亜成虫の森で 22 #o



虚な顔で彼女が店に入ってきた。


「あら、いらっしゃい」

彼女の顔が少し青ざめていて、ふらついているように見える。

「どうした?なんか具合悪い?」

「…ちょっとふらついただけです。大丈夫。なんか最近、だるくて…貧血かなあ」

「とりあえずほら、座って。休んで。」

「ありがとうございます」


もはや定番だ。
いつも通りお茶を出して、最近はお茶菓子つきだ。


「久しぶりだね。どう?最近は。」

「…」

「浮かない顔だね」

「…私よくないことをしたんだと思います」

「そうなの?」

「低きに流れるってやつですかね」

「水は低きに流れる、人は易きに流れる。孟子か。」


「…甘えてしまって。」

「甘えることは悪いことではないよ。でも、易きに流れて得た快楽なんて、たかが知れてるよきっと」

「…いや。易き、っていう人じゃないんです。その人は…私を受け止めてくれたんです。」


「相手が間違ってるよね。どうして味方くんに言わないの?キミが待っていたのは、味方くんでしょ?」


「…怖いんです。」


「…それは好きだからだよ。好きだから、嫌われたくないんだ。実に身勝手だよね。人っていうのはさ。」


「…好きって、なんですかね」

「さあ。なんだろう」

「お兄さんの好きな人は?」


「…もういない。星になった。」


「…そっか。」




彼女は元気がなかったけど、オレは彼女が店に来て、無駄に一緒にお茶を飲んだりする時間が好きだった。それに彼女がいると、気持ちが整理される気がした。


ちょっと前に、彼女は男の人とふたりで店に来たことがあった。


その人と一緒にいる彼女は、
今までにみたどんなときの表情より
明るかった。

彼女が本を選んでいる隙に話しかけてみた。

「君が味方くんだね?」

「は?」

「アメリカに行ったでしょ?」

「アメリカ…あ、はい。出張で…え、なんで知ってるんですか?怖っ」

「彼女、君の帰りを首を長くして待ってたんだ。仕事もがんばってさ。褒めてあげてね?まあ、出張に行って疲れたのはきみだろうけど。」

「…あいつなんか言ったんですか?なんですか味方くんって」

「彼女は君のことを唯一の味方って言ってたから。なのに、長い間いなくなる、私は会社で無視されてるって。だけど大丈夫だって言うんだよ。今までもずっとそうやってきたってさ。彼女はすぐひとりになろうとするでしょ?」

「まあ…てかなんでわかるんですか」

「見ればわかるよ。言動と行動と表情。彼女、今日は君と一緒だから顔が明るいよ。よっぽど君を大事に思ってるんだね」

「そうなんですかね〜。全然わからないんですよ。近づいたり離れたり。」

「彼女も試行錯誤中ってところかな?」

「あーえっと、あなたは…」

「あ、僕は大野智。彼女は僕のこと店員さんとかお兄さんって呼んでるけどね。名前お互いに知らないんだ。まあ、ここ、大野書店って書いてるけどね」

「あ、そっか。えっと、僕は二宮です。彼女ははるか。」

「そっか。」


初めて名前を知った。


「お兄さん、これ。あった。」

「おお、見つかってよかったね。ねえ、この人でしょ?味方くん」

「あ…はい。そう。この人。」

彼女はみるみる顔を赤らめて
小さい声でそう答えた。

「よかったね。」

「…うん。

あ、お手洗い貸してください。お金、これ。」

「はいはい。やっとくね」

これは逃げたな。
かわいいなあ。


「見た?今の照れよう」

「今のって照れてるんですか?」

「うわー…君鈍感なんだね…この話に出てくる男全員が鈍感じゃないか」

「はい?」 

「あーいやいや、なんでもない。こっちの話。
それにしても、君たち大丈夫かなあ。あんまり鈍感だと、誰かに取られるよ?」

「…」

「…心当たりがあるんだね?」

「オレは…オレはただ、今が続けばいいと思ってるんです。」

「今を続けるにも、気持ちを確かめたほうがいいよね?君のも、彼女のも。」

「…」

「君は彼女のこと、どう思ってるの?」

「…オレは…、」

言いかけたところで、彼女が戻ってきた。


「おまたせ〜」

「はい、はるちゃん」

「え…なんで、」

「彼に名前教えてもらった」

「あ、そうなんだ。えっとお兄さんは…」

「智。大野智。」

「大野さん。か。あ、にの待たしてごめんね。帰ろ。大野さんまたね〜」

「うん。ありがとうございました〜」

「失礼します。」

「うん。またきてね」


大野って、看板に書いてあるんだけどなあ。
まあ、誰も見てないか。古くてボロボロだし。


あのときは仲良しに見えたけど
また何かあったんだな。

というより、お互い自分の気持ちを言ってないだけだ。

第三者からすると非常にもったいない。
気持ちを伝えたい人がいるなら
伝えられるうちに言わないと
後悔するっていうのに。

これは経験しないとわからないことなのかな。

でも、経験してからじゃ遅いんだ。



最近の若い子はわかっとらんな。


そういうことにしておこう。







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