亜成虫の森で 17 #n


翔さんに送ってもらい、いったん家に帰ってから、彼女と夜出かけた。

久々に一緒にごはんを食べる。


翔さんといるときは嫌な気分だったけど、彼女とふたりになると、彼女もいつも通りな気がして、オレもいつも通りになれた。どうやらオレは浦島太郎ではなかったらしい。


「オレいない間何してた?」

「えー?特に何も」

「…あのイタリアンの人に会ったりした?」

「なんで?」

「…なんで…、なんとなく。」

「会ったよ」

「…返事したの?」

「返事?…ああ、そっか。にのに言ったんだったねそのこと。

してない。」

「…そうなんだ。

あ、仕事は?なんかあったりした?」

「社長とお友達になった」

「は?」

「お友達になってって言うから。いいよって。」

「…なるほどな。だからか。」

「え?」

「だって一緒に迎えに来るとか、どうやって連絡取り合ってるんだろうって。思ったの」

「いちいち社長室に呼ばれるのに松本さんが私に話しかけるとまわりが騒ぐから。だから、メッセージで呼びつけられるってこと。」

「あんまり嬉しそうじゃないね」

「めんどくさいでしょ。上の階までいちいちさ」

「お前翔さんのこと嫌いなの?」

「嫌いじゃない。でも別に好きでもない。」

「つーかお友達ってなんだよ笑」

「他のみんなは社長からの指示をわかりやすく揉め事なく浸透させるための橋渡しというか。そういう仕事してるわけよ。ほら、あの謎の会議室に集められた時に言われたでしょ?だけど私は周りから疎まれてるから、直接的に社員さんたちと絡むことはできないわけ。だから、全体を客観視する役割としてあの中に入ってる、らしいよ。それを社長はなぜか、お友達って呼んでるだけ。」


「じゃあ心配する必要なかったなー」

「心配してた?笑」

「少しな。ハブられてるし。お前。」

「ふふ。うれしい。忘れられてなかった」 

「そうだ。どこに行く?ゴールデンウィーク。もう始まってるけど。約束してたよな」

「でもさ、身体大丈夫なの?無理しなくていいよ。疲れてない?」

「大丈夫だよ」

「んじゃー横浜行こ。中華街行って、そのあとパンケーキ食べよ」

「食ってばっかりだな〜」

「いいじゃん。楽しみ」


そう言ってニコニコしている彼女を見ると
ああ〜。これこれって。
これを見たかったんだよなって。

いつもは全然笑わないし。

でもたまに見るこの笑顔を
もう一回みたいなと思って
いろんなところに連れ回している。


例の人の前でも
こんな顔をするのだろうか。

オレと一緒の時より
笑ってたらどうしよう。 

翔さんと話してたときは笑ってたな。


「どうしたの?急な真顔怖いよ」

「…いや。」

「思い詰めた顔するほど、思い詰めることあんの?」

「日本語合ってんのか?それ。しかも軽くディスってるよな?」

「日本語間違ってるかな?」

オレの回答を待たずに彼女は続けた。

「にのはさ、今日ずっと真顔じゃん。ちょっとね、何かあったのかなって、心配でもある。だけど、ちょっとその真顔がさ、結構好きかな、とも思ってる。だから、相談には乗らない。っていうのはどう?」

「相談に乗って解決したら真顔が見れないから?」

彼女はにやにやしている。
どういう思考回路なんだこいつは。

「ふふ。あんまり根掘り葉掘り聞くのは違うかなあと思って。でも、にのが楽しく毎日を過ごせたらなって、それは思ってるんだ。私には何もできないけど、いつもにのが楽しくいられたらいいなって、ね。思ったりするの。」

「…」


ほんと、どういう思考回路なんだろう。

ちゃんと気遣ってくれてる。
突拍子のない、突っ込みどころ満載で話す彼女は、ほんとはちゃんと全部わかっている。


「おかしいかな?」

少し不安そうな顔をする。
こういう表情がころころ変わるところが好きだ。


「いや?オレも同じこと思ってた。お前が楽しくいられたらいいなって。」

「へ〜!そうなんだ!同じだね!」

今度は嬉しそうな顔をする。

「へ〜って笑 お前変わってんな〜やっぱ。」

「そうかな〜。」


でも、そういう彼女が好きだった。


そうか、オレは好きなんだ。


誰かに取られたくないって思うくらい
好きなんだ。


この笑顔を守りたい。


なんていうのは、おこがましいだろうか。


店を出ると小雨が降っていた。

「雨だ」

「傘買ってくるか。待ってて」

「…やだ一緒に行く」

「濡れるよ?」

「置いていかないで。大丈夫、ちょっと走ろ」


近くのコンビニまでふたりで小走りして、傘を買った。

「にのがアメリカに行ってる時も、こういうときがあってね。相葉くんがジャケットかけてくれて、一緒に駅の地下の入り口まで走ってくれたんだよ」

「そうなんだ。でもオレはちゃんと、傘あるから。ほら。」

「一本だけ?買ったの?」

そうか。一本でいいと思ってしまった。オレの頭の中は彼女との相合い傘妄想でいっぱいだった。

「私ハブられてるの?笑」

「違うわ!2人で一本でいいやって思っちゃったの。大丈夫だよ駅まですぐだし。」

オレたちはぎゅうぎゅうになって歩き始めた。

「相合い傘だね」


改めて言われるとかなり恥ずかしい。
だけどかなり嬉しかった。
一生これでいいや。


雨は嫌いだけど
今日だけは

とりあえず駅に着くまで
止まないでほしいと思った。





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