#リフレイン 11

停滞前線のように
停滞した人生。

ずっと雨。

予報が雨なのに
油断して傘を持たなかった私。
夜に、残業終わりに、
オフィスを一歩出たところから
すぐに降りしきる雨。

ザーザーどころではない
地面が掘り返されるんじゃないかくらいの
激しい雨だった。

真っ暗なところに

ひとりで

雨に通せんぼされて

ダサかった。

　
まあ別に
傘がなくたって
濡れるだけだ。
濡れたからなんだ。
どうせなら流してくれよ
私もろともどこかに
消してくれよ

そう思って一歩踏み出そうとしたところを
誰かに引き止められた。

びっくりして振り返ると
怖い顔をした志摩だった。

「志…摩…、いや、ちょっとびっくりするじゃん」
「おかしいでしょ。こんなに土砂降りなのに傘も持たないで踏み出そうとしてるなんて」

「別にいいの、濡れたって。傘はないし。どうしようもないの」

「まあ。確かに。オレでもそうするかな。」

「でしょ？引き止める意味ないから」

「じゃあ、一緒にタクシーで帰りましょう。ね。そうしましょう。」

「は、え？ちょっと、」

「あ、タクシー一台お願いします。はい。正面で待ってますんで。はーい、お願いします」

「まだ同意してませんけど」

「同意は不用です。」

「ていうかさあ、なんで志摩はここにいるの？」

「いやー忘れ物して。微妙にすれ違ったんでしょうね。出口付近で突っ立ってるはるかさん見つけたんで。」

「タイミング悪っ」

「いや、タイミングいいでしょ。バツグンに。体調も気遣わないとダメなんだから。雨に濡れて帰るなんて言語道断ですよ。え？まさか濡れたまま地下鉄乗るとかしないですよね？」

「あーそっか…電車ね…確かに。考えてなかった」

「ふはは笑　意外とそういうとこありますよね？笑　天然というかなんというか笑」

「先輩イジリやめなさいよ。ほんと、志摩といい伊吹といい…」

「あ、伊吹とはどうなったんですか？」

「あ、タクシー来たよ」

「〇〇駅までお願いします」

「…伊吹とは」

「伊吹とは？」

「何にもなってないけど。」

「…そうですか」

「なんで？」

「いやなんか…あいつ失礼なことしてないかなって…」

「さっきまで先輩いじり倒してた志摩がいうことじゃないね」

「すみません」

「…。恋愛とか、いや、…なんていうか、…人間関係を深めるのがちょっと。怖いよね。もし恋愛ってなっちゃったら、どうしたらいいかわからないし。一回失敗してるわけだからさ。もう、…壊したくないから。」

「それはもう15年も前の、」

「そう。15年も前のことをまだ言ってるの私は。ね？引くでしょ？でももう信じられない。自分も信じられない相手も信じられない。愛だの恋だの、信じられない。信じられないんじゃ失礼でしょ。もういいの。そういうのは。」

「…」

「あ、ごめん。喋りすぎた。忘れて。なんでもないから。タクシーありがとね。お金これ。じゃあ、」

「はるかさん」

「ん？」

「何にもよくない。引いてもない。忘れない。」

「どういうこと？笑」

「そうやってひとりで終わらせて。目をつむるから。そうやってたら一生、何も変わらないんですよ？」

「変わらなくていいの。変わるから嫌なの。だから最初から距離をとっていれば、変わっても変わらなくてもよく見えなくていいでしょ。ほら、運転手さん待たせないで、」

「オレはあきらめませんよ」

「…何を？」

「おやすみなさい」

濡れずに駅に来れた。

だけど、またひとり傷つけた。

志摩の言いたいことはわかる。
わかったうえで、そういう態度をとった。

怒ってたなあ志摩。

でも、これでいい。

近づいたらいけない。

孤独でいたほうが

もうあんな思いはしなくて済むんだから。

人を好きになったって
時間が経てば気持ちは変わって

もう諦めろって
疲れたって

そんなふうに言われて

疲れたって何？
何が？

何が愛？

何が好き？

そんなのがあるから
心が痛む

最初からなかったら
痛くない

悲しみに浸った心は
傷口から黒いものが入り込んで
蝕んでいった

同時にあのとき彼を傷つけただろう私は

今志摩を傷つけた私は

二度と私に許されることはない

それでいいのよ

私は罪人だから。

罪深き許されざる人間。

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