亜成虫の森で 23 #n
「おい」
「あ、…」
「お前どこ行ってたんだよ。なんでメッセージ返さないんだよ。」
「ああ、ごめん。地元に帰ってた」
「…昨日は?オレ、…ホテルに翔さんと入っていくのみたんだけど」
「ふふ。そんなこと聞いてどうすんの?…仕事してただけ。」
「あんな格好で?」
「パーティについてきてって、言われたの。」
「パーティ?」
「そう。お偉いさんが集まるパーティ。」
「…なんでお前がついていくんだよ」
「だから、頼まれたからって言ってるでしょ?仕事なの。しつこい。」
めちゃくちゃ機嫌が悪い。
「なんだよ。つーか。なんで、なんでさあ。なんでこんな距離あんの?オレなんかした?」
「いや?」
「じゃあなんで、」
「もうさ…ダメなんだ私。」
「なんだよそれ、」
よく見ると、彼女は目にいっぱい涙を溜めていた。
「にの、」
「なに」
「置いて…いかないでよ…」
ボロボロ涙が溢れていった。
「違う。お前が勝手に離れてくだけだ。」
「でも、私は、…っ」
「お前はいつもそうだ。自分のことを貶めて、勝手に後ずさる。オレが隣にいることをお前が忘れてるだけだ。」
「…怖いんだよ…大事にしてたはずなのに…ちょっと甘えただけで、手からぽろぽろこぼれていく…何もかも。全部失う気がする…」
「オレはあの人とは違う。」
「…」
「オレな、お前に渡したいもんあるんだよ。だから連絡してたんだ。明日時間ある?…もし。来てくれるなら。明日の夜、約束しよ」
「…」
「はるか?」
「…わかった。ごめん。なんか情緒不安定で。明日には治ってるから。治すから。待ってて」
「1人で帰れる?」
「寄り道しながら帰るから。大丈夫。なんかあったら連絡する。」
「わかった」
明らかにおかしいよな。
情緒不安定もいいとこだ。
あいつの中で何かが起こってる。
パーティねえ。
あんな綺麗な格好で何してたんだよ。
パーティで?翔さんと?ホテルで?
変な妄想で頭がいっぱいになる。
ぞっとするほど感情を出してきていた。
あんなのは見たことがない。
ひとりで沈む前に、取り戻さないと。
みんなはオレのことを鈍感バカだと思っているかもしれないが、彼女が今良くないことになってることくらいはわかる。あんなに揺れて迷って苦しんでいるのは見たことがなかった。だけど、ここで手を貸すというか、じゃあ抱きしめたらいいかというと、そうではないと思う。そういうことじゃない。ただ、待つしかない。今は。
とりあえず明日までは。
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