亜成虫の森で 6 #m



早朝のフロアは誰もいなくて居心地がいい。
こんな時間に来てるのは自分だけだろう。
電車も空いてるし、ひとりで考える時間もできて結構この時間は好きだった。


「潤。久しぶり!」

誰もいないと思っていたから声をかけられてびっくりした。

「あ、え?!翔くん?!帰ってきたの…!?」

「そーそー。なんかね、戻って来いって言われてさ。なんかプロジェクト、立つみたいよ?」

「え?そうなの?聞いてないな。」

「当たり前よ。オレしか知らないもん」

「そんなテキトーな感じで大丈夫?」

「オレらの仲じゃ〜ん。たぶんそのうちメンバー召集されるだろうしね。んじゃ、またー」

「え!それだけ?!ちょっと…!」

彼は手をひらひらさせながら行ってしまった。


プロジェクト?
全然知らなかった。
いや、たぶん翔くんも社長直々に言われたんだろう。
幼馴染みだからってあんな軽く情報漏洩させていいものなのかはわからないが。

翔くんは社長の息子で、今の今までアメリカ留学をしていたはずだ。高校までは一緒だったけど。相変わらず派手なスーツだったな。学生の時から服装は派手目だった。いや、彼自身が派手なのかな?


「おはようございます」

「あ、おはよう」

翔くんと入れ替わって彼女が来た。
いつもどおりのテンションで
今日も無駄がない。


早朝の会社は静かで割と好きだ。
まあ、あと30分もすればガヤガヤしだすが。


彼女は今年の4月に入ってきて、今は11月。派遣さんだけど、仕事ができる。なんと言っても無駄がない。何も言うことがない。

ぼーっとしていると後ろから声をかけられた。

「松本さん、」

「ん?」

「コーヒー飲みます?」

「うん。」


彼女は毎日ではないけど、朝早く来ることがあった。そのときはいつもコーヒーを淹れてくれる。
実際この時間が好きだから、ってのもある。

「はい、」

「ありがとう」


彼女はそのまま席へと戻った。



彼女にコーヒーを淹れてもらって、
静かな朝を過ごすのは貴重な時間だった。
いつまでもこの時間が続けばいいと思ってしまう。
社内なのに、すごく清々しい気分になる。

電気がついてないから薄暗いけど、
陽の光は指していて。
外は寒いけど、社内はあたたかくて
コーヒーのいい匂いが漂っている。

いつもは人がかぶって見えない彼女の姿が
誰もいない今はよく見える。
彼女は膝掛けをして、デスクに向かって
何か本を読んでいた。


このまま。静かなままでいいのに。


出社時間になって、フロアに煌々と電気がつく。


「松本さあん!おはようございますう♡」

「おはようございます」

「今日もかっこいいですね♡ネクタイ似合ってますよ!」

「ありがとうございます」


「キャー!今日話しちゃった!」

「ヤバいね!」

「いいなあ〜!!」


オレの部は女性が多い。
彼女以外は長くこの会社にいる方々で、オレを贔屓にしてくれているようだ。

しかし、オレはこの軍団が、とてつもなく苦手だ。


下心が見え見えだ。
そしてここだけの話、
あの軍団はみんな仕事ができない。


だから彼女が来てくれて助かっている。


全員が出社して、オレの席からは彼女が見えなくなった。


今日も始まる。


世の中にはいろいろな人がいる。
だけど彼女みたいなタイプは初めてだった。
絶対に人の領分には入らない。入ってこない。



もう少し
近くても

いいかなあ。






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