲げる全ての政治形態が、「金」と「人脈」があることを前提に、政治に関わる条件付けをしている。これは「公平」ではなく「公平感」を、馬鹿共が容認した結果だ。誰でも参加できる、という聞こえの良い口実こそが必要だった。何より多数の意見をまとめるという口実があれば、幾らでも改竄が効く。
 
 テロ対策という名目があれば何をしてもいい。 
 完全なる検閲社会を作り上げ、システム上政治に関われる人間を制限し、その上で「平等」を説くのだ。ほぼ完璧な支配形態と言っていい。人間を家畜のように管理するにはうってつけだ」
 大勢が望む、という大儀があれば、何人殺しても許される。罪悪感など無い。何せ「皆」が認めた「正しい」方法なのだから。
 国家は民衆のためではなく、国家の利益の為に存在する。そして「国家」とは、政治で金を稼ぐ人間のことであり、その集合体だ。国家の為というのは結局の所、国家を回す人間のためでしかないのだ。
 それを知らずに人生を終える奴も、多いがな。「人間というのは、いいか、人間とは他者を踏みつけて初めて「尊厳」を手に出来る。人間が人間であるためには、誰かが死ななければならない。今までその役目は我々に押しつけられてきた。だがこれからはその役目を、突き返さねばならん」 人を引き付ける演説とは、綺麗事を並べることではない。綺麗事で納得する聴衆も、それで自分に満足する政治家も、底が知れている。
 政治家とは、あらゆる人間を熱狂させ、そして非現実的な夢を魅せ、その上でそれを実現させると信じさせ、それでいて現実にその夢を
形にしてしまう奴のことを指す。
 今まで、恐らくは数えられる程度にしか、そんな人間はいなかった。政治家など、どこにもいなかったのだ。
 そこへ新しく、大望を語る馬鹿が出たのだ、人々が熱狂しないわけがない。夢を見ることに忙しい「兵士」という人種なら、尚更だ。
 拳を上げて同意を示す怒号が響く。
 と、そこで眼があった。
 合ってしまった。
「そこにいる男を連れてこい」





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