亜成虫の森で 19 #n


例の結成されたチームで会議室に集まり、ミーティングがあった。やはり彼女の姿はない。

朝もいない。デスクを見てもいない。今の会議にもいない。たぶん昨日もいない。


翔さんと松本さんは早々に部屋を出て、たぶん社長室で詰めをやってる。

オレと相葉くんは取り残されたが、相葉くんは自前のパソコンで作業をしていた。


「なあ。なんではるか休んでんの?全然連絡もないし。なんか知ってる?」

「はるさんは有休消化中でーす」

相葉くんはこちらを見ずにパソコンを見たままそう答えた。

「そうなの?メッセージ返信してくれてもいいのにな」


沈黙ののち、相葉くんはこちらを見た。汚いものを見るような目でこちらを見ている。

「…二宮さんってバカなんですか?」



「おいおいおいおい、急にすごいこと言うじゃん」

ちょっと笑って冗談ぽく言ったのが悪かったらしい。

相葉くんは勢いよく立ち上がって声を荒げた。


「それはこっちのセリフですよ!なんではるさんの前であんなこと言うんですか?!意味不明なんですけど!!」


「え?オレなんか言ってた?」

「愛想が悪いって。ももちゃんと比べて言ってたじゃないですか」

「えー?あんなのネタじゃん」


「ひえ〜!鈍感男!サイテー!!はるさんあの場から逃げたのわざとですよ?社長に八つ当たりしに行ったんだ絶対。」


「んんん?どういうこと?」

「え?まだわかりませんか?あなたがた両思いなんですよね?はるさんは、二宮さんがももちゃんと一緒にいるのを見るのも嫌だし、そのうえももちゃんのほうが可愛いし愛想もいいみたいなこと言っちゃったら拗ねるに決まってるじゃないですか!」

「いや、そういう意味じゃなかったというか…ここだけの話ちょっとやきもち妬かせようとかって思ったり…つーかまだ両思いとかじゃ…てかなんでキミがそんなことを…」

「はるさんは繊細なんです!もう!

それに。…はるさんのことをいいなあと思ってるのは二宮さんだけじゃないんですよ」

「…いやいや笑 え?」

「誰が最初にここを乗り切れるか。二宮さんはもうすごろくで言ったらスタート地点に戻る、ですからね。遅れを取ってるどころか周回遅れです」

「…すげえ言うじゃん…泣きたくなってきたわ。つーかそんなにライバルいんのか…マジか…泣きたいわ」


「見てればわかりますよ…。

はるさん、あんな無理した顔して。僕ああいう顔したはるさん見たくないんですよ。いつもひとりで頑張っちゃって。弱いところ出したり、甘えたりしてもいいのに。すぐカッコつけちゃうし。」

「…」

「ももちゃんのことは仕方ないですけどね?仕事ですし。でも、早いとこ気持ち伝えたほうがいいですよ。これ以上溝が深まったら埋めるのは難しい。はるさんは勝手にひとりで沼に沈んで行きますから。」

「…」

「僕じゃ無理なんですきっと。僕は二宮さんしかいないと思うんです。はるさんを救えるのは。」


「…相葉くんはどうするの?」

「僕は僕ができるサポートをします。今のこれだってサポートです。はるさんの幸せのための。あ、言っときますけどももちゃんが二宮さんに話しかけてるだけではるさんは嫉妬してますから、もうこれ以上嫉妬を煽るのはやめてください。」

「わ、わかりました。すいませんでした。もうしません。」

「わかればいいんですよ」

そう言ってパタンとノートパソコンを閉じて部屋から出た。


オレも続いて出た。

ため息も出る。

歩きながら、


おいしそうにパンケーキを食べる彼女を思い出した。


半分雨に濡れながら
一本の傘で歩いたことを思い出した。


いつも彼女はいい匂いがした。


湿った雨とアスファルトの匂いに混じって
彼女はいい匂いがした。


オレは雨が大嫌いだ。
鬱々とした感じがして
イライラする。

だけど彼女は言う。
雨は嫌いじゃない。

汚れを流してくれるからって。




これからも連絡が取れなかったらどうする?
もしかして仕事辞めたりする?


自分のデスクに戻るといつも通りももが待っている。
こいつはなんにしろオレを待ってる。いつも。


「ももちゃん」

「はい?なんですかあ?」

「オレの教育係は今日で終わり。これからは自分でやってみて。」

「えー!なんで急にそんなこと言うんですかあ」

「だっていつまでもオレが教えてたら、一人でできないでしょ?」

「私は二宮さんと一緒にやりたいですう」


「ふふ。オレはそういうのには乗んないよ。オレ好きな人いるから」


「…そうですか」


うわー。明らかに態度変わったー。こわっ。


「松本さんあたり狙っちゃえば?」

「だったら私社長がいいです。」

「社長か〜厳しいぞ〜相葉くんとかは?笑」


「…後輩に男の紹介するとかセクハラですよ」


死んだ目で睨まれた。


「じゃ、オレ帰るわ。お疲れ。」

ももはオレをガン無視した。


もしかしたら明日からいじめられんのはオレかもな。


彼女は嫉妬したというけれど、オレはももに対してそんな気は少しもなかった。可愛い子は大好きだし愛想がいいのも好きだけど、彼女が好きなこととそれらは別の種類だ。彼女は彼女だけであり、それ以外と比べるものではない。

っていうのを
伝えろよって話しだな。


こちらからのメッセージに返事がないのは初めてだった。

どこで何してるんだろう。



なんだか。
気が抜けた。

仕事しても死んだ目で睨まれるし
彼女には愛想をつかれ
連絡も来ない。

いつもあるはずのものがないと
余計なことを考え始める

なんのために生きてるんだ?
なんのために、仕事して、睨まれて。

なあ。

お前がいないと

なんにもなくなっちゃうよ、オレ。


外に出ると

寒くもなく
風もなく
星も見えず
全てが真っ黒だった。


何もない
自分と同じような空だった。




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