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次の駅までのひとときに

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わたしのなんでもないエッセイ
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推しのライブが終わってからの悲哀と慕情の1週間の日記

推しのライブが終わってからの悲哀と慕情の1週間の日記

3月24日(日)

◉朝8時、池袋のホテルにて起床。昨夜、ルミネtheよしもとのセンター最前列で観たしずるの単独ライブ「不自然な藍色」の余韻がまだ東京の一室を浮遊している。

ライブ終わりにタフネス(しずるのファンの呼称)たちと交わしたビールの炭酸の痺れも喉に残っている。本当のお名前もお仕事も知らないけれど、好きなシーンやセリフを共有するだけでいつまでも話すことができる。

昨夜は観たばかりのネタ

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ハロー、チェルシーのない世界

ハロー、チェルシーのない世界

「酔いそうー」

子どもの頃は車酔いしやすく、帰省ラッシュの渋滞にはまると決まって気分が悪くなった。本格的に酔う前に後部座席から助手席の母に自己申告。

つられて妹も「酔ってきた」と声を上げる。促音とカ行の引っかかりのリズムが楽しくて「酔ってきた、酔ってきた」と到底不調を訴えているとは思えないビートをふたりで刻む。にゅっと母の腕が伸びてくる。開かれた手のひらには色とりどりの飴玉。

「ほな飴ちゃん

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2024年達成できなくても問題ないけどできたら嬉しい10個

2024年達成できなくても問題ないけどできたら嬉しい10個

祖父の七回忌法要の後、従妹弟家族と会食することになった。畳敷きの和室には明るい光が差し込み、卓に料理が美しく配膳されていく。

会うのは祖父の葬儀以来である。こちらの人見知りをものともせず、まるで毎日顔を合わせているかのように従妹弟家族は話しかけてくる。この人たちと血がつながっているのだなあと不思議な感慨にふけっていると、叔父が改まって音頭を取った。

「それではせっかく集まったことですし、一人ず

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リアルタイムを書く覚悟を決めたら、noteが少し豊かになった

リアルタイムを書く覚悟を決めたら、noteが少し豊かになった

思考はいつも感情の後にやって来る。私の場合、心動かされる出来事が起きてもすぐには言葉にならない。書くときも少し時間を空けて、結論までの道筋が経ってから机に向かう。

一度感情に専念している分、記憶には残りやすいらしい。その時の心情の変化や周囲の景色、ささいな物音まで思い出せる。長く抱えている間に、他の経験と組み合わせて思考を強化させたり、熟成させたりもできる。自分のこの習性に書き手として何度も救わ

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習慣化のコツはアイテム選び!2023年始めた趣味と買ってよかったもの6個

習慣化のコツはアイテム選び!2023年始めた趣味と買ってよかったもの6個

子どもの頃に想像していたほど、大人は満ち足りていないなあと思う。

多少の自由はあるけれども、時間のほとんどは労働に割かれ、稼いだお金は生活に取られる。体力は失われ、襲い来る理不尽に気力はつき、気づけば友が減っている。ありとあらゆるものがぼろぼろこぼれ落ち、あと5年もすればからっぽになるのではないかと時々不安になる。

由々しき事態を避けるため、2023年下半期は”小さくはじめる”をひそかな目標に

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永遠は意味のないものの中に

永遠は意味のないものの中に

繁忙期の連勤終わり、ケンタッキーのオリジナルチキンと缶ビールの入ったビニール袋を揺らして秋めく夜の田舎道を歩く。カーネルサンダース感謝祭とご褒美のタイミングがマッチした今夜くらい、贅沢したっていいだろう。

いつになくほくほくとした足取りで帰宅すると、父から一通の茶封筒を渡された。卒業した大学の学会誌である。会長に就任した教授の挨拶文や活動報告が確か年に一度か二度くらいのペースで届く。ビールを冷蔵

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グッズデザインから大好きな島と大好きなカフェの未来に一歩ずつ

グッズデザインから大好きな島と大好きなカフェの未来に一歩ずつ

最初にお話をいただいたのはもう2年以上前。大阪から岡山県の犬島に移住した友人夫妻が自宅の庭にカフェを開設するとのことで、ぜひともロゴをデザインしてほしいとの依頼だった。

友人夫妻に誘われて犬島には2度訪れていた。穏やかな瀬戸内海に囲まれた、住民が30人ほどの小さな島。

コンビニもスーパーも薬局も信号もない。刻々と色を変える海と空、塩気を含んだ風の触り心地、遠く揺れる木々の声、船の往来だけが時間

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どうしようもない夜にやりたいこと100個ひねり出して、会社を辞めた話

どうしようもない夜にやりたいこと100個ひねり出して、会社を辞めた話

たまには新年らしく目標でも立ててみようと、やりたいこと100個を書きつけたノートを3年ぶりに引っ張り出してきた。

深夜の勢いで作成したはいいが、リストアップしただけで満足してしまい、1回見返したきりずっと放置してきた。なにを書いたのかもうあまり覚えていない。若い頃の熱の残滓に触れれば、停滞する日常を変えるモチベーションを得られるかもしれない。わずかな期待を胸に表紙を開く。

新年の浮かれ気分が吹

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ファンづくりから仲間づくりへ、noteが少し楽になった

ファンづくりから仲間づくりへ、noteが少し楽になった

2021年5月5日から11月27日までの約半年間、私のnoteには大きなブランクがある。アクセスするのもままならない時期もあれば、書いては捨て書いては捨て、公開できない下書きだけを増やしていた時期もある。

2021年4月、面接での熱烈なアピールが身を結び、念願の出版社に転職した。大好きな文章に仕事として触れられる喜びと自分の言葉が社会を動かす使命感で、毎日はやりがいに満ちていた。

相手の話を瞬

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自称世界一不幸な美少女の自己肯定感と想像力

自称世界一不幸な美少女の自己肯定感と想像力

ほとんど泣きながら宿題のドリルに鉛筆を走らせ、答え合わせもそこそこにテレビの前に滑り込む。リモコンの電源を入れれば、ポップでキャッチ―なメロディー、自由自在に箒で空を飛ぶ、赤、黄、青の衣装をまとった少女たち。

日曜の朝、アニメ『おジャ魔女どれみ』(東映アニメーション)が始まるまでに宿題を終わらせるのが母との約束。苦痛から解放され、1週間待ちに待った世界に没入する。この30分が小学生の私の楽しみだ

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一生のお願いを温存する語彙力再考

一生のお願いを温存する語彙力再考

(語彙力):対象物から受ける感情が強く豊かすぎるあまり言葉にならない状態を、語尾につけることによって表現する語。ヤバい、エモいなどを主に肯定的に強調する。また、伝えるだけの語彙を持ち合わせていないことを束の間嘆いてみせ、自己承認欲求を隠す狙いを持つ。(都村つむぐの独断と偏見より)

twitterで見かけるたびに、便利だなあと思う。短さが賞賛される現代において、たった4文字で感動を表現できる。私も

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書店員なのに青木まりこ現象

書店員なのに青木まりこ現象

「朝井リョウさんもお腹弱いんですって」

どういう流れでこんな話になったのか。
店内に客はひとりもおらず、換気のために開け放たれた窓からは昼下がりのやわらかな風が流れ込む。威勢をなくしたレジを離れ、カウンター奥の椅子に腰を下ろし、先に休んでいた先輩と話を続ける。

「へえ、大変ねえ。私も助手席でお腹が痛くなって、何度コンビニを探してもらったか」
「いけない状況になるといきたくなるんですよね。私はバ

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本屋だからこそ生まれる運命的出会いを育てていきたい

本屋だからこそ生まれる運命的出会いを育てていきたい

自分が働く書店で本を予約した。社割で安く買えるし、貴重な売り上げにもなる。

なんてったって、大ファンのしずる村上さんが自伝(村上純『裸々』KADOKAWA)を発売するというのだ。単独ライブのために東京まで追っかけ、”タフネス”という我に返ると異様なファンネームを嬉々として自称するくらい応援している。確実に手に入れたかった。ドキドキしながら取り寄せの手続きを済ませ、日数を指折りカウントして待ち望ん

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「おつかれさま」に代わることばを

「おつかれさま」に代わることばを

社会に出た当初、仕事終わりの「おつかれさまです」がくすぐったかった。学生のうちは馴染みのないことば。中身は数か月前となにも変わっていないのに、口にするだけで一丁前に大人として機能している気分になる。放ったばかりの声は耳の中でなんども鳴って、熱を帯びた。

とはいえ、あいさつひとつで酔いしれられる期間はいつまでも続かない。はじめこそ輝いていたことばは、日を経るごとに新鮮さを欠いていった。

帰り際は

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