亜成虫の森で 18 #h


小雨が降る中わざわざ傘を買って
ふたりでぎゅうぎゅうになりながら帰った。
ときどき雨の匂いに混じって
にのの匂いがして

安心した。


ゴールデンウィークも横浜に一緒に行って
楽しかった。

でも思い出すのは
あの雨の日の匂い。



数日後。


「今日からとなりの部署に来た宮田ももです!よろしくお願いしまあす♡」

となりの部署にかわいい子が入った。
うちの先輩方はやっぱりジロジロ見ていた。


でも、ももちゃんは疎まれるどころか、先輩方にかなり可愛がられていた。どういうつもりなのか、先輩方の考えもよくわからないし、たぶんももちゃんはももちゃんで先輩方の扱いがうまいんだ。

見る限りももちゃんの教育係はにので、日に日に一緒にいるところが目につくようになった。



なんだったんだろう。
夢だったのかな。あの時は。

神様が見せる気まぐれか。

そういうのはよくある。知ってる。


私の悪いクセはぶりかえした。
うまくいかないと思うと距離を取る。

そう。私はまずああいうキャラが苦手だ。
それに、そういう人に対して楽しそうにしているにのを見たくなかった。


「二宮さあん!これどういうことなんですかあ???」

「ああ、これは、だから…」


やけに目につく。
となりの部署の女の子。
めちゃくちゃかわいい。

そしてにのに何かとくっついて回る。


「はるの苦手そうな子だもん」

「うわっ…背後でいきなり話しかけないでくださいよ」

松本さんが彼女を見てそう言う。
バレてた。

「あ、ごめん。でも、顔怖いよ。」

「…生まれつきです!」


相葉くんがタイミング悪くにのに話しかけていた。

「あ、二宮さん。あの人なんていう子ですか?かわいいですよね」

「ももちゃん。かわいくない?名前がもうかわいいよな。顔も可愛いけど。誰かさんと違って愛想もいいしな!」

にのは私に向かって馬鹿にした笑顔でそう言う。

「え〜それは言っちゃダメなやつ…」

相葉くんの心の声が漏れていた。

「あ、この方がはるさん!」

ももちゃんが今初めて見ましたこの人を!的な感じで話しかけてきた。いや、この前キミはこの部署で挨拶したよ?そして私もいたよ??

「初めまして。鈴木です。」

一応初めましてにした。
どんなに嫌いでも挨拶はする。
当然だけど。

「ももちゃん、この人も前は派遣だったんだよ。」

にのがいらないことを言う。


「そうなんですね〜!そのお年で派遣とか大変そう〜すごいですね!」

は?


てめえ、殺されてえのか?


人の仕事バカにする奴はバカだ。

笑顔で言ってやった。

「ももちゃん。二宮さんのこと、よろしくね!相葉くん、私社長室行ってくるね」

「…あ、はい。いってらっしゃいませ。」

お花畑な奴らを置き去りにして部署を離れエレベーターに向かった。


大地が揺れるほどガンガン歩いてエレベーターに乗りエレベーターの閉まるボタンを100回くらい押した。

絶対誰にも乗って欲しくなかった。


社長室のたいそうな扉の前に立つ。

「失礼します」

開けると社長が間抜けな顔をしていた。

「ぅえ?!はるちゃん?!どうしたの?!」

「何かお手伝いすることはありますか」

「なになに〜どうしたの」 

社長はにやにやしながらこっちに歩いてくる。


「ないなら帰りますね。お邪魔しました」

回れ右をして扉を開けようとしたら突っ込まれた。

「いやいや笑 なにその奇怪な行動は笑 とりあえず座りなよ。怒ってるんでしょ?誰かになんかされた?先輩方かな?」

「…となりの部署にももちゃんっていますよね?」

「ああ。かわい子ちゃんね」


「…。私は。かわいくないし。愛想もない。」

「…」

「だけど!頑張って生きてきた。その年で派遣なんて大変ですねって、…なんでそんなこと言われなきゃいけないんですか?!」

「…」


「すいません。八つ当たりしにきたんです。すいません。仕事します。」


「おいで。いいから座って。」

「…」

「座りなさい。」

「大人気なくてカッコ悪いんで早退したいです」

「ダメ。いいから来て。」

仕方なく座った。
社長室のソファはもふもふしていて
優しくて涙が出そうになった。

「いいかな?まず、はるちゃんは可愛いよ。愛想はないかもしれないけど、キミは心の底から優しい人間だ。それは外にもちゃんと出てる。それに、派遣という仕事と、年齢は全く関係ない。そうでしょ?」

「…」

「怒ってるのはそれじゃないよね?にのかな?にのが仲良くしててムカつくとか?」

「それは…」

「オレはそこには関与してないんだけどね?どうする?教育係変えようか?」


「いいです!それは。それはダメです。もう終わりにします。…カッコ悪いから。どうせにのにバカにされて終わりだし。」

「本人に直接聞いてみたらいいじゃん」

「もっとカッコ悪いじゃないですか」

「じゃあお休み取ったら?有休。」

「…この会社って私に甘いですよね」

「みんなに優しい会社なの」

「どうしてそんなに優しいんですか?」

「キミが人に優しいからだよ」


「…。ではお言葉に甘えて。お休みをもらいます。」

「うんうん。そうしたほうがいい。」

社長室を出る時も社長はにこやかに手を振って私を見送った。

エレベーターに乗って下の階に行く。


こんなのは、初めてだ。
嫌なことがあって、怒って、八つ当たりして、
おまけに仕事を休む。

やったことがなかった。


当たり前だけど、もううちの部署に、にのも、ももちゃんもいなくて、粛々とみんなが仕事をしていた。

「松本さん」

「なに?」

「社長直々に有給休暇の消化を命じられたので明日から休みます。」

「…そう。わかった。もう今日は帰っても大丈夫だよ。終わってるでしょ?」

「はい」

「何かあったら連絡してね。身体に気をつけて。それから傘を忘れずに持ち歩くこと。」

傘?

「…松本さんは優しいですね。ずっと前からそう思ってましたけど。」

「え?そう?」

薄く照れ笑いしていた。
こんな顔もするのか。

「では、お先に失礼します。」


にのの顔も見たくないし
ももちゃんにも会いたくないから
わざわざ社長室に行く方のエレベーターに乗って地下まで降りた。

子どもだなあと思う。


だけど嫌なんだもう。


外は曇っていた。
松本さんは傘を忘れずにと言った。

だけど私の心の中はどしゃぶりで

なのに傘がなかった。


傘が、ない。






#小説 #夢小説 #妄想 #エッセイ #コラム   #音楽 #詩 #オリジナル #恋愛 #note #人生 #読書 #短編小説 #つぶやき #言葉 #創作 #生き方 #ポエム #ひとりごと #夢 #短編 #連載小説 #人間関係 #哲学 #ファンタジー #連載 #考え方 #恋 #愛 #心 #恋愛小説 #独り言 #自由詩 #人生哲学 #生き方 #ライフスタイル #雑記   #生活 #考え方 #幸せ #自己啓発 #感想 #連載 #悩み #思考 #暮らし #社会 #メンタル #感謝 #自分 #女性 #人生哲学 #目標 #成長 #記録 #独り言 #未来 #備忘録 #生きる #価値観 #時間 #人生観 #メンタルヘルス #呟き #習慣 #考察コラム #不安 #心理






サポートありがとうございます!