亜成虫の森で 14 #h


ベッドの上で目を閉じた。

もう15年くらい前の話だ。

中学1年の時、同じクラスの中にすごくかっこいい人がいた。カッコいいなあと思った。と同時に、住む世界が違う気がしていた。

違う小学校が4校も一緒になるような、小さな中学だ。集まっても学年で50人くらい。その人は違う小学校から来た人だったから知らない人だし、彼の出身小学校の人たちは何か派手だった。何かが。

だからたぶん何もかも合わないんだろうなと思った。
遠くで見る。かっこいい人がいた。終わり。

それで終わるはずだった。


たまたま私の隣の席になった男子が彼と親友だった。何かの拍子に彼のことをかっこいいと思ってると言ったが最後、隣の人は私たちをくっつけようとし始めた。

「あいつ、お前のこといいと思ってるって言ってたぞ」

そんなことを言われて、意識しない人がいるだろうか。

バカみたいに真に受けて、より一層緊張して彼とは話せなかった。


細かいことは覚えていない。
なんでそうなったのかもわからない。

だけど、ある日の下校時、横断歩道を渡り切ったところで大声で名前を呼ばれた。

振り返ると彼が横断歩道の向こうにいる。

「OKだから!」

そう大声で言って彼はまた来た道を戻っていった。


確か、私が手紙を書いたんだ。
「好きです」って。


私たちはどちらもシャイで、そういう告白とか、直接的に何かをするのが下手くそだった。だから私は手紙なんていう重い技を使い、彼は横断歩道を挟んだ距離で叫ぶという方法を取った。

中学生の恋愛なんて、周りからもてはやされてなんぼのところがある。お互いに男子と女子のリーダー的位置にいる人間だったために、影響はすごかった。

でも当の本人たちは恥ずかしがって話もできなかった。挨拶がやっとだった。


正直、今はなぜそうなったのかは覚えてない。
手紙を書いた時、ほんとにそう思っていたのかも、今となっては定かではない。


でも、私は彼のことは好きだった。

人に優しかった。
影っている子にも声をかける人だった。
またそれがわざとらしくなくて
いつも周りを見ているような人だった。
でも、感情的にもなる。
私はそれも好きだった。

軸がちゃんとあった。
その上優しかった。

やるときはやるし
やらないときはやらない。

私が自覚できなかった私の悪いところを全部受け入れてくれていた。

花火大会の日に不幸があったのに、
内緒で来てくれた。
私はそれを後から知った。
それがいい悪いではなく、
それが彼なりの優しさだった。

推薦入試に落ちたとき
励ましてくれた。
逆ギレする私を慰めてくれた。

具合が悪くて保健室に運ばれた時も
来てくれた。

私の話を聞いてくれた。
わがままも聞いてくれた。

考えてみればいつも私を否定することなく
話を聞いてくれていた。


近づきたくて
遠い存在だった。

でもほんとはいつも隣にいてくれた。

私はそれに気づかなかった。

彼はいい人だ。
それはわかってる。



わかってる。けど。



目を開けた。


どこで間違ったのか?
それは明白だ。
私が悪かった。でもそのときはわかっていなかった。
仕方なかった。

こうなるべくしてこうなっている。
運命はこの道を選んだ。
どんなに子どもの時のことだったとしても
別れという選択を選んだのだから。


第一、私にはよりを戻す必要性がない。
別に好きじゃないし。


断ろう。

このダラダラ続いたメッセージも
終わらせよう。


もうこの人のことは
全部忘れよう。


終わりだ。



そう思ってケータイを持ったときに
メッセージの通知が来た。


同級生のグループからだった。
「今度の土曜日BBQやりまーす!」

いつもの幹事さんが送ってきていた。
みんな参加するのかな?


彼は来るだろうか。


終わりにするはずなのにそんなのが頭をよぎってまた嫌になる。

とりあえず仲の良い女子の友達が数人行くみたいだったので、帰省して参加することにした。



当日は天気も良く、快晴だった。
なぜか買い出し班に選ばれスーパーにいた。
そこには彼も一緒で。

重いものを持ってくれたり
いろいろ気遣ってくれた。

そう。わかってるよ?
良い人だっていうことはさ。


結局私も友達も準備と片付けだけ頑張って、周りの人達の楽しさをサポートする感じだった。
いつもこうなんだよな。
これだから、買い出しとか行かなきゃよかった。
結局片付けの人みたいなさー。

これは中学の時からそうだった。


2次会は同級生の子がいる飲み屋でカラオケしながら盛り上がっていた。BBQは外だし、暑かったから汗をかいて、そこに飲むお酒がめちゃくちゃおいしかった。

なぜか、席順的に目の前に彼がいて。
そう。いつもこういうときは、こうなる。
どうせ何も話さないのにね。

もう彼のことをどうこうとかは忘れてお酒を飲んで歌った。アルコールが体にめぐってくのがわかるようだった。


お開きになって、外に出た。
風が気持ちいい。

「なあ」

振り返ると彼だった。
え?話しかけられてる?

「何?」

「どうやって帰んの?」

「んー、タクシーかなー」

「オレ送ってくよ」

「え?飲んでないの?」

「飲んでない。」

「へえー…じゃあ、お願いしようかな」

「家、知ってるし」


…そうだね。
家、知ってるね。

車内は静かだった。
それはそうだ。私たちはもともと話さないんだから。

でも、酔いの勢いもあって、聞いてみた。

「…なんで送ってってくれんの?」

「この前の返事、聞いてないんだけど」

「あー…やり直す系の?」

「そう」

「そうねー…」

「酔っ払ってんな〜」

「飲めないんだもん。仕方ないじゃん」

「明日暇?」

「え?明日?…あー、うん。まあ。なんで?」

「どっか行こう?はるかの行きたいところでいいから」

「私さ、北山崎行ってみたいんだよね。断崖絶壁。」

「遠いな〜笑」

「何、運転してくれんの?」

「いいよ。明日9時に迎えに来る」

「え?マジで?マジで言ってんの?」

「うん。」

「…あー、うん。わかった。頑張って起きる。」

「着いた。じゃあな。また明日。」

「うん、ありがとね」


いや。ありがとね、じゃねーわ。
え?何してんの?
え?ドライブ?ドライブデート?

え?あの人と?マジで?

つーか普通に話した?
普通だったよね?え?マジか。


おろされて庭で立ち尽くしていた。
空を見上げるとめちゃくちゃに星が綺麗だった。


何やってんだ私。

忘れるんじゃなかったのか?
終わりにすんじゃなかったのか?





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